王神愁位伝 プロローグ 第12話
第12話 外の世界
ー 前回 ー
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名前をもらった少年。名は幸十。
相当嬉しかったのか、志都に呼ばれる度に微かに柔らかい表情になっていた。はたから見れば幸十の表情は変わっていないように見えたが、志都には尻尾をふって喜ぶ子犬のように見えた。
その後、志都と幸十は入れたての紅茶とクッキーを食べた。幸十にとっては何もかも新鮮で、体験したことのない飲み物と食べ物だった。
クッキーは特に気に入ったようで、遠慮などせず、勢いよく食べていた。そんな幸十を見て、志都は嬉しそうにした。
「嬉しい。そんなに美味しそうに食べてくれるなんて。やっぱり、一人で食べてたって、美味しくないもの。」
少し悲しそうな表情をする志都に、クッキーを勢いよく食べていた幸十の手が止まった。
「志都。寂しいの?」
「え?」
「寂しそうだ。」
幸十に指摘され、志都は苦笑いをした。
「・・・うーん。寂しいかも。・・・元々はね、私、ここじゃなくて違う場所にいたの。」
「違う場所?」
「うん。そこには、母様もいて、珀とか・・・弥生とかもいて・・・真夢も。一緒にいてくれたのに・・・。ここに来てからは、誰も一緒にいてくれないの。いつも一人。朝起きても。お昼食べても。何をしても。」
志都は、窓の外を見つめた。
「外に行きたいの?」
「・・・うん。でも一人で外に出ちゃダメなの。」
「何で?」
「うーーん。多分母様は、こんな私を外に出して恥をかきたくないんだと思う。私、中途半端ものだから。」
「どういうこと?」
幸十は質問するも、志都は微笑むだけで答えなかった。
そんな志都に、幸十は首を傾げた。
「俺たちはドレイだ。ここは出れない。労働しなきゃ。でも、志都はドレイじゃないように見える。」
「・・・私、そもそも外に出れたことがないの。いつも城の中。ここでは外に出ないように、足に枷をつけられているの。私は、力とかもってないから・・・。何もできないの。」
「志都はプライマルなんだね。俺と一緒だ。」
幸十はクッキーを食べるのを再開させた。
「プライマル?」
「オウゾクでもなく、セカンドでもない人々のことだって。俺もプライマルだ。力はない。掃除が上手いプライマルだ。」
クッキーを食べながら言う幸十に、志都はクスっと笑った。
「掃除が上手いの?」
「うん。ここでは一番の腕だよ。」
すると志都は立ち上がり、入り口付近の壁に設置された本棚に向かった。
天井まで縦長に設置された本棚には、本がぎっしりと入っていた。
その中から、何かを探すように志都が手探りで確認していると、何冊か本を取り出し、幸十のいる机に戻った。
「私ね、城の中でずっと暮らしてきたから、本を結構読むの。色々な本を沢山読んできたわ。科学の本も、政治学の本も、物語とかも。」
持ってきた本を開きながら、志都は話を続けた。
「特にね。歴史書が好きなの。ほら見て!」
志都が開けた本には、文字だけではなく沢山の絵が書いてあった。文字が読めない幸十にとって、絵があるのはありがたいが、見た事のない描写ばかりで何もわからない。不思議そうに見ている幸十に、志都は瞳を輝かせながら絵を指さした。
「これはね、”月城”よ。」
「ツキジョウ?・・なんか、浮いてる?」
「私が元々いた場所!そう!月城は浮いているの!不思議でしょう?月に一番近い場所って言われているの!満月の日なんて、月城がちょうど満月にすっぽりはまって見えて、とっても綺麗なのよ!一度だけ、こっそり珀が城の外に連れ出して見せてくれたの。とってもとっても綺麗だったわ!」
志都は次のページを開く。そこには何やら大きな穴のような描写が記載してあり、志都が指さした。
「これは”梵紅穴”!この世で最も不思議な場所と言われているのよ。一説では、遥か昔に月神がここに降臨されて、赤い輝きを放って大きな穴ができたっていわれているの!だから、この大穴は赤く光っているそうよ。ここの大穴近くにいくと、不思議なことに吸い込まれてしまうそうよ!」
「吸い込まれるとどうなるの?」
「それがね、ここに行って帰ってこれた人がいないって言うの。だからこの大穴の中に何があるのかなんて、誰も分からないの!何か素敵じゃない!?探求心をそそられるわ!!」
その他にも、志都が色々説明を続けると、幸十はとある絵に何故か惹かれて指さした。
「これは・・・?」
「!そうそう!それは太陽よ!」
「タイヨウ?」
「ほら。貴方の右腕、見て。」
促され、幸十は自身の右腕にある太陽の刻印を見た。全く同じではないが、本にある絵と同じだ。
「貴方は、実際に太陽を見たことない?」
「うん。たぶん。」
「そう。私ね、今一番行ってみたいのは太陽のある場所なの!この本によると、太陽は温かくて、眩しくて、人の心を豊かにしてくれるものだって!月とはどう違うのかしら・・・。月だって、ここの領地を静かに温かく見守ってくれているわ。ここは月族の領地だからか、あまり太陽について書かれてないの。だから、気になって仕方ないの。」
月族の領地であるこの土地は、太陽の光が射し日中明るくなるが、それは太陽族領地に昇る太陽の光が射しこむだけだ。実際に月族領地には太陽が昇ってこないため、直接太陽を見たことのある月族は少ないのだ。
興奮する志都に、幸十もなんとなく太陽を見てみたいと思うようになっていた。じっと本にある太陽を見ている幸十に、志都はおもむろに口を開いた。
「・・・幸十。」
「なに?」
「・・・いつか、一緒に太陽を見に行かない?」
その言葉に、幸十はクッキーを食べる手を再び止めた。月族領内にいた志都は、今まで誰にもこんな話を出すことはできなかった。
今は戦争中だ。太陽を見に行きたいというのは、太陽族領地に行くということ。つまり敵領地に行きたいと言っているも同然だった。
今まで心にしまっていた言葉を何故か幸十に発したことに、志都自身も言った後に困惑した。暫く沈黙が続き、どんどん志都が不安になっているとー
「ー太陽だけでいいの?」
「・・・え?」
幸十の回答に驚く志都。幸十は、開いている本に視線を向けた。
「ここに書いてある他の所も、行きたいんじゃないの?」
外に出ることを禁止されていた志都にとって、幸十のその問いかけは驚きだった。まるで自分が外に出てもいい人間だと言われているように感じ、生まれて始めて感じたことの無い高揚感が身体の中で暴れまわった。
ーすると
”カタっ”
「!!」
階段の方から何か物音が聞こえた。幸十は咄嗟に気づき、立ち上がった。
「幸十?」
呼びかける志都に、静かにするように人差し指を立てた。
「誰かいる。」
驚く志都に、幸十は少しづつ扉に近づき耳をあてると、目を閉じ階段の方から聞こえる微かな物音を聞いた。
・・・爛か、狼たちか。それにしては、やけに静かだ。
幸十は思い切って扉を開く。
”ガチャ!”
「!!」
ーそこにいたのは
「あ・・・兄貴・・・」
乖理が冷や汗を流しながら、不安そうに階段にいた。
ーー次回ーー
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