君たちはどう立ち回るか
「2096番台、今日はアレが当たり台じゃぞ。5万発は軽く出る。」
後ろに並ぶ銀縁のメガネをかけた老人が言った。
杖を持っているが、背筋はそれなりにピンと伸びている。
年齢は70歳前後くらいだろうか。その後ろには約10人ほどが並んでいた。マサルは先頭から3番めに並んでいる。
この店は抽選などはなく、並び順での入場だ。
出る台が分かるなら誰も苦労しない。
マサルはパチンコやスロットを本格的に始めてから12年の歳月が経過していた。
派遣の日払い労働で生活費や軍資金を賄いつつ、パチンコ店の開いてる時間はできる限り店内に居続けては、必死に勝てる台を探していた。
高校の頃の同級生で当時片思いしていた女性と久々の再会をパチンコ屋で果たして、そのまま籍まで入れちゃったこともあるが、彼女は熱狂的なボーダー理論信者で反りが合わず、二ヶ月で離婚した。
それからはひたすらパチンコ屋と自宅を往復し、寝る前は必ずエクセルに実戦データをまとめたり、データサイトを眺めていた。
12年経った今は独自で集めた統計データを元にパチンコを打ったり、スロットを解析情報サイトにある狙い目で打っていた。
2096番台、回るの?とマサルが聞き返すと、
「回らん。じゃが、当たって連チャンして出る。」
老人は少し口角を上げて、目尻を下げた。
「まあ、信じてみる価値はあるかもしれん、青年よ。」と、マサルの目の奥を鷲掴むように見つめながら言った。
マサルは老人の言葉に耳を傾けながら、データサイトで前日までの当選履歴や7日間の出玉推移グラフを見ていた。
マサルが多くの台の統計データから導き出した攻略理論では、その2096番台が出る可能性など微塵もなかった。むしろ確変の初当たりはハマり、当たっても通常振り分け単発当たりを繰り返すだろう。しかもバラエティコーナーの機種であり、このパチンコ店ではバラエティコーナーの台が大きく出ていたことは過去3ヶ月では一度もない。良くて1万発プラスが最高だ。
お客さんがほぼ座らない台の釘が開いてるわけも無ければ、めちゃくちゃ出るわけもない。馬鹿馬鹿しい。
結局、ジジイのオカルト理論に過ぎない、と。
マサルは昨日の閉店前にチェックしたスロット機を予定通り確保した。
据え置きならかなり美味しいが、逆にリセットされていたとしても、一回のATまで打ってやめればほぼプラスは堅いだろう。
よってこの台は打てばほぼ勝ち確、引きや運なんかに左右されない。
しかもマサルはこの機種に関しては負けたことが一切ないほど相性が良い。
よって勝率は95.6%。そう結論づけた。
平常営業日であればリセットをほとんどかけないこの店だが、リセットはかかっていた。
据え置きの場合での天井ゲーム数をスルーしたからだ。
まあ焦ることはない。リセット時の短縮天井である500ゲームまで回せば良いだけだ。
何なら次の300ゲームでのゾーンでは40%くらいで当たる。
十分期待できる数値だ。
300ゲームでのゾーンは、前兆中テロップ赤という75%の信頼度である演出がありながらもスルーした。
マサルは正直当たると思っていたが、スルーしてもメンタル的な動揺はなかった。リセット天井にも恩恵があり、穢れシステムの穢れが貯まるだけでなく、最低でも1ランク上以上の継続率のATに行く。
気分転換のために店内を徘徊した。自動販売機でブラックの缶コーヒーを購入し、人気機種メインに各島を徘徊した。
バラエティコーナーにある2096番台は誰も座っていなかったが、その隣の2095番台にガタイの良い40代くらいの男性が座っていた。まだ30回転ほどしか回していない。
今朝抽選での並び時に後ろから話しかけてきた老人は、1円パチンコの海物語シリーズのライトスペックを打っていた。
もはや本人が座らない時点でお察しだ。2096番台が出るなんてのはテキトーな発言で単なる嫌がらせに過ぎない。
というか朝から並んでイチパチの甘海ってなんだよ!とマサルは心の中でツッコみを入れた。
マサルが元の席に戻って打ち始めた時、付き合って3年経つ彼女から着信とラインのメッセージがあったことに気づいた。
『今日仕事なくなったから今から会えない?見たい映画がある。』
忙しいから今日は無理、と一言で返して、You Tubeの動画を見ながらひたすら打ち続けていたが、ここで異変に気づいた。
リセット天井ゲーム数である500ゲームを越えて、すでに現在550ゲームまで回している。
さすがのマサルも狼狽えた。
リセットではなく据え置きであれば、180ゲームからの前兆から当選するがそれはなかった。
ゲーム数による抽選は、100ゲームおきであり、前兆演出が開始されるのがそもそも100の倍数でのゲーム数であるからリセットは濃厚だ。
この店は以前から思っていたが確実にやっている。
遠隔操作によって天井ゲーム数を変えてしまうことなど、現代の進歩し続ける日本の科学技術によって出来ないワケがない。
この前も先読みカスタムとレバブルカスタムで、87%の信頼度の強先読みを外した後に、レバブルカスタムでレバブルの95%を外した。
さすがに両方外れるのは本来の挙動ではない。
メーカーだってクレームを避けたいのだから、そんな激アツハズレ演出が頻繁に起きるように設計していないはずだ。
よって、遠隔操作や不正な出玉管理などは日常的にパチンコ店で行われている、と12年経った今でもマサルは思う。
この天井が行方不明な台を回し続けるべきか、第2候補のパチンコ人気機種の島の角2の台に移動すべきか、はたまた最近かまってやれていない会う度に結婚をせがんでくる彼女と映画でも見に行って、その後のディナーで元嫁の婚約指輪をそれっぽいケースに入れて渡してプロポーズでもするか。
