犬や猫も5月病になるようだ...
1.うちに犬は一流のアスリートだった
五月六日、水曜日。
世間を大いに賑わせ、人々を浮き足立たせたゴールデンウィークも、いよいよ今日が最終日。連休の終わりが近づくと、人間というのはどうしてこうも、少しだけ心が寂しくなるものなのだろう。
朝の空は見事な五月晴れ。風は少しあるものの、散歩には最高の天気だった。
連休前、天気予報では「ゴールデンウィークは雨続きでしょう」と散々脅かされていたのに、終わってみれば意外なほど晴れの日が多かった。なんだか得をした気分になる朝である。
ところが我が家のリビングでは、今日も平和とは程遠い朝が始まっていた。
本日の散歩担当、トイプードルのきゅうちゃんは、ソファーの上で堂々と寝そべり、ピクリとも動かない。
「おい、きゅうちゃん。今日は最高の散歩日和だぞ」
何度誘っても知らん顔。
いや、違う。
これは無視ではない。
高度な「寝たふり作戦」である。
犬という生き物は本当に名優だ。
こちらが何度も声を掛け、ようやく諦めようとした絶妙なタイミングで、
「ふぁ~~あ」
と大あくび。
そこからようやくストレッチが始まる。
しかも長い。
前足、後ろ足、背中をじっくり伸ばし、まるでオリンピック選手のウォーミングアップである。
気付けば十分近く。
「お前はどこの一流アスリートなんだ」
ようやく準備が整い、じゅんちゃんと茶太郎に
「ちょっと行ってくるね」
と声を掛けて散歩へ出発した。
歩きながら思い出したのは、昨日の子供の日の出来事だった。
せっかくなので鯉のぼりを飾ってみた。
ところが、はっちゃんも、きゅうちゃんも、じゅんちゃんも完全無視。
唯一、新入りの茶太郎だけが
「なんだこれ!」

と夢中で遊んでくれた。
残る三匹は、
「僕たちはもうそんな玩具で喜ぶ年齢じゃありません」

と言わんばかりの冷めた表情。
……いやいや。
普段は十分子供みたいなことばかりしているじゃないか。
2.犬の鼻は絶対誤魔化せない...
昨日、久しぶりに映画館へ行った。
観たのは『プラダを着た悪魔』の続編。
ストーリーは「まあ、こんなものかな」という印象だったが、華やかな衣装や映像はやはり映画館で観る価値があった。
しかし、本当の事件は映画ではない。
家を出る前から始まっていた。
四匹に気付かれないよう、抜き足差し足で玄関へ向かい、ドアノブに手を掛けたその瞬間。
足元を見ると、
はっちゃんと、じゅんちゃんが座っていた。
「……お出かけですか?」と
完全に近所の噂好きのおばさん状態…
「ちょっと映画館へ……」
そう答えた瞬間、
「一人で映画ですか。」
そんな無言の圧力が玄関いっぱいに広がった。
完全にバレている。
我が家の情報網はFBI並みである。
そして事件は帰宅後に完成する。
映画館でポップコーンとコーラをしっかり堪能し、
「ただいま」
とリビングへ入ると、
四匹が一列に並び、僕を待っていた。
突然はっちゃんが前へ出る。
ズボン。
手。
指先。
くんくん……
くんくん……
突然、動きが止まった。
「……あなた。」
「何か食べましたね?」
完全にバレた。
映画館のポップコーンのバターの香りは、僕の隠蔽工作など一瞬で見破ってしまうらしい。
「……ちょっとポップコーンを。」
白状した瞬間、
部屋の空気が一気に冷えた。
「一人だけ、美味しいものを食べたんですね。」
そんな視線が四方八方から突き刺さる。
僕は慌てて最終兵器「ちゅーる」を献上。
これにより今回の事件は、無事忘れてくれたようだ。
3.五月病の足音といつもの幸せ
散歩の途中、不法投棄された空き缶やペットボトルを見つけて少し残念な気持ちになりながら思った。
明日から仕事。
「仕事、行きたくないなあ……」
そんなことを考えていると、五月病の足音が聞こえてくる。
もしかすると明日は、きゅうちゃんも散歩拒否。
はっちゃんも寝たふり。
じゅんちゃんも茶太郎も「本日は休業です」と、こたつから出てこないかもしれない。
我が家は毎年、みんな揃って五月病になるのが恒例なのである。
でも、それも悪くない。
みんなで少しだけやる気のない朝を迎えて、笑いながら一日を始める。
そんな何気ない毎日が、結局いちばん幸せなのかもしれない。
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