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目的が謎のグラフィティ

 たまにスプレーの落書きを見かけます。グラフィティと言うそうです。

 合法なものももちろんあるでしょうけれども、その辺の壁に描き殴った、明らかな違法作品もございます。違法なんですけど、その割には雲のようにモクモクした、妙に丸みを帯びた文字が多いんです。いろんな場所でそのモクモク文字を見るので、たぶんグラフィティ用のフォントとして存在しているのでしょう。そもそもスプレーは壁に吹きかけるとインクが丸っぽくつきますから、丸みを帯びたフォントのほうがやりやすいというか、マスキングテープとか使わないとトガったものが描けないんだと思います。

 さて、そのモクモク文字、先ほども書きました通り、明らかに作品を残しちゃダメなところでも見かけます。街中の壁とか、看板とか、配電盤の蓋とか、いろんな場所でモクモクやっている。なんでそんなところでモクモクやってるのか。モクったことのない私には推測しかできませんけれども、主な理由は「自分の作品を人に見せたい」と「悪友とバカ騒ぎしてやった」の2枚看板なんじゃないかと勝手に思っています。

 ただし、このモクモク文字、たまによく分からないところでも見かけるんです。例えば、私が小学生の頃、学校の行事でとある山の施設に宿泊した時のことです。

 せっかく山の中にあるのだからと、教師は私たちにオリエンテーリングをさせました。オリエンテーリングとは、地図とコンパスを使い、指定されたルートを進んでいくスポーツでございます。

 先生は生徒を4人ずつの班に分けまして、班ごとに競わせたんです。しかし、先生の分け方が悪かったのか、私の班は4人全員が極度の方向音痴だったんです。みんな地図もコンパスもうまく使いこなせない、オリエンテーリングと食い合わせの悪いメンバーだったんです。

 案の定、私の班は序盤で進むべきルートを間違えたどころか、人類未踏の地としか思えない、深い森をズンズン突き進む羽目になりました。でも、我々は引き返しませんでした。引き返したところで、ちゃんと来た道に沿って戻れる保証がないとみんな知っていたからです。

 そんな死の行進をしておりますと、森の中に大岩が鎮座しておりました。その岩に、例のモクモク・フォント・グラフィティが描かれていたんです。

 方向音痴でもないと辿り着かないような場所で誰がモクモクしてたのかも分かりませんでしたが、目的も謎でした。人がモクモクする時は、誰かにモク文字を見せたいか、悪友とバカ騒ぎしたいかのどちらかだと思っていたのに、滅多に人の来ないところでモクってるんです。作品を見せるのはもちろん、悪友とバカ騒ぎする場所にも適しません。こんな場所の岩をわざわざ綺麗にする人もいないでしょうから、あの岩のモク文字は今も残ってると思うんですけれども、未だに目的が謎なんです。

 こんなこともありました。仕事でとある地方都市に行った時のことです。バスに揺られて景色を眺めておりますと、中に何もない2階建ての建物がございました。建物の外観から考えて、もともと何らかのお店が入っていたか、もしくは事務所があったかだと思うんです。しかし、何らかの理由で前の入居者はいなくなり、今は空っぽの状態で次の入居者を待っている状態なんだと思います。

 しかし、何となく2階の窓を見ると、例のモク文字が描かれているんです。こんなところにもモクる人がいるのかと呆れたんですが、すぐに気づいたんです。その窓は2階の中央部にありまして、ベランダが存在しない。つまり、大き目の脚立でも用意しないとモクれないような場所だったんです。デカい脚立が近くになかったことを考えると、どこかからわざわざ持って来ないといかない。

 もちろん、建物に忍び込んで窓の内側からモクった可能性も考えました。でも、モク文字は外からじゃないと読めないアルファベットになっていました。つまり、内側から描いたとしたら、わざわざ鏡文字にしているわけです。

 脚立を使ったのか、鏡文字を使ったのかは知りませんが、何でわざわざそんな手間をかけてまで2階の窓をモクったんでしょうか。そこまでしてモクりたい窓だったのか。何が作者をモクらせたのか。全く分かりません。

 山林の中の岩と言い、空き店舗の2階と言い、並々ならぬやる気が間違った方向に噴き出しているのをヒシヒシと感じさせる出来事でございました。

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