緊急事態とエビのプレゼント

「動画の裏話を日記にしてみました。トラブル続きで大変でしたが、動画と合わせて楽しんでもらえると嬉しいです」
四月三十日、木曜日。 空はどんよりと曇り、今にも雨が降り出しそうな気配をはらんでいる。 そんな天気だというのに、今朝のきゅうちゃんは妙に堂々としていた。いつもなら散歩の気配を察するとこたつに隠れるはずが、隠れる素振りも見せない。これは行く気満々だなと僕が近づくと、彼はやっぱり、ずるずるとこたつへ潜り込もうとする。結局のところ、僕に捕まえられて連れ出される羽目になるのだから、彼のあの堂々とした態度は一体何だったのだろう。
しかし、そんなのん気な散歩の裏で、我が家はここ数日、トラブルの嵐に見舞われていた。 まず、僕自身の体調がすこぶる悪かったのである。昨日など、這うような思いではっちゃんの体調を世話し、いつもの半分以下の朝ご飯をあげたところで、力尽きてベッドに倒れ込んでしまった。
僕が寝込んでいると、案の定、動物たちが次々と寝室へ入ってきた。 いつもの看病(あるいは単に僕をおもちゃにして遊んでいるだけかもしれないが)が始まったのだ。熱気を感じてパッと目が覚めると、僕の布団の上には奇妙な光景が広がっていた。 はっちゃんが持ってきたであろうボール。じゅんちゃんがお気に入りのエビのぬいぐるみ。茶太郎の鳥。そしてきゅうちゃんの鮭。 彼らは自分の宝物を僕の枕元にどさどさと置き、まるで「これで早く元気になれ」とでも言うように、僕にプレゼントしてくれたのである。これには参った。動物たちの優しさ(?)のおかげか、僕の体調もいくらか持ち直してきた。
だが、本当の試練はここからだった。 昨日から、廊下やトイレの横に、誰のものか分からない少量の嘔吐の痕跡が残されていたのだ。量からしてはっちゃんだろうか、それともきゅうちゃんだろうか、はたまたじゅんちゃんだろうか。現場を見ていないので特定できずにいた。
事態が急変したのは夕方のことである。 いつもおとなしくしているじゅんちゃんが、突然、聞いたこともないような声で「にゃーっ」と鳴いた。驚いて見上げると、じゅんちゃんはキャットタワーの上で激しく嘔吐したのである。出てきたのは、泡の混じった液体だった。直前に水をたくさん飲んでいたから、そのせいだろうと最初は楽観視していたのだが、その後もじゅんちゃんは明らかに元気がなく、立て続けにもう一度吐いてしまった。
これは異常だ。緊急事態である。 僕は慌てて近所の動物病院を片っ端から調べ、電話をかけまくった。しかし、世間はあいにくゴールデンウィークに突入したばかり。どこもかしこも休診の音声ガイダンスが流れるばかりだった。焦りが募る中、ようやく遠方にある夜間救急病院が一件だけ繋がった。僕はじゅんちゃんを車に乗せ、夜の道路をひた走った。
ようやく辿り着いた救急病院は、ゴールデンウィークのトラブルを一身に引き受けたかのように、信じられないほど混雑していた。 結局、診察室に呼ばれるまで二時間近く待つ羽目になった。じゅんちゃんを心配しながら過ごす二時間は、実にとてつもなく長く感じられるものだ。血液検査とエコーをしてもらった結果、幸いにも数値に大きな異常はなく、どうやら「胃腸炎」だろうということで、点滴と吐き気止めの薬を処方してもらった。 すべてを終えて命からがら家に戻ってきた時には、時計の針はとうに深夜を回っていた。本当に、トラブル続きで骨の折れる夜だった。
看病疲れが出たのかもしれない。じゅんちゃんには本当に申し訳ないことをした。今朝、はっちゃんの便を確認したところ、下痢ではなく良い状態だったので、はっちゃんの方は回復に向かっているようだ。今日はじゅんちゃんともども、一日ゆっくり安静にさせようと思う。
そんな嵐のような夜が明けても、お腹は律儀にすくものである。 本日の僕の朝食は、もち麦のたけのこ炊き込みご飯、小松菜、納豆、ヨーグルト、そして贅沢に二つ使った卵焼き。 まずは、今が旬のたけのこを一口。 ――うま過ぎる。 あまりの美味さに、もうたけのこだけで生きていけるのではないかとさえ思った。小松菜も、朝の五臓六腑に染み渡る美味さだ。物価高騰に負けず二つ投入したふっくら卵焼きも至高だし、たけのこが乗った炊き込みご飯は毎日でも食べたい味わいである。
足元を見れば、案の定、はっちゃんときゅうちゃんが僕のおこぼれを虎視眈々と狙って身構えている。じゅんちゃんは少し離れたところでこちらを見つめ、茶太郎はソファの下に隠れている。
夜間の大激走で心身ともにくたくただが、この騒々しくも愛おしい家族が元気でいてくれるなら、まあ、一晩の睡眠不足くらいは安いものである。
