家庭菜園を始めたら犬が毎日収穫に来るようになりました
五月十二日、火曜日。
朝の空はどんよりと曇っている。それでも空気には、むっとするような初夏の暑さが混じっていた。朝の時点ですでに二十度。予報では日中は二十五度を超えるという。
「五月でこの暑さか……」
今年の夏も、なかなか手強そうである。
そんなことを考えながら散歩の準備をしていると、リビングではもっと深刻な問題が発生していた。
トイプードルのきゅうちゃんが、今日も見事なまでの"寝たふり"を決め込んでいるのである。
昨日まであれだけ元気だったのに、今朝は完全に五月病第二弾。
僕とはっちゃんで何度声をかけても、薄目を開けるだけで動かない。
「また始まったか……」
結局、きゅうちゃんは今日も留守番。
僕とはっちゃんだけで散歩へ出発した。
カブトムシの餌を育てている気がしてきた
散歩中も、はっちゃんは何度も庭の方を気にしていた。
理由はもちろん、一昨日植えた野菜の苗である。
どうやらはっちゃんの中では、
「昨日植えたんだから、今日はもうササミかチュールが山ほど収穫できるはずだ」

という、おめでたいにも程がある独自の栽培理論が完成しているらしい。
いやいや、一日で育つなら農家さんは苦労しない。
実は昨日、犬と猫が昼寝している間に、僕はこっそり野菜を植え替えていた。
最初に用意したプランターが少し小さかったので、一回り大きなものへ引っ越し。
さらに百円ショップで支柱を買い、トマト、プチトマト、キュウリ、ナスを一本ずつ丁寧に固定した。
これが思った以上の重労働だった。
腰は痛いし、土だらけになるし、家庭菜園って意外と体力勝負なのである。
ようやく作業を終えて苗を眺めていると、ふとあることに気付いた。
「……待てよ。」
「僕、そんなにキュウリ好きだったっけ?」
子どもの頃、夏になるとカブトムシの虫かごへキュウリを入れていた記憶が強すぎる。
だから僕の中では、
キュウリ=カブトムシの餌
なのである。
もし大量に収穫できたら、僕は毎日カブトムシの気持ちでキュウリを食べ続けることになる。
それはちょっと複雑だ。
トマトも丸かじりは苦手だし、ゴーヤも得意ではない。
家庭菜園を始めてから、実は半分くらいはそれほど好きじゃない野菜だったことに気付いてしまった。
そんな僕の複雑な心境など関係なく、はっちゃんときゅうちゃんは隙を見つけては葉っぱを食べようとする。
お願いだから、収穫前に収穫しないでほしい。
出費ばかりの五月
今月は本当に出費が多い。
掃除機は一年ちょっとで壊れ、自動車税の納付書も届いた。
しかも十三年を超えた車なので税金まで高い。
「物を大切に乗っている人ほど税金が高くなるって、どういうことなんだろう」
と思わず愚痴も出る。
いつかはマツダ・ロードスターに乗りたい。
オープンにして、犬と猫を乗せてドライブしたいのだ。
そんな小さな夢を見ながら、今の愛車を修理しては乗り続けている。
掃除機は壊れるし、自動車税は高いし、相変わらずキュウリはカブトムシの餌にしか見えない。
それでも庭には季節の花が咲き、犬と猫は今日も元気に騒いでいる。
そんな何気ない毎日が、結局いちばん幸せなのかもしれない。

