社労士試験 判例問題集|AIに作らせ続けた記録、全67問公開
社労士試験、私は2回落ちています。
原因ははっきりしていて、判例が全然解けませんでした。択一はまだ条文の暗記でなんとかなりますが、選択式で判例の空欄が出た瞬間に手が止まります。事案の概要を読んで、判旨の空欄を埋めて、という形式に慣れていませんでしたし、対策も後回しにしていました。
3回目の受験に向けて、判例を毎日1問AIに作らせる仕組みを組んで、地道に問題を溜めてきました。今回それを一つにまとめて公開します。
判例学習は、深く理解しようとすると際限がありません。この記事の使い方としては「この事件、知ってる」くらいまで広く浅く触れておくのがちょうどいいと思っています。選択式の判例は、事件の要点をなんとなく覚えているだけで選択肢を絞れることが多いからです。メインの教材ではなく、隙間時間に流し読みする補助教材として使ってください。
労働基準法、労一、労災の順に67問並べています。
参考程度に留めて、詳細は必ず市販の判例集や条文で確認してください。
⚠️ 本コンテンツはAIによって生成されたものです。内容の正確性を保証するものではありません。判例の事案・判旨・年月日等に誤りが含まれている可能性がありますので、学習の参考程度にご利用いただき、詳細は必ず判例集・一次情報でご確認ください。
労働基準法
第1問:ことぶき事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) 塗装・防水工事業を営むY社は、労働者Xに対し30日前の解雇予告を行ったが、その予告期間中にXの就労を認めず自宅待機を命じた。予告期間満了後に正式に解雇されたXは、自宅待機を命じられていた期間について、労働基準法第26条に規定する「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たるとして、休業手当の支払いを求めてY社を提訴した。Y社は、解雇の予告を受けた労働者を予告期間中に就労させないことは事業運営上やむを得ないものであり、休業手当の支払義務は生じないと主張した。裁判所は、解雇予告期間中における就労拒否の法的性格について明確な判断を示した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働基準法第26条が使用者に休業手当の支払いを義務づける趣旨は、( A )ことによって労働者の最低限度の生活を保障しようとする点にある。解雇予告期間中においても労働契約は有効に存続しており、( B )が認められる以上、使用者が正当な理由なくその就労を拒否する行為は、同条にいう使用者の責に帰すべき事由による休業に該当すると解すべきである。したがって、本件においてY社がXに命じた自宅待機は( C )と判断される。」
【選択肢】
①.使用者に解雇権の行使を抑制させる ②.労基法第26条所定の休業手当支払義務の対象となる ③.就業規則における自宅待機命令の規定の存否 ④.使用者側の事情に起因する就業不能から労働者の生活を保護する ⑤.解雇予告の効力を遡及的に消滅させる事由に当たる ⑥.当該期間における労働者の就労意思と就労能力 ⑦.解雇予告手当の代替として労働者の生活費を補填する ⑧.使用者と労働者との間に締結された労使協定の合意内容 ⑨.使用者の裁量の範囲内にあり休業手当の対象外となる ⑩.労働者が解雇の撤回を求める機会を保障する ⑪.労基法第20条所定の解雇予告義務の範囲内で適法となる ⑫.就労拒否に対する労働者の異議申立ての有無
【解答】 A → ④ B → ⑥ C → ②
【解説】
Aの解説:労基法第26条が休業手当を義務づける趣旨は、使用者側の事情に起因する就業不能から労働者の生活を保護する(④)ことにあり、経営リスクを使用者に帰属させることで労働者の生活の安定を図る点がその核心である。①「使用者に解雇権の行使を抑制させる」は解雇規制の目的に近い記述であり第26条の趣旨とは無関係である。⑦「解雇予告手当の代替として生活費を補填する」は休業手当と解雇予告手当(第20条)を混同させる誤答であり、両制度は発生要件・目的ともに異なる。⑩「労働者が解雇の撤回を求める機会を保障する」は第26条の趣旨として存在せず、法的根拠を欠く誤答である。
Bの解説:使用者の就労拒否が「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たるかの判断前提として、当該期間における労働者の就労意思と就労能力(⑥)が認められることが必要である。労働者が就労する意思・能力を有しているにもかかわらず使用者側の判断によって就労を拒否された場合にのみ、同条の保護が発動されると解される。③「就業規則における自宅待機命令の規定の存否」は休業手当の発生要件ではなく、就業規則に規定があっても同条の適用は排除されない。⑧「使用者と労働者との間に締結された労使協定の合意内容」も休業手当の発生とは無関係の要素であり誤りである。⑫「就労拒否に対する労働者の異議申立ての有無」は異議の有無によって法的効果が左右されるものではなく誤りである。
Cの解説:解雇予告期間中に正当な理由なく就労を拒否したY社の自宅待機命令は、労基法第26条所定の休業手当支払義務の対象となる(②)というのが最高裁の結論である。解雇の予告がされていることは同条の適用を排除する理由にならないことが明確に示された。⑤「解雇予告の効力を遡及的に消滅させる事由に当たる」は本件の論点から外れた効果を述べるものであり、最高裁はそのような判断をしていない。⑨「使用者の裁量の範囲内にあり休業手当の対象外となる」はY社の主張をそのまま肯定するものであって本判決が明確に排斥した結論である(最も誤答しやすい選択肢)。⑪「労基法第20条所定の解雇予告義務の範囲内で適法となる」は第20条(解雇予告)を第26条(休業手当)に代替させようとするものであり、条文の適用関係を誤っている。
【判例情報】 事件名:ことぶき事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:平成21年12月18日(民集63巻10号2754頁)
第2問:大星ビル管理事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) ビル管理会社Yに雇用される警備員Xらは、夜間の警備業務に従事しており、深夜帯には「仮眠時間」が設けられていた。この仮眠時間中、Xらは仮眠室での待機を義務づけられ、警報の発報や緊急の電話に対しては直ちに対応することが求められており、自由に外出したり十分な睡眠をとったりできる状態にはなかった。YはXらの仮眠時間について労働時間には当たらないとして割増賃金を支払っていなかったため、XらはYに対し未払い割増賃金および付加金の支払いを求めて提訴した。本件では、仮眠時間が労働基準法第32条所定の「労働時間」に該当するか否かが主たる争点となった。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働基準法第32条の労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいうものと解されるところ、不活動仮眠時間が労働時間に該当するか否かは、労働者が当該時間において( A )かどうかによって客観的に定まるものであり、労使間の合意や就業規則の定めによってその性質が左右されるものではない。仮眠時間中に労働者が即時の対応を義務づけられており( B )と認められる場合には、不活動の状態であっても使用者の指揮命令下に置かれているものと評価すべきである。したがって、本件における仮眠時間は( C )と判断され、Yは当該時間に係る割増賃金を支払う義務を負う。」
【選択肢】
①.労基法上の深夜業として三六協定の適用対象となる ②.使用者の指揮命令下に置かれている ③.仮眠の確保に支障が生じていない状態にある ④.当該時間を自由に利用することが保障されていない ⑤.労働基準法第32条所定の労働時間に該当する ⑥.使用者と合意された所定外労働として扱われる ⑦.業務の必要上やむを得ない待機として休憩時間に相当する ⑧.労使協定によって労働時間から除外することが認められる ⑨.就業規則の規定に基づき適法な休憩時間として取り扱われる ⑩.所定の業務命令を受けて実作業に従事している ⑪.労働基準法第34条所定の休憩時間として賃金支払義務の対象外となる ⑫.時間外労働に準ずるものとして付加金請求の対象外となる
【解答】 A → ② B → ④ C → ⑤
【解説】
Aの解説:労基法第32条の「労働時間」の定義は、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている(②)かどうかという客観的基準によって判断される。この基準は三菱重工長崎造船所事件(最判平成12年3月9日)で確立された基本原則を本件に適用したものである。⑩「所定の業務命令を受けて実作業に従事している」は実作業中の時間のみを労働時間とする狭すぎる基準であり、待機時間や不活動時間を広く労働時間に含める本判決の趣旨と相反する(最も誤答しやすい選択肢)。③「仮眠の確保に支障が生じていない状態にある」は判断基準として法的根拠を欠く誤答である。
Bの解説:不活動仮眠時間が使用者の指揮命令下にあると評価されるための実質的要件は、当該時間を自由に利用することが保障されていない(④)と認められることにある。本件では、Xらは仮眠室からの外出が制限され警報等への即応が義務づけられており、時間を自由に使える状態ではなかった点がこの要件の充足を基礎づけた。③「仮眠の確保に支障が生じていない状態にある」は使用者側に有利な事情を示す記述であり、労働時間該当性を肯定する方向とは逆の内容である。⑥「使用者と合意された所定外労働として扱われる」は合意の存否を判断基準とするものであり、客観的基準を採用した本判決の立場と矛盾する。
Cの解説:即時対応義務が課され自由利用が保障されていなかった本件仮眠時間は、労働基準法第32条所定の労働時間に該当する(⑤)というのが最高裁の結論であり、Yには割増賃金の支払義務が生じる。⑦「業務の必要上やむを得ない待機として休憩時間に相当する」は本判決が明確に否定したYの主張に沿う誤答であり、休憩時間と判断されれば賃金支払義務は生じないが本件ではこれが排斥された。⑪「労働基準法第34条所定の休憩時間として賃金支払義務の対象外となる」も同様に第34条の休憩時間と第32条の労働時間を対置させる紛らわしい誤答であり、本判決は仮眠時間を休憩時間と認めなかった。⑧「労使協定によって労働時間から除外することが認められる」は労使合意による調整を認めるものだが、最高裁は労働時間の判断は客観的に定まると明示しており労使協定による変更を否定している。
【判例情報】 事件名:大星ビル管理事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:平成14年2月28日(民集56巻2号361頁)
第3問:大星ビル管理事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) Xはビルの総合管理業務を行うA社に雇用され、24時間3交代制のもとで設備管理業務に従事していた。A社は勤務スケジュールのなかに約8時間の「仮眠時間」を設け、この時間については労働時間として取り扱わず、所定の仮眠手当を支払うにとどめていた。しかし仮眠時間中も、Xは仮眠室に待機し、警報・緊急事態が発生した場合にはただちに対応することが業務上義務付けられていた。XはA社に対し、仮眠時間を含む未払賃金等の支払いを求めて訴えを提起した。最高裁判所は、実作業を伴わない「不活動仮眠時間」の労働時間該当性について、次のように判示した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働者が実作業に従事していない不活動時間が労働時間に該当するか否かは、労働者が不活動時間において( A )に置かれていたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約や就業規則等の定めのいかんにより決定されるべきものではない。 このような判断は、労働時間に関する規制の( B )に照らせば、当事者間の合意や名目上の定めにかかわらず、客観的事実に基づいて行われなければならない。 したがって、本件における仮眠時間は、XがA社の指揮命令下に置かれていたと認められ、その全体が( C )にあたると解するのが相当であり、A社は未払賃金の支払い義務を負う。」
【選択肢】
①「使用者の指揮命令下」 ②「労働契約に定める賃金支払い義務の対象範囲という制度趣旨」 ③「使用者の監督管理下」 ④「就業規則の適用範囲を確保するという法の趣旨・目的」 ⑤「労使合意に基づく休憩時間」 ⑥「使用者の業務命令の射程内」 ⑦「就業規則上の所定休憩時間」 ⑧「労働者保護という趣旨・目的」 ⑨「所定労働時間を基準とする規制の目的」 ⑩「使用者と合意した時間管理下」 ⑪「労働基準法32条所定の労働時間」 ⑫「使用者が任意に設定できる時間外手当の対象」
【解答】 A → ① B → ⑧ C → ⑪
【解説】
Aの解説:本判決は、不活動時間の労働時間該当性の判断基準として「使用者の指揮命令下に置かれていたと評価できるか否か」を示した。①「使用者の指揮命令下」が正答。③「使用者の監督管理下」は労働基準法41条2号の「管理監督者」に関連する概念であり、労働時間の定義に用いる法的表現としては不正確である。⑥「使用者の業務命令の射程内」も類似するが、判決が用いた定式化(指揮命令下)とは異なり誤り。
Bの解説:最高裁は、労働時間の判断が当事者間の合意等ではなく客観的事実によるべき根拠として、労働基準法による労働時間規制が労働者保護を目的とすることを挙げた。⑧「労働者保護という趣旨・目的」が正答。④「就業規則の適用範囲を確保するという法の趣旨」や⑨「所定労働時間を基準とする規制の目的」はいずれも正確な趣旨を表していない。
Cの解説:本件において最高裁は、仮眠時間中に緊急対応義務を課されていたXの不活動仮眠時間全体が「労働基準法32条所定の労働時間」に当たると判断した。⑪が正答。⑤「労使合意に基づく休憩時間」は本判決の結論と正反対であり、⑦「就業規則上の所定休憩時間」も誤りで、判決は就業規則の定めにかかわらず客観的に判断することを示している。
【判例情報】 事件名:大星ビル管理事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:平成14年2月28日(民集56巻2号361頁)
第4問:国際自動車事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) タクシー会社Yに運転手として勤務するXらは、歩合給を中心とした賃金体系のもとで就労していた。Y社の賃金規則上、時間外・深夜労働に対する割増賃金は計算式上「歩合給から割増賃金相当額を差し引いた金額を歩合給として支払う」という構造をとっており、結果として割増賃金として支払われる額と同額だけ歩合給が減少する仕組みとなっていた。Xらは、このような賃金体系は割増賃金の支払いを事実上無意味にするものとして労働基準法第37条に違反すると主張し、未払い割増賃金の支払いを求めて提訴した。本件では、歩合給制のもとで割増賃金相当額を歩合給から控除する賃金規定が労基法第37条の趣旨に照らして許容されるか否かが主たる争点となった。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働基準法第37条が割増賃金の支払いを義務づける趣旨は、時間外・休日・深夜労働に対し( A )ことによって、当該労働の抑制を図るとともに労働者の生活上の利益を保護しようとする点にある。このような同条の趣旨に照らすと、賃金体系の設計上( B )と評価される場合には、当該賃金規定は同条の趣旨を潜脱するものとして許容することができないと解すべきである。本件Y社の賃金体系は、割増賃金として支払われる額と同額だけ歩合給が差し引かれる構造となっており、時間外労働の増減が最終的な賃金総額に何ら影響を及ぼさない以上、Y社の当該賃金規定は( C )と判断される。」
【選択肢】
①.労使合意に基づく賃金規定として適法に取り扱われる ②.割増賃金の支払いが実質的な意味を持たないものとなっている ③.使用者に安全配慮義務の履行を促す ④.労基法第37条の趣旨を没却するものとして無効となる ⑤.通常賃金と割増賃金とを明確に判別することができる ⑥.就業規則の規定として合理性が認められ有効となる ⑦.使用者に割増賃金の経済的負担を負わせる ⑧.歩合給の計算基礎として適法に算入することが認められる ⑨.割増賃金の支払いが過度な経済的負担を生じさせるものとなっている ⑩.労基法第37条の要件を充足するものとして有効となる ⑪.労使協定の締結を条件として適法と認められる ⑫.割増賃金の算定方法として社会通念上の合理性を有するものとなっている
【解答】 A → ⑦ B → ② C → ④
【解説】
Aの解説:労基法第37条が割増賃金を義務づける根拠は、使用者に割増賃金の経済的負担を負わせる(⑦)ことで時間外労働等を抑制しようとする点にある。使用者が余分なコストを負担しなければならないという構造によってはじめて同条の抑制機能が発揮されるのであり、この経済的負担という要素が同条の趣旨の核心をなす。③「使用者に安全配慮義務の履行を促す」は労働契約法第5条に関連する概念であって第37条の趣旨とは無関係である。⑨「割増賃金の支払いが過度な経済的負担を生じさせるものとなっている」は一見近い内容に見えるが、「過度な」という修飾語が加わることで使用者の負担軽減を正当化する方向に転じてしまい本条の趣旨とは異なる(最も誤答しやすい選択肢)。⑤「通常賃金と割増賃金とを明確に判別することができる」は医療法人社団康心会事件で示された判別可能性の基準に関する記述であり、本件の論点とは異なる。
Bの解説:同条の趣旨に照らして許容できない賃金体系とは、割増賃金の支払いが実質的な意味を持たないものとなっている(②)場合である。本件のように割増賃金として支払った額と同額が歩合給から差し引かれる仕組みでは、時間外労働をいくら行っても最終的な手取り額が変わらず、割増賃金による抑制機能が完全に失われる。⑫「割増賃金の算定方法として社会通念上の合理性を有するものとなっている」はY社の主張を肯定する方向の記述であり、本判決が明確に否定した評価である。⑧「歩合給の計算基礎として適法に算入することが認められる」も歩合給からの控除を正当化する誤答であって許容できないとした本判決の結論と相反する。
Cの解説:時間外労働の増減が賃金総額に何ら影響しない本件賃金体系は、労基法第37条の趣旨を没却するものとして無効となる(④)というのが最高裁の結論である。「趣旨の没却」という表現は本判決が用いた評価の核心であり、単なる要件不充足にとどまらず同条の立法目的を根底から失わせるものとして無効と判断された。⑩「労基法第37条の要件を充足するものとして有効となる」はY社の主張に沿う誤答であり本判決が排斥した結論である。①「労使合意に基づく賃金規定として適法に取り扱われる」も合意の存在を根拠に有効性を肯定しようとする誤答であり、最高裁は合意の有無にかかわらず同条の趣旨を没却する賃金規定は許容できないと判断した点を見落とした誤りである。⑥「就業規則の規定として合理性が認められ有効となる」も形式的な合理性の有無によって処理しようとする誤答であり、就業規則への定めは問題の本質的解決にならない。
【判例情報】 事件名:国際自動車事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:令和2年3月30日(民集74巻3号549頁)
第5問:国際自動車事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) XらはY会社(タクシー会社)の乗務員として、タクシー乗務に係る業務に従事していた。Y会社の賃金体系は基本給と歩合給から構成されており、歩合給の算定に際しては、乗務員の売上(揚代)から一定の経費等を控除したうえで、さらに時間外労働・休日労働・深夜労働に係る割増賃金相当額を差し引いた額を歩合給とする仕組みが採られていた。この結果、Xらの実際の労働時間がいかに長くても、追加的な割増賃金は発生しない構造となっていた。Xらは、Y会社の賃金体系が労働基準法37条に違反するとして未払割増賃金の支払を求めて提訴した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「割増賃金の支払があったというためには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とが( A )ことが必要であるところ、本件賃金規則のもとでは、歩合給の算定において割増賃金相当額を控除する仕組みが採られているために割増賃金に当たる部分が存在しない結果となり、この要件を満たさない。 そもそも、労働基準法37条が割増賃金の支払を義務付けた趣旨は、( B )ことにあり、このような規定の趣旨を没却するような賃金体系に基づく支払は、同条に定める割増賃金を支払ったとは認めることができない。 したがって、Y会社の本件賃金規則に基づくXらへの賃金支払は、( C )ものと判断せざるを得ない。」
【選択肢】
①.使用者と労働者との合意により変更することが許容される ②.労働基準法37条所定の割増賃金の支払がされたと認めることができる ③.割増賃金の支払を確保することにより時間外労働等を抑制し、もって労働者の適切な処遇を図る ④.賃金全額払いの原則を遵守している ⑤.就業規則に基づく合理的な労使慣行として定着している ⑥.明確に判別することができる ⑦.時間外労働の発生を実質的に防止し、労働時間の短縮を促す ⑧.労働基準法37条所定の割増賃金の支払がされたと認めることができない ⑨.使用者が労働時間の適正な管理義務を果たす ⑩.最低賃金法に定める基準を下回らない ⑪.割増賃金の総額が法定水準以上である ⑫.労使協定の定めに従って算定されている
【解答】 A → ⑥(明確に判別することができる) B → ③(割増賃金の支払を確保することにより時間外労働等を抑制し、もって労働者の適切な処遇を図る) C → ⑧(労働基準法37条所定の割増賃金の支払がされたと認めることができない)
【解説】
Aの解説:最高裁は、労基法37条に基づく割増賃金の支払が認められるためには、通常賃金部分と割増賃金部分とが「明確に判別することができる」こと(明確区分性の法理)を要件としている。①「使用者と労働者との合意により変更することが許容される」は就業規則変更の話であり本件と無関係。⑫「労使協定の定めに従って算定されている」も本判旨の要件とは異なる。
Bの解説:労基法37条が割増賃金を義務付ける趣旨は、割増賃金の支払を確保することで使用者が時間外労働をさせることに経済的不利益を課し、時間外労働を抑制して労働者の適切な処遇を図ることにある(③)。⑦「時間外労働の発生を実質的に防止し、労働時間の短縮を促す」は近い表現に見えるが、「支払を確保することにより」という因果関係・手段の記述が欠けており正確ではない。⑨「使用者が労働時間の適正な管理義務を果たす」は労働時間把握義務の話であり本件の趣旨ではない。
Cの解説:本件の歩合給算定において割増賃金相当額を控除する仕組みのため、割増賃金に当たる部分が実質的に存在しない。よって結論として「労働基準法37条所定の割増賃金の支払がされたと認めることができない」(⑧)となる。②はこれと逆の内容であり誤り。⑩「最低賃金法に定める基準を下回らない」は最低賃金法の問題であり、労基法37条の割増賃金とは別の問題である。
【判例情報】 事件名:国際自動車事件(第二次上告審) 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:令和2年3月30日(平成29年(受)第2030号)
第6問:日立製作所武蔵工場事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) 電気機器メーカーY社の工場に製造技術者として勤務するXは、当該工場において日常的に時間外労働が行われる職場環境のもとで就労していた。Y社は所属労働組合との間で労働基準法第36条所定の労使協定(三六協定)を締結して所轄労働基準監督署長に届け出ており、就業規則にも業務上の必要がある場合には従業員に時間外・休日労働を命じることができる旨の規定を置いていた。Y社がXに対して時間外労働を命じたところ、Xは当該命令には私法上の拘束力がないとして正当な理由なくこれを拒否した。Y社はXの行為が就業規則所定の懲戒事由に該当するとして出勤停止の懲戒処分に付し、Xがその効力を争って提訴した。本件では、三六協定と就業規則の規定が相まって労働者に時間外労働義務を発生させ得るか、およびXに対する懲戒処分の適法性が主たる争点となった。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働基準法第36条所定の三六協定は、これを締結し所轄労働基準監督署長に届け出ることによって使用者に( A )ものであり、同協定の締結・届出のみによっては直ちに労働者が私法上時間外・休日労働に従事すべき義務を負うことにはならない。しかしながら、就業規則に時間外・休日労働を命じ得る旨の定めが置かれており、その内容が( B )と認められる場合には、当該定めは労働契約の内容となり、使用者は労働者に対して時間外・休日労働を命ずることができ、労働者はこれに従う義務を負うものと解すべきである。これを本件についてみると、三六協定の締結・届出がなされており就業規則にも時間外・休日労働に関する定めが置かれている以上、同命令を正当な理由なく拒否したXに対するY社の懲戒処分は( C )。」
【選択肢】
①.使用者に私法上の時間外労働命令権を直接付与する ②.合理的なものであり公序良俗に反しない ③.懲戒権の濫用として法的効力を否定される ④.時間外・休日労働について使用者と労働者間に個別の合意を成立させる ⑤.時間外・休日労働に対する刑事罰の適用を免れさせる効力を付与する ⑥.当該事業場の労働者の過半数を代表する者の明示の同意を得ている ⑦.労働時間規制の適用を包括的に除外する効力を付与する ⑧.三六協定の定める上限時間数の範囲内で具体的かつ明確に規定されている ⑨.適法であり権利の濫用にも当たらないものとして有効となる ⑩.懲戒事由は充足するが処分の相当性を欠くものとなる ⑪.三六協定の効力のみを根拠として成立しているとして許容されない ⑫.就業規則の定める制定・変更手続に従って適法に作成されている
【解答】 A → ⑤ B → ② C → ⑨
【解説】
Aの解説:三六協定は、これを締結・届出することで使用者が時間外・休日労働に対する刑事罰の適用を免れさせる効力を付与する(⑤)ものにとどまり、同協定の存在のみでは私法上の残業義務を労働者に直接課すものではないというのが最高裁の判断である。①「私法上の時間外労働命令権を直接付与する」は三六協定の効力を私法的効果にまで拡張して解した誤答であり、本判決が明確に否定した見解である。④「使用者と労働者間に個別の合意を成立させる」は三六協定の機能を労働者との合意形成と誤解させる誤答である。⑦「労働時間規制の適用を包括的に除外する効力を付与する」は免罰的効力を「規制の包括除外」と言い換えた誤答であり、三六協定の効力を必要以上に広く解する点で誤りである(最も誤答しやすい選択肢)。
