「光」第三話
ボウは、アオが何の害もないことを村長に説明する。村長は新しいものを受け入れるのが怖いのか、どこか積極性がない。
最近、石の民の村のところにも、暗の生きものが出現していた。ずんぐりしたダンゴムシみたいな形で、襲いかかってくるほどの凶暴性はないものの、村にポコポコと穴を開けてしまっていちいち塞ぐという作業を強いられているところだった。
ボウはアオを檻から出して、村中歩かせて緑を芽吹かせれば、その生きものらも撤退するのではないかと見た。
もしうまくいけば、アオを解放して欲しいと。
村長はなかなかいい返事を返さない。できれば関わりたくないといった風も見受けられた。
それならと、ボウは言う。
そんなにあの子どもが怖いのなら、しょうがない。もしうまく行かなかったら、責任を取ってあれを連れて出て行くと。
そこまでは、と村長は言ったが、ボウは引かない。
昨晩、アオは思いの内をボウに話した。
初めて見るものばかりだけどこの世界がどこか懐かしいこと、身体に感じる、どこだかわからないその光のもとへ行ってみたいこと。おとぎ話みたいだが、それを話すアオの瞳は偽りがなく、からかっているとは思えない。
外に出してやりたいと思っていた。ボウも、ぶっきらぼうだが、根は優しいのだ。
村長は渋々承知し、アオを檻から出すことになった。横にボウがついて歩くことが条件で、枷も外して一緒に歩いた。手が軽くなってアオはたいそう喜んだ。
結果はあっけなくて、暗の生きものも気の弱い部類のものであったから、地面に緑が吹きかえるとサーーっと大人しくはけてどこかに行ってしまった。
村の他のものも数人、アオを認め始め、周りに人だかりができた。無害だとわかると、認められるのは早かった。
村長も、アオに詫びた。臆病ゆえ、歩み寄れなかった、許してくれと。村長失格だと。
アオは無邪気に笑って許した。「でも檻に入ったからボウさんとたくさん話せた。水ももらえたしね」民とアオは仲直りとなった。
草を撫でる者や、アオと話す者、大勢が家から出て外に集まったので、村は久しぶりに賑やかになった。緑が戻り、空気が清々しい。今までのよどんだ空気が嘘のようだ。
夜は村の宿屋に泊めてもらうことになった。宿屋の店主も、大地を蘇らせるアオのことを精霊さんなどと呼んだ。
日が暮れるまでまだ時間があったので、アオは石の森まで1人で歩いていった。すっかり元通りに緑で溢れ、風が心地よかった。
地面に腰掛け、木の株にもたれかかった。檻に急に入れられたりしてびっくりしたけど、ともあれ皆んなと打ち解けられて良かったな…と目をつぶったら、急に後ろから口を塞がれ、頭に布を被せられてひょいと持ち上げられてしまった。
「??!」
騒がれるのを恐れたか、首をぐっと掴まれたので声が出せない。
バタバタ暴れてもなんの効果もなく、さらわれてしまった。
どさっと床に投げられた。やっと首の圧迫がなくなって、ゲホゲホ咳が出る。首にくっきり跡がついてしまった。
布が外される。見たことのない石男が2人立っていた。(誰…?)
「おうおうこいつかよ」1人がアオの腕をぐっと乱暴に掴んで上に引き上げる。
「やわらっけーー!ちょっと捻ったらすぐ折れちゃいそうだぜ」
「痛い痛い痛い!!」大きい石の手が肌に食い込み、凹凸がすり傷を作る。
「坊ちゃんよお、なんでここに連れてこられたか、わかるかい?」心臓がバクバク鳴る。どうしよう、逃げないと、逃げないと…
「かわいそうにべそかいちゃってらあ。優しくしてやれよ」
「お前があっちの森にぜーーーんぶ変なもの生やしたおかげでよ、俺らの商売あがったりなんだわ」
「おいごめんなさいだろうがよ」
バシッと頬を平手打ちされる。
「俺らそんなオイタする子になあ、お仕置きしなきゃ気が済まねんだわ」力が強くて、そのまま床に倒れ込んだ。その時急に、アオの頭の中で、何かがピカッと光る感覚がした。この状況、初めてじゃない…目は見開き、鼓動はますます早くなった。
日が暮れてもアオが村にいないので、皆心配した。好奇心旺盛とはいえ、泊まる宿も決まっていたのだから、そんなに無茶するわけはないと皆口々に言ったが、一向にアオは戻らない。
宿屋の店主は、詰め所で寝ていたボウに、見てきてもらえるよう頼んだ。
「え?」ボウは寝ぼけ眼だ。連日夜通しでアオと会話し、楽しいとはいえ寝ていなかった。
暗の生きものを撤退させた後、ここでぐうぐう寝ていたのだ。
「アオ君が戻らないんだよ…あんまり遠くには行かないように言っておいたんだが…」
店主が心配そうに言う。
「聞くわけねえよすぐ戻るだろ」
