雑誌でモテ男になる100の方法【3つのお題に空想のひらめきを】
昭和ノスタルジーに挑戦しました。
毎回、イラスト無視の好き放題な話を書かせてもらってます…💦
2,600字ありますので、お暇な時間にお読みいただければ嬉しいです。
よろしくお願いします!!
🎈お題①:「返せなかった本」
🐾お題②:「小さな噓」
⏳お題③:「卒業写真の片隅」
「ケンちゃん、聞いてくれ!!
オレ、彼女できてん!」
高校1年生の2学期のこと。
友人の政やんが、満面の笑みでケンちゃんに報告してきた。
「えっ!?
政やん、彼女できたん!?
誰?
誰!?」
「同じクラスのユミちゃん。
2学期、体育祭や文化祭でイベント多かったやろ?
ユミちゃんと一緒に準備とか、練習すること多かってな……。
ほんで、思い切って告白したら、オッケーもらえてん!!
あ〜俺、今、めっちゃ幸せ!!」
頬を赤らめて、そこにはいないユミちゃんがまるでいるかのように、目をキラキラさせて遠くを見つめる政やんの様子を見て、ケンちゃんは戸惑っていた。
(政やんが……俺の知らない景色を見ている!!
なんなん!!
めっちゃ、楽しそうやんけ!)
そんなことを思っていると、政やんがキラキラした目のまま、少しだけ申し訳なさを滲みだしながら言う。
「これからはユミちゃんと一緒に帰んねん。
ケンちゃん、ボッチにさせて悪いけど、堪忍な。
お詫びにこの本、貸すわ」
政やんが渡してきたのは、メンズカルチャー誌『コールドキャット・プレス』の「保存版!モテる男がやってる100の方法」だった。
「これ参考にしたら、ケンちゃんも彼女できるで!!
ファイト!!」
政やんはグッとガッツポーズをして、愛しのユミちゃんの元へと行ってしまった。
その日からケンちゃんは、政やんから借りた雑誌を読み実践をした。
マニュアルによると、男の第一印象は前髪で決まるらしい。
ケンちゃんは母親のドレッサーからこっそり拝借したプラスチックの櫛と花柄の手鏡を机に並べ、毎朝15分、前髪の絶妙な立ち上がりを研究した。
さらに、政やんから小瓶で分けてもらったシトラスの香水を耳の裏に一滴つける。
(なんや、大人になった気分やわ……
スカウトとかされたら、どないしよ……)
ケンちゃんは妙な自信に満ち溢れていた。
そんなある日のこと。
隣の席のクミちゃんが
「なんか、ケンちゃん、ええ香りするな。
シトラスの香水?」
と言ってきたのだ。
「お、おう……。
いや、オレは香水とか興味ないねんけど、政やんが1回つけてみぃって、無理やりつけてん……。
ええ香りしてる?」
ケンちゃんは咄嗟にしょうもない小さな嘘をついた。
クミちゃんはニコッと笑って
「うん、ええ香りするで!
なんや、爽やかでええな!」
と言い、その場を去っていった。
(……キ、キタ―――ッ!!
ついにキターーーッ!!
効果絶大やんけ!
え、デートってまずは映画館?遊園地??
いやいや、喫茶店でおしゃべりか!!?)
その日の帰り道、鼻歌まじりで歩いていると、近所のヨネおばちゃんが両手に大きな買い物袋を下げてヨロヨロと歩いているのを見かけた。
「あ、ヨネおばちゃん、荷物持ったるわ」
マニュアルの『モテる男はスマートな優しさを常備せよ』という言葉が頭をよぎる。
荷物を受け取り、すかさず(おっと、ここで男は車道側やな……)と位置を変え、ヨネおばちゃんを歩道のインコースへエスコートした。
別れ際、ヨネおばちゃんが
「ケンちゃん、ありがとうやで~。
ほんま助かったわ~。
お礼に飴ちゃんあげるけど、黒糖とショウガとニッキ、どれが好き?」
というので、ケンちゃんはパッと笑顔になって
「黒糖!!
黒糖めっちゃ好きやねん!!」
というと、ヨネおばちゃんは黒糖飴を3個くれた。
そして、
「ほんま、ケンちゃんは優しいええ子やで。
おばちゃんが若かったら、旦那さんにしたいぐらいやわ!」
というもんだから、ケンちゃんは心の中でガッツポーズをしながら
(オレの時代、ほんまにキターーーーーッ!!)
と叫んでいた。
黒糖飴をコロコロと舐めながらご機嫌に帰宅すると、母親が
「ケン。
こよりちゃん来てるから、部屋に行ってもらったで。
なんや、貸してる参考書、返して欲しいって言うてたで」
というので、びっくりして黒糖飴を喉につまらせそうになった。
こよりとは幼馴染で、お互いの部屋を気軽に行き来するほどの仲ではあるが、今はダメだ。
今は……ダメだ。
ケンちゃんが慌てて、自分の部屋に行くと、こよりが
「ケンちゃん、おかえり~」
と、『コールドキャット・プレス』から目を離さずに言う。
ケンちゃんが、何か言おうと口をパクパクさせていると
「……男の第一印象は前髪で決まんねんや……あはははは」
と言って、ケンちゃんの髪形を見ながら笑いだした。
「……ちょぉ、こより。
待て。
違う」
こよりは容赦ない。
「……大人の男の渋みは、すれ違いざまのシトラスの香りで演出せよ……あはははは!!!!
この小瓶……男の渋み……あはははは!!」
「ちゃうねん!!
政やん!!
政やんが無理やり置いていってん!!」
ケンちゃんが2回目のしょうもない小さな嘘をつくも、こよりにはどこ吹く風。
散々、笑い倒して最終的には
「ゲホッ……ゲホッ……
笑いすぎた……
息できやん……
お腹痛すぎる……
あはははは……」
とうずくまってしまった。
ケンちゃんは、こよりから雑誌をひったくって、本棚の奥にしまった。
こよりは笑いすぎて出てきた涙を拭きながら、参考書を鞄にしまい、ケンちゃんの肩をポンと軽くたたいて、再び肩を揺らしながら帰っていった。
――それから、ケンちゃんはそれらしい彼女ができることもないまま、時は流れた。
ケンちゃんたちはめでたく高校を卒業し、つかの間の春休みを謳歌していた。
すると、こよりが家にやってきて
「ケンちゃん、これ卒業式の時の写真。
ケンちゃん、勝手に後ろに入ってくるから、めっちゃ現像すんの大変やったで!」
と写真を渡して帰っていった。
写真屋さんでもらう紙のアルバムに、卒業式の日の写真が収められていて、しみじみページをめくる。
そして、卒業写真の片隅、余白の部分に、見覚えのある丸っこい文字でこう書かれていた。
『今の主流はグリーン系の香水やって。シトラスはもう古いで。 こより』
一瞬、なんのことかわからなかったが、『コールドキャット・プレス』を片手に大笑いしていたこよりのことを思い出し
「……あいつ、まだ覚えてたんかい!!」
と思わず叫び、キーーーッとなってアルバムをバタンと閉じた。
そして
「あ、政やんに本返してないやん。
……まあ、えっか。
古いらしいしな!!」
と一人納得し、ドカドカと足音を鳴らしながら部屋へと戻っていくのだった。
おしまい。
