猫にしっぽを踏まれたハスキー犬まさかの行動に...
空は見事などんより曇り空で、天気予報によれば「いつ雨が降り出してもおかしくない」という空模様だった。
ところが、である。
我が家のトイプードル、きゅうちゃん(九坊)が、この日に限ってやけにやる気だった。ソファーの真ん中で堂々とストレッチを始め、「今日は散歩へ行く」と全身で宣言している。
近くのグラウンドではイベントが開かれていて人も多い。それでも行くらしい。
犬にも、どうしても外へ出たい日というものがあるのだろう。
しかし、僕の頭に残っていたのは、昨日の朝に起きた出来事だった。
朝ご飯を食べていて、ふと後ろを振り返ると、はっちゃんとじゅんちゃんが並んでいる。
ところが、じゅんちゃんが、はっちゃんの大事な尻尾を踏んでいた。

はっちゃんは昔から尻尾を触られるのが嫌いである。
だから怒るかと思った。
ところが怒らない。
相手がじゅんちゃんだからである。

その代わり、困ったような顔をしながら僕のところへやって来た。
「おい、踏まれてるぞ」
「何とかしてくれ」
そんな顔である。
なぜか苦情だけは全部僕のところへ来る。
理不尽な話である。
そこで僕は言った。
「この前は、はっちゃんがじゅんちゃんの尻尾を踏んでましたよ。」
すると急に勢いがなくなった。
「あれは……その……。」
そんな顔をしたまま、階段の下へ行って引きこもってしまった。

二十分ほど完全なストライキである。
じゅんちゃんも謝りに行ったが出てこない。
ところが僕がチュールを持った瞬間だった。
すっと出てきた。
あれだけ頑固だったのに、チュール一本で和解成立である。
しかも食べ終わる頃には、またじゅんちゃんと仲良くくっついて寝ていた。
犬や猫の怒りは、人間よりずっと賞味期限が短いのかもしれない。
午後になると、消防車を出せという圧力が始まった。
もちろん本物ではない。
みんなのお気に入りのおもちゃの消防車である。
しゃがみ込んで後ろから押してやるのだが、これが意外と腰にくる。
火事より先に僕の腰が危険である。
最初に乗ったのは茶太郎。
「火事はどこだ。」
そんな顔で部屋中を走り回る。
次はきゅうちゃん。
ちゃんと順番を守って交代しているところが面白い。
心配していたはっちゃんの下痢も、すっかり治っていた。
普通の便を見るだけで、今日はいい日だなと思える。
飼い主というのは単純である。
夕方になると、急にサンドイッチが食べたくなった。
食パンとベーコンとレタス、それにチーズを買いにスーパーへ向かう。
ゴールデンウィークだからか、店内は驚くほど空いていた。
しかも食パンが九十八円。
思わず「今日は当たりの日だ」と思ってしまう。
帰ってパンを軽く焼き、ベーコンを焼き、バターを塗り、チーズをのせて挟む。
一口食べる。
「うますぎる。」
たぶん、ずっと食べたかったから余計に美味しかったのだろう。
庭へ出ると、桃の実が少しだけ大きくなっていた。
白いモッコウバラはそろそろ終わり。
赤いバラは今日も「もう咲きそう」と思わせたまま咲かない。
毎日そんな感じである。
人生も案外こんなものなのかもしれない。
朝ご飯は、もち麦の炊き込みご飯、卵二個、小松菜、納豆、ヨーグルト。
ほとんど毎日同じである。
それでも毎日ちゃんと美味しい。
それで十分だ。
じゅんちゃんは近くでのんびりしていて、
はっちゃんはおこぼれを狙い、
きゅうちゃんはソファーで丸くなり、
茶太郎は今日もこたつの中。
特別なことは何も起きない。
だけど、こんな一日が案外いちばん面白い。
そんなことを思いながら、僕は九十八円のサンドイッチをもう一口かじった。