Bの解説:就業規則に置かれた時間外・休日労働を命じ得る旨の規定が労働契約の内容となるためには、その内容が合理的なものであり公序良俗に反しない(②)と認められることが必要とされる。この基準は秋北バス事件(最大判昭和43年12月25日)以来確立されており、後に労働契約法第7条に明文化された就業規則の規範的効力の基礎をなすものである。⑥「当該事業場の労働者の過半数を代表する者の明示の同意を得ている」は就業規則制定時の意見聴取(労基法第90条)という手続面に着目した誤答であり、内容の合理性という本質的要件を問う本設問の趣旨とは異なる。⑧「三六協定の定める上限時間数の範囲内で具体的かつ明確に規定されている」は三六協定への手続的適合性を述べるものであり、就業規則の規定内容の合理性という実質的要件の代替にはならない。⑫「制定・変更手続に従って適法に作成されている」も手続的適法性を問題にした誤答であり、内容面の合理性とは別次元の要素である。
Cの解説:三六協定の締結・届出があり就業規則にも時間外・休日労働の定めが置かれている本件において、正当な理由なく残業命令を拒否したXに対するY社の懲戒処分は、適法であり権利の濫用にも当たらないものとして有効となる(⑨)というのが最高裁の結論である。最高裁は残業命令が権利の濫用に当たらない限り労働者はこれに従う義務を負うと判示しており、本件ではその例外事情も認められなかった。③「懲戒権の濫用として法的効力を否定される」は本判決の結論と正反対の誤答であり、Xの主張を肯定する内容である。⑩「懲戒事由は充足するが処分の相当性を欠くものとなる」は懲戒の相当性という別の論点を持ち込んだ誤答であり、本件では出勤停止処分の相当性は問題とされていない(誤答しやすい選択肢)。⑪「三六協定の効力のみを根拠として成立しているとして許容されない」は就業規則の存在を看過し三六協定しか根拠がないと誤解させる誤答であり、本件では三六協定と就業規則の双方が揃っているとして有効性が肯定された。
【判例情報】 事件名:日立製作所武蔵工場事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:平成3年11月28日(民集45巻8号1270頁)
第7問:電電公社帯広局事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) 電電公社(現NTT)帯広局に勤務する労働者Xは、所属する労働組合が計画した一斉年次有給休暇取得闘争(年休闘争)に参加する目的で、労働基準法第39条に基づき時季を指定して年次有給休暇の取得を申し出た。これに対しY電電公社は、当該年休取得が組合の統一的な争議的行動の一環として行われるものであることを理由として、同条所定の時季変更権を行使し、Xの年休取得申出を拒んだ。Xは時季変更権の行使が違法であるとして年休期間中の賃金相当額の支払いを求めて提訴した。本件では、年次有給休暇の権利の法的性格、取得の目的が時季変更権の行使の適否に影響するか否か、および「事業の正常な運営を妨げる場合」の判断基準が主たる争点となった。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「年次有給休暇の権利は、所定の要件を充たした労働者が( A )ものであって、その行使にあたり使用者に対して取得の具体的な目的や理由を告知する義務はない。労働基準法第39条が年次有給休暇制度を設けた趣旨は、( B )点にあるから、使用者が取得の目的を理由として時季変更権の行使を正当化することは同条の趣旨に反するものとして許されない。したがって、当該年休取得が組合の統一的な一斉年休闘争の一環として行われるという事情のみをもって、事業の正常な運営を妨げる場合に当たると( C )ことはできないと解される。」
【選択肢】
①.使用者の承認によってはじめて具体的に発生する ②.時季を指定することにより当然に発生する ③.事業の正常な運営を妨げない範囲内で年休取得を優先的に保障する ④.合理的に推定する ⑤.労働者が取得目的を問われることなく自由に時季を指定できることを実質的に保障する ⑥.時季変更権の行使を適法と認める ⑦.労使間の個別合意に基づいて具体的に発生する ⑧.直ちに認定する ⑨.使用者の時季変更権を合理的に制限して労働者の休養を実効的に確保する ⑩.所定の手続を経ることで事後的に確定する ⑪.年休取得にあたり使用者と労働者とが対等に時季を協議・調整する ⑫.当然に判断する
【解答】 A → ② B → ⑤ C → ⑧
【解説】
Aの解説:年次有給休暇の権利は、所定の要件(継続勤務要件・出勤率要件)を充たした労働者が時季を指定することにより当然に発生する(②)ものであり、使用者による承認や許可を権利発生の要件とするものではない。最高裁はこの権利の発生を「形成権」的に捉えており、時季指定の意思表示によって当然に効果が生じると解した。①「使用者の承認によってはじめて具体的に発生する」は承認請求権説に近い発想であり、最高裁が採用しなかった見解である。⑦「労使間の個別合意に基づいて具体的に発生する」も個別合意を要件とする誤答であり権利の当然発生という本判決の立場と相反する。⑩「所定の手続を経ることで事後的に確定する」も手続の履践を確定要件とするもので誤りである。
Bの解説:年次有給休暇制度の趣旨は、労働者が取得目的を問われることなく自由に時季を指定できることを実質的に保障する(⑤)点にある。最高裁はこの趣旨を根拠として、使用者が取得の目的・動機を理由に時季変更権を行使することは制度の趣旨に反するとした。③「事業の正常な運営を妨げない範囲内で年休取得を優先的に保障する」は時季変更権の行使要件から条件を持ち込んだ誤答であり、制度の本来の趣旨である自由な時季指定の保障を正確に表していない(最も誤答しやすい選択肢)。⑨「使用者の時季変更権を合理的に制限して労働者の休養を実効的に確保する」は時季変更権の制限という副次的側面のみに着目した誤答であり、自由な時季指定を保障するという制度本来の趣旨を表していない。⑪「年休取得にあたり使用者と労働者とが対等に時季を協議・調整する」は協議を前提とするものであって、労働者の一方的な時季指定権を保障する本判決の理解と相反する。
Cの解説:組合の一斉年休闘争への参加という事情のみをもって、事業の正常な運営を妨げる場合に当たると直ちに認定する(⑧)ことはできないというのが本判決の結論である。「事業の正常な運営を妨げる場合」の充足の有無は、当該事業場の規模・業務の性質・担当業務の内容・代替要員確保の可否等の客観的事情を総合して判断されなければならず、取得の動機・目的のみから結論を導くことは許されない。④「合理的に推定する」は「直ちに認定する」よりも穏当に見えるが、目的のみからの推定を許す点で本判決が否定した論理と実質的に同じであり誤りである(最も誤答しやすい選択肢)。⑥「時季変更権の行使を適法と認める」はY電電公社の主張を肯定する方向の誤答であり本判決が否定した結論である。⑫「当然に判断する」も「当然に」という絶対的表現が、客観的事情の総合考慮を要求する本判決の立場と相反する。
【判例情報】 事件名:電電公社帯広局事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:昭和57年3月18日(民集36巻3号366頁)
第8問:電電公社帯広局事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) 電電公社(現NTT)帯広局に勤務する労働者Xは、使用者から所定の時間外労働を命じられたが、所属する労働組合の「残業拒否」指令に従い、これを拒否した。当該事業場では、労働組合との間で労働基準法第36条に基づく労使協定(いわゆる36協定)が適法に締結・届出されており、就業規則にも「業務上の必要がある場合、使用者は時間外労働を命じることができる」旨の規定が設けられていた。使用者はXの残業拒否が就業規則違反にあたるとして戒告の懲戒処分に付したため、Xはその効力を争い、本件訴訟に至った。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「当該事業場においては36協定が締結・届出され、かつ就業規則にも時間外労働を命じる旨の規定があることからすれば、使用者は( A )権限を有することになる。労働基準法第36条が( B )規定であることに照らしても、就業規則の規定と相まって私法上の時間外労働命令権の根拠たりうると解するのが相当である。したがって、使用者の本件時間外労働命令は、Xの個別的同意がなくとも( C )ものであり、これを正当な理由なく拒否したXの行為は、就業規則上の服務規律に違反し懲戒処分の対象となる。」
【選択肢】
①.権利の濫用として効力を有しない ②.個々の労働者の同意を要せず時間外労働を命じる ③.使用者の命令権の範囲を確定的に定める ④.労使間の集団的自治を尊重し自主的な決定を促進する ⑤.有効に成立し法的拘束力を有する ⑥.過半数組合との協議を経た上で時間外労働を命じる ⑦.使用者に対し時間外労働の公法上の免罰効果を付与する ⑧.不法行為責任を発生させる根拠となりうる ⑨.公序良俗に反し無効となる ⑩.組合の同意を前提として時間外労働を指示する ⑪.労働者の健康を保護するために時間外労働の上限を設定する ⑫.労使協定の内容に拘束される形で時間外労働を命じる
【解答】 A → ② B → ⑦ C → ⑤
【解説】
• Aの解説:36協定の締結・届出と就業規則の根拠規定が揃うことで、使用者は「個々の労働者の同意を要せず時間外労働を命じる」権限を持つというのが本判例の核心である。⑩「組合の同意を前提として」・⑥「過半数組合との協議を経た上で」は個別同意・協議を要件とするものであり本判例の趣旨と相反する。⑫「労使協定の内容に拘束される形で」は命令権の行使を協定内容の限度に縛るものであり、本判例が肯定した積極的命令権の性質を適切に表していない。
• Bの解説:労働基準法第36条は、労使協定の締結・届出によって「使用者に対し時間外労働の公法上の免罰効果を付与する」ことを直接の目的とする規定である。③「使用者の命令権の範囲を確定的に定める」は本条の本来の目的を超えた解釈であり誤り。⑪「労働者の健康を保護するために時間外労働の上限を設定する」は現行の時間外労働上限規制(働き方改革関連法)の趣旨を反映した説明であって、本条の本来的機能の説明としては不正確。④「労使間の集団的自治を尊重し自主的な決定を促進する」は36条の副次的効果に過ぎず趣旨の核心とはいえない。
• Cの解説:本判例の結論は、使用者の時間外労働命令が個別同意なしに「有効に成立し法的拘束力を有する」というものである。①「権利の濫用として効力を有しない」・⑨「公序良俗に反し無効となる」はいずれも命令の効力を否定する方向の語句であり本判例と逆の結論になるため誤り。⑧「不法行為責任を発生させる根拠となりうる」は命令の効力とは別の法的効果を述べるものであり文脈に沿わない。
【判例情報】 事件名:電電公社帯広局事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:昭和61年3月13日(民集40巻2号189頁)
第9問:片山組事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) 建設会社Yに現場監督として採用された労働者Xは、特段の職種・業務内容の限定なく雇用されていたが、疾病を発症したことにより現場作業への就労が不能となった。Xは、現場業務に就くことはできないものの、軽易な事務作業等については就労が可能な状態にあった。しかし、使用者Yは、現場業務への就労が不可能であることを理由に、Xに他の業務を命じることなく就労を拒否し、休業期間中の賃金を支払わなかった。Xは未払賃金の支払を求めて提訴し、本件の争点は、特定の業務への就労が不能となった労働者に対して、使用者が他の業務への配置を検討せずに就労を拒否した場合に、賃金支払義務が生じるか否かとなった。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働者が職種や業務内容を特定せずに採用された場合、( A )ことからすれば、使用者は現に就業を命じられている業務以外の業務への配置の可能性を検討しなければならない。 このような労働契約における( B )に照らせば、使用者が他の業務への配置を検討することなく漫然と就労を拒否した場合には、その就労拒否は使用者の責めに帰すべき事由によるものと解するのが相当である。 したがって、本件において使用者が就労を拒否した行為は( C )にあたり、使用者はXに対して休業期間中の賃金全額を支払う義務を免れない。」
【選択肢】
① 雇用契約における就業条件明示義務の趣旨 ② 労働者(債務者)の責めに帰すべき事由による履行不能 ③ 使用者が業務命令によって担当業務を変更する権限を有している ④ 就業規則に配置転換規定がある場合に限り変更権限が認められる ⑤ 労働基準法第26条の休業手当支払義務の発生事由 ⑥ 雇用継続を図るべき信義則上の配慮義務の趣旨 ⑦ 労働者が自ら配置転換を申し出ることで初めて義務が発生する ⑧ 使用者の安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権の発生 ⑨ 債権者(使用者)の責めに帰すべき事由による受領拒否 ⑩ 労働基準法第19条の解雇制限規定の立法趣旨 ⑪ 最低賃金保護による賃金請求権保全の趣旨 ⑫ 労働者の医師による就労可能証明が提出された場合に限られる
【解答】 A → ③ B → ⑥ C → ⑨
【解説】
Aの解説:職種・業務内容を特定せずに採用された場合、使用者は業務命令によって担当業務を変更する権限を有していることが、配置検討義務の根拠(理由)となる。④の「就業規則に規定がある場合に限る」は誤りで、採用形態そのものから権限が認められる。
Bの解説:労働契約における「雇用継続を図るべき信義則上の配慮義務」の趣旨から、使用者は他業務への配置を検討すべきとの解釈が導かれる。①の就業条件明示義務は労基法15条に関するものであり趣旨が異なる。
Cの解説:本件の結論として、使用者の就労拒否は民法第536条第2項にいう「債権者(使用者)の責めに帰すべき事由による受領拒否」にあたり、使用者は賃金全額の支払義務を負う。⑤の労基法26条(休業手当・平均賃金の60%以上)とは異なり、民法536条2項適用の場合は全額支払義務が生じる点が重要。
【判例情報】 事件名:片山組事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:平成10年4月9日(民集52巻3号759号)
第10問:片山組事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) 建設会社Y社に職種を特定せず採用された現場監督のXは、業務上の疾病により主治医から現場作業への従事を禁止する診断を受けた。XはY社に対し、現場業務には就けないが事務作業であれば従事できる旨を申し出たが、Y社はこれを拒否してXに自宅待機を命じ、当該期間の賃金を支払わなかった。Xは賃金請求権の存否を争って提訴し、最高裁判所は職種を特定せずに締結された労働契約における使用者の賃金支払義務について判断を示した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働者が職種や業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては、現に就業を命じられた特定の業務について( A )としても、その能力・経験・地位及び当該企業における配置の実情等に照らして配置される現実的可能性がある他の業務について労務を提供できる状況にあり、かつその旨を申し出ているときは、なお債務の本旨に従った履行の提供があると解するのが相当である。 このような解釈は、職種を特定しない採用が持つ( B )に照らせば、当然の帰結というべきである。 したがって、本件において使用者が労働者の申出を拒否して自宅待機を命じたことは( C )にあたり、使用者は当該期間中の賃金支払義務を免れない。」
【選択肢】
①.使用者の帰責事由による受領遅滞 ②.権利濫用として無効な懲戒処分 ③.労務の提供が十全にはできない状態にある ④.当該労働者が約定業務を完全に履行不能とした事実がある ⑤.弾力的な人事配置を可能にする性質 ⑥.当事者が特定した職種への専属的な拘束力 ⑦.賃金全額払い原則(労基法24条1項)に基づく支払義務 ⑧.労働者の責に帰すべき事由による履行不能 ⑨.使用者の業務命令権の正当な行使 ⑩.均等待遇原則を実現するための画一的処理の必要性 ⑪.就業規則の不利益変更として合理性を欠く ⑫.労働者に職種選択の自由を保障する趣旨
【解答】 A → ③ B → ⑤ C → ①
【解説】
Aの解説:職種を特定せずに採用された場合、当該業務への労務提供が「十全にはできない状態にある」としても、他の業務への就労が可能で使用者に申し出ていれば債務の本旨に従った履行の提供があると認められる。誤答④「完全に履行不能とした事実」は全労働能力の喪失と誤解させる点で異なり、本件はあくまで特定業務への提供不能にとどまる点が重要である。
Bの解説:職種を特定しない採用形態は、使用者がさまざまな業務に労働者を「弾力的に配置できる性質」を持つ。これは専属的拘束(選択肢⑥)や職種選択の自由(選択肢⑫)とは異なり、使用者側の人事上の裁量・広域配置を正当化する根拠となる趣旨である。
Cの解説:労働者が他の業務への就労を申し出ているにもかかわらず、使用者がこれを受け入れずに自宅待機を命じた場合、民法第413条の受領遅滞(債権者遅滞)が成立する。これは「使用者の帰責事由による受領遅滞」であり、民法第536条第2項の類推により、労働者の賃金請求権は消滅しない。誤答②「権利濫用として無効な懲戒処分」は懲戒の場面と混同させる誤りで、自宅待機命令は懲戒処分ではなく配置拒否・受領拒絶の問題である。
【判例情報】 事件名:片山組事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:平成10年4月9日
第11問:片山組事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) 土木・建設工事を業とするY社(片山組株式会社)に雇用され、現場監督業務を担当していた労働者Xは、業務遂行中にシェーグレン症候群と診断され、現場作業への従事が困難な状態となった。Xは、内勤業務であれば就労可能であるとして就労の継続を申し出たが、Y社は医師の診断書を根拠に、Xに対して自宅治療を命じ、就労を拒否した上で、その期間中の賃金を一切支払わなかった。Xは、この措置は使用者による受領拒絶にあたり違法であるとして、未払賃金の支払を求めて提訴した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働者が職種や業務内容を特定せずに雇用されている場合には、( A )限り、使用者は当該労働者を現在就いている業務以外の業務に就かせることができるのであるから、特定の業務への就労が不能となっても、使用者は他の業務に就かせることを検討すべき義務を負う。 このような使用者の( B )の趣旨に照らせば、配置可能な業務が存在するにもかかわらず使用者が就労を拒んだ場合には、これは使用者の責めに帰すべき事由による受領拒絶と解するのが相当である。 したがって、このような場合、労働者は( C )に基づき、不就労期間中の賃金を請求することができる。」
【選択肢】
①.安全配慮義務 ②.労働者が他の業務への従事を明示的に申し出ている ③.配置可能な業務が現実に存在する ④.就業規則に配置転換に関する規定が設けられている ⑤.労働基準法第26条の休業手当請求権 ⑥.民法第536条第2項の反対給付請求権 ⑦.雇用継続義務 ⑧.使用者が労働者に対して業務命令権を有する ⑨.就労受領義務 ⑩.民法第415条の損害賠償請求権 ⑪.指揮命令義務 ⑫.不当利得返還請求権
【解答】 A → ③ B → ⑨ C → ⑥
【解説】
Aの解説:片山組事件において最高裁は、職種・業務を特定せずに採用された労働者については、配置可能な業務が現実に存在することを前提に、使用者はその業務に就かせる義務を負うと判示した。②「労働者が明示的に申し出ている」は就労の意思表示の有無ではなく配置可能性の存否が判断基準となるため誤り。④「就業規則に規定が設けられている」は就業規則の文言ではなく現実の業務存在が基準となるため誤り。
Bの解説:使用者は、労働者が適法に労務の提供を申し出た場合にこれを受領すべき「就労受領義務」を負うと解されている。正当な理由なく就労を拒否することはこの義務への違反となる。①「安全配慮義務」(労契法5条)は健康・安全の確保義務であり就労受領の文脈とは直接一致しないため誤り。⑦「雇用継続義務」は一般的な概念で就労受領義務の趣旨を正確に示すものではないため誤り。
Cの解説:使用者の責めに帰すべき事由により就労が受領されなかった場合、民法第536条第2項(債権者の責めに帰すべき事由による履行不能)が適用され、労働者は反対給付(賃金)の請求権を失わない。⑤「労働基準法第26条の休業手当請求権」は平均賃金60%以上の手当であり、民法536条2項による全額請求とは法的根拠・効果が異なるため不正確。⑩「民法第415条の損害賠償請求権」は債務不履行の損害賠償であり、本件の賃金請求の直接の根拠としては適切でない。
【判例情報】 事件名:片山組事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:平成10年4月9日(民集52巻3号813頁)
第12問:阪急トラベルサポート(第2)事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) 旅行会社Yが企画する国内旅行ツアーに添乗員として従事していたXは、添乗業務中の労働時間について事業場外みなし労働時間制(労働基準法第38条の2第1項)を適用するものとして処理されていた。Xは実際の労働時間に基づく時間外割増賃金の支払いを求めて提訴した。Yはツアーのパンフレットおよび添乗業務マニュアルで業務内容を詳細に定め、添乗中も携帯電話によりXへの随時連絡・指示が可能な状態にあり、帰着後はXに詳細な報告書の提出を義務づけていた。本件では、かかる態様の添乗業務に同制度が適用されるか否かが争点となった。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働基準法第38条の2にいう『労働時間を算定し難いとき』に当たるか否かは、( A )状況にあるか否かを基準として判断すべきであり、使用者が労働者の行動を随時確認・指示できる場合には、原則として同条の適用はないと解すべきである。 このような解釈は、同条が( B )ために設けられたものであることからも裏付けられ、使用者の関与の実態を重視して適用の可否を判断しなければならない。 したがって、使用者が詳細なマニュアルで業務内容を規定し、携帯電話等により随時連絡・指示が可能であった本件においては、Xの添乗業務は( C )には当たらず、実際の労働時間を基礎に割増賃金の支払義務が生じると判断される。」
【選択肢】
①.労働者が自らの判断で業務の遂行方法を決定している ②.労働者の業務遂行の自由を最大限に確保し、自律的な働き方を促進する ③.事業場外での業務に従事するとき ④.使用者が現実に労働時間を管理・把握することが不可能な例外的場面においてのみ、算定の便宜を図る ⑤.使用者と労働者の間に使用従属関係が成立していない ⑥.業務の性質上、所定労働時間内に作業を完了することが客観的に困難なとき ⑦.使用者の具体的な指揮監督が客観的に及ばず、労働時間の算定が困難な ⑧.使用者の労務管理コストを削減し、経営の効率化を図る ⑨.労働者が国内ではなく海外において業務を行っている ⑩.労働時間を算定し難いとき ⑪.使用者の指定する場所以外で業務を遂行するとき ⑫.労働者と使用者が合意することなく時間外労働を認める慣行を防止する
【解答】 A → ⑦(使用者の具体的な指揮監督が客観的に及ばず、労働時間の算定が困難な) B → ④(使用者が現実に労働時間を管理・把握することが不可能な例外的場面においてのみ、算定の便宜を図る) C → ⑩(労働時間を算定し難いとき)
【解説】
Aの解説:「労働時間を算定し難いとき」の判断基準は、使用者の「具体的な指揮監督が客観的に及ばず、労働時間の算定が困難な」状況かどうかにある。①「労働者が自らの判断で遂行方法を決定している」は労働者の裁量の有無を問うものだが、使用者が時間を把握できるか否かという要件の核心からずれており誤り。⑤「使用従属関係が成立していない」は38条の2の適用問題ではなく、そもそも労働者性の問題であり誤り。⑨「海外での業務」は場所の要件に過ぎず、指揮監督の可否とは別問題である。
Bの解説:同条の趣旨は、使用者が実態として労働時間を把握・管理することが「不可能な例外的場面においてのみ」みなし制を認め、それ以外では実際の労働時間に基づいた割増賃金支払義務を確保することにある。②「自律的な働き方を促進する」は同条の立法目的に関係せず誤り。⑧「労務管理コストの削減」は使用者の利益を目的とするかのような記述であり、割増賃金支払義務を確保する趣旨とは相容れない。⑫「合意なき時間外労働の慣行防止」は36協定制度の趣旨に近く、38条の2の趣旨とは異なる。
Cの解説:本件の結論は、Xの業務が同条の適用要件である「労働時間を算定し難いとき」に当たらないというものである。これは法律の条文表現を正確に理解しているかを問う空欄であり、やや難の設定となっている。③「事業場外での業務に従事するとき」は38条の2の前提条件に過ぎず、それ自体が適用要件の充足を意味するわけではなく誤り。⑥「所定労働時間内に完了困難なとき」は業務量の多寡の問題であり、時間算定困難性の要件とは別次元の問題であるため誤り。⑪「使用者の指定場所以外で業務を遂行するとき」も場所の要件にすぎず、指揮監督の可否という本質を欠く点で誤りである。
【判例情報】 事件名:阪急トラベルサポート(第2)事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:平成26年1月24日(民集68巻1号5頁)
第13問:フジ興産事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) 運送会社Yは、懲戒規定を含む就業規則を保有していたが、当該就業規則は事業場内に備え付けられておらず、労働者に対する告知等の方法による周知もなされていなかった。Yはその就業規則を根拠として、長期欠勤を繰り返した従業員Xを懲戒解雇した。Xは当該解雇の効力を争い、地位確認を求めて提訴した。本件では、労働者に周知されていない就業規則を根拠として懲戒権を行使することが許されるか否かが主たる争点となった。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「使用者が労働者を懲戒するためには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めた上で、( A )ことが必要であると解するのが相当である。 これは、就業規則が( B )として機能するものであることに照らし、当該規則の内容を労働者が知り得る状態を確保することが、その拘束力の前提条件となるからである。 したがって、本件においては就業規則の周知が行われていなかった以上、当該就業規則は( C )とはいえず、これに基づく懲戒解雇は無効と判断される。」
【選択肢】