人生の重要な分岐点だ、とマサルは思った。
どの選択が一番期待値があるのか。
経済面で考えれば、圧倒的に彼女と入籍するのが話が早い。
彼女自身はちょっとしたアパレルショップで働いていて給料は一般的であるが、彼女の実家が太い。太すぎる。
彼女の父は某有名不動産会社の社長、母はマッサージチェーン店や脱毛サロンなどを立ち上げた事業家で、自身で購入している高級マンションの最上階に夫婦で住んでいる。別荘もいくつか所有しているだろう。
つまり、彼女との結婚生活で金銭面的に困ったら彼女の実家に泣きつけばどうとでもなるワケなので一生安泰で暮らしていけるわけだ。
彼女には、自身がパチプロとしてパチンコで生計を立てていることは言っていない。言ったら嫌われてしまうリスクがあるからだ。
ただ彼女はいかにもな、お嬢様、というタイプであまり世間を知らない。だから結婚したとしても仕事に行くフリをしてパチンコをすることは簡単だろう。
マサルは32歳で彼女はもうすぐ30歳になる。
マサル自身にも今の心優しい彼女と結婚して落ち着いた生活を望む気持ちもあるのだ。
しかも高校の頃の同級生たちのほとんどは、既に結婚して子供がいる。
世間体を気にすれば、もうさすがにパチンコスロットを打ち続けるだけの生活なんて本来はしていられない。
しかし、この毎日パチンコ屋で過ごす習慣を急に変えるのは拒絶反応が出そうだ、とマサルは思う。
このリセットなのか据え置きなのか全くわからないスロット機を打ち続けるとどうだろう?
とりあえずはCZ高確率のゾーンが700ゲームからあるし、最大でも1300ゲームで本来の短縮ではないゲーム数天井だ。
勝ち負けはともかくこの機種のATはぶっ壊れ感が非常に楽しい。追わないでやめればハイエナの餌食となり、この台を取られて爆出しされる嫌な未来が見える。
パチンコはどうだろう?そもそも候補の狙い台はメイン機種であるから既に座られている可能性が高い。よってこれはない。
マサルはそのままスロットを打ち続けた。
もはや期待値とかいくら勝てるかとか考えることは放棄した。
当たるまで回す、それだけだった。
638ゲームでゲーム数天井に到達したかのような当選が起きた。
プッシュボタンを押した時のバイブと虹色の光に気分は高揚したが、マサルの頭の中には?マークがいくつも浮かんでいた。
パチンコスロットにおける違和感の正体。
それは基本的に激アツ展開の到来を示唆している場合が多い。
マサルは今一度機種解析サイトを見たが天井やリセット後挙動としての判断は間違っていなかった。
しかしながら、リセット後の0.01%でモードテーブルZが選択されて、そのテーブルのみ天井が638ゲームとなる。そのテーブルZの恩恵は1/65536の中段チェリー役を引いた際にその中の1/10を取れていれば起こるロングフリーズ時と同じ恩恵で、初期ATゲーム数上乗せの最強特化ゾーンから始まり、上位ラッシュのセット継続ストックが最低10個以上ある状態となる。
(※そんな機種はありません)
1セットあたり平均獲得枚数は300枚で、上位ラッシュ10セット継続以降は出玉性能と継続率がアップし、平均獲得枚数500枚✕94%ループとなる。コンプリート機能発動期待度は80%だ。
(※何度も言いますがそんなスロット機はありません。)
上位ラッシュは純増は5.4枚。ぶん回せば余裕でコンプリートに届くだろう。
ポケットに入れたスマートフォンのしつこいバイブにマサルは気づくことなく、無我夢中でレバーを叩き続けた。
演出画面のフリーズ、全消灯、そこから始まり出した初めて見る演出の数々。
すぐにドル箱は別積みされ、後ろを通り過ぎる人々の視線がマサルの背中に刺さる。
後ろで5分以上立ち止まる人もいた。
「これもまた立ち回り」
どこかで聞いたことのある声が聞こえた気がした。
19時前ほどにはようやくコンプリート機能が作動した。19022枚の回収。すぐにメダルを計数し、交換したところ36万円ほどプラスになった。
マサルは、彼女への婚約指輪は新しいのをこの勝ったお金で買おう、と思った。
体がガチガチで疲れているはずなのに、足取りが軽い。
店内の中央通路はまるでレッドカーペットの敷かれたウイニングロードに感じられた。
パチンコのバラエティコーナーでめちゃくちゃ出ている台がある、今もラッシュ中だ。8万発は既に出ている。それはマサルが朝老人に勧められた2096番台だった。当日7回転で確変が当たってから、一撃で出ているようだ。
隣の2095番台は当日当たりなしの1032ハマりで捨てられているが、その台を打っていたガタイの良い男性が今は2096番台に座ってノリノリで出しまくっていた。
1円パチンココーナーの隅々まで見て、マサルは老人を探した。しかし、今朝見た老人の姿はもう見当たらなかった。
そのまま帰ろうとしたマサルはスマートフォンをおもむろに取り出した。
多くの着信履歴が残っていた。彼女の母親からだった。
完
あとがき
自身で手掛けた初のパチンコ小説でした。
立ち回りに正解はないですし、パチンコでの立ち回りが少なからず人生に与える影響もデカいですよね。
私自身はよくちょっとした待ち時間でパチンコやスロットを時間効率とか考えずに打ち始めて、当たりだした時はその後のデートの約束や友人と会う約束なんかを破ったりします。
その時の自分にとって一番何が大切かだなんて、それすらもどう思っていようと正解なんてない、のでしょうか?

