きっとこれが正解だよ【#あなたの旅ショートストーリー 】
「私たち、コロナ禍で修学旅行に行けなかったんです」
「だから、落ち着いたら修学旅行で行くはずだった札幌に、旅行したいと思ってたんです」
そんな2人組に出会った日の話をします。
仕事で訪れていた札幌市役所の近くで、若い女性2人組に話しかけられた。頬に冷たい風が吹きつけるような寒い日だった。どうやら彼女たちは札幌時計台を探していて、三重県から来た大学生の2人組らしい。最初に声をかけられたときは少し驚いてしまった。というのも、インバウンドの観光客が多く、語学には自信がなかったからだ。以前、中国語で道を尋ねられたときは、地図を見せて指差しで案内したけれど、本当に目的地にたどり着けたかどうかは不安だった。だから今回は安心して話せたし、それに、市役所から時計台は歩いてすぐ近くだったから、案内もできた。
札幌市民からすればなんの変哲もないスポットだが、2人は大盛り上がりだった。
「写真、お願いしていいですか?」
一人がそう言って、写真撮影を頼んできたので、快く引き受けた。太宰だったら『富嶽百景』よろしく、人を撮らずに時計台だけ撮ってしまいそうだけど、そんなことはしなかった。
2人は丁寧にお礼を言って、お辞儀をした。そこで別れるつもりだったが、「次どこ行こうか」と迷っているようだったので、地下街のファストフード店で少し話を聞くことにした。3人で温かい飲み物を飲みながら、先ほど話していた札幌旅行の理由を改めて聞かせてもらった。
「昨日、新千歳空港から札幌駅に向かったんです。ラーメンを食べようと思って、あるラーメン屋さんに行ったら大行列で……諦めました」
「うん……参っちゃいました」
よく喋る方が友香さんで、控えめな方が梨花さんと名乗っていた。私は少し気になって尋ねた。
「じゃあ昨日は、ラーメンを諦めたあと、どう過ごしたの?」
「ホテルの近くにセイコーマートがあって、ホットシェフのカツ丼とフライドチキンとソフトクリームを買って食べました。ね、梨花、美味しかったよね」
「うん、美味しかった」
私は思わず頬を緩ませて話した。
「その過ごし方、正解だよ。どこに行っても観光客、特にインバウンドで混んでるから。セイコーマートのカツ丼とフライドチキン、美味しいよね。私もよく食べる」
「そうなんですね!」と友香が瞳を輝かせた。
「それに、いかにも観光客向けというか、全国的に有名な店には、地元の人はあんまり行かないんだよ。あ、一軒だけ行くけどね」
「どこにあるんですか!?」
「札幌市内にたくさんあるよ。『山岡家』っていうお店」
友香と梨花は顔を見合わせて、スマートフォンで『山岡家』を検索していた。
「三重にもありますね。でも入ったことないです」友香が地図を見ながら言った。
「全国チェーンだよ。でも、札幌で一番美味しいラーメン屋は?って聞かれたら、私は『山岡家』って答えるかな」
「そうなんですね」梨花がうなずいた。
というわけで、3人で山岡家に行くことになった。ついでに観光客向けの店に引っかからないよう、簡単なアドバイスもしておいた。
「海鮮丼の店にはちょっと注意したほうがいいよ」
「どうしてですか?」友香が首を傾げた。
「札幌って、海がないでしょ? なのに市場があるって、ちょっと不思議じゃない?」
「あー、たしかに……言われてみれば」
「海鮮が食べたいなら、新千歳空港で買いなよ。市内よりは少しマシだから。あと、お土産も全部空港で買ったほうがいいよ。全部揃ってるから」
「貴重な情報、ありがとうございます」
2人はまた丁寧にお辞儀をした。
私はこのとき、彼女たちのことを「観光客」としてではなく、札幌でたまたま出会った大学生として接することができた気がした。ちょっとした親近感がそこにあった。それで、良かったんだと思う。今は、三重でも山岡家に行ってるはずだよ。きっとそうだ。
よしまる様の企画「#あなたの旅ショートストーリー 」に参加させて頂きます。受け入れる側の話にしましたけど、いいんでしょうかね。