①.当該就業規則を労働者に周知させている ②.使用者が採用に際して労働条件を明示するための法定書面として機能する ③.行政機関への届出によって効力が生じる公的文書に当たるもの ④.当該就業規則を労働基準監督署長に届け出ている ⑤.多数の労働者の労働条件を集合的・画一的に規律する法的規範 ⑥.使用者と個々の労働者が交わした特約として効力を持つもの ⑦.当該就業規則について労働者の過半数代表者の同意を得ている ⑧.使用者と労働者が個別に合意した内容を文書化して保存する ⑨.労働契約の内容として当該労働者を法的に拘束するもの ⑩.当該就業規則の内容について労働組合と協議を行っている ⑪.労働者の同意を代替して労働条件の変更を可能にする ⑫.使用者が任意に作成した社内規程にすぎないもの
【解答】 A → ①(当該就業規則を労働者に周知させている) B → ⑤(多数の労働者の労働条件を集合的・画一的に規律する法的規範) C → ⑨(労働契約の内容として当該労働者を法的に拘束するもの)
【解説】
Aの解説:使用者が懲戒権を行使するための要件として、就業規則の「周知」が必要である(労基法106条参照)。④「労働基準監督署長への届出」は就業規則の作成・変更義務(労基法89条)の手続きであり、周知とは別の要件である。届出のみでは労働者への周知にはならない。⑦「過半数代表者の同意」は就業規則の有効要件ではなく(意見聴取義務はあるが同意は不要)、周知の代替とはならない。⑩「労働組合との協議」も就業規則の拘束力の要件とはなり得ない。
Bの解説:就業規則の本質的機能は、多数の労働者の労働条件を「集合的・画一的」に規律する法的規範として機能することにある(秋北バス事件参照)。②「採用時の労働条件明示のための法定書面」は労基法15条に関係する話であり、就業規則の機能の説明としては誤り。⑧「個別合意内容の文書化・保存」は就業規則ではなく労働契約書の機能であり誤り。⑪「同意を代替して変更を可能にする」は就業規則の一側面に触れるものの、本質的機能の説明としては不正確である。
Cの解説:周知されていない就業規則は「労働契約の内容として当該労働者を法的に拘束するもの」とはいえない。本判例の核心は、周知という要件が充足されない限り就業規則の拘束力は生じないという点にある。③「行政機関への届出によって効力が生じる公的文書」は誤りであり、届出と周知は別概念で、届出のみで法的拘束力は生じない。⑥「使用者と個々の労働者が交わした特約」は就業規則を個別契約と混同した記述であり誤り。⑫「任意に作成した社内規程にすぎないもの」は就業規則が一定の法的効力を持ちうる点を否定しており文脈上誤りである。
【判例情報】 事件名:フジ興産事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:平成15年10月10日(民集57巻9号1244頁)
第14問:三菱重工業長崎造船所事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) Xら(労働者)は、造船会社Y(使用者)の工場に勤務しており、就業規則により始業時刻前に作業服への更衣・保護具の装着・資材倉庫への移動等を行い、終業時刻後には洗身・更衣等を行うことが義務付けられていた。Xらは、これらの準備・後処理行為に要した時間についても時間外割増賃金が支払われるべきであるとして、Yに対し未払賃金の支払を求めて提訴した。原審はXらの請求を棄却したが、Xらが上告した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「使用者が作業服の着用を義務付け、始業時刻までの着用完了を命じていた以上、当該更衣行為は( A )ものとして、労働時間に含まれると解するのが相当である。 そもそも労働基準法上の労働時間とは使用者の指揮命令下に置かれている時間をいうのであって、( B )によって当然に決まるものではなく、客観的に判断されるべきものである。 よって、本件においてXらに対する残業代の計算の基礎となる時間には当該準備行為・後処理行為の時間が含まれ、使用者は( C )を負う。」
【選択肢】
①.使用者と労働者との個別合意 ②.当該時間に係る通常賃金の支払義務 ③.使用者の指揮命令下に置かれたもの ④.慣習・慣行及び使用者の黙認 ⑤.安全配慮義務違反に基づく損害賠償義務 ⑥.就業規則や労働契約の定め ⑦.黙示の合意によって生じたもの ⑧.当該時間に係る割増賃金の支払義務 ⑨.使用者が明示的に指示していないもの ⑩.労働者の任意の判断によるもの ⑪.労働協約の明示的な規定 ⑫.休憩時間として処理する義務
【解答】 A → ③ B → ⑥ C → ⑧
【解説】
Aの解説:本設問の理由・根拠部分。使用者が義務付けた更衣等の行為が「労働時間」に含まれる根拠は、それが「使用者の指揮命令下に置かれたもの」(③)であることにある。⑦「黙示の合意によって生じたもの」は合意の有無に着目した表現であり、本判例が採用した「客観的に使用者の指揮命令下にあるか否か」という基準とは異なるため誤り。⑩「労働者の任意の判断によるもの」は使用者の義務付けとは正反対の表現であり誤り。
Bの解説:本設問の趣旨・解釈部分。本判例は、労働時間の判断は「就業規則や労働契約の定め」(⑥)のような当事者間の取り決めによって当然に決まるものではなく、客観的に判断されると解した。①「使用者と労働者との個別合意」や⑪「労働協約の明示的な規定」はいずれも当事者間の合意・規定に着目した表現であり、本判例の客観基準の立場とは異なるため誤り。
Cの解説:本設問の結論部分。当該準備行為・後処理行為が労働時間に含まれる以上、使用者はその時間分について「当該時間に係る割増賃金の支払義務」(⑧)を負う。②「当該時間に係る通常賃金の支払義務」は、時間外労働に対して必要な割増賃金(2割5分以上)が加算されていない点で誤り。⑤「安全配慮義務違反に基づく損害賠償義務」は本件の争点(未払賃金請求権)とは法的性質が異なるため誤り。
【判例情報】 事件名:三菱重工業長崎造船所事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:平成12年3月9日(民集54巻3号801頁)
第15問:東亜ペイント事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) Xはペイント製造販売会社であるY社に就職する際、勤務地を特定されることなく採用され、Y社の就業規則には業務の必要に応じて配置転換・転勤を命じることができる旨が規定されていた。Y社はXに対し、大阪営業所から名古屋営業所への転勤を命じたが、Xは病気の妻の介護を理由にこれを拒否した。Y社はXを業務命令違反として解雇したため、Xは本件解雇は無効であると主張して提訴した。原審がXの請求を棄却したため、Xが上告した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「使用者は、就業規則等に配転・転勤に関する根拠規定があり、労働者が採用の際に勤務地を限定する合意なく全国的な転勤を予定されていた場合には、労働者の( A )を得ることなく転勤を命じることができる。もっとも、転勤命令が( B )に当たると認められる場合には、その命令は無効となる。この判断においては、業務上の必要性の存否・程度、不当な動機・目的の有無、ならびに労働者およびその家族の被る( C )等の諸般の事情を総合的に考慮しなければならない。」
【選択肢】
①.業務命令への服従義務 ②.使用者の裁量権の逸脱 ③.個別的同意 ④.労働組合の承認 ⑤.権利の濫用 ⑥.過重な生活上の支障 ⑦.就業規則変更の手続 ⑧.人事権の濫用 ⑨.通常甘受すべき程度を著しく超える不利益 ⑩.正当な業務上の理由 ⑪.労働基準監督署への届出 ⑫.経済的に著しい不利益
【解答】
A → ③(個別的同意) B → ⑤(権利の濫用) C → ⑨(通常甘受すべき程度を著しく超える不利益)
【解説】
• Aの解説:就業規則等に配転・転勤に関する根拠規定がある場合、使用者は「個別的同意」(③)を得ることなく転勤を命じることができる。勤務地を限定する合意がない限り、包括的な配転命令権は最初の採用契約に含まれているものと解されるためである。①「業務命令への服従義務」は労働者側の義務を指す概念であり、使用者が命令を発するための要件とは異なる点で誤りである。
• Bの解説:配転命令が無効となる根拠は「権利の濫用」(⑤)である。本判決は、包括的な配転命令権を肯定しつつも、その行使が権利の濫用に当たる場合には無効になると判示した。②「使用者の裁量権の逸脱」や⑧「人事権の濫用」は類似する概念だが、本判決の文言としては「権利の濫用」が正確な法律用語として用いられている。
• Cの解説:本判決が権利濫用の判断において考慮すべき要素として挙げたのが「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」(⑨)である。この表現は、日常的に受け入れるべき水準を明らかに超えた場合にのみ問題となることを示す基準語句であり、単なる⑥「過重な生活上の支障」や⑫「経済的に著しい不利益」とは異なる。本件では妻の病気という事情が考慮されたが、それのみでは「通常甘受すべき程度を著しく超える」とは認められず、転勤命令は有効と判断された。
【判例情報】 事件名:東亜ペイント事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:昭和61年7月14日(昭和60年(オ)第1240号)
第16問:日本食塩製造事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) 日本食塩製造株式会社(以下「Y社」という。)に勤務するXは、職場の労働組合において積極的な活動を行っていた。Y社はXに対し、職場規律違反等を理由として普通解雇の通知を行った。しかし実態としては、Y社による解雇はXの組合活動を嫌忌した動機によるものと推認され、使用者が主張する解雇理由には事実的根拠が乏しかった。Xはこの解雇の無効を主張して地位確認を求めて訴訟を提起し、第一審および控訴審においても一貫して請求が認容された。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「使用者の解雇権の行使も、それが( A )かつ社会通念上相当と認められない場合には、権利の濫用として無効になると解するのが相当である。本件解雇は、Xの組合活動を嫌忌した( B )によって行われたものと認められ、使用者が主張する解雇理由はその事実的根拠を欠くものである。したがって、本件解雇は( C )であり、Xは依然として労働者としての地位を有する。」
【選択肢】
①.就業規則の所定の解雇事由に形式上該当する ②.使用者の不当な動機・目的 ③.形式上適正な解雇手続が履践されている ④.解雇権濫用として法律上当然に無効 ⑤.労働組合の事前同意を得ている ⑥.使用者の業績上の必要性に基づく ⑦.客観的に合理的な理由を有する ⑧.合理的な経営判断に基づく正当な目的 ⑨.民法上の公序良俗に違反し取り消し得るもの ⑩.解雇予告手当の支払いによって効力を生じるもの ⑪.使用者の適法な懲戒権の行使 ⑫.労働基準法第20条違反として損害賠償義務を生じるもの
【解答】 A → ⑦(客観的に合理的な理由を有する) B → ②(使用者の不当な動機・目的) C → ④(解雇権濫用として法律上当然に無効)
【解説】
Aの解説:解雇権濫用法理において解雇が有効であるための要件は、「客観的に合理的な理由を有する」こととその「社会通念上の相当性」の両要素である(⑦が正答)。①「就業規則の形式的該当」や③「手続の適正」はそれ自体では実体的合理性の証明にならない。⑤「組合の事前同意」は解雇の有効要件ではなく、ユニオンショップ協定等の文脈で登場する概念であり誤り。
Bの解説:本判例のポイントは解雇の実質的な動機が「組合活動への嫌忌」という不当なものであった点にある。「使用者の不当な動機・目的」(②)がこれを的確に表現する。⑥「業績上の必要性」は整理解雇(経営上の理由による解雇)の文脈であり本件とは異なる。⑪「懲戒権の行使」は懲戒解雇の概念であって普通解雇の動機分析に対応しない。
Cの解説:解雇権の濫用の法的効果は「(絶対的)無効」であり(後に労働基準法第18条の2、さらに労働契約法第16条として成文化)、④「解雇権濫用として法律上当然に無効」が正答。⑨「取り消し得るもの」は意思表示の瑕疵(錯誤・詐欺等)の場合の「取消」であり、「無効」とは異なる法的効果のため誤り。⑩「解雇予告手当の支払いによって効力を生じる」は解雇予告(労基法第20条)の論点と混同しており誤り。
【判例情報】 事件名:日本食塩製造事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:昭和50年4月25日(民集29巻4号456頁)
第17問:日本ヒューレット・パッカード事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) コンピューター関連会社Y社に勤務する従業員Xは、自宅及び社内に盗聴器が仕掛けられているという被害妄想的な観念を抱き、その排除対応を理由として長期にわたる無断欠勤を続けた。Y社はXに対して繰り返し出勤命令を発したが、Xはこれに応じず欠勤を継続した。Y社は就業規則所定の「正当な理由のない無断欠勤」を懲戒事由として、Xを懲戒解雇処分とした。Xはこれを不服として地位確認及び未払賃金等の支払を求めて訴えを提起し、最高裁判所まで争われた。本件では、精神疾患に起因する業務命令違反を理由とする懲戒解雇の有効性が問われた。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働者が使用者の業務命令に従わない場合であっても、その違反行為が( A )によるものであるときは、懲戒事由に該当する非違行為としての性質を有しないというべきである。 懲戒解雇は、( B )に基づき労働者に対して制裁を科す処分であるから、使用者としては行為の真因を十分に調査・確認した上でその適否を判断すべきである。 したがって、本件においてY社がXの欠勤の真因を精神疾患と把握することなく行った懲戒解雇は( C )に当たり、無効と解すべきである。」
【選択肢】
①.経営上の合理的必要性及び解雇回避努力の不存在 ②.精神疾患ないし心因性の障害 ③.使用者の指揮命令に対する意図的・継続的な職務放棄 ④.不当労働行為意思を動機とした差別的取扱い ⑤.就業規則の周知及び内容の合理性 ⑥.安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任 ⑦.労働者の責めに帰すべき事由に基づく制裁という懲戒制度の趣旨 ⑧.労働者の自由意思による真摯な合意の欠如 ⑨.雇用継続への合理的な期待を損なう行為 ⑩.不利益変更を伴う労働条件の一方的な引き下げ ⑪.懲戒解雇の客観的合理的な理由を欠く権利の濫用 ⑫.事業縮小に伴う余剰人員の整理の必要性
【解答】 A → ②(精神疾患ないし心因性の障害) B → ⑦(労働者の責めに帰すべき事由に基づく制裁という懲戒制度の趣旨) C → ⑪(懲戒解雇の客観的合理的な理由を欠く権利の濫用)
【解説】
Aの解説:本件では、Xの無断欠勤は被害妄想的な観念(精神疾患)に起因しており、労働者の意思や意図に基づく行為とはいえない。「精神疾患ないし心因性の障害」が正答である。③「意図的・継続的な職務放棄」は故意の非違行為を表すものであり、精神疾患に起因する本件とは性質が真逆である点で誤り。
Bの解説:懲戒制度は本来、労働者の帰責性ある行為(非違行為)を対象とする制裁制度であることがその趣旨の核心である。「労働者の責めに帰すべき事由に基づく制裁という懲戒制度の趣旨」が正答。①の整理解雇要件は普通解雇の特殊類型に関する法理であり、懲戒解雇の趣旨とは異なる。⑥の安全配慮義務は使用者の義務の問題であり、懲戒制度の根拠とは別の法理である。
Cの解説:最高裁は、欠勤の真因を十分に把握しないまま行った懲戒解雇を「懲戒権の濫用」として無効と判断した。「懲戒解雇の客観的合理的な理由を欠く権利の濫用」が正答。⑨「雇用継続への合理的な期待を損なう行為」は有期雇用の雇い止め法理の表現であり、懲戒解雇の効力判断とは異なる文脈のため誤り。
【判例情報】 事件名:日本ヒューレット・パッカード事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:平成24年4月27日(民集66巻6号2657頁)
第18問:日本ヒューレット・パッカード事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) Y社に雇用されていたXは、職場の同僚から嫌がらせを受けているという強い確信を持つようになり、いわゆる妄想性障害を発症したが自覚がなかった。Xはこの状態のまま出勤できなくなり、約40日間の無断欠勤を繰り返した。Y社はXに対して書面による出勤命令を数度にわたり発したが、精神科等への受診を命じる措置はとらなかった。Y社は、就業規則に定める「正当な理由のない無断欠勤40日以上」の懲戒事由に該当するとして、Xを懲戒解雇に処した。Xは精神疾患が欠勤の原因であるとして解雇の無効を主張し、地位確認等を求めて提訴した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働者が、精神的な疾患に起因して欠勤を余儀なくされていた可能性があり、使用者においてもその可能性を認識し得る状況にあったことからすれば、使用者は( A )義務を負うものと解される。このような( B )の趣旨に照らせば、上記のような措置をとることなく行われた懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当性を有しないとして( C )に当たり、その効力を生じない。」
【選択肢】
①.精神科等への受診を命じるなどの適切な措置を講じる ②.就業規則の懲戒規定を具体的かつ明確に整備する ③.解雇権の濫用 ④.退職勧奨を行う前に業務内容の軽減や配置転換を検討する ⑤.不当労働行為(労働組合法第7条) ⑥.懲戒権の濫用 ⑦.休職制度の利用を一方的に強制する ⑧.解雇権濫用法理(労働契約法第16条) ⑨.当然退職として意思表示の効力が生じない ⑩.整理解雇における4要素の判断枠組み ⑪.安全配慮義務(労働契約法第5条) ⑫.信義誠実の原則(労働契約法第3条第4項)
【解答】 A → ① B → ⑧ C → ③
【解説】
Aの解説:使用者がXの精神疾患の可能性を認識し得た状況であったことが本件の核心であり、この場合には「精神科等への受診を命じるなどの適切な措置を講じる」義務が生じる。②「就業規則の懲戒規定の整備」は別途の義務であり欠勤対応の文脈とは噛み合わない。④「退職勧奨前の配置転換の検討」は能力不足・適格性欠如による解雇の場面に対応する論点であり、精神疾患に起因する欠勤への対応義務とは異なる。
Bの解説:「解雇権濫用法理(労働契約法第16条)」は、解雇が「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」を欠く場合に無効とする法理であり、本件ではその趣旨から使用者に適切な措置を講じる義務が導かれる。⑪「安全配慮義務(労働契約法第5条)」は労働者の生命・身体等の安全に配慮する義務を指すが、既に発症した疾患への対応として解雇の有効性を論じる主要根拠とはなりにくい。⑫「信義誠実の原則」は派生的な原則であり、本件の中核的根拠としては弱い。
Cの解説:上記措置をとらずに行われた解雇は「解雇権の濫用」に当たるというのが本件の結論である。⑥「懲戒権の濫用」は懲戒解雇との関係で一見正しそうだが、最高裁は解雇権の行使全体を「解雇権の濫用」という枠組みで捉えており、懲戒権の独立した濫用論とは区別される。⑤「不当労働行為」は労働組合との関係における概念であり本件には無関係である。
【判例情報】 事件名:日本ヒューレット・パッカード事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:平成24年4月27日(民集66巻6号1980頁)
第19問:医療法人社団康心会事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) Xは医療法人Yに医師として勤務し、月額報酬として相当高額の固定給を受領していた。Yは、この月額報酬には時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金が包括的に含まれると主張したが、労働契約においては割増賃金に相当する額や算定方法が明示されていなかった。XがYに対して未払割増賃金の支払を求めて訴訟を提起したところ、使用者が固定額の報酬をもって割増賃金の支払に充てることができるかどうかが争点となった。裁判所は、労働基準法第37条との関係における定額残業代合意の有効性について判示した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「月々の固定報酬等をもって法定の割増賃金の支払に充てるためには、当該報酬が( A )ことが必要である。この要件は、労働基準法第37条の( B )に照らして導かれるものであり、いかに高額の報酬が支払われていても、当然には割増賃金の支払があったとはみなされない。したがって、本件のように通常の賃金部分と割増賃金部分とが( C )場合には、当該支払をもって労基法第37条所定の割増賃金が支払われたものとすることはできない。」
【選択肢】
①.就業規則の規定に基づいて合意されている ②.割増賃金の確実な支払を確保するという趣旨・目的 ③.基本給の2分の1を超える額として設定されている ④.時間外労働の発生を抑制するという政策的目的 ⑤.合理的な根拠に基づいて一方的に設定できる性質にある ⑥.労働者の書面による明示的な同意が得られている ⑦.時間外労働等に対する対価として明確に特定されている ⑧.賃金の総額を確保するという趣旨・目的 ⑨.判別することができない状態に置かれている ⑩.労使協定によって適用が除外されている ⑪.通常の賃金と同一の性質を有する状態に置かれている ⑫.賃金としての性質を実質的に喪失している状態に置かれている
【解答】 A → ⑦ B → ② C → ⑨
【解説】
Aの解説:労基法37条に基づく割増賃金の支払として認められるためには、当該報酬が「時間外労働等に対する対価として明確に特定されている」ことが必要である(最高裁平成29年7月7日)。①の「就業規則の規定に基づいて合意されている」は一要素となりうるが、それだけでは割増賃金部分の特定として不十分である。⑥の「書面による明示的な同意」も必要条件の一つではあるが、これのみでは特定性の要件を充足しない。
Bの解説:労基法37条の趣旨は「割増賃金の確実な支払を確保する」ことにある。④の「時間外労働の発生を抑制するという政策的目的」も37条の背景にある目的の一側面ではあるが、本判示の文脈では割増賃金の確実な支払確保という主要な趣旨が正答となる。⑧の「賃金の総額を確保するという趣旨・目的」は割増賃金固有の趣旨とは異なり誤り。
Cの解説:定額残業代合意の有効性の要件として、通常賃金部分と割増賃金部分とが「判別することができない状態に置かれている」場合には、当該支払をもって法定割増賃金の支払とすることはできない。⑪の「通常の賃金と同一の性質を有する状態」はC部分に入れると文脈が不自然であり、⑫の「賃金としての性質を実質的に喪失している状態」は判例の射程と異なる法的評価であるため誤り。
【判例情報】 事件名:医療法人社団康心会事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:平成29年7月7日(民集71巻6号457頁)
第20問:医療法人社団康心会事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) 医療法人Yが運営する病院において、副院長の地位にあったXは、使用者から労働基準法第41条第2号所定の管理監督者に該当するとして、時間外・休日・深夜労働に係る割増賃金の支払を受けていなかった。Xは実際に一定の管理権限を行使していたものの、その賃金水準は他の医師と比較して相対的に低く、副院長としての地位に見合ったものとは言い難い状況にあった。Xが未払割増賃金の支払を求めて訴訟を提起したところ、管理監督者該当性が本件の主要な争点となり、最高裁判所まで争われた。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働基準法第41条第2号が管理監督者を労働時間等に関する規定の適用から除外しているのは、管理監督者が( A )に立つ者であって、その職務の性質上、厳格な労働時間管理になじまないためである。 管理監督者に該当するか否かは、役職名のみによって形式的に判断するのではなく、( B )に照らして実質的に判断すべきであり、職務内容・権限及び責任の程度、勤務態様、ならびに基本給・手当等の賃金上の待遇を総合的に考慮しなければならない。 したがって、副院長という名称を付されていても、その賃金等の待遇が管理監督者としての地位に( C )と認められない場合には、同号の管理監督者には当たらないと解するのが相当である。」
【選択肢】
①.使用者の指揮命令に服する立場 ②.当該企業の業種・規模 ③.相応したものである ④.経営者と一体的な立場 ⑤.均等待遇の原則を満たすもの ⑥.労働協約の定め ⑦.職務の実態や諸般の事情 ⑧.社会通念上の合理性を有するもの ⑨.労働者の過半数を代表する立場 ⑩.所定の手当額の算定基準 ⑪.法令上適法なもの ⑫.行政官庁の許可を受けた立場
【解答】 A → ④(経営者と一体的な立場) B → ⑦(職務の実態や諸般の事情) C → ③(相応したものである)
【解説】
• Aの解説:管理監督者を労働時間規制から除外する根拠は「経営者と一体的な立場に立つ者」という点にある。①「使用者の指揮命令に服する立場」は一般労働者の特徴であり逆の概念。④が正答となる。
• Bの解説:管理監督者の該当性判断は形式的な役職名ではなく「職務の実態や諸般の事情」に照らして実質的に行う必要がある。②「業種・規模」や⑥「労働協約の定め」は判断基準としては不十分であり、⑦が正答。
• Cの解説:本件の結論として、賃金等の待遇が管理監督者としての地位に「相応したもの」でなければ管理監督者には該当しないと判示された。③が正答。⑤「均等待遇の原則を満たすもの」は別の法的概念(同一労働同一賃金)との混同を狙った誤答。
【判例情報】 事件名:医療法人社団康心会事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:平成29年7月7日(民集71巻6号457頁)
第21問:日新製鋼事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) Xは日新製鋼株式会社の従業員として勤務し、会社から住宅購入資金として金員の貸付を受けていた。退職の際、会社はXとの間に退職金と貸付金残債務を相殺する旨の合意が成立したとして、退職金から貸付金残額を差し引いた額のみを支払った。XはこのXの扱いが労働基準法第24条第1項の賃金全額払いの原則に違反すると主張して訴訟を提起し、原審はXの請求を認容した。これに対し会社が上告した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働基準法第24条第1項の定める賃金全額払いの原則は、( A )ことを目的として、使用者が労働者の賃金を一方的に控除することを禁止した規定である。もっとも、同条の( B )からすれば、労働者が自由な意思に基づいて行った相殺の合意については、同条の禁止するところではないと解するのが相当である。したがって、本件における相殺合意の効力を肯定するためには、当該合意が( C )ことを要するものと解すべきである。」
