北朝鮮レストランで軍人が「万歳!」
前回の記事「洗脳ビデオ」で拉致されたかもしれない可能性を書いたが、拉致されてもおかしくない体験はこれ以外にもあった。
マレーシアはかつて北朝鮮と普通に国交があった。意外だが、北朝鮮と正式外交関係(大使派遣、大使館設置)のある国は160ヵ国にも上る。国交のない日本人からすると驚きだが、世界の大半の国が北朝鮮と国交があるのだ。
「マレーシアはかつて国交があった」と書いたが、それは2017年のクアラルンプール空港で金正男が暗殺された事件で関係が悪化し、その後、国交が断絶した。
断絶前までマレーシアのクアラルンプール市内には中国・丹東のように数件北朝鮮レストランがあり、チョゴリを着た北朝鮮からの人員が働いていた。
マレーシアで知り合った韓国人に「一度一緒に北朝鮮レストランに行ってみよう」と誘ったが、みんな気味悪がって行きたくないという。南北朝鮮は政治体制、イデオロギー、GDP・収入格差、社会・考え方の違いが相当なもので、南の人は一種の恐怖心を抱いているのだろう。人々の意識にも南北は断絶されていて、例え、海外で北の人と接することが可能な環境にも拘わらず、近寄りたがらないのだった。
ある日、僕は市内の北朝鮮レストランに行ってみることにした。遅いランチとなり、午後3時近くになってしまった。一人でレストランに入る。ランチタイムが終わって、他に客が誰もいない。
テーブルに着くと、チョゴリを着た美人なアガシ(女性)が注文を取りに来た。僕に朝鮮語で話しかける。僕は「日本人だから朝鮮語が分からない」とちょっとだけ話せる韓国語で言うと、アガシの表情がサッと変わり、厳しい顔つきに変わった。
「やばい、やはり日本人は敵対民族と教えられているのだろうか?」
僕はちょっと居心地が悪くなる。
レストランにはテレビがつけてあって、よく見ると、流れているのは放送ではなくビデオだった。それも北朝鮮の軍人が「マンセー(万歳)!」と叫んでいるもの!
誰も他にいない。もし工作員がレストラン内で僕を拉致したら誰も分からず、行方不明者になっていてもおかしくない状況だった。
僕はサムゲタン(参鶏湯:鳥にもち米を入れて煮込んだ料理)を頼んだ。ソウルで韓国人の友人に連れて行ってもらった店のものがとっても美味しかったので、南北サムゲタン比較をしようと思った。
出てきたサムゲタンはスープが茶色で透明。韓国の白濁色のスープと大きく異なる。また、味もシンプルでそっけない。この勝負は南の圧勝であった。
マレーシアのクアラルンプールと北朝鮮のピョンヤンの間にはかつて高麗航空の直行便が週数便飛んでおり、ツアーで北朝鮮に行くマレーシア人もいた。オンライン予約もでき、自分も興味あってフライトの予約サイトを実際に見てみて、オンラインでもピョンヤン行きが簡単に予約できてしまうことに驚いた。もっとも、予約の最後にはパスポート番号や国籍を入力する必要があると思われ、最終的には日本人ははねられてしまうと思ったので途中で入力を止めたが。
余談だが、2026年5月、北朝鮮は憲法を改正し、韓国を独立国として初めて認める大きな変化が起きた。同時に、韓国との統一に関する言及を削除、南北は「もはや同族関係ではなく」、「平和統一」と「民族大団結」という文言は憲法から削除された。南朝鮮から大韓民国と表記が変化した。
現在のところ、大韓民国を別の国家とする方針がなぜ朝鮮労働党で決定されたのか明確な理由は不明であるが、祖父・金日成、父・金正日の払拭を狙ったものとされる。
新憲法の前文から、かつて神聖不可侵とされてきた「金日成氏と金正日氏の業績」がすべて削除され、象徴的な「金日成・金正日憲法」という呼称も共に消え去った。権力を握って10年以上となる金正恩氏が、統治の正統性を維持するためにこれ以上父や祖父の政治的遺産に依存する必要はないと判断し、それによって「金正恩時代」の到来を宣言したことを意味するもの。
北側の変化は、現状追認、国内向けの変化であり、これにより特に大きな南北関係の変化は起きていない。
マレーシア人、マレーシアに住む韓国人にとって、遠くなってしまった北朝鮮。この地で北朝鮮レストランが再び営業する日はすぐには来ないだろう。
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