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家事の稜線

革靴にまたひとつ、傷が増えている。

汚れは湿らせた布なんかでふくと取れるけれど、これは残る。

「運動靴と同じだよ。履き潰すんだ」

先輩の言葉。

さみしいぶん、親しみもあって。

でも、この傷のぶん、動いているということで。

万歩計の値は、一日平均20,000歩。

すっかりやわらかく馴染んだ生地。

最近気づいたコツがある。

クリームは指の腹で伸ばすのがいい。

磨く動作に力はいらない。

しゃがんだときにできるシワ。

ひとつひとつに、染み込ます。

最後には、ガラス細工のような艶。

いつまで見ていても、飽きないきらめき。

かわりに自分の指が真っ黒け。

このまえ買ったホーロー鍋についた焦げがとれた。

白い底に、土の色。

じつは家に重曹があって、2月に越してきたから知らなかった。

パッケージの裏に、ちゃんと記載がある。

『ホーロー鍋にも効果的です』

ズッキーニの揚げびたしに、フライドポテト。

オリーブオイルがもったいないからって。

いっぺんにするのはちょっと欲張りだったね。

お湯を沸かすと溶け出してくるようで。

塩素以外の何か味。

悪いものではないけれど。

記載通りにいっぱいふりかけ、水わずかと沸かし、置く。

次の日、流すと重曹がぜんぶ連れて行った。

まっしろ、ぴかぴか。

砥石は意外と使っています。

切れない包丁が嫌というのはあるけれど。

もっと、別の。

砥石の上、刃をすべらせているときに感じるなにか。

しゃわしゃわしゃわ、と鳴る摩擦。

知っていてよかったな、と思う。

包丁の研ぎ方。

もどって、かえしてするうちに。

自分の内でも整うなにか。

図書館すみっこで、本を巻数どおりに並べ直すみたいに。

別に誰かに知れずとも。

自己満足ってこういうことかも。

完璧に仕上げてやろうじゃないか。

何かを切るの、ためらっちゃうくらい。

おかしな話。

仕上がりは爪で確認。

刃を当て、滑らなくなるまで。

原理はよく知らない。

でもこれで、美味しいトマトソースができるんだ。

家事。

大きいものも、小さいものも。

長いものも、短いものも。

知らないのも、馴染みのも。

うるさいのも、汚れるのも。

傷も焦げも、なまくらも。

すべて、暮らしの跡。

山なみみたいな、ものなのかもね。




続けることについて書いています。

毎日暮らしているというのは、すごいことです。


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Ayato(旧乙川アヤト) いただいたチップは、僕が表現を学ぶための本や映画、またはそれらを効率よく吸収するための、お酒やコーヒーやポップコーンなどのおつまみになります。