【選択肢】
①.使用者と労働者の対等な交渉力を法的に保障する ②.強行規定として当事者の合意によっても排除できないという趣旨 ③.労働者の自由な意思に基づくものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する ④.労使協定または就業規則に相殺を認める旨の定めが設けられている ⑤.労働者に賃金の全額を確実に受領させ、その経済生活を保護する ⑥.相殺禁止の例外規定が労働協約上に存在するという趣旨 ⑦.使用者による一方的な控除のみを禁止するという趣旨 ⑧.使用者が誠実交渉義務を果たした上で合意が形成された ⑨.労働者の賃金債権を差押えから保護し、強制執行を制限する ⑩.労使双方の合意に基づく相殺をも一切禁止するという趣旨 ⑪.当事者の明示的な書面による合意が存在する ⑫.使用者の経営上の必要性と労働者の利益を均衡させる
【解答】 A → ⑤ B → ⑦ C → ③
【解説】
• Aの解説:賃金全額払いの原則(労基法24条1項)の立法目的は「労働者に賃金の全額を確実に受領させ、その経済生活を保護する」点にある。①「対等な交渉力の保障」や⑫「経営上の必要性との均衡」は同条の目的とは異なる。⑨は差押え制限(民事執行法)の趣旨であり、本条とは別の規律に関するものである。
• Bの解説:最高裁は、賃金全額払い原則の趣旨が「使用者による一方的な控除のみを禁止するという趣旨」であることを踏まえ、労働者の自由な意思に基づく合意による相殺は同条に反しないと判断した。②「合意によっても排除できない強行規定」や⑩「合意による相殺も一切禁止」はこの趣旨と正反対であり、⑥「労働協約上の例外規定」は条文上の根拠を誤認するものである。
• Cの解説:本判決の核心は「労働者の自由な意思に基づくものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在すること」を相殺合意の有効要件とした点にある。④「労使協定・就業規則の定め」や⑪「書面による明示的な合意」は必要条件として挙げられておらず、⑧「誠実交渉義務の履行」も本判決の判断基準ではない。
【判例情報】 事件名:日新製鋼事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:平成2年11月26日(昭和62年(オ)第1443号)
第22問:ケンウッド事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) 技術職の正社員として採用されたXは、使用者であるY社から東京の事業所より静岡の事業所への転勤を命じられた。Xには就学前の子がおり、配偶者も同じY社に勤務して転勤中であったため、育児上の支障を理由として転勤命令を拒否した。Y社はXに対して懲戒解雇処分を行ったが、Xはこれを不服として転勤命令の効力を争った。本件では、Xが共働きで育児中であることが転勤命令の権利濫用を根拠づけるか否かが主たる争点となった。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「本件のような雇用形態においては、( A )ことから、使用者は労働者に対して転居を伴う転勤を命じる権限を有する。 このような使用者の配転命令権の( B )に照らせば、その行使が権利の濫用にあたるか否かは、業務上の必要性の有無・程度、通常甘受すべき程度を著しく超える不利益の有無等を総合考慮して決せられるべきである。 したがって、共働きで育児中であるという事情が存在するとしても、本件転勤命令は( C )と解するのが相当である。」
【選択肢】
①.就業場所は労働条件の絶対的明示事項として一方的変更が禁止される ②.権利の濫用として無効とはいえない ③.就業場所を限定する黙示の合意が成立していたものと推認される ④.趣旨が労働力の適正配置と業務の効率化にある ⑤.業務遂行上の目的が存在しない場合に限り有効となる ⑥.育児・介護を理由とした転勤拒否が正当な理由に当たる ⑦.就業場所の変更を含む配転を予定した労働契約が締結されている ⑧.権利の濫用にあたり当然に無効である ⑨.労働者の個別の同意を得ることを条件として転勤が許容される ⑩.不当労働行為として労働委員会に救済を申し立てることができる ⑪.労働者に著しい不利益を与えるため就業規則の変更に準じた手続きが必要となる ⑫.時間外労働と同様に上限規制の対象となる
【解答】 A → ⑦ B → ④ C → ②
【解説】
• Aの解説:労働契約において就業場所の変更を含む配転が予定されている場合、使用者には広く配転命令権が認められる。これが本件で転勤命令が原則有効である根拠となる。①「就業場所は絶対的明示事項として一方的変更が禁止される」は就業場所が特定された場合の限定合意論に近い発想であり、包括的な雇用契約が締結された本件の状況とは異なる。
• Bの解説:最高裁は東亜ペイント事件以来の判断枠組みを踏まえ、配転命令権の趣旨(労働力の適正配置と業務の効率化)から権利濫用の成否を判断すべきとした。③「黙示の合意が成立していたものと推認される」は就業場所限定合意の問題であり、包括的雇用契約が認定された本件とは論点が異なる。
• Cの解説:最高裁は、共働きで育児中という事情があっても、業務上の必要性がある転勤命令は権利の濫用にあたらないと判断した。育児事情は考慮要素のひとつにすぎず、それのみをもって転勤命令を無効とはできない。⑧「権利の濫用にあたり当然に無効である」は本件の結論と正反対であり誤り。
【判例情報】 事件名:ケンウッド事件 裁判所:最高裁判所第三小法廷 判決年月日:平成12年1月28日(民集54巻1号88頁)
第23問:日本ケミカル事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) Y社(製薬会社)は、医薬品情報担当者(MR)として採用したXとの雇用契約において、月給を基本給と「時間外手当」に区分し、時間外手当として固定額を支払うことを定めていた。Xは実際の時間外労働時間に対する法定の割増賃金が十分に支払われていないとして、Y社に対して未払割増賃金の支払を求めて提訴した。Y社は固定の時間外手当が法定の割増賃金に充当されると主張したが、Xはその有効性を争った。最高裁判所は、定額の手当を割増賃金の支払に充てる場合の法的要件を示した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「使用者が労働者に対して定額の手当を支払うことをもって時間外労働等に対する割増賃金の支払に充てるためには、( A )ことが必要であると解するのが相当である。このような解釈は、労働基準法第37条が( B )ことを目的として設けられた規定であることに照らすと、当然の帰結というべきである。したがって、当該定額手当がこれらの要件を充たさない場合、使用者は( C )義務を負う。」
【選択肢】
①.割増賃金相当額として支払う金額を就業規則に具体的に明示する ②.時間外等の割増賃金請求権を実質的に保障する ③.固定残業代の全額を不当利得として返還する ④.通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができる ⑤.賃金の支払方法を統一的かつ明確に規律する ⑥.法定の割増賃金と既払額との差額を別途支払う ⑦.36協定において時間外労働の限度時間を明確に定める ⑧.使用者の賃金決定の自由を合理的な範囲内で尊重する ⑨.割増賃金の対象から固定手当分を除外して計算する ⑩.労働者が個別に書面で真意に基づく同意をしている ⑪.労働者の長時間労働を経済的に抑制する ⑫.当該雇用契約の効力を失わせ再締結を義務付ける
【解答】 A → ④ B → ② C → ⑥
【解説】
• Aの解説:本判決の核心は「明確区分性」の要件であり、通常の労働時間の賃金部分と割増賃金部分とが「判別できる」ことが不可欠とされる。①「就業規則に明示する」や⑦「36協定で定める」は部分的に関連するが、判別可能性(明確区分性)そのものではなく誤り。⑩「労働者の同意」は最高裁が要件として課していないため誤り。
• Bの解説:労働基準法第37条の立法趣旨は、時間外・休日・深夜労働に対する割増賃金請求権を実質的に保障することにある。⑤「支払方法を規律する」は形式面にとどまり誤り。⑧「賃金決定の自由を尊重する」は趣旨と逆方向であり誤り。⑪「長時間労働を経済的に抑制する」は付随的効果にすぎず、本条の主たる立法目的ではないため誤り。
• Cの解説:判別要件(明確区分性)を充たさない場合、定額手当は割増賃金として機能せず、使用者は法定割増賃金と既払額の差額を「別途支払う」義務を負う。③「不当利得として返還する」は手当の支払自体は有効であるため誤り。⑨「固定手当分を除外して計算する」は計算方法に関する誤解であり誤り。⑫「契約の効力を失わせる」は本判決の射程外の結論である。
【判例情報】 事件名:日本ケミカル事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:平成30年7月19日(平成29年(受)第442号)
第24問:新日本製鐵(日鐵溶接工業)事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) XはY社(大手鉄鋼メーカー)の従業員として勤務していた。Y社は、グループ会社である子会社AへXを在籍のまま出向させる旨の命令(本件出向命令)を発した。Y社の就業規則及びY社と過半数組合との間の労働協約には、従業員をグループ会社等へ出向させることができる旨の規定が明記されていた。Xはこの出向命令を拒否し、Y社はXの命令拒否を理由として懲戒解雇を行った。XはY社に対し、本件出向命令が無効であること、および懲戒解雇も無効であることを主張して地位確認等を求めて訴訟を提起した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「使用者が労働者を出向させる場合において、( A )ことからすれば、使用者は個々の出向に際し、労働者の個別的な同意を得ることなく出向命令を発することができる。 この出向命令権の行使が認められる( B )に照らせば、業務上の必要性があり、労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものでない限り、当該出向命令は( C )と解するのが相当である。」
【選択肢】
①.就業規則のみに出向を命じる旨の定めが存在する ②.権利の濫用に当たらず有効なもの ③.過半数労働組合との個別協議が成立している ④.労働者の職場環境を維持するという趣旨及び目的 ⑤.就業規則及び労働協約に出向を命じる旨の定めが存在する ⑥.個々の労働者との個別合意により出向命令の効力が発生する ⑦.公序良俗に違反し無効とみなされるもの ⑧.使用者と労働者が対等な立場で出向条件を合意するという趣旨及び目的 ⑨.使用者の合理的な人事権行使を認める趣旨及び目的 ⑩.権利の濫用に当たり無効となるもの ⑪.解雇に準じる重大な不利益処分に当たるもの ⑫.労使の実質的な協議を経た場合に限り有効なもの
【解答】 A → ⑤ B → ⑨ C → ②
【解説】
Aの解説:出向命令の根拠として最高裁が示したのは、就業規則「及び」労働協約の両方に根拠規定が存在することである。①の「就業規則のみ」は根拠として不十分であり、③は「個別協議の成立」を要件とするが本判決はそのような要件を課していないため誤りである。
Bの解説:出向命令権が認められる理由(趣旨及び目的)は、使用者の合理的な人事権行使を認める点にある(⑨)。④「労働者の職場環境を維持するという趣旨」や⑧「労使の対等な合意」は本判決の趣旨とは異なる。
Cの解説:本件の結論として、業務上の必要性があり著しい不利益を与えない出向命令は「権利の濫用に当たらず有効」(②)と判断された。⑩「権利の濫用に当たり無効」は正反対の結論であり、⑪「解雇に準じる重大な不利益処分」は出向の法的性質として誤りである。
【判例情報】 事件名:新日本製鐵(日鐵溶接工業)事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:平成15年4月18日(民集57巻4号477頁)
第25問:テックジャパン事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) テックジャパン株式会社は、プログラマーとして雇用したXに対し、月額基本給に加えて「研究手当」を支給していた。会社は研究手当について、時間外労働に対する割増賃金を包括的に填補するものであると主張し、別途の割増賃金は支払わなかった。Xは実際の時間外労働に対する割増賃金が支払われていないとして、その支払いを求めて提訴した。本件では、研究手当の支払いが労働基準法第37条の割増賃金の支払いとして有効かどうかが争われた。最高裁判所は、原審の判断を覆し、本件について次のように判示した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働基準法37条の定める割増賃金が支払われたというためには、( A )であることが必要であり、通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができない場合には、割増賃金の支払いがされたということはできない。 このような割増賃金に関する規定の( B )に照らせば、労使間における合意によって賃金総額の中に割増賃金分を組み込む方法をとることが許容されるとしても、その組み込み方が不明確であれば所定の効果は生じないと解すべきである。 したがって、本件における研究手当の支払いは( C )にあたるということができない。」
【選択肢】
①.通常の賃金部分と割増賃金部分とが明確に判別できる支払い ②.割増賃金を労働時間比例で算出した支払い ③.使用者と労働者とが書面で合意した賃金設定 ④.就業規則または労働協約に根拠を持つ支払い ⑤.時間外労働を経済的に抑制し使用者に対価負担を求める趣旨 ⑥.労働者に最低限の生活賃金を保障する趣旨 ⑦.36協定に定める時間外労働の上限を順守させる趣旨 ⑧.労働基準法第37条に定める割増賃金の適法な支払い ⑨.使用者の指揮命令下における労働の対価として支払われるもの ⑩.賃金全額払いの原則に反しない支払い ⑪.労働者の同意に基づく適法な賃金控除 ⑫.労使協定に基づき使用者が設定した特例的な賃金体系
【解答】 A → ① B → ⑤ C → ⑧
【解説】
Aの解説:割増賃金の支払いが有効とされるためには、通常の労働時間の賃金部分と割増賃金部分とが「明確に判別できる」ことが最高裁の示した核心的要件である。②「労働時間比例で算出」は算定方法の問題であり判別可能性とは別の概念、③「書面による合意」も有効要件としては不正確であり誤り。
Bの解説:労働基準法37条の割増賃金制度の趣旨は、使用者に経済的負担をかけることで時間外労働を抑制することにある。⑥「最低限の生活賃金を保障」は最低賃金法の趣旨、⑦「36協定の上限順守」は同法36条の趣旨であり、37条の制度趣旨とは異なる。
Cの解説:通常賃金と割増賃金の判別ができない以上、研究手当の支払いは「労基法37条に定める割増賃金の適法な支払い」にはあたらないというのが本判例の結論である。⑨「指揮命令下の労働の対価」は賃金の定義に関するもの、⑩「賃金全額払いの原則」は24条に関するものであり、いずれも37条の割増賃金の有効性判断とは異なる。
【判例情報】 事件名:テックジャパン事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:平成24年3月8日(平成21年(受)第1061号)
第26問:大日本印刷事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) X(原告)は大手印刷会社Y(被告)の採用試験に合格し、採用内定通知書の交付を受けた。しかしYは、入社予定日の約5か月前に、Xが所定の就職誓約書を提出しなかったこと及び卒業旅行のため会社説明会を欠席したことなどを理由として、採用内定を取り消した。XはYに対して、労働契約上の地位確認と採用内定時以降の賃金相当額の支払いを求めて提訴した。本件の核心的な争点は、採用内定通知の交付によって労働契約が成立するか否か、及び採用内定の取消しが解雇の法理による規制を受けるか否かという点にあった。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「採用内定通知のほか諸般の事情を総合すれば、被告会社の募集は申込みの誘引、原告の応募は労働契約の申込み、被告会社の採用内定通知は右申込みに対する承諾であって、( A )労働契約が成立したと解するのが相当であって、本件採用内定取消しはこの留保解約権の行使にあたるものと解すべきである。 そして、この留保解約権の行使は、採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、( B )に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができる場合にのみ許されるものというべきであり、 本件における採用内定取消しは右の要件を充たさないことが明らかであるから、( C )として無効である。」
【選択肢】
①.解雇予告義務違反 ②.始期付解約権留保付 ③.確定的かつ無条件の ④.解約権留保の趣旨・目的 ⑤.解雇権濫用法理の趣旨・目的 ⑥.権利の濫用 ⑦.就業規則の合理性および周知性 ⑧.強行規定違反 ⑨.始期付確定的な ⑩.公序良俗違反 ⑪.解除条件付きの ⑫.労働者保護の趣旨・目的
【解答】 A → ②(始期付解約権留保付) B → ④(解約権留保の趣旨・目的) C → ⑥(権利の濫用)
【解説】
• Aの解説:採用内定により成立する労働契約の法的性質は「始期付解約権留保付」(②)である。「始期付」とは入社予定日が契約の効力発生日(始期)であることを意味し、「解約権留保付」とは一定の事由が生じた場合に内定取消しができる解約権が留保されていることを意味する。「確定的かつ無条件の」(③)は解約権の留保がない確定的な労働契約を示すため誤り。「解除条件付きの」(⑪)は一定の事実の発生によって当然に契約が失効するという構造であり、本判例の留保解約権の仕組みとは異なるため誤り。「始期付確定的な」(⑨)は留保という要素が欠けており誤り。
• Bの解説:留保解約権の行使が適法となるかどうかは、「解約権留保の趣旨・目的」(④)に照らして判断される。本判例は、留保解約権はあくまでも採用内定当時には知り得なかった事実が判明した場合に行使できるものと解し、解約権留保本来の目的の範囲内でのみ許されるとした。「解雇権濫用法理の趣旨・目的」(⑤)は通常の解雇局面の概念であり、内定取消しは留保解約権という独自の枠組みで判断される点で異なる。「労働者保護の趣旨・目的」(⑫)は抽象的すぎて判断基準として機能しない。「就業規則の合理性および周知性」(⑦)は労働条件変更の有効性判断に関する基準であり文脈が異なる。
• Cの解説:要件を充たさない内定取消しは「権利の濫用」(⑥)として無効となる。本判例は留保解約権の目的を逸脱した行使を権利濫用と評価した。「公序良俗違反」(⑩)も民法上の無効原因の一つだが、本件は権利の濫用という法理によって処理されており正確ではない。「解雇予告義務違反」(①)は労基法20条の手続的問題であり、内定取消しの効力の有効性とは別次元の問題である。「強行規定違反」(⑧)も無効原因となりうるが、本件の判旨で示された法的構成ではない。
【判例情報】 事件名:大日本印刷事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:昭和54年7月20日(民集33巻5号582頁)
第27問:関西医科大学研修医事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) 関西医科大学付属病院で研修に従事していた研修医らは、指導医の指示のもとで外来・入院患者の診療、手術の補助、当直業務等を実際に担当しており、病院側から「研修手当」の名目で金員の支給を受けていた。研修医の一人が業務上疾病を理由に休職後に解雇されたことに対して解雇無効を主張したため、訴訟において当該研修医が労働基準法第9条所定の「労働者」に当たるか否かが主たる争点となった。原審(大阪高裁)は労働者性を否定したが、最高裁判所に上告された。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「本件研修医らは、研修の名のもとに行われる業務であっても、( A )のもとでその医療業務に従事していたものであり、当該業務は病院の通常業務に組み込まれていた。 また、研修医らが支給を受けていた研修手当は、その名称にかかわらず、( B )としての実質を有するものと解すべきである。 以上からすれば、研修医らは、病院との間において( C )に立つ者として、労働基準法第9条にいう労働者に当たるというべきである。」
【選択肢】
①.指導医の任意の助言・指導 ②.在学契約に基づく研修生の立場 ③.病院側の具体的な指揮監督 ④.研修奨励を目的とした恩恵的給付 ⑤.大学による教育的管理・監督 ⑥.委任契約における受任者の地位 ⑦.労働の対償 ⑧.医師としての自律的な判断権限 ⑨.教育訓練に要する費用の補助 ⑩.使用従属関係 ⑪.業務委託契約上の受託者としての地位 ⑫.研修参加の奨励を目的とした特別手当
【解答】 A → ③(病院側の具体的な指揮監督) B → ⑦(労働の対償) C → ⑩(使用従属関係)
【解説】
Aの解説:労働者性の判断において「指揮監督下の労働」であることが核心的要件となる。本件では研修医が指導医の指示・指導のもとで実際の医療業務に従事しており、これが「使用者の指揮監督下」に当たると判断された。①「任意の助言・指導」は自発的な研修活動を連想させ、指揮監督性を否定する概念であり誤り。⑤「大学による教育的管理・監督」は研究機関としての指導であり、労働法上の指揮監督とは質的に異なるため誤り。
Bの解説:労基法上の賃金(第11条)は「労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」と定義される。研修手当という名称であっても、労務提供の対価として支払われる実質があれば賃金に当たる。④「恩恵的給付」や⑨「費用補助」は対価性(報酬の対償性)を否定する概念であり誤り。⑫「奨励を目的とした特別手当」も一方的な任意給付を示唆するため誤り。
Cの解説:労働者性の総括的結論として、使用者と労働者の間に「使用従属関係」が認められることが必要とされる(労基法第9条の解釈)。本件では、研修医が病院側の指揮命令に従いつつ報酬を受け取っていた実態から使用従属関係が認定された。⑥「委任契約における受任者」や⑪「業務委託契約上の受託者」は独立した事業者としての地位を示唆するため誤り。②「在学契約に基づく研修生」は教育的関係を強調し、労働関係の存在を否定する概念であり誤り。
【判例情報】 事件名:関西医科大学研修医事件 裁判所:最高裁判所第三小法廷 判決年月日:平成17年6月3日(民集59巻5号938頁)
第28問:小里機材事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) Xは、機械器具の製造・販売を業とするY社(小里機材株式会社)の従業員として、月額賃金の中に一定額の時間外手当が包含されているとの前提のもとで就労していた。しかし、Xは実際の時間外労働に基づき算出される割増賃金の額が固定支給額を上回るとして、その差額の支払をYに求め、提訴した。Y社は、月額賃金に時間外手当分を含めた定額支払いにより割増賃金の支払義務を果たしており、追加支払いの義務はないと主張した。本件の争点は、いわゆる「定額残業代」の支払方式が労働基準法37条に基づく時間外割増賃金の支払として有効に機能し得るか否か、また機能し得る場合の要件及び超過分の取扱いであった。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「月額賃金の中に時間外手当を含める形で定額支払いすることも、( A )がある場合には、その限度において時間外勤務手当の支払があったものと解することができる。 このような解釈は、労働基準法37条が( B )という趣旨・目的に照らして相当であり、定額支給方式であっても実質的な保護が確保されている限り、同条に反するとは解されない。 したがって、実際の時間外労働に対する割増賃金の額が定額を超過する場合には、( C )ものといわなければならない。」
【選択肢】
①.就業規則への時間外手当に関する明確な定め ②.時間外労働を制限することで労働者の健康を守る ③.使用者は差額を翌月以降の賃金との合算で精算する義務を負う ④.当事者間の明確な合意 ⑤.使用者の賃金支払いに関する裁量の範囲を広く認める ⑥.使用者は超過分の割増賃金を別途支払うべき義務を負う ⑦.労働基準監督署長による定額残業代制度の認定 ⑧.時間外労働の対価を確保することで労働者を保護する ⑨.当該定額残業代の合意は締結時に遡って効力を失う ⑩.三六協定の有効な締結のみ ⑪.使用者は労働者に対し差額相当額の損害賠償を行わなければならない ⑫.割増賃金の算定において特定手当の除外を許容する
【解答】 A → ④(当事者間の明確な合意) B → ⑧(時間外労働の対価を確保することで労働者を保護する) C → ⑥(使用者は超過分の割増賃金を別途支払うべき義務を負う)
【解説】
• Aの解説:「当事者間の明確な合意」(④)が正答。定額残業代が有効な割増賃金の支払と認められるためには、使用者と労働者の間に月額賃金中に時間外手当を含める旨の明確な合意が必要である。①「就業規則への定め」だけでは必ずしも合意が成立したとはいえず、⑦「監督署長の認定」という制度は存在せず、⑩「三六協定の締結のみ」は残業義務の根拠には必要だが、定額残業代の有効性を保証するものではない。
• Bの解説:「時間外労働の対価を確保することで労働者を保護する」(⑧)が正答。労働基準法37条は、使用者に時間外・深夜・休日労働に対する割増賃金の支払を義務付けることで、特別な労働に対する適切な対価を確保することを目的としている。②「労働者の健康保護」は同法36条(三六協定)の趣旨に近く、⑤「裁量の容認」や⑫「手当除外の許容」は37条の目的とは相容れない。
• Cの解説:「使用者は超過分の割増賃金を別途支払うべき義務を負う」(⑥)が正答。定額残業代が一定の範囲で有効とされても、実際の時間外労働に基づく法定割増賃金額が当該定額を超過した場合には、使用者はその差額を追加で支払わなければならない。③「翌月との合算精算」は支払時期の観点から不可であり、⑨「遡及無効」は法的効果として過大であり、⑪「損害賠償」は割増賃金請求権とは法的根拠が異なる。
【判例情報】 事件名:小里機材事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:昭和63年7月14日(昭和63年)
第29問:弘前電報電話局事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) Xは、日本電信電話公社弘前電報電話局に勤務する労働者であり、原子力発電所建設に反対する集会への参加を目的として年次有給休暇の取得を請求した。使用者は、就業規則に「年次有給休暇を組合活動の目的のために使用することはできない」旨の規定があることを理由に、当該請求を認めなかった。Xはその後も年次有給休暇を取得して集会に参加したため、使用者から懲戒処分を受けた。この懲戒処分の効力が争われ、最高裁判所は以下のように判示した。