「でももう外はかなり暗くなってきてる。かくれんぼにしてはやりすぎだしな…」
ふーんと言ってボウは起き上がった。「じゃ、見てくるよ」いつも使っている槍を持ってボウは村を出た。
夜の空気が肌寒かった。岩の下や、洞窟や、朽ちた小屋や、めぼしいところは見たが見つからない。石の森に出てきた。草が自由に風に揺られてさらさら鳴っている。「いやー綺麗だぜ」
「おーーい」「アオーーー」呼んでも意味がなかった。さすがのボウも、少し不安になってくる。
どうせそこら辺からひょっこり出てくると思っていたからだ。
あ、と、思い出す。そういえばこの辺に、変なキノコが生えてそれが売れるだとか言って、卑しい商売してた奴らがいたな…
一度勧誘しにきたことがあったが、追い返した…
あれは暗の地に生えるもの。いまこうして草で埋め尽くされた以上、そのキノコは生えていない。
「!!」嫌な予感がして、ボウは走り出した。
まったく場所はわからないが、石の村に徒歩で勧誘に来たということは、それほど離れていないはず。この辺は民家も少ない。死に物狂いで明かりのついた小屋を探した。
川を一本越えた先に、ぽつんと灯る光が見えた。
すごい勢いで小屋へ近づき、窓の中を確認すると、ボウは扉を思い切り蹴った。
重い石の扉がバタンと内側に倒れる。
「おい」荒い息を抑えながら叫ぶ。1人はアオの上にのしかかり、頭を手で押さえつけ床に押し当てていた。「汚ねえ図体どかせっつってんだよ!」
相手の石男がボウに殴りかかる。兵士であるボウは素人同然の石男をかわし、押さえ込む。
もう1人もアオから離れ加勢に入り、ボウは2人の相手をした。アオにのしかかっていた方はボウよりも背も身体も大きく、重さもあるからいくら兵士とはいえボウが劣勢となる。
アオはつい今襲われた衝撃から、遠い記憶のかけらがぼろっと落ちるように、フラッシュバックに襲われていた。初めてじゃない……これ、前にも………
ボウが押さえ込まれ、倒れそうになる。その時、ハッと我に帰った。
(…やめて…やめて、やめて!!!!!!)
うずくまり、ぐっと身体に力が入ったかと思うと、ピッカと真っ白い光が男2人をつんざいた。
「ひぎゃああああああっっっ」ドゴドゴと2人は床に倒れた。う、う、とうめいている。
ボウには、何が起きたかわからない。
「バ、バケモノおおお!!」男2人はよろついた足取りで、くっついたり転んだりしながらどこかへ逃げていった。
咄嗟に、アオのもとへ駆け寄った。気を失っているようだった。抱え上げ、村へと急いだ…。
アオとボウの姿を見て、村の者は皆悲しんだ。散策をしていると思ったら、まさか襲われていただなんて……
ボウは石の森の草地へアオを連れていった。前に、アオは植物の光に触れれば回復できると言っていたからだ。草の上へ寝かせてみたら、ふっと草が淡く光って、アオを包み込んだ。良かった、なんとかなりそうだ……
張り詰めていたものがぷつんと切れて、ボウもその場で気を失うように寝てしまった。
朝。ボウは草の上で目を覚ました。なんでここに自分がいるのか、アオを見るまで思い出せなかった。アオは、すやすや眠っていた。傷もほとんど癒えている。
誰かが、2人に布をかけてくれたようだ。きっとあの後宿屋の主人が見に来て、アオは治療中、ボウは重すぎて運べないという理由で、かけてくれたのだろう…
アオが目を覚ます。ゆっくり起き上がる。
「あれ、ボウさん、どうして…」
「あ…」ボウは思わずアオを抱きしめる。「良かった…目が覚めて良かった…」久しぶりに泣いた。「ボウさん、傷だらけだよ…」そう言ってアオがボウの欠けてしまった傷跡に手を触れると、暖かい光で包まれて、元に戻ってしまった。
「助けに来てくれて、ありがとう…」
「アオおまえ、なんだよあの技すげえ…あいつら、尻尾巻いて逃げていったな。」ハハとボウは笑う。
村に戻りながら、話していた。「ボウさん、僕、行きたいって言ってた光の話、場所わかったかも…」
「昨日のあの小屋で、嫌な記憶思い出しちゃって、そのときに見えた気がしたの」
「どこだ?」
「ここからずっと反対の方角にある、大きい森…そこが呼んでる気がする」
ブフっとボウは吹き出す。「え、この辺の近所の話とかじゃないの??!」
2人で前に檻で話したとき、アオはボウに一緒に来て欲しいと頼んでいた。今までの何も希望のない、希望を見出すこともしなくなってしまった自分の前に突然現れた、アオ。奇妙な縁だと思って、軽い気持ちでボウは承諾していた。
この先、どんな旅が2人を待っているのか。
異色なふたりの冒険が始まった。