「年次有給休暇の権利は、( A )によって法律上当然に発生するものであり、使用者の承認の有無を要件とするものではないと解すべきである。このような年次有給休暇制度の( B )に照らせば、その利用目的は労働基準法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、( C )に委ねられているものというべきである。したがって、本件就業規則の規定は効力を有さず、これに基づいてなされた懲戒処分は無効と解すべきである。」
【選択肢】
①.使用者の合理的な経営判断 ②.就業規則に基づく具体的な申請手続 ③.趣旨および目的 ④.施設管理権および業務命令権の範囲内での裁量 ⑤.労働基準法に定める所定の要件の充足 ⑥.構造的特質および運用実態 ⑦.使用者による休暇付与の承認 ⑧.専ら労働者自身の自由な判断 ⑨.休暇利用の正当な目的の疎明 ⑩.立法上の経緯と解釈原則 ⑪.雇用契約上の明示的な合意 ⑫.労使の自治的な協議
【解答】 A → ⑤(労働基準法に定める所定の要件の充足) B → ③(趣旨および目的) C → ⑧(専ら労働者自身の自由な判断)
【解説】
Aの解説:年次有給休暇の権利は、労働基準法第39条に定める要件(継続勤務期間・出勤率)を充足することにより「法律上当然に発生する」のであって、使用者の承認は不要である(本判決の核心的命題)。②「申請手続」や⑦「使用者の承認」は、使用者側の関与が権利発生の要件となるかのような誤解を招くため誤り。
Bの解説:判旨は制度の「趣旨および目的」(労働者の心身の休養・余暇活動の保障)に照らして、利用目的の自由を導いている。⑥「構造的特質および運用実態」や⑩「立法上の経緯と解釈原則」は論証の出発点として使用される表現として違和感があり、本件判旨の表現としては誤り。
Cの解説:本件最高裁判決は、年次有給休暇の利用は「専ら労働者自身の自由な判断」に委ねられるとしており、使用者はその目的に介入できないと判示した。①「使用者の合理的な経営判断」は対義語的な誤答であり、④「施設管理権…の裁量」は使用者側の権限に委ねるかのような誤答である。
【判例情報】 事件名:弘前電報電話局事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:昭和62年7月17日(昭和60年(オ)第1247号)
第30問:高知放送事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) Xは、地方のラジオ放送会社Yに雇用されるアナウンサーであった。Xは約1年半の間に2回にわたり、深夜の担当放送時刻に寝過ごして放送事故を引き起こした。Y社はこれを理由としてXを普通解雇したが、Xは解雇は無効であるとして地位確認等を求めて訴訟を提起した。第1審・第2審ともXの主張を認めて解雇を無効とし、Y社が上告した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「使用者の解雇権の行使も、それが客観的に( A )のであって、社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として無効になると解するのが相当である。 本件において労働者の規律違反が認められる場合であっても、( B )に照らせば、使用者が解雇という最も重大な制裁措置を選択することが当然に正当化されるわけではない。 したがって、Y社によるXの解雇は( C )に当たり、その効力を生じないものと判断される。」
【選択肢】
①.信義誠実の原則に反するもの ②.解雇権の濫用 ③.合理的な理由を欠くもの ④.整理解雇の要件を満たさないもの ⑤.行為の動機・態様・反省の程度および使用者側の対応の相当性 ⑥.労働協約又は就業規則の手続規定に違反するもの ⑦.懲戒解雇事由に該当するもの ⑧.債務不履行による損害賠償の問題 ⑨.労働条件の一方的な不利益変更 ⑩.被用者の故意または重大な過失に基づくもの ⑪.使用者の経営上の必要性を欠くもの ⑫.誠実交渉義務に反するもの
【解答】 A → ③(合理的な理由を欠くもの) B → ⑤(行為の動機・態様・反省の程度および使用者側の対応の相当性) C → ②(解雇権の濫用)
【解説】
Aの解説:最高裁は解雇が無効となる根拠として「客観的に合理的な理由を欠く」ことを明示した。①「信義誠実の原則に反するもの」は労働契約全般に広く適用される概念であり、解雇権濫用法理の具体的要件としては不適切。⑥「労働協約又は就業規則の手続規定に違反するもの」は手続違反の無効事由であり本件の核心ではない。
Bの解説:趣旨・解釈部分として、最高裁は行為の動機・態様、労働者の反省の度合い、使用者がそれまで十分な指導・警告をしていたかどうかという対応の相当性を総合考慮すべきと示した。⑦「懲戒解雇事由に該当するもの」は普通解雇の相当性とは別の法的判断であり誤り。④「整理解雇の要件を満たさないもの」は人員削減を目的とする解雇の要件であり本件とは異なる。
Cの解説:本件の法的結論は「解雇権の濫用」として解雇が無効とされた点にある。本判決は労働契約法16条に明文化される前の判例法理として確立したものであり、普通解雇の効力を判断する際の中心概念である。⑨「労働条件の一方的な不利益変更」は就業規則変更法理に関するものであり誤り。
【判例情報】 事件名:高知放送事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:昭和52年1月31日(昭和50年(オ)第937号)
第31問:三菱重工業長崎造船所(一次訴訟)事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) 造船所を経営するY社に勤務する労働者Xらは、就業規則等の規定に基づき、始業時刻前に更衣室において作業服・安全保護具等を着用し、終業時刻後にはこれらを脱着して清掃する行為(以下「更衣等行為」という)を行っていた。これらの行為は、危険かつ汚染を伴う造船作業に従事するために義務付けられたものであった。Y社は所定の始業時刻から終業時刻までの時間のみを労働時間として扱い、更衣等行為に要する時間について割増賃金を支払っていなかった。Xらは、更衣等行為に要する時間も労働基準法上の労働時間に当たるとして割増賃金の支払いを求め提訴した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働基準法第32条にいう労働時間とは、労働者が( A )時間をいう。この判断は、労働者の行為が使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされていたか否か等の観点から個別具体的になされなければならない。 就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを( B )場合、特段の事情がない限り、当該行為に要した時間は使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できる。 したがって、本件更衣等行為に要する時間は労働時間に当たるものとして、Y社はその時間をも算入した上で( C )の支払義務を負う。」
【選択肢】
①.事業場の施設内に現実に在籍する ②.自己の意思に基づき自発的に業務に従事する ③.時間外・深夜労働に対する割増賃金 ④.安全衛生上の措置に要した費用 ⑤.使用者から明確な許可を得た上で就労する ⑥.使用者の指揮命令下に置かれている ⑦.休日労働に対する代替休暇の付与 ⑧.通常の所定労働時間内の賃金のみ ⑨.所定労働時間内に行われるべき業務として位置付けられた ⑩.使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされた ⑪.労働者の同意を得た上で義務付けられた ⑫.労働契約において明示的に合意された
【解答】 A → ⑥(使用者の指揮命令下に置かれている) B → ⑩(使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされた) C → ③(時間外・深夜労働に対する割増賃金)
【解説】
• Aの解説:最高裁は、労働基準法32条の「労働時間」の定義を「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」と判示した。⑥が正答となる。誤答の①「事業場の施設内に現実に在籍する」は在籍の事実を問うのみで指揮命令の有無を問わないため誤り。②「自己の意思に基づき自発的に業務に従事する」は使用者の指揮なく自発的に行動する場合を指しており、「使用者の指揮命令下」という概念と正反対である。⑤「使用者から明確な許可を得た上で就労する」は許可の存在を要件とするもので、黙示の指揮命令も含む「指揮命令下」の概念より限定的であり誤りである。
• Bの解説:更衣等行為が「使用者の指揮命令下」にあると評価されるためには、当該行為を「使用者から義務付けられ、又はこれを余儀なくされた」ことが要件となる。⑩が正答となる。最高裁はこの表現を用いることで、労働者が任意に行う行為との区別を明確にした。⑪「労働者の同意を得た上で義務付けられた」は、労働者の同意を追加要件としているため、使用者の義務付けで足りる旨の判示に反し誤りである。⑫「労働契約において明示的に合意された」は合意の形式的存在を要件とするものであり、黙示の義務付けや余儀なくされた状況も含む本判決の基準と合致しない。⑨「所定労働時間内に行われるべき業務として位置付けられた」は時間的分類の問題であって、指揮命令の存否とは別次元の判断基準であり誤りである。
• Cの解説:更衣等行為に要する時間が実労働時間に算入された結果、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える部分については、労働基準法37条に基づき割増賃金の支払義務が生じる。③「時間外・深夜労働に対する割増賃金」が正答となる。⑧「通常の所定労働時間内の賃金のみ」は割増賃金の支払義務の存在を否定するものであり誤り。⑦「休日労働に対する代替休暇の付与」は月60時間超の時間外労働に対する特例措置(労働基準法37条3項)であって、本件の問題状況とは異なる。④「安全衛生上の措置に要した費用」は保護具等の費用負担の問題であり、賃金請求権とは法的性質が根本的に異なる。
【判例情報】 事件名:三菱重工業長崎造船所(一次訴訟)事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:平成12年3月9日(民集第54巻第3号801頁)
第32問:林野庁白石営林署事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) 林野庁白石営林署に勤務する現場労働者Xは、労働基準法第39条に基づき、特定の日の年次有給休暇の取得を使用者に申し出た。使用者は同日が業務上不可欠な日であるとして時季変更権を行使したが、Xはこれに従わず当該日に就業しなかった。使用者はXを欠勤扱いとして懲戒処分に付したため、Xはその処分の無効を求めて争った。本件では、年次有給休暇の権利の法的性質および時季変更権の行使要件が主たる争点とされた。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「年次有給休暇の権利は、労働者が( A )ことによって法律上当然に発生するものであって、使用者の承認によって初めて生ずるものではない。年次有給休暇制度は、( B )ために設けられた制度であり、このような制度の趣旨に照らせば、使用者が時季変更権を行使できるのは( C )場合に限られると解するのが相当であって、その判断に際しては代替要員確保の可否等を具体的に検討しなければならない。」
【選択肢】
①.使用者による事前の承認を得て所定の様式で申し出た ②.当該年度において全労働日の皆勤を達成していた ③.労働者代表との書面協定によって取得日が事前に指定された ④.法定の継続勤務期間を経過し、かつ所定の出勤率を充足した ⑤.賃金の支払いを通じて経済的自立を確保し、生活の安定を促進する ⑥.労働者の自主的な能力開発と職業生活の充実を支援する ⑦.使用者と労働者の個別合意によってのみ具体的な休暇日が確定する ⑧.労働者の心身の疲労を回復させ、ゆとりある生活を確保させる ⑨.時季の指定に際して使用者が合理的と認める理由を付した ⑩.当該労働者の不在が事業に重大な支障を及ぼすことが客観的に明白な ⑪.事業の正常な運営を妨げる ⑫.代替要員の確保が客観的かつ現実的に不可能と認められる
【解答】 A → ④(法定の継続勤務期間を経過し、かつ所定の出勤率を充足した) B → ⑧(労働者の心身の疲労を回復させ、ゆとりある生活を確保させる) C → ⑪(事業の正常な運営を妨げる)
【解説】
Aの解説:年次有給休暇の権利は、①6ヶ月以上の継続勤務、②全労働日の8割以上の出勤という法定要件の充足によって当然発生する(労基法39条)。「使用者の承認」は権利発生の要件ではなく、④が正答。②は「皆勤」を要件とする点が誤り(8割以上出勤が要件)。①は「使用者の承認」を前提とする点が誤り。
Bの解説:最高裁は年次有給休暇制度の趣旨を「労働者の心身の疲労を回復させ、ゆとりある生活を確保させること」にあると解し、これが時季変更権の解釈に影響を与えるとした。⑧が正答。⑤「生活の安定を促進」、⑥「能力開発の支援」は年次有給休暇制度の直接の目的ではない。
Cの解説:時季変更権の行使要件は、当該時季の休暇取得が「事業の正常な運営を妨げる場合」であること(労基法39条5項)。⑪が正答。⑩「重大な支障」は条文上の要件よりも限定的であり、⑫「代替要員確保が不可能」は考慮要素の一つに過ぎず、それのみをもって時季変更権の充足要件とはいえない。
【判例情報】 事件名:林野庁白石営林署事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:昭和54年10月30日
第33問:沼津交通事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) タクシー会社に勤務する乗務員Xは、残存する年次有給休暇17日分のすべてを連続して取得する旨の時季指定を行った。これに対し使用者は、当該休暇取得期間中に他の乗務員による補完が困難であるとして、労働基準法第39条第4項(当時)に基づく時季変更権を行使し、Xの申請を拒否した。Xは当該時季変更権の行使は権利濫用にあたり無効であると主張し、未消化の年次有給休暇に相当する賃金の支払いを求めて訴訟を提起した。第一審・第二審ともに使用者の時季変更権の行使を適法と判断したが、Xが上告した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「年次有給休暇の時季指定に対し使用者が時季変更権を行使しうるのは、当該休暇の取得によって( A )と客観的に認められる場合に限られるのであって、具体的な事情を検討せずに漫然と時季変更権を行使することは許されない。特に労働者が長期かつ連続の年次有給休暇を取得しようとする場合、使用者は( B )に照らして、代替勤務者の確保等の必要な措置を事前に講じるべく配慮する義務を負うものと解するのが相当である。したがって、使用者が時季変更権を適法に行使するためには、( C )ことが具体的かつ客観的に認められることを要し、単に休暇期間が長期にわたることや業務の繁忙を理由とするのみでは足りない。」
【選択肢】
①.業務の円滑な遂行に若干の支障が生じる ②.年次有給休暇制度の趣旨 ③.使用者の経営上の裁量権が侵害される ④.代替勤務者の確保が不可能または著しく困難である ⑤.休暇取得が他の労働者の業務量を著しく増加させる ⑥.事業の正常な運営が妨げられる ⑦.使用者と労働者との合意による決定がなされている ⑧.労働者の勤務態度に著しい問題がある ⑨.就業規則の規定に基づく制限が定められている ⑩.休暇取得によって取引先との契約履行が困難となる ⑪.労働組合との協議を経ていること ⑫.労働基準監督署長の許可を受けていること
【解答】 A → ⑥ B → ② C → ④
【解説】
Aの解説:時季変更権の行使が許されるのは「事業の正常な運営が妨げられる場合」(労働基準法第39条第5項)に限られる。①「業務の円滑な遂行に若干の支障が生じる」は閾値として低すぎる。③「使用者の経営上の裁量権が侵害される」は時季変更権の行使要件とは無関係の概念である。
Bの解説:長期連続休暇の場合に使用者が代替措置を講じる義務を負うことは、「年次有給休暇制度の趣旨」すなわち労働者の心身の疲労回復と生活の充実を目的とした制度趣旨から導かれる。労働組合との協議(⑪)や就業規則(⑨)は時季変更権の要件判断とは関連しない。
Cの解説:時季変更権の適法な行使には「代替勤務者の確保が不可能または著しく困難であること」が具体的かつ客観的に認められる必要がある。最高裁は、使用者が代替措置の検討を怠ったまま行使した時季変更権を権利濫用として無効と判断した。単なる業務繁忙や長期休暇という事実のみでは足りないとした点が本判決の重要な射程である。
【判例情報】 事件名:沼津交通事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:平成5年6月25日
第34問:横浜ゴム事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) タイヤ製造業を営む使用者Yの工場において、所属する労働組合が生産調整への反対を訴える闘争の一環として、全組合員に対し一斉に年次有給休暇を申請するよう統一指令を発した。組合員Xらはこれに従い、年次有給休暇の時季指定を行ったが、使用者Yは時季変更権(労働基準法第39条第5項)を行使して指定された日の就労を求めた。Xらはこれを無視して欠勤したため、Yが当該欠勤分の賃金を控除した。Xらはこれを違法として賃金の支払いを求め訴訟を提起した。一・二審でXらの請求が棄却されたため、Xらが上告した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「年次有給休暇の権利は、( A )によって法律上当然に発生する権利であり、その行使に使用者の承認は必要としない。しかし、年次有給休暇の一斉取得が( B )を主目的としてなされる場合には、それは正当な組合活動として保護される行為ではなく、本来の年次有給休暇の趣旨・目的を逸脱するものとみるべきである。かかる一斉休暇については、使用者は( C )を理由として、労働基準法の定める時季変更権を行使することができる。」
【選択肢】
①.使用者による個別の付与承認と対象日の指定 ②.使用者に対して経済的打撃を与えること ③.法所定の要件を充足した年次有給休暇申請への明示的同意 ④.組合の統一行動による集団的処遇改善の要求 ⑤.一定期間の継続勤務及び所定労働日の8割以上の出勤 ⑥.賃金の支払いを受けつつ自由に利用できる休日の取得 ⑦.一斉休暇の実施による事業の正常な運営の妨害 ⑧.当該組合の争議行為が適法に届け出されていないこと ⑨.労使協定に基づく計画的年休付与の実施 ⑩.使用者の業務命令に従わないことの違法 ⑪.年次有給休暇の時季指定が就業規則の定める手続きに違反すること ⑫.個々の労働者が自由に取得できる日数の制限
【解答】 A → ⑤ B → ② C → ⑦
【解説】
Aの解説:年次有給休暇の権利は、労働基準法第39条の定める要件(①6か月以上の継続勤務と②8割以上の出勤率)を充足すれば当然に発生するものであり(⑤が正答)、使用者の個別的な承認や指定は不要である。①「使用者による個別の付与承認と対象日の指定」は誤りであり、年休権は法律上当然に発生する点が本判例の前提となっている。③「明示的同意」も、使用者の関与を要件とするかのような表現であり不正確。⑨「計画的年休付与」は労使協定に基づく別制度であり、権利発生要件とは異なる。
Bの解説:一斉休暇闘争のように、組合が統一的に年休取得を指令する目的が「使用者への経済的打撃」(②)である場合、それは正当な組合活動としての争議行為ではなく、年次有給休暇制度の趣旨・目的を逸脱した行為とされる。⑥「賃金の支払いを受けつつ自由に利用できる休日の取得」は年次有給休暇本来の目的であり、誤答として一見正しそうに見えるが、一斉休暇闘争の「主目的」とはいえない。④「集団的処遇改善の要求」は組合活動の正当な目的と思えるが、本件では使用者への打撃付与が主目的とされた点が重要な区別点である。
Cの解説:このような一斉休暇闘争に対しては、使用者は「事業の正常な運営の妨害」(⑦)を理由として時季変更権(労基法39条5項)を行使できるとされた。⑧「争議行為の届出がないこと」は、組合活動の手続的問題に関する誤答であり、時季変更権の根拠とはならない。⑪「就業規則の定める手続きへの違反」も同様で、時季変更権の法定要件(事業の正常な運営を妨げる場合)とは異なる観点である。⑩「使用者の業務命令に従わないことの違法」は結論的な記述であって、時季変更権行使の「理由」としては法律上の根拠を示していない。
【判例情報】 事件名:横浜ゴム事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:昭和48年11月14日(昭和47年(オ)第558号)
第35問:大成観光事件
【科目】労働基準法
【問題】
(事案の概要) ホテル業を営む使用者Y(大成観光株式会社)の従業員のうち、フロント部門の組合員が所属する労働組合が一部ストライキを実施し、フロント業務が停止した。ストライキに参加しなかった非組合員の調理師らXは、フロント業務の停止により就業が困難であるとして、Yから就労を命じられず、ストライキ期間中に就業することができなかった。Xらは、就業できなかった期間についてYに対し、労働基準法第26条に基づく休業手当の支払いを求めて提訴した。本件の核心は、一部ストライキを原因とする非組合員の就業不能が「使用者の責に帰すべき事由による休業」に該当するかどうかである。 最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働基準法第26条は、( A )による休業については使用者に平均賃金の100分の60以上の手当の支払いを義務づけており、労働者の経済的生活の安定を図ることを目的とする。 このような同条の( B )に照らせば、「使用者の責に帰すべき事由」とは、民法第536条第2項にいう「債権者の責に帰すべき事由」よりも広い概念であって、使用者側に起因する経営・管理上の障害を含むが、企業の外部から不可避的に生じた不可抗力や、労使間の争議行為によって生じた状況は含まれないと解するのが相当である。 したがって、本件における一部ストライキを原因とする非組合員の就業不能は、「使用者の責に帰すべき事由による休業」( C )と判断される。」
【選択肢】
①.使用者の一方的な経営判断により生じた事情 ②.天災事変その他の企業外部に起因する不可抗力的な事情 ③.使用者の故意・過失の有無を問わず企業経営上の障害に由来する事情 ④.労使の合意によって締結された労働協約上の取決めに基づく事情 ⑤.には当たり、使用者は平均賃金の100分の60以上の休業手当を支払う義務を負う ⑥.賃金支払いの確保および労働条件の最低基準を保障するという立法趣旨 ⑦.経営リスクを使用者が引き受けることで労働者の生活を保障するという立法趣旨 ⑧.争議行為による業務停止の場合に労働契約を一時的に停止させるという立法趣旨 ⑨.として取り扱われ、労働組合員と同等の保護が非組合員にも及ぶと解される ⑩.の判断においては、使用者の主観的意図(休業させる意思)が決め手となる ⑪.には当たらないことから、使用者は休業手当の支払義務を負わない ⑫.として評価され、争議期間中は賃金請求権が発生しないと解される
【解答】 A → ③ B → ⑦ C → ⑪
【解説】
• Aの解説:労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」は、使用者の故意・過失のみに限定されず、企業経営に起因するリスク全般を含む概念である(民法536条2項より広い)。正答③はこの点を正確に表現している。①「一方的な経営判断」は意思的行為に限定しすぎており、②「不可抗力」は正反対の概念であり誤答。
• Bの解説:労基法26条の立法趣旨は、使用者の支配下にある経営上のリスクを使用者が引き受けることで労働者の生活を保障することにある(⑦が正答)。⑥「賃金支払いの確保・最低基準」は同条の趣旨を外れており、⑧「争議行為中の労働契約停止」は同条とは無関係の概念である。
• Cの解説:一部ストライキは使用者の責に帰すべき事由ではなく、労働組合による争議行為に起因するものである。最高裁はこれを「使用者の責に帰すべき事由」に含まれないと判断した(⑪が正答)。⑤「休業手当支払義務を負う」は逆の結論であり誤答。⑨「非組合員にも保護が及ぶ」は争議行為の法理を誤解している。
【判例情報】 事件名:大成観光事件 裁判所:最高裁判所第三小法廷 判決年月日:昭和57年4月13日
労働に関する一般常識
第36問:国・中労委(INAXメンテナンス)事件
【科目】労働に関する一般常識
【問題】
(事案の概要) 空調機器の修理・メンテナンス業務を営むY社は、修理技術者らと業務委託契約を締結しており、これらの技術者らは契約形式上は個人事業主として位置づけられていた。しかし実態としては、業務内容・修理料金・作業手順をY社が一方的かつ定型的に定め、技術者らはY社の指示に従って個々の修理依頼に応じる形で継続的に就労していた。技術者らが結成した労働組合がY社に対して団体交渉を申し入れたところ、Y社は技術者らが労働組合法第3条所定の「労働者」に該当しないとして団体交渉を拒否した。組合はこの拒否を不当労働行為と主張して救済申立てを行い、労働組合法上の労働者性の判断基準が主たる争点となった。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働組合法第3条が定める労働者の概念は労働基準法第9条のそれとは必ずしも同一ではなく、業務委託契約等の形式により就労する者であっても、実態として( A )と認められる場合には、同条所定の労働者に該当し得るものと解すべきである。このような解釈は、労働組合法が( B )に基づくものであって、契約形式の如何にかかわらず就労の実態を重視して労働者性を判断することを要請するものである。したがって、業務内容・報酬額が実質的に一方的かつ定型的に決定され、Y社の事業遂行に不可欠な労働力として継続的に提供されていた本件技術者らは、( C )。」
【選択肢】
①.使用者から独立した自律的な事業者性を有している ②.労働者の団結権を実質的に保障するという立法趣旨 ③.業務委託契約の相手方として労組法の適用対象外となると判断される ④.諾否の自由が完全に排除されている ⑤.使用者による不当な労働条件を規制するという立法趣旨 ⑥.労組法第3条所定の労働者に該当すると判断される ⑦.業務委託契約の形式を優先してその実態を判断するという立法趣旨 ⑧.事業組織に組み入れられている ⑨.使用者との間に従属的な指揮命令関係にある ⑩.労基法第9条所定の労働者として保護されると判断される ⑪.使用者による団体交渉拒否が正当と認められると判断される ⑫.労働者の経済的自立を促進するという立法趣旨
【解答】 A → ⑧ B → ② C → ⑥
【解説】
Aの解説:労組法上の労働者性を基礎づける中核的事実として、修理技術者らがY社の事業組織に組み入れられている(⑧)ことが挙げられる。最高裁はこの「事業組織への組み入れ」を、契約内容の一方的・定型的決定・報酬の労務対価性・顕著な事業者性の欠如といった諸要素とともに総合的に考慮して労働者性を肯定した。④「諾否の自由が完全に排除されている」は判断要素の一つではあるが、「完全に排除」という絶対的な表現は最高裁の判断基準よりも過剰であり、かつ本件の認定における主要事実ではないため誤りである。⑨「使用者との間に従属的な指揮命令関係にある」は労基法第9条上の労働者性(労基法的使用従属性)の判断基準に近い記述であり、より広い概念として設計された労組法第3条の労働者性の判断枠組みとは微妙にずれるため正確でない(最も誤答しやすい選択肢)。①「使用者から独立した自律的な事業者性を有している」はY社の主張に沿う方向の記述であって、本判決が否定した事実認定である。
Bの解説:契約形式よりも就労の実態を重視して労組法上の労働者性を広く解釈する根拠となる立法趣旨は、労働者の団結権を実質的に保障するという立法趣旨(②)である。労組法は、経済的に弱い立場に置かれた就労者が使用者との対等な交渉力を獲得できるよう団結権・団体交渉権を保障することを目的とするものであり、その実効性を確保するために労働者概念を広く解釈する必要がある。⑦「業務委託契約の形式を優先してその実態を判断するという立法趣旨」は本判決の解釈方向と正反対であり明確に誤りである。⑤「使用者による不当な労働条件を規制するという立法趣旨」は労基法や最低賃金法に近い趣旨の記述であり、集団的労使関係法としての労組法の固有の立法趣旨を正確に表していない。⑫「労働者の経済的自立を促進するという立法趣旨」も労組法の趣旨としては法的根拠を欠く誤答である。
Cの解説:Y社の事業遂行に不可欠な労働力として組み込まれ契約条件も実質的に一方的に決定されていた本件技術者らは、労組法第3条所定の労働者に該当すると判断される(⑥)というのが最高裁の結論であり、Y社の団体交渉拒否は不当労働行為に当たることが確定した。③「業務委託契約の相手方として労組法の適用対象外となると判断される」はY社の主張をそのまま肯定する誤答であり、本判決が明確に排斥した結論である。⑩「労基法第9条所定の労働者として保護されると判断される」は適用法令を誤るものであり、本件の争点は労基法上の労働者性ではなく労組法上の労働者性である点を見落とした誤答である。⑪「使用者による団体交渉拒否が正当と認められると判断される」も本判決の結論と正反対であり誤りである。
【判例情報】 事件名:国・中労委(INAXメンテナンス)事件 裁判所:最高裁判所第三小法廷 判決年月日:平成23年4月12日(民集65巻3号943頁)
第37問:山梨県民信用組合事件
【科目】労働に関する一般常識
【問題】
(事案の概要) 県内の複数の信用組合が合併してY信用組合が設立された際、合併前の各信用組合に勤務していた 職員Xらの退職金の計算方法が変更され、支給される退職金の額が合併前の基準と比較して大幅に 減額されることとなった。Y信用組合はXらに対して説明会を開催し、変更後の退職金規程への同意 書への署名押印を求め、Xらはこれに応じた。しかしXらは後に、変更後の退職金の具体的な金額 や算定方法について十分な説明を受けないまま署名押印を求められたと主張し、当該変更は無効で あるとして差額退職金の支払いを求めて提訴した。本件では、使用者が提示した不利益な労働条件 変更に対する労働者の同意の有効性をいかなる基準で判断すべきかが主たる争点となった。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「使用者が提示した労働条件の変更が労働者にとって不利益なものである場合、当該変更に対する 労働者の同意の有効性は、( A )かどうかという観点から、同意書への署名押印に至る経緯・ 変更内容の説明の有無および程度・変更後の処遇の具体的内容等の諸般の事情を総合して慎重に判 断されなければならない。このような解釈は、労働者が( B )という実態に照らして、使用者 からの不利益変更への同意が真に自発的なものであったかを実質的に検討することを要請する趣旨 に基づくものである。したがって、変更後の退職金の算定方法や具体的金額について十分な説明が なされないまま署名押印が求められた本件において、Xらの同意書提出は( C )。」
【選択肢】
①.変更後の労働条件が社会通念上相当と認められる合理的な範囲に収まっている ②.労働者の過半数を代表する者との書面による合意によって正当化されている ③.自由な意思に基づく有効な同意があったとは認めることができない ④.就業規則の改定手続が労働基準法所定の要件を適法に充足している ⑤.労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する ⑥.使用者との関係において対等な立場での自律的な意思決定を行える立場に置かれている ⑦.労働契約法第10条所定の不利益変更の合理性要件を充足しているとして有効に成立する ⑧.変更に係る説明義務を使用者が適切に果たしていると認められる ⑨.使用者との交渉において経済的・組織的に従属した立場に置かれている ⑩.変更の合理性が認められるとして有効な同意があったものと推定される ⑪.使用者の指揮命令に服しながら一方的に変更された労働条件を受け入れる立場に置かれている ⑫.就業規則の不利益変更に関する合理性の基準をすべて充足しているとして有効な変更となる
【解答】 A → ⑤ B → ⑨ C → ③
【解説】
Aの解説:不利益な労働条件変更に対する同意の有効性の判断基準として最高裁が明示したのは、労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在する(⑤)かどうかという観点である。単に同意書への署名押印という形式的事実があるだけでは足りず、それが真に労働者の自由意思に基づくものかを実質的に検討すべきとしたことが本判決の核心である。①「変更後の労働条件が社会通念上相当と認められる合理的な範囲に収まっている」は変更内容の合理性を問うものであり、個別同意の有効性の判断基準として示された本判決の枠組みとは次元が異なる。②「労働者の過半数を代表する者との書面による合意によって正当化されている」は集団的同意(就業規則変更の手続)を個別同意の代替とする誤答であり、両者は峻別される(最も誤答しやすい選択肢)。④「就業規則の改定手続が労働基準法所定の要件を適法に充足している」も手続的適法性を問うものであり、個別同意の実質的有効性の基準ではない。
Bの解説:個別同意の真意性を実質的に検討すべき根拠として最高裁が挙げたのは、労働者が使用者との交渉において経済的・組織的に従属した立場に置かれている(⑨)という実態である。この従属性ゆえに、使用者からの変更提示に対して事実上拒絶が困難な状況が生まれやすく、形式的な同意書の存在のみをもって自由意思による同意と即断することは危険である。⑥「使用者との関係において対等な立場での自律的な意思決定を行える立場に置かれている」は実際の労働関係とは逆の性格を述べるものであり誤りである。⑪「使用者の指揮命令に服しながら一方的に変更された労働条件を受け入れる立場に置かれている」は一見近い記述に見えるが、「一方的に変更された条件を受け入れる」という表現は労働者側の受動性のみを強調しすぎており、「従属性ゆえに真意に基づく同意が困難」という本判決の趣旨を正確に表現していない。
Cの解説:変更内容や変更後の金額について十分な説明がなされていない状況で署名押印を求められた本件では、Xらの同意書提出は自由な意思に基づく有効な同意があったとは認めることができない(③)というのが最高裁の結論であり、退職金減額の変更は効力を生じないと判断された。⑦「労働契約法第10条所定の不利益変更の合理性要件を充足しているとして有効に成立する」は就業規則変更による不利益変更(集団的規律)の法理を個別同意の問題に混同させた誤答である。⑩「変更の合理性が認められるとして有効な同意があったものと推定される」も変更の合理性から同意の有効性を推定しようとする誤答であり、最高裁が採用しなかった論理である。⑫「就業規則の不利益変更に関する合理性の基準をすべて充足しているとして有効な変更となる」は個別同意の局面を就業規則変更の合理性判断にすり替えた誤答であり、本件は就業規則変更ではなく個別同意の有効性が問われている点を見落とした誤りである。
【判例情報】 事件名:山梨県民信用組合事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:平成28年2月19日(民集70巻2号123頁)
第38問:山梨県民信用組合事件
【科目】労働に関する一般常識(労働契約法)
【問題】
(事案の概要) 甲府信用金庫(後の山梨県民信用組合)は、他の信用金庫との合併・経営統合に際し、退職一時金制度を廃止する内容を含む就業規則の変更を行い、労働者Xら複数名の退職金を大幅に減額した。使用者側は合併前に説明会を開催し、個別に合意書への署名・捺印を求めたが、Xらはその後、当該退職金減額への同意は自らの真意に基づくものではないとして提訴した。第一審・控訴審ではXらが敗訴したが、最高裁は原判決を破棄差し戻した。 最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「就業規則に定める退職金に関する労働条件を不利益に変更する場合において、使用者が労働者から書面による同意を得ていたとしても、( A )ことに照らせば、当該同意の有無を書面への署名・捺印の事実のみをもって直ちに判断することはできない。 このような解釈は、労働者と使用者との( B )を基本理念とする労働契約法の趣旨に沿うものであって、一方的な不利益変更から労働者を保護するための規律として機能する。 したがって、本件における退職金減額への同意の有効性は、( C )、当該同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点から、慎重に判断されなければならない。」
【選択肢】
①.就業規則の不利益変更が例外的に許容される場合に該当する ②.変更に至った経緯及びその態様、情報提供の内容等を考慮して ③.経営上の高度の必要性が客観的に認められる場合に ④.対等の立場における労働条件の合意による決定 ⑤.使用者が就業規則の変更内容を労働者に周知する義務を負う ⑥.半数以上の労働者の同意に基づく多数決によって形成された ⑦.労働者が使用者との関係において交渉力において劣る地位にある ⑧.労働条件の統一的な決定と集団的処理の確保 ⑨.賃金全額払いの原則の趣旨に反しない ⑩.就業規則変更の合理性のみを基準として ⑪.協約当事者間の自治を最大限に尊重する ⑫.争議行為の正当性及びその具体的な内容を勘案して
【解答】 A → ⑦ B → ④ C → ②
【解説】
• Aの解説:本判決が個別同意の有効性判断に慎重な基準を設けた理由は、労働者が使用者との関係において交渉力において劣る地位にあるため、形式的な署名・捺印が必ずしも真意を反映しないからである。誤答の①は「例外的許容」という使用者側に有利な視点、③は「経営上の必要性」という就業規則変更の合理性判断の要素であり、個別同意の有効性根拠としての趣旨とは異なる。
• Bの解説:労働契約法第1条は、労働者と使用者が「対等の立場における合意に基づいて」労働契約を締結・変更することを基本原則として定めており、本判決もこの趣旨を根拠とする。誤答の⑧「統一的な決定と集団的処理の確保」は就業規則の画一的適用(秋北バス事件等の趣旨)の説明であり、個別同意の問題とは論点が異なる。
• Cの解説:本判決は、同意の有効性を判断するにあたって、不利益の内容・程度、変更に至った経緯及びその態様、情報提供の内容等を総合的に考慮すべきとした。単に書面への署名という外形的事実のみでは足りず、⑩「合理性のみを基準」とする判断よりも実質的・多面的な審査基準を採用したことが本判決の核心である。
【判例情報】 事件名:山梨県民信用組合事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:平成28年2月19日(平成25年(受)第304号)
第39問:朝日火災海上保険(石田)事件
【科目】労働に関する一般常識
【問題】
(事案の概要) 保険会社Y(使用者)は従来就業規則上に定年制の定めを置いていなかったが、労働組合との交渉を経て、定年年齢を満55歳とする旨の労働協約(以下「本件定年協定」という。)を締結した。当該協約の締結当時すでに満55歳を超えていた組合員Xは、本件定年協定の規範的効力は自己には及ばないとして定年退職の効力を争った。本件では、労働協約が組合員の既得の利益を侵害する内容であるときに、当該協約の規範的効力がいかなる範囲で組合員に及ぶかが主な争点となった。最高裁は労働組合法第16条の規範的効力の意義と限界について以下のとおり判示した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働組合が使用者との間で締結した労働協約は、( A )を有しており、組合員の個別の労働契約の内容は、特段の事情がない限り、当該協約の定めるところによるものとされる。 このような規範的効力の制度が( B )ために設けられたものであることに照らせば、協約内容が一部の組合員にとって既存の労働条件よりも不利益であるとしても、当該協約は原則として規範的効力を有するというべきである。 ただし、当該協約の締結が( C )と認められる場合には、当該部分の規範的効力は当該組合員に及ばないと解するのが相当である。」
【選択肢】
①.組合員の労働条件を統一的に規律する規範的効力 ②.使用者の経営裁量を適切に制約することで企業秩序を維持する ③.組合員の過半数の賛成を得られずに締結された ④.就業規則に優先して適用される補充的効力 ⑤.労使対等の原則のもとで組合員の労働条件を集団的かつ統一的に規律する ⑥.争議行為を背景とした強要によって締結されたもの ⑦.組合員以外の非組合員にも等しく適用される一般的拘束力 ⑧.使用者が一方的に作成した就業規則と内容が矛盾する ⑨.個々の労働者が自由意思に基づき労働条件を形成できるよう支援する ⑩.特定の組合員を殊更に不利益に扱うことを目的とするなど、労働組合の目的を逸脱したもの ⑪.使用者及び組合員双方を平等に拘束する債務的効力 ⑫.国が定める最低労働基準を個別契約において確保させる
【解答】 A → ①(組合員の労働条件を統一的に規律する規範的効力) B → ⑤(労使対等の原則のもとで組合員の労働条件を集団的かつ統一的に規律する) C → ⑩(特定の組合員を殊更に不利益に扱うことを目的とするなど、労働組合の目的を逸脱したもの)
【解説】
Aの解説:労働協約が有する核心的な効力は「規範的効力」(労働組合法第16条)であり、組合員の労働条件を統一的に規律する。④「補充的効力」は就業規則の空白を補うという誤った概念であり、労働協約の効力として正確ではない。⑦「一般的拘束力」は事業場の4分の3以上の同種労働者に協約が及ぶ場合に残りへも拡張される効力(労組法17条)であり、規範的効力とは別概念である。⑪「債務的効力」は組合と使用者間の義務関係に関する効力であり、組合員の労働条件を直接規律する規範的効力とは異なる。
Bの解説:規範的効力の制度趣旨は、使用者との交渉力格差を組合活動によって是正し、組合員の労働条件を「集団的かつ統一的」に規律することにある。②「使用者の経営裁量を制約する」は使用者側の観点に偏り、労組法の趣旨を正確に表していない。⑫「最低労働基準の確保」は労働基準法の目的に近く、規範的効力の趣旨とは性質が異なる。⑨「個々の労働者の自由意思による形成を支援する」は個別主義的な発想であり、集団的労使関係法の趣旨に反する。
Cの解説:規範的効力が及ばない例外は、「特定の組合員を殊更に不利益に扱うことを目的とするなど、労働組合の目的を逸脱した」場合に限られる。本件ではこの例外には該当しないとして定年協定の規範的効力が認められた。③「組合員の過半数の賛成を得られなかった」ことは、協約の有効要件(書面の作成・署名押印)とは無関係であり、規範的効力を否定する根拠とはならない。⑥「争議行為を背景とした強要」は協約の瑕疵(強迫・錯誤)に関わる問題であり、規範的効力の例外とは異なる次元の問題である。
【判例情報】 事件名:朝日火災海上保険(石田)事件 裁判所:最高裁判所第三小法廷 判決年月日:平成9年3月27日(民集51巻3号1655頁)
第40問:東芝労働組合小向支部・東芝事件
【科目】労働に関する一般常識
【問題】
(事案の概要) 電機メーカーYと労働組合Aとの間にはユニオンショップ協定が締結されており、同協定に基づきYはその組合員でない者を解雇する義務を負っていた。Yの工場に勤務する従業員らはA組合から除名されたが、除名後に自ら新たな労働組合Bを結成してその組合員となった。Yはユニオンショップ協定を根拠に当該従業員らを解雇したが、従業員らはその効力を争った。本件では、ユニオンショップ協定に基づく使用者の解雇義務が、除名後に新たな組合を結成した労働者に対しても及ぶか否かが主たる争点となった。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「ユニオンショップ協定によって使用者に解雇義務が生じるのは、当該労働者が締結組合に( A )場合に限られるものと解すべきであり、当該労働者が他の労働組合に加入し又は自ら組合を結成した場合には、解雇義務は生じない。 このような限定的な解釈は、ユニオンショップ協定が( B )目的のために許容された制度であることに基づくものであり、別組合に加入した労働者にも解雇義務を及ぼすことはその限度を超えることになる。 したがって、除名後に新たな組合を結成した本件労働者をユニオンショップ協定を根拠として解雇することは( C )こととなり、当該解雇は無効と解される。」
【選択肢】
①.当該組合から除名又は脱退した ②.他の組合の団結権を侵害し不当労働行為に該当する ③.使用者の雇用管理権を制限することで労使の利益を均衡させる ④.組合費を滞納して組合の運営を妨害する ⑤.就業規則上の解雇事由に該当せず権利の濫用として無効となる ⑥.当該組合への加入強制により組織の維持・強化を図る ⑦.正当な理由なく争議行為への参加を拒否する ⑧.労働契約の解約申込みに対する承諾拒絶として効力を生じない ⑨.加入せず、又は脱退して他の組合にも加入しない ⑩.労働者の就業機会を確保しつつ賃金水準の底上げを実現する ⑪.使用者の業務命令違反を理由とする懲戒解雇として違法となる ⑫.使用者と組合が対等な立場で協議できる環境を整備する
【解答】 A → ⑨(加入せず、又は脱退して他の組合にも加入しない) B → ⑥(当該組合への加入強制により組織の維持・強化を図る) C → ②(他の組合の団結権を侵害し不当労働行為に該当する)
【解説】
Aの解説:ユニオンショップ協定に基づく解雇義務が生じる場面は、労働者が締結組合に「加入せず、又は脱退して他の組合にも加入しない」場合に限られる。①「当該組合から除名又は脱退した」だけでは他組合への加入という重要な条件が欠落しており、本判決の要点を正確に表していないため誤り。④「組合費を滞納して〜」⑦「争議行為への参加を拒否する」はいずれも組合内の統制・懲戒の問題であり、ユニオンショップ協定の解雇義務の発生要件とは異なる次元の問題である。
Bの解説:ユニオンショップ協定は、特定組合への「加入強制」を通じてその組合の組織維持・強化を図るという目的のために、例外的に解雇という不利益取扱いの合意を許容する制度である。③「労使の利益を均衡させる」は集団的労働関係全般の趣旨に近く、ユニオンショップ協定に固有の目的説明として不正確である。⑩「賃金水準の底上げを実現する」は団体交渉一般の効果であり、本制度の趣旨ではない。⑫「対等な立場で協議できる環境を整備する」も同様に、ユニオンショップ協定の目的として特定化されていない。
Cの解説:別組合の組合員を解雇することは、その組合の組合員であることを理由とした不利益取扱いとして「不当労働行為(労組法7条1号)」に該当し、憲法28条が保障する団結権を侵害するものとして無効となる。⑤「解雇権の濫用」は労働契約法16条の問題であり本件の主たる法的根拠ではない。⑪「懲戒解雇として違法」は、本件がユニオンショップ協定に基づく普通解雇であることと齟齬がある。⑧「承諾拒絶として効力を生じない」は解雇の法的性質を誤って描写しており誤りである。
【判例情報】 事件名:東芝労働組合小向支部・東芝事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:平成19年2月2日(民集61巻1号1頁)
第41問:川義事件
【科目】労働に関する一般常識
【問題】
(事案の概要) Yはホテルを経営する株式会社であり、従業員に対して会社が管理する寮への居住を義務付けていた。ある夜、会社の寮に居住していた従業員Aの個室に何者かが外部から侵入し、Aは刺殺された。Aの遺族は、Y社が雇用契約上の安全配慮義務に違反したとして損害賠償を請求した。Y社は、本件は外部の第三者による犯罪行為によるものであって、雇用契約に基づく義務の及ぶ範囲外であると主張した。本件の争点は、使用者の安全配慮義務が、業務の場のみならず使用者の管理する居住施設にまで及ぶかどうかであった。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「使用者は、雇用契約の付随的な義務として、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう( A )ものであり、この義務はその雇用する労働者が業務の場のみならず使用者の設置する施設に居住する場合においても及ぶものと解すべきである。使用者は、( B )に照らし、外部者の不法な侵入を防止するための適切な安全措置を講じる義務を負うというべきである。したがって、本件においてY社は上記義務を履行しなかったものと認められるから、( C )ものというべきである。」
【選択肢】
①.雇用契約の趣旨及び目的 ②.不法行為に基づく損害賠償責任を負う ③.施設の性質及び管理状況 ④.安全衛生管理を徹底すべき義務を負う ⑤.指揮監督上の配慮義務を尽くすべき ⑥.使用者の支配が及ぶ業務の範囲 ⑦.損害賠償義務を免れ得る ⑧.安全に配慮すべき義務を負う ⑨.業務の危険性及び作業環境の状況 ⑩.不法行為責任は成立しない ⑪.債務不履行に基づく損害賠償責任を負う ⑫.労働契約上の保護義務を履行した
【解答】 A → ⑧ B → ③ C → ⑪
【解説】
Aの解説:使用者が負う安全配慮義務の根拠を問う空欄(やや易)。雇用契約の「付随的義務」として「安全に配慮すべき義務を負う」⑧が正答。⑤「指揮監督上の配慮義務を尽くすべき」は指揮命令関係にある業務範囲にのみ義務が生じるとの誤解を招く表現であり不適切。④「安全衛生管理を徹底すべき義務を負う」は労働安全衛生法上の概念と混同しやすいが、本判例が示す義務の根拠は雇用契約であるため不正確。
Bの解説:使用者が安全措置を講じる義務の判断基準を問う空欄(標準)。判例は義務の程度を「施設の性質及び管理状況」③に照らして判断するとしており、③が正答。①「雇用契約の趣旨及び目的」は安全配慮義務の発生根拠に近い表現であり、措置の基準としては適切でない。⑨「業務の危険性及び作業環境の状況」は職場安全衛生に関する基準であり、居住施設の安全措置の判断基準としては不適切。
Cの解説:本件の法的結論を問う空欄(やや難)。安全配慮義務は雇用契約から発生する義務であり、その違反は「債務不履行」にあたるため⑪「債務不履行に基づく損害賠償責任を負う」が正答。②「不法行為に基づく損害賠償責任を負う」は民法709条の不法行為構成であり、本件は雇用契約違反(債務不履行)を根拠とする点で異なる。⑦「損害賠償義務を免れ得る」や⑩「不法行為責任は成立しない」は本判例の結論と逆であり誤り。
【判例情報】 事件名:川義事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:昭和59年4月10日(民集38巻6号557頁)
第42問:ハマキョウレックス事件
【科目】労働に関する一般常識
【問題】
(事案の概要) 運送会社Y(ハマキョウレックス株式会社)において有期労働契約を締結し、トラックドライバーとして勤務していた労働者Xは、正社員と同種の業務に従事するにもかかわらず、無事故手当・作業手当・給食手当・皆勤手当・通勤手当等の各種手当について正社員との間に差異が設けられていることを問題とした。XはY社の当該取扱いが旧労働契約法第20条に違反するとして不法行為に基づく損害賠償を請求し、本件は最高裁判所に上告された。本件では、有期契約労働者と無期契約労働者との間における各種手当の相違が「不合理と認められるもの」に当たるか否かが主たる争点となった。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「旧労働契約法第20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違について、( A )ことを禁止した規定であり、有期契約労働者の公正な処遇を確保することをその趣旨とする。 同条にいう『不合理と認められるもの』に当たるか否かは、( B )に照らして、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かによって判断すべきものと解するのが相当である。 したがって、本件における通勤手当等の正社員との相違については、( C )に当たると判断される。」
【選択肢】
①.有期契約労働者の雇用継続に対する合理的な期待を侵害すること ②.手当の趣旨・目的及び有期契約労働者の職務上の責任の程度 ③.不合理と認められる相違を設けること ④.合理的な理由なく有期契約労働者の賃金水準を引き下げること ⑤.就業規則の変更が社会通念上の合理性を欠くもの ⑥.有期契約労働者を無期契約労働者と同一の処遇にすること ⑦.期間の定めのある労働契約の性質に照らして合理的と認められるもの ⑧.職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情 ⑨.職務の内容及び成果並びに意欲・能力・経験その他の事情 ⑩.使用者の経営上の裁量に委ねられる相当な範囲内のもの ⑪.旧労働契約法第20条にいう不合理と認められるもの ⑫.期間の定めのあることに基づく合理的な差異として正当化されるもの
【解答】 A → ③ B → ⑧ C → ⑪
【解説】
Aの解説:旧労働契約法第20条は「不合理と認められるものであってはならない」と規定しており、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が「不合理と認められる相違を設けること」を禁じた規定である(③が正答)。①「雇用継続への合理的な期待を侵害すること」は有期労働契約の雇止め法理(労働契約法第19条)の問題であり、④「賃金水準の引き下げ」は不利益変更に関する概念であって、いずれも第20条の趣旨と異なる。
Bの解説:最高裁は、「不合理と認められるもの」の判断に際して、「職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情」(旧労働契約法第20条の文言)に照らして判断すべきとした(⑧が正答)。⑨「職務の内容及び成果並びに意欲・能力・経験」は人事評価や賞与の判断要素として用いられる概念であり、第20条の判断基準ではない。②「手当の趣旨・目的」は個別判断の一要素となりうるが、条文上列挙された判断要素全体(⑧)の代わりにはならない。
Cの解説:最高裁は、通勤手当・無事故手当・作業手当・給食手当・皆勤手当の各相違が、職務の内容及び配置の変更の範囲等が異なることを考慮しても「旧労働契約法第20条にいう不合理と認められるもの」に当たると判断した(⑪が正答)。⑦「合理的と認められるもの」や⑩「経営上の裁量の範囲内のもの」は使用者側の主張に近い概念であって、本件で裁判所が下した判断とは逆の方向性を持つため誤りである。
【判例情報】 事件名:ハマキョウレックス事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:平成30年6月1日(民集72巻2号88頁)
第43問:国労広島地本事件
【科目】労働に関する一般常識
【問題】
(事案の概要) 国鉄(現JR各社の前身)の労働組合の地方本部であるYは、統一地方選挙に際し、特定の組合推薦候補者を支援するための選挙費用を組合員から徴収することを組合大会で決議した。組合員Xはこの費用の拠出を拒否したところ、Yはこれを組合規約違反として統制処分(権利停止)をXに発動した。Xは当該統制処分の無効を求めて訴訟を提起し、本件は最高裁判所に至った。最高裁判所においては、労働組合が政治活動のための費用拠出を組合員に義務付け、これを拒否した組合員に統制処分を科し得るか否かが主要な争点とされた。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働組合が組合員に対し統制権を行使し得るのは、組合員の経済的地位の向上という組合本来の目的と( A )限度においてであり、純粋な政治的活動への費用拠出を義務付けることはこの範囲を超えるものである。 特定候補者の選挙運動のための費用負担は、組合員各自の( B )にかかわる問題であり、組合の多数決によって個々の組合員の意思を無視して強制し得る性質のものではない。 したがって、かかる費用拠出の拒否を理由とする統制処分は( C )ものとして、その効力を有しない。」
【選択肢】
①.経済的利益及び労働条件の向上 ②.組合の目的を逸脱した不当な ③.組合規約上の手続を経ていない ④.政治的自由及び思想・良心の自由 ⑤.間接的に貢献し得る ⑥.直接関連する ⑦.組合員多数の支持を得ていない ⑧.財産権及び生存権 ⑨.合理的な必要性の認められる ⑩.組合の統制権の正当な行使として有効な ⑪.勤労の権利及び団結権の核心 ⑫.組合員全体の利益の実現に貢献する
【解答】 A → ⑥(直接関連する) B → ④(政治的自由及び思想・良心の自由) C → ②(組合の目的を逸脱した不当な)
【解説】
Aの解説:本判例の核心は、組合の統制権は組合の本来目的(組合員の経済的地位向上)と「直接関連する」範囲内でのみ正当化されるという論拠にある。⑥「直接関連する」が正答。⑤「間接的に貢献し得る」は直接性の要件を緩め不当に広い統制権を許容する点で誤り。⑫「組合員全体の利益の実現に貢献する」は直接関連性という本来の基準よりも広い概念であり、正答の趣旨と異なる。
Bの解説:選挙運動費用の拠出義務が問題となるのは、それが組合員個人の政治的自由・思想の自由にかかわるためであり、④「政治的自由及び思想・良心の自由」が正答。⑧「財産権及び生存権」は費用拠出という財産上の負担に着目した誤答であるが、本判例が保護の中心に据えるのは思想・政治的自由であり財産権ではない。⑪「勤労の権利及び団結権の核心」は労働組合の権利そのものであり、組合員個人の自由の問題とは次元が異なる。
Cの解説:費用拠出を拒否した組合員に対する統制処分の効力について、本判例は当該処分が組合の目的を逸脱した不当なものとして無効と判断した。②「組合の目的を逸脱した不当な」が正答。①「組合規約上の手続を経ていない」は手続的瑕疵の問題であり、本判例が実質的・目的的観点から統制処分の限界を画した趣旨とは異なる。⑩「組合の統制権の正当な行使として有効な」は本判例の結論と正反対であり誤り。
【判例情報】 事件名:国労広島地本事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:昭和50年11月28日(民集29巻10号1698頁)
第44問:三井倉庫港運事件
【科目】労働に関する一般常識
【問題】
(事案の概要) 港湾運送業を営むY社(三井倉庫港運)は、主要労働組合であるA組合との間で、同組合の組合員であることを雇用条件とするユニオン・ショップ協定を締結していた。Xは長年A組合の組合員として就労していたが、内部対立を契機にA組合を自ら脱退し、別の独立した労働組合であるB組合(全港湾労働組合)に加入した。Y社はユニオン・ショップ協定に基づく解雇義務を根拠にXを解雇したため、Xは解雇無効を主張して訴訟を提起した。本件の核心的争点は、一の組合を脱退して他の組合に加入した労働者に対して、ユニオン・ショップ協定に基づく解雇義務が有効に成立するか否かであった。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「ユニオン・ショップ協定は、( A )を目的とするものであることからすれば、使用者はその解釈に際して労働者の団結権を不当に侵害しないよう配慮しなければならない。 このような協定の( B )に照らせば、協定締結組合を脱退して他の組合に加入した労働者に対して解雇義務を生じさせると解することは、その者の団結権を侵害することとなり、協定はこの限度において効力を有しないと解するのが相当である。 したがって、本件における使用者の解雇は( C )にあたると判断される。」
【選択肢】
①.文理解釈と立法者意思 ②.法的根拠を欠く無効な解雇 ③.整理解雇の要件を充足する適法な解雇 ④.労使間の安定的な協調関係の維持 ⑤.趣旨及び効力の限界 ⑥.就業規則に基づく懲戒解雇 ⑦.組合民主主義の実現と内部統制の確保 ⑧.特定組合の組織力の維持・強化 ⑨.団体交渉の実効性の確保と争議権の保護 ⑩.沿革および適用範囲の相当性 ⑪.使用者の解雇権の正当な行使 ⑫.合意解約として有効な雇用終了処理
【解答】 A → ⑧(特定組合の組織力の維持・強化) B → ⑤(趣旨及び効力の限界) C → ②(法的根拠を欠く無効な解雇)
【解説】
Aの解説:ユニオン・ショップ協定の制度的目的は「特定組合の組織力の維持・強化」にあり、これが判決推論の出発点となる。誤答の④「労使間の安定的な協調関係の維持」は協定の副次的効果として語られることはあるが、協定それ自体の直接的制度目的(特定組合の組織強化)とは区別される。
Bの解説:裁判所は協定の「趣旨及び効力の限界」を基準として、他組合加入者への解雇義務の範囲を判断した。①「文理解釈と立法者意思」や⑩「沿革および適用範囲の相当性」も解釈手法としてあり得るが、本判決が重視したのは、ユニオン・ショップ協定の制度趣旨そのものから導かれる効力の限界という観点である。
Cの解説:他の組合に加入した労働者に対してユニオン・ショップ協定の解雇義務は及ばないとされた結果、本件解雇は「法的根拠を欠く無効な解雇」にあたる。誤答の⑪「使用者の解雇権の正当な行使」や③「整理解雇の要件を充足する適法な解雇」はいずれも解雇を有効とする方向の選択肢であり、本判決が協定の効力を否定した結論とは逆方向であるため、誤答と判断できる。
【判例情報】 事件名:三井倉庫港運事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:平成元年12月14日
第45問:日産自動車事件
【科目】労働に関する一般常識
【問題】
(事案の概要) 日産自動車株式会社の就業規則および労働協約には、女性従業員の定年を55歳、男性従業員の定年を60歳と定める条項が設けられていた。同社に勤務する女性従業員Xは、55歳の定年到達を通知され、退職を求められた。Xは、当該定年条項は女性であることのみを理由とした性差別であり無効であると主張し、雇用関係の存在確認と賃金の支払を求めて提訴した。男女雇用機会均等法の制定前であったため、法的根拠として民法の公序良俗規定が問われた。 最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「女子の定年年齢を男子より低く定める本件就業規則中の定年条項は、( A )ものであって、このような措置が( B )として許容されないことは明らかである。したがって、本件定年条項は( C )ものと解すべきであり、定年到達を理由とするXへの退職強要は効力を生じない。」
【選択肢】
①.就業規則の変更として合理性が認められない ②.性別のみによる不合理な差別 ③.専ら女子であることのみを理由として差別したことに帰着する ④.間接差別として雇用機会均等法に違反する ⑤.民法90条に違反し無効 ⑥.身体的特性を考慮した合理的な区別 ⑦.労働基準法4条が直接適用される ⑧.社会的身分による差別として労基法3条に違反する ⑨.実質的な男女の機会均等を実現するための合理的区別 ⑩.就業規則の内容として不合理と認められない ⑪.労働契約法10条の要件を満たさない ⑫.使用者に裁量的経営判断の余地がなく違法
【解答】 A → ③ B → ② C → ⑤
【解説】
• Aの解説:本判決の理由部分として、本件定年条項は「専ら女子であることのみを理由として差別したことに帰着する」ものであると最高裁は認定した。⑥「身体的特性を考慮した合理的な区別」は使用者側の反論に相当し、最高裁が退けた主張である点で異なる。
• Bの解説:公序良俗違反の根拠として、性別のみを基準とした不合理な差別であることが指摘された。④「間接差別として雇用機会均等法に違反する」は、同法が本件判決後の昭和61年施行であり、当時存在しない法令を根拠とする点で時系列上誤りである。
• Cの解説:結論として、当該定年条項は民法90条の公序良俗に違反し無効とされた。①「就業規則の変更として合理性が認められない」は就業規則の不利益変更法理(現・労働契約法10条)の文脈であり、本件の論点(既存条項の有効性判断)とは異なる次元の問題である。
【判例情報】 事件名:日産自動車事件 裁判所:最高裁判所第三小法廷 判決年月日:昭和56年3月24日(民集35巻2号300頁)
第46問:第四銀行事件
【科目】労働に関する一般常識(労働組合法)
【問題】
(事案の概要) 原告Xらは、被告Y銀行(第四銀行)に勤務する従業員であり、同銀行の過半数を組織する労働組合の組合員であった。Y銀行と同労働組合は、定年を55歳から60歳に延長する代わりに、57歳以降の賃金水準を引き下げる旨の労働協約(以下「本件協約」という)を締結した。Xらは本件協約の締結に個別には同意していなかったが、規範的効力により賃金が削減された。Xらは、組合員個人の同意のない賃金の不利益変更は許されないとして、差額賃金等の支払いを求めて提訴した。 最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働協約が( A )と認められるような特段の事情がない限り、使用者は組合員の個別的同意なく協約の効力を主張することができる。 このような労働協約の( B )に照らせば、合理的・相当な範囲での不利益変更については、組合員の個別同意なくその効力が及ぶと解するのが相当である。 したがって、本件における労働協約による賃金の引き下げは( C )と判断される。」
【選択肢】
①.組合員の個別的同意を欠いたことにより規範的効力が制限されるもの ②.使用者が優越的地位を背景に事実上強制して締結されたもの ③.就業規則の不利益変更法理と同等の高度な合理性を要するもの ④.労働組合の目的を逸脱して一部の組合員を殊更に不利益に扱うことを目的としたもの ⑤.協約締結時における組合員への告知・説明義務を欠くもの ⑥.使用者の経営権に属する事項を組合が一方的に規制したもの ⑦.不当労働行為として組合の活動を抑圧することを意図したもの ⑧.団体交渉を通じた労働条件の集団的・統一的決定という民主的機能 ⑨.協約の有効期間中は就業規則によっても変更できない強行的効力 ⑩.組合員の3分の2以上の反対決議があった場合に効力を有しないもの ⑪.定年延長という代替的利益との均衡において有効なもの ⑫.差額賃金の請求権を事後的に発生させる違法な労働条件の引き下げ
【解答】 A → ④ B → ⑧ C → ⑪
【解説】
• Aの解説:第四銀行事件において最高裁は、「特定又は一部の組合員を殊更に不利益に扱うことを目的として締結されたなど、労働組合の目的を逸脱して締結された」という特段の事情がない限り、規範的効力は組合員に及ぶと判示した。①は「個別同意の欠如」を理由とするが、本判決は個別同意がなくても原則有効であると述べており誤り。⑦の不当労働行為意思は別概念(使用者の組合活動妨害)であり、協約の目的逸脱とは法的根拠が異なる。
• Bの解説:労働協約が個別同意なく規範的効力を持つ根拠は、団体交渉による集団的・民主的な意思決定という機能にある。③の「就業規則の不利益変更法理と同等」は誤りであり、労働協約と就業規則(秋北バス事件基準)は効力根拠が異なり、協約には就業規則よりも広い不利益変更を認める余地がある。⑥「使用者の経営権に属する事項の規制」は協約の趣旨・機能とは逆方向の表現であり誤り。
• Cの解説:本件の結論として、定年を55歳から60歳に延長するという代替的利益が付与されていることから、賃金引き下げとの均衡が保たれており有効と判断された。⑫は差額賃金請求権の発生を認める内容(=無効方向の判断)であり、本判決の結論(有効)と逆であるため誤り。
【判例情報】 事件名:第四銀行事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:平成9年2月28日(民集51巻2号705頁)
第47問:日本郵便(東京)事件
【科目】労働に関する一般常識
【問題】
(事案の概要) Yは郵便事業を行う株式会社であり、有期労働契約を締結して郵便物の集配業務等に従事する期間雇用社員Xらは、無期契約の正規従業員と同様の業務を行いながら、夏期・冬期休暇を付与されていなかった。Xらは、この取扱いが労働契約法第20条に定める「期間の定めがあることによる不合理な労働条件の相違」に当たると主張して争った。本件では、夏期・冬期休暇の付与対象から有期雇用労働者を除外する使用者の扱いが、同条の「不合理と認められるもの」に該当するかどうかが主な争点となった。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「夏期・冬期休暇は、夏期及び冬期における所定労働日のうち労働者が( A )ために特別に設けられた休暇であって、その趣旨は有期雇用労働者にも同様に妥当するというべきである。 このような休暇制度の( B )に照らせば、同様の業務に従事する期間雇用社員に対して夏期・冬期休暇を付与しないこととする相応の理由が必要であると解するのが相当である。 したがって、本件における当該休暇の不付与は( C )に当たると判断される。」
【選択肢】
①.業務の繁忙期を避けて長期休暇を取得する ②.使用者の経営効率化と人件費抑制に資する ③.趣旨・目的および制度の性質 ④.労働契約法第20条にいう不合理と認められるもの ⑤.育児・介護など個人的事情に対応させる ⑥.正社員の職務遂行能力を高めるという人材育成上の意義 ⑦.心身の疲労を回復させ生活に余裕をもたらす ⑧.季節的な業務量の調整を図る ⑨.合理的な範囲における使用者の裁量の逸脱 ⑩.労使間の交渉を経て形成された慣行としての正当性 ⑪.労働基準法第39条に定める年次有給休暇の付与義務違反 ⑫.公序良俗(民法第90条)に反し無効となる行為
【解答】 A → ⑦ B → ③ C → ④
【解説】
Aの解説:本判決は夏期・冬期休暇が「労働者の心身の疲労を回復させ生活に余裕をもたらすために特別に設けられた休暇」であると明示している。①「業務の繁忙期を避けて」や⑧「季節的な業務量の調整」は業務都合に着目した誤り。⑤「育児・介護など個人的事情」は制度の趣旨と異なる。
Bの解説:空欄は「このような休暇制度の○○に照らせば」という文脈で、判断の基準となる観点が入る。本判決は休暇の趣旨・目的・性質を考慮して合理性を判断しており、「趣旨・目的および制度の性質」が適切。②「経営効率化と人件費抑制」や⑥「人材育成上の意義」は誤った視点。
Cの解説:最高裁は夏期・冬期休暇を有期雇用労働者に付与しないことは「労働契約法第20条にいう不合理と認められるもの」に当たると明示した。⑨「使用者の裁量の逸脱」は表現が不正確。⑪「年次有給休暇の付与義務違反」や⑫「公序良俗違反」は根拠条文が異なる誤り。
【判例情報】 事件名:日本郵便(東京)事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:令和2年10月15日(令和元年(受)第1190号・第1191号)
第48問:済生会中央病院事件
【科目】労働に関する一般常識
【問題】
(事案の概要) 済生会中央病院では、医師国家試験合格後に同病院で臨床研修を行うインターン(研修医)が、実際の診療補助業務等に日常的に従事していた。研修医たちは労働組合を結成し、病院側に対して団体交渉を申し入れたが、病院側は研修医が医師としての技術・知識を習得するための「研修生」にすぎず、雇用関係にある「労働者」ではないとして団体交渉を拒否した。研修医は病院の定めた診療体制のもとで具体的な業務指示を受け、奨学金名義で一定の報酬を受け取りながら継続的に業務に従事していた。研修医側は、この団体交渉拒否が不当労働行為にあたるとして争い、最高裁まで争われた。 最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働組合法第3条にいう『労働者』とは、( A )者をいい、当事者が契約に付した名称や形式にかかわらず、労務提供の実態に基づいて判断されなければならない。本件において研修医は病院の定めた診療体制のもとで業務指示を継続的に受けており、そこには( B )が認められる。したがって、病院が研修医の組合からの団体交渉の申入れを拒絶したことは、( C )にあたり、不当労働行為が成立すると解される。」
【選択肢】
①.専門的技術の習得のみを目的として就労している ②.対等な立場での委任契約に基づき業務を遂行している ③.職業として労働を提供し賃金その他これに準ずる収入によって生活する ④.病院の指揮命令に服する使用従属関係 ⑤.雇用契約を書面で締結した上で賃金を受領することが証明されている ⑥.労働者が自ら選択した業務遂行方法により独立して就労している ⑦.組合員に対する不利益取扱い(同法第7条第1号) ⑧.使用者による支配介入(同法第7条第3号) ⑨.正当な理由のない団体交渉の拒否(同法第7条第2号) ⑩.黙示の合意に基づき成立した雇用契約関係 ⑪.病院内規や診療体制から切り離された自律的な業務遂行関係 ⑫.労働安全衛生法上の使用者に該当する地位
【解答】 A → ③ B → ④ C → ⑨
【解説】
• Aの解説:労働組合法第3条は「労働者」を「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」と定義しており、形式的な雇用契約の有無にかかわらず、労務提供の対価として収入を得て生活する実態があれば労働者に当たる。③がその定義に最も合致する。①「専門的技術の習得のみを目的」は病院側の主張に過ぎず、⑤「書面での雇用契約締結」は民法上の雇用契約の要件であって組合法上は要求されない。
• Bの解説:本件で問われているのは、研修医が病院との間に組合法上の使用従属関係にあるかどうかである。最高裁は、研修医が病院の定めた診療体制のもとで継続的に業務指示を受けていた実態から④「使用従属関係」を認定した。⑩「黙示の合意による雇用契約」は民事上の契約法の論点であり、組合法上の判断基準(実態に基づく使用従属性)とは異なる。⑥は独立性を強調する誤った記述である。
• Cの解説:病院が研修医の組合の団体交渉申入れを拒否したことは、労働組合法第7条第2号「正当な理由のない団体交渉の拒否」に当たる(⑨)。⑦「不利益取扱い(第7条第1号)」は組合員であることを理由とした不利益処分、⑧「支配介入(第7条第3号)」は組合の組織・運営への干渉を指す不当労働行為の類型であり、本件の交渉拒否の場面とは異なる。
【判例情報】 事件名:済生会中央病院事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:平成元年12月21日(民集43巻12号2051頁)
第49問:長澤運輸事件
【科目】労働に関する一般常識
【問題】
(事案の概要) 長澤運輸株式会社(以下「Y社」という。)は、定年(60歳)到達後に嘱託社員として再雇用したトラック乗務員Xら(以下「嘱託乗務員」という。)に対し、正社員と同種の業務に従事させながら、嘱託社員規程に基づく賃金制度を適用し、正社員よりも低い水準の賃金を支払っていた。Xらは、この賃金格差が旧労働契約法第20条の「不合理と認められる」相違に当たるとして、正社員との差額賃金等の支払いを求めて提訴した。各賃金項目の性質・目的を精査した最高裁判所は、以下のように判示した。
「旧労働契約法第20条にいう「不合理と認められる」相違とは、当該相違が( A )ものをいうと解すべきである。定年後再雇用の( B )に照らせば、嘱託乗務員と正社員との間に賃金水準の差異が生じること自体は、直ちに不合理と評価されるわけではない。しかしながら、精勤手当は従業員の出勤を奨励する趣旨の手当であって、その趣旨は嘱託乗務員においても等しく妥当することから、これを嘱託乗務員に支給しないことは( C )に当たる。」
【選択肢】
①.使用者の経営裁量及び人事上の理由によって正当化される ②.不合理と認められる相違 ③.職務の内容が正社員と実質的に同一であることによる差別的取扱いである ④.当該事情を総合考慮して不合理であると評価することができる ⑤.期間の定めを理由とした意図的な不均衡な取扱いである ⑥.就業規則の不利益変更として当然に無効となる ⑦.労働市場の需給状況及び労使慣行に照らして合理的に認められる ⑧.均等待遇原則に基づき許容されない格差である ⑨.趣旨及び目的並びに老齢厚生年金の受給が見込まれるという事情 ⑩.正社員に適用される就業規則が有期契約労働者にも当然に適用される ⑪.労働条件の個別合意なく一方的に設定された不合理な拘束である ⑫.合理的理由があるものとして推定される賃金水準の差異
【解答】 A → ④ B → ⑨ C → ②
【解説】
Aの解説:旧労働契約法第20条にいう「不合理と認められる」相違の意義について、最高裁は「当該相違について諸事情を考慮した上で不合理であると評価することができるもの」と定義した。①「経営裁量で正当化される」は相違を容認する方向であり定義と逆向き。③は差別的意図の有無を問う構造であり、判例の客観的評価基準とは異なるため誤り。
Bの解説:最高裁は、定年後再雇用制度の趣旨・目的(高齢者雇用継続促進)や、嘱託乗務員が老齢厚生年金の支給を受けられるという事情を総合考慮する判断枠組みを示した。⑦「労働市場の需給状況」は本判例の示した考慮要素ではないため誤り。⑫は本判例の趣旨と相反し、格差を「当然合理的」と推定する立場は採られていないため誤り。
Cの解説:精勤手当は正社員・嘱託乗務員ともに出勤奨励という趣旨が等しく妥当するため、嘱託乗務員に支給しないことは旧労働契約法第20条の「不合理と認められる相違」に当たると判断された。⑥「就業規則の不利益変更として無効」は法的根拠が異なり、本件は就業規則変更の問題ではなく旧労契法20条の適用問題であるため誤り。⑧「均等待遇原則に基づき許容されない格差」は本条の正確な文言・概念と整合しないため誤り。
【判例情報】 事件名:長澤運輸事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:平成30年6月1日(民集72巻2号202頁)
第50問:長澤運輸事件
【科目】労働に関する一般常識
【問題】
(事案の概要) Y社(長澤運輸株式会社)は、定年退職後のXらをトラック運転手として有期雇用の嘱託社員に再雇用した。嘱託社員の職務内容および配置変更の範囲は正社員と同一であったが、正社員に支給されていた精勤手当が嘱託社員には支給されておらず、賃金水準も正社員より低く設定されていた。Xらは、これらの労働条件の相違が旧労働契約法第20条の「不合理な相違」に当たると主張し、差額賃金等の支払いを求めて訴訟を提起した。最高裁判所はXらの請求を一部認容した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「定年後に再雇用された嘱託社員については、( A )ことを踏まえれば、正社員との間に相応の賃金格差が生じることへの合理的根拠が認められる場合がある。 しかし精勤手当は( B )のために支給されるものであって、正社員と嘱託社員の間で支給の有無に差を設ける合理的な理由は見いだせない。 したがって、精勤手当を嘱託社員に支給しない取扱いは、旧労働契約法第20条に定める( C )に該当すると判断される。」
【選択肢】
①.就業規則の不利益変更として効力が認められない行為 ②.業務の難易度や職責に対応した能力給的補償を行う ③.勤続年数の相違に基づく経験的格差を反映する ④.均等待遇原則に反する差別的取扱い ⑤.老齢厚生年金等の受給によって生活保障が一定程度図られる ⑥.家族の扶養義務に応じた生活費補助を行う ⑦.使用者の人事権の濫用として違法性を帯びる行為 ⑧.労働者の出勤意欲を高め皆勤を促進する ⑨.公序良俗に反する法律行為として無効となる行為 ⑩.職務内容や配置変更の範囲に実質的な相違が生じている ⑪.労働協約の規範的効力が及ばない事項に当たる行為 ⑫.旧労働契約法第20条所定の不合理な労働条件の相違
【解答】 A → ⑤ B → ⑧ C → ⑫
【解説】
Aの解説:定年後再雇用者については、老齢厚生年金等の受給によって一定の生活保障が図られるという事情が「その他の事情」として考慮されることで、正社員との賃金格差には相応の合理的根拠が認められる場合があるとされた(⑤が正答)。③「勤続年数の相違に基づく経験的格差」は本件における最高裁の考慮事情として示されたものではなく不適切。⑩「職務内容や配置変更の範囲に実質的な相違が生じている」は本件と逆の事実(両者は同一とされていた)であり誤り。
Bの解説:精勤手当は労働者の出勤意欲を高め皆勤を促進するために支給されるものであり(⑧が正答)、その趣旨からすれば正社員と嘱託社員との間で支給に差を設ける合理的理由は存在しないとされた。②「能力給的補償」⑥「生活費補助」はいずれも精勤手当本来の趣旨とは異なる目的である。
Cの解説:旧労働契約法第20条は「不合理と認められるものであってはならない」と定めており、精勤手当の不支給は同条の「不合理な労働条件の相違」に該当すると判断された(⑫が正答)。④「均等待遇原則に反する差別的取扱い」はパートタイム・有期雇用労働法に基づく概念であり旧労働契約法20条の表現とは異なる。⑨「公序良俗に反する法律行為として無効」は民法第90条の法理であって根拠条文が異なる。
【判例情報】 事件名:長澤運輸事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:平成30年6月1日(平成28年(受)第2099号)
第51問:朝日放送事件
【科目】労働に関する一般常識(労働組合法)
【問題】
(事案の概要) テレビ放送局Y社は、多数の番組制作を制作会社に委託し、その従業員らをY社の施設内で継続的に業務に従事させていた。これらの従業員が加入する労働組合は、実質的な指揮命令者であるY社に対し、賃金水準や労働時間等の改善を求めて団体交渉を申し入れた。しかしY社は「直接の雇用関係にない者の組合との間に団体交渉義務はない」として交渉を拒否した。組合は中央労働委員会に不当労働行為の救済申立てを行い、本件ではY社が労働組合法第7条の「使用者」に当たるか否かが主たる争点となった。 最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「本件において、制作会社の従業員らは、Y社の施設において( A )のもとで継続的に業務に従事していたのであるから、Y社はその労働関係に実質的な影響力を有していた。 労働組合法第7条が不当労働行為を禁止するのは、( B )ために設けられた規定であって、同条にいう『使用者』の概念は、雇用契約の相手方に限定されない。 したがって、Y社は、制作会社従業員の基本的な労働条件等について雇用主と同視できる程度に( C )の地位にあるといえるから、労働組合法第7条第2号所定の使用者として団体交渉に応じる義務を負う。」
【選択肢】
①.Y社との雇用契約に基づく従属関係 ②.Y社の指揮命令 ③.現実的かつ具体的に労働条件を支配・決定することができる ④.独立した事業者として自律的に業務を遂行する立場 ⑤.雇用の安定と継続的な就労を保障する ⑥.労働者の団結権を実質的に保障し不当労働行為を効果的に規制する ⑦.Y社が定める委託条件に基づく限定的な裁量関係 ⑧.労使の対等な協議と合意形成を促進する ⑨.Y社の承認を条件とした業務遂行関係 ⑩.雇用契約の当事者間にのみ不当労働行為の禁止を及ぼす ⑪.間接的な委託関係を通じてのみ影響力を行使する ⑫.形式的な契約関係に基づき業務の遂行方法を指定する
【解答】 A → ②(Y社の指揮命令) B → ⑥(労働者の団結権を実質的に保障し不当労働行為を効果的に規制する) C → ③(現実的かつ具体的に労働条件を支配・決定することができる)
【解説】
• Aの解説:本判例の事実認定の核心は、制作会社従業員がY社の「指揮命令」のもとで就労していたという点にある。「雇用契約に基づく従属関係」(①)や「限定的な裁量関係」(⑦)は指揮命令の実態を正確に表現しない。「承認を条件とした業務遂行関係」(⑨)も指揮命令とは異質な関係を示しており誤り。
• Bの解説:労組法7条の不当労働行為禁止規定の趣旨は、労働者の団結権・団体交渉権を保護し、使用者による妨害行為を排除することにある。「雇用の安定を保障する」(⑤)は雇用保険法等の目的であり誤り。「労使の対等な協議と合意形成を促進する」(⑧)は個別的労使関係の話であり、集団的労使法の目的とは異なる。
• Cの解説:最高裁は、雇用主と「部分的とはいえ同視できる程度に、現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位」にある者も労組法7条の使用者に当たると判示した。「雇用契約の当事者にのみ不当労働行為の禁止を及ぼす」(⑩)は本判例と反対の見解。「間接的な委託関係を通じてのみ影響力を行使する」(⑪)は使用者性を否定する立場であり誤り。
【判例情報】 事件名:朝日放送事件 裁判所:最高裁判所第三小法廷 判決年月日:平成7年2月28日(民集49巻2号559頁)
第52問:日立メディコ事件
【科目】労働に関する一般常識(労働契約法)
【問題】
(事案の概要) X(原告)は、Y社(日立メディコ株式会社)の工場において、2ヶ月の有期労働契約(期間工)として採用され、その後5回にわたり契約が更新された。ところが、Y社が経営上の理由から当該工場を閉鎖することになったため、Xに対して契約の更新を拒絶(雇止め)した。Xは、長期間にわたる継続就労の実態があり、雇用継続への合理的な期待が認められるとして、雇止めの無効を主張して提訴した。一審・二審の判断が分かれたため、本件は最高裁判所に持ち込まれた。本件は、後に制定された労働契約法第19条が定める「雇止め法理」の立法的基礎となった重要判例である。 最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「本件のように有期労働契約が( A )、実質において期間の定めのない契約と異ならない状態で存在している場合、または、労働者において当該契約が更新されるものと( B )が客観的に存する場合には、雇用主が更新を拒絶することは、解雇に関する法理を類推適用し、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当と認められない場合には、( C )として無効となる。」
【選択肢】
①.公序良俗に違反するもの ②.使用者に更新義務が明示されていた ③.権利を濫用したもの ④.使用者の任意の判断により延長されており ⑤.反復して更新されており ⑥.一度も更新されることなく期間が満了し ⑦.疑念を生じさせる特段の事情 ⑧.期待することの主観的な意思のみ ⑨.解雇予告義務を免れることを目的としたもの ⑩.期待することに合理的な理由 ⑪.労働者の同意なしに一方的にされたもの ⑫.期待することを示す書面上の証拠
【解答】 A → ⑤(反復して更新されており) B → ⑩(期待することに合理的な理由) C → ③(権利を濫用したもの)
【解説】
• Aの解説:雇止め法理の適用を受けるための第一の類型は、有期労働契約が「反復して更新されており」(⑤)、実質において無期契約と変わらない状態になっている場合である。④「使用者の任意の判断により延長されており」は使用者側の裁量を強調するものであり、継続性という本質を欠く。⑥「一度も更新されることなく期間が満了し」は本件の事実と正反対であり誤りである。
• Bの解説:第二の類型は、労働者が更新を「期待することに合理的な理由」(⑩)が客観的に存する場合である。⑧「期待することの主観的な意思のみ」は客観性を欠くため誤り。⑫「期待することを示す書面上の証拠」は書面の存在のみに要件を限定しており、実態に基づく客観的判断を要する本判例の趣旨と異なる。
• Cの解説:本判例の結論として、更新拒絶(雇止め)が「権利を濫用したもの」(③)に当たる場合には無効となる。この法理は後に労働契約法第19条に成文化された。①「公序良俗に違反するもの」は民法第90条の概念であり、本件で用いられた法的構成(解雇権濫用法理の類推適用)とは異なる。⑨「解雇予告義務を免れることを目的としたもの」は本件の争点とは無関係である。
【判例情報】 事件名:日立メディコ事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:昭和61年12月4日
第53問:広島中央保健生協(C生協病院)事件
【科目】労働に関する一般常識
【問題】
(事案の概要) Yが運営する病院に看護師として勤務していたXは、副主任の職位を有していたが、産前産後休業及び育児休業を取得した。育児休業終了後の職場復帰に際し、Yは業務上の都合を理由として別の病棟への異動と副主任職位の解除を伴う降格措置を行った。Xはこの降格措置が育児・介護休業法10条の禁ずる不利益な取扱いにあたると主張し、損害賠償等を求めて訴訟を提起した。原審においてXの請求が棄却されたため、Xが上告した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「育児・介護休業法10条が、育児休業の申出又は取得を理由として( A )ことからすれば、産前産後休業及び育児休業の取得前後に降格の措置がとられた場合には、特段の事情が存しない限り、当該措置は同条の禁ずる不利益な取扱いに当たると解するのが相当である。 このような同条の( B )に照らせば、使用者が育児休業取得後の労働者に対して降格措置をとるに際しては、業務上の必要性にとどまらず、より限定的な事情の証明が求められると解するのが相当である。 したがって、本件における副主任職位の解除は、Xが( C )ことが客観的に認められる特段の事情が存しない限り、同条に違反する不利益な取扱いにあたると判断される。」
【選択肢】
①.育児休業取得期間中の雇用安定という制度設計の意図 ②.仕事と育児の両立支援という立法趣旨 ③.業務上の真の必要性があり代替措置が講じられた ④.解雇のみを禁止の対象として定めている ⑤.事業主が労働者に不利益な取扱いをすることを禁止している ⑥.職場復帰後に同等の職位に就ける見込みがあった ⑦.育児期間中の短時間勤務制度を普及させるという行政上の目標 ⑧.仕事と生活の調和を促進するという社会政策上の要請 ⑨.人事考課上の正当な理由が明確に示されていた ⑩.自由な意思に基づいて当該降格措置に同意していた ⑪.育児休業取得を事実上抑制する行為を防止している ⑫.育児休業取得者の原職復帰を確保するという政策目標
【解答】 A → ⑤ B → ② C → ⑩
【解説】
Aの解説:育児・介護休業法10条は、育児休業の「申出又は取得を理由として」行われる解雇その他の不利益取扱いを事業主に禁止している。④は「解雇のみ」と限定する点で誤りであり、⑪は条文の文言から離れた間接的な表現で不正確。⑤は同条の直接の法的効果を正確に示しており正答となる。
Bの解説:同条の趣旨は、育児休業取得を理由とした不利益取扱いを防ぐことで仕事と育児の両立を実現し、育児休業制度を実効的に機能させることにある。⑧は労働施策総合推進法に近い表現、①は趣旨の一側面に偏り、⑫は「原職復帰」に限定するなど、いずれも育児・介護休業法10条の立法趣旨として不正確。②が正答。
Cの解説:最高裁は、降格措置が適法とされる特段の事情として「労働者が自由な意思に基づいて当該降格措置に同意していた」ことを示した。③は使用者側の必要性・代替措置であり、労働者の自由な同意とは別の要件。⑥・⑨は同法上の例外事由として認められない。⑩が正答となる。
【判例情報】 事件名:広島中央保健生協(C生協病院)事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:平成26年10月23日(平成25年(受)第1240号)
第54問:国・中労委(ビクターサービスエンジニアリング)事件
【科目】労働に関する一般常識
【問題】
(事案の概要) ビクターサービスエンジニアリング株式会社は、家電製品の修理業務を行うカスタマーエンジニアと業務委託契約を締結しており、法人格を有する者も含む修理担当者を業務委託者として扱っていた。修理担当者らは会社所定の業務マニュアルに従い顧客先で修理作業を遂行し、その報酬は修理件数に応じた歩合で会社が一方的に決定していた。彼らが労働組合を結成して団体交渉を申し入れたところ、会社は彼らが「労働組合法上の労働者」に当たらないとして交渉を拒否した。中央労働委員会は不当労働行為の成立を認定したが、会社はその取消しを求めて訴訟を提起した。本件では、業務委託契約の形式をとる修理担当者が労働組合法第3条の「労働者」に該当するかどうかが中心的な争点となった。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働組合法第3条にいう労働者に当たるか否かは、契約の形式のいかんにかかわらず、( A )かどうかという観点から実質的に判断すべきである。本件のカスタマーエンジニアらは、会社の定める業務マニュアルに従って修理作業を行い、その報酬額も会社によって一方的に決定されていた事実に照らせば、( B )が認められるといわなければならない。したがって、これらの者は業務委託契約という形式にかかわらず( C )に当たり、会社には団体交渉に誠実に応ずべき法的義務が生ずるものと解される。」
【選択肢】
①.使用者の事業組織に組み入れられ、その指揮命令を受けながら継続的に役務を提供している ②.業務の完成に対する報酬が保証され、自ら工程や手順を自由に決定できる ③.複数の取引先と対等な立場で個別の業務条件を交渉する権限を有している ④.労働の対価として定期的・固定的な給与の支払いが契約上確保されている ⑤.労働組合法上の使用従属性 ⑥.独立した事業者としての自律性 ⑦.業務委託契約上の当事者対等性 ⑧.複数の発注者との競争的取引に基づく専門的自立性 ⑨.労働組合法第3条に規定する労働者 ⑩.労働基準法第9条に規定する労働者 ⑪.個人事業主として事業を営む独立請負人 ⑫.委任契約に基づき専門的役務を提供する受任者
【解答】 A → ① B → ⑤ C → ⑨
【解説】
Aの解説:労組法上の労働者性の判断は契約の形式ではなく実質を重視し、「使用者の事業組織への組み入れ」と「指揮命令下での継続的な役務提供」が核心的な基準となる。②は業務完成・自律的決定という独立事業者の特徴、③は対等な交渉力、④は定期固定給与の有無を問うものであり、いずれも労組法上の労働者性とは異なる要素であることから誤り。
Bの解説:本件では業務マニュアルへの服従と報酬の一方的決定という事実が認定されており、これは「労働組合法上の使用従属性」の存在を直接裏付ける。⑥の自律性・⑦の対等性・⑧の専門的自立性は従属性の存在と矛盾するため誤り。
Cの解説:最高裁は本件カスタマーエンジニアが「労働組合法第3条に規定する労働者」に当たると判断した。⑩「労働基準法第9条の労働者」は使用従属性をより厳格に要求する概念で、労組法上の労働者よりも範囲が狭く、本件の結論とは異なる。⑪・⑫は独立事業者・受任者としての評価であり誤り。
【判例情報】 事件名:国・中労委(ビクターサービスエンジニアリング)事件 裁判所:最高裁判所第三小法廷 判決年月日:平成24年2月21日
第55問:大阪医科薬科大学事件
【科目】労働に関する一般常識
【問題】
(事案の概要) 大阪の医薬系私立大学(Y大学)では、正職員と有期雇用のアルバイト職員との間で、賞与の支給をはじめとする複数の労働条件に相違が設けられていた。アルバイト職員として勤務していたXは、正職員と比較した賞与不支給の取扱いが旧労働契約法第20条(現:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律第8条)の規定する不合理な待遇格差の禁止に反すると主張し、賞与相当額の損害賠償を求めて提訴した。第一審・第二審ではXの請求が一部認容されたが、上告審において最高裁が判断を示した。 最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「有期雇用労働者と無期雇用労働者との間の労働条件の相違が旧労働契約法20条にいう不合理と認められるものか否かの判断に当たっては、( A )を考慮して、当該相違が不合理と評価できるかを検討しなければならない。 Y大学における正職員の賞与は、その支給実態及び経緯からすれば、( B )という性質を有するものと解するのが相当であり、アルバイト職員との職務内容等の相違に対応するものとして合理的な根拠を有する。 したがって、本件のアルバイト職員と正職員との間の賞与に係る相違は、旧労働契約法20条にいう( C )には当たらないと判断される。」
【選択肢】
①.職務の内容及び賃金水準その他の個別的な労働条件に関する事情 ②.正職員の職務遂行に対する意欲向上と継続的な貢献への対価 ③.雇用形態の相違とこれに伴う会社への帰属意識の程度に関する事情 ④.公序良俗に反するもの ⑤.業績連動型の利益分配を目的とする変動的報酬 ⑥.不合理と認められるもの ⑦.職務の内容並びに職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情 ⑧.均等待遇に関する法令上の禁止行為に当たるもの ⑨.使用者の裁量により支給される恩恵的給付としての対価 ⑩.労働者の技能・経験・能力及び将来的な職業キャリアの見通し ⑪.基本給の補完として算定された定期的な生活補助給付 ⑫.不当労働行為に該当するもの
【解答】 A → ⑦(職務の内容並びに職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情) B → ②(正職員の職務遂行に対する意欲向上と継続的な貢献への対価) C → ⑥(不合理と認められるもの)
【解説】
• Aの解説:旧労働契約法第20条(現・短時間・有期雇用労働者法第8条)は、有期雇用と無期雇用との待遇差が不合理か否かを判断する際、「職務の内容」「職務内容及び配置の変更の範囲」「その他の事情」の3要素を考慮すると規定する。⑦がこれを正確に示した正答。①は「賃金水準」を考慮要素に含める点で法律の文言と異なり誤り。③は「帰属意識」という非法定の要素を含むため誤り。
• Bの解説:最高裁は、Y大学の正職員に支給される賞与が「正職員としての職務遂行への意欲向上及び継続的な勤務・貢献への対価」としての性質を持つと認定した。②がこれに対応する正答。⑨(恩恵的給付)は使用者の裁量を強調しすぎており性質の把握として不正確。⑤(業績連動型)は本件の賞与の性質と異なる。
• Cの解説:最高裁は、本件賞与格差が旧労契法20条の「不合理と認められるもの」には当たらないと結論付けた。⑥がその法的評価を示す語句として正答。⑧(均等待遇違反)・⑫(不当労働行為)はいずれも本件に適用される法的評価として的外れ。④(公序良俗違反)も本件の争点とは異なる根拠。
【判例情報】 事件名:大阪医科薬科大学事件 裁判所:最高裁判所第三小法廷 判決年月日:令和2年10月13日(令和元年(受)第925号)
第56問:パナソニックプラズマディスプレイ(パスコ)事件
【科目】労働に関する一般常識(労働者派遣法)
【問題】
(事案の概要) XはY2(パスコ)との間で労働契約を締結し、Y2とパナソニックプラズマディスプレイ株式会社(Y1)との間の業務委託(請負)契約に基づき、Y1の工場において製造業務に従事した。しかし、その実態はY1がXを直接指揮命令するものであり、当時の労働者派遣法が製造業への派遣を禁止していたことから、いわゆる偽装請負として違法な労働者派遣にあたるとされた。この状態が約3年間継続したため、Xは派遣先Y1との間に黙示の労働契約が成立していると主張し、Y1に対して雇用契約上の地位確認と賃金の支払いを請求した。第一審・原審がXの請求を一部認容したため、Y1が上告した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働者派遣法の規制に違反する違法な派遣就労の状態が継続していたとしても、( A )がない以上、当然に派遣先との間に黙示の労働契約が成立するとみることはできない。 黙示の労働契約の成立には、使用者となるべき者から労働者への( B )及びこれに対する労働者の承諾の意思が必要であって、労働者派遣法はこの要件を不要とする旨を定めるものではない。 したがって、本件においてY1がXに対し業務の指示・指揮命令を行ったという事実のみでは、( C )には至らないというべきである。」
【選択肢】
①.使用者たる地位の自動的な取得 ②.黙示の合意による雇用条件の決定 ③.黙示による労働契約の申込みの意思表示 ④.業務指揮命令に伴う使用従属性の発生 ⑤.直接雇用義務の適法な履行 ⑥.賃金支払義務を伴う継続的雇用関係 ⑦.黙示の労働契約の成立を基礎付ける事由 ⑧.不当労働行為の構成要件該当事実 ⑨.派遣先事業主から労働者への雇用の申込み ⑩.賃金請求権の発生原因 ⑪.偽装請負状態の実質的解消 ⑫.使用者からの業務委託関係の解除
【解答】 A → ⑨(派遣先事業主から労働者への雇用の申込み) B → ③(黙示による労働契約の申込みの意思表示) C → ⑦(黙示の労働契約の成立を基礎付ける事由)
【解説】
Aの解説:⑨「派遣先事業主から労働者への雇用の申込み」が正答。本件の核心は、違法な派遣就労が継続していたとしても、派遣先から労働者に対して雇用の申込み(黙示のものを含む)がない限り、黙示の労働契約は当然には成立しないという点にある。①「使用者たる地位の自動的な取得」は違法派遣により当然に雇用関係が生じるという誤った立場を示す語句であり、本判決が否定したものである。④「業務指揮命令に伴う使用従属性の発生」は使用従属性という一要素を示すにすぎず、「雇用の申込み」という意思表示の問題とは別次元のものである。
Bの解説:③「黙示による労働契約の申込みの意思表示」が正答。黙示の労働契約が成立するためには、申込みと承諾という契約成立の一般原則が適用され、派遣先による指揮命令の事実のみでは申込みの意思表示には該当しない。②「黙示の合意による雇用条件の決定」は労働契約が既に成立している場面での条件交渉を想起させる語句であり、成立要件そのものを示すものではない。⑥「賃金支払義務を伴う継続的雇用関係」は契約が成立した場合の「結果」であって、「成立要件」ではなく不適切である。
Cの解説:⑦「黙示の労働契約の成立を基礎付ける事由」が正答。Y1がXに業務指示・指揮命令を行ったという事実のみでは、黙示の労働契約の成立を基礎付ける事由(申込みの意思表示と評価できる事情)には至らないというのが本判決の具体的結論である。⑧「不当労働行為の構成要件該当事実」は労働組合法の概念であり、本件(労働者派遣法・労働契約の成立)とは無関係な分野の語句である。⑩「賃金請求権の発生原因」は労働契約が成立していた場合に問われる事項であり、本件では契約の成立自体を否定する方向で判断が示されているため文脈上適合しない。
【判例情報】 事件名:パナソニックプラズマディスプレイ(パスコ)事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:平成21年12月18日
第57問:新国立劇場運営財団事件
【科目】労働に関する一般常識
【問題】
(事案の概要) Xは芸術家(バリトン歌手)であり、財団法人新国立劇場運営財団が主催するオペラ公演に出演するため、公演ごとに財団と「出演基本契約」を締結し、出演料の支払いを受けていた。Xおよび同様の契約形態をとる出演者らが加入する労働組合が、財団に対して団体交渉を申し入れたところ、財団はXらが「労組法上の労働者に当たらない」としてこれを拒否した。労働組合はこれを不当労働行為(団体交渉拒否)として中央労働委員会に申立てを行い、最終的に最高裁まで争われた。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働組合法3条は、労働者について民法上の雇用契約の存在を要件としていないから、労組法上の労働者性の判断に当たっては、( A )という点を中心に検討すべきである。 かかる判断手法は、使用者との交渉力の格差を集団的に是正することによって( B )という、労働組合法の目的・趣旨に合致するものである。 本件においてXは、財団との間で反復継続的に公演出演契約を締結し、その芸術的労務は財団の主催する公演事業に( C )ものであって、Xは労組法3条の労働者に当たると解するのが相当である。」
【選択肢】
①.労働契約の有効な成立要件を民法上の意思表示の合致によって判断する ②.契約の形式や名称にかかわらず、使用者の業務に組み込まれて労務を提供し、当該労務に対して対価を得ているか ③.使用者の恣意的な権限行使を抑制し、労働者の身分保障を強化する ④.不可欠なものとして組み込まれている ⑤.付随的なものとして一定期間内に限り利用されている ⑥.労使間の交渉力の格差を集団的に解消し、労働条件の維持改善を実現する ⑦.当事者が契約締結に際して示した意思の解釈に基づいて法的性質を確定する ⑧.労働者個人が使用者に対して対等な立場で交渉できる環境を確保する ⑨.補完的なものとして随時活用されている ⑩.民法の規定する雇用契約の要件に照らして形式的に判断する ⑪.国が労使関係に積極的に介入し、労使の均衡を行政的に調整する ⑫.代替可能な役務として市場から調達されている
【解答】 A → ② B → ⑥ C → ④
【解説】
Aの解説:労組法上の労働者性の判断では、民法上の雇用契約の有無を問わず、実質的な使用従属関係(業務への組み込みと対価の受取)が基準となる。①「民法上の意思表示の合致」や⑩「民法の雇用契約の要件」は民事上の労働者性の基準であり、労組法の広い保護対象と混同した誤答である。⑦「意思の解釈に基づく法的性質の確定」は契約解釈の問題にすぎず、従属性という実質的要件を見逃した誤答である。
Bの解説:労働組合法の目的は、交渉力の格差を集団的手段によって補正することで労働条件の維持改善を図ることにある。⑧「個人が対等な立場で交渉できる環境」は個別交渉の文脈であり、③「身分保障の強化」は解雇保護を念頭に置いた誤答、⑪「国が行政的に調整する」は労使自治的解決を目指す労組法の趣旨とは異なる。
Cの解説:本件の結論部分は、Xの芸術的労務が財団の公演事業に「不可欠なものとして組み込まれている」という点にある。⑨「補完的」、⑤「付随的・一定期間内」、⑫「代替可能な役務として市場から調達」はいずれも「組み込み性」と「不可欠性」を否定する表現であり、誤答として適切な紛らわしさを持つ。
【判例情報】 事件名:新国立劇場運営財団事件 裁判所:最高裁判所第三小法廷 判決年月日:平成23年4月12日(平成19年(行ツ)第47号)
第58問:電通事件
【科目】労働に関する一般常識
【問題】
(事案の概要) 大手広告代理店に勤務する入社2年目の男性労働者Xは、月100時間を超える長時間の時間外労働を繰り返し、入社後約1年4か月でうつ病を発症して自殺した。Xの父母は、会社が過重労働を認識しながら適切な対処をしなかったとして損害賠償を請求した。原審は使用者の過失を認めつつも、Xに神経症的傾向があったとして賠償額の一部を減額した。最高裁判所は、使用者の負う注意義務の内容と過失相殺の適否を中心に判断を示した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことのないよう( A )を講じる義務を負うと解するのが相当である。 かかる義務の根拠は、労働者が( B )という雇用契約の性質に求められる。使用者は、過重な業務によって労働者の健康状態が悪化するおそれを認識しながら業務量の軽減等の措置をとらなかったのであるから、心因的要因があることのみを理由に賠償額を大幅に減額することは、公平の観念に照らして相当でない。 したがって、本件において過重労働を放置した使用者の行為は( C )に当たり、使用者はXの死亡に係る損害を賠償する義務を負う。」
【選択肢】
①.賃金の全額払いを担保するための適切な管理 ②.労働者が使用者の指揮命令に服し自ら業務量を決定できない ③.就業規則を整備して職場規律を維持するための合理的基準 ④.安全配慮義務に違反する債務不履行 ⑤.労使対等の立場で条件を自由に交渉できる関係 ⑥.不当解雇(解雇権の濫用)に当たる違法な行為 ⑦.過重労働から労働者を保護するための必要な措置 ⑧.労働者が職場環境のリスクを自ら引き受けた自己責任的な関係 ⑨.均等待遇の原則に反する差別的処遇 ⑩.時間外労働の協定(36協定)を締結し法的免責を得ること ⑪.使用者が無過失責任を負う絶対的な安全保証義務 ⑫.不当労働行為(支配介入)に当たる違法な干渉
【解答】 A → ⑦ B → ② C → ④
【解説】
Aの解説:使用者の義務の具体的内容として「過重労働から労働者を保護するための必要な措置を講じること」が正答である。誤答の①は賃金支払い義務(労働基準法24条)であり安全配慮とは別問題。⑩は36協定の締結による法令上の免責に関するものであり、むしろ時間外労働を可能とする手続であって本件の保護義務とは方向が逆になる。
Bの解説:安全配慮義務の根拠は「労働者が使用者の指揮命令に服し自ら業務量を決定できない」という雇用契約の従属的性質にある。⑤の「労使対等の立場で交渉できる関係」は理念的表現であって実態に反し、⑧の「自己責任的な関係」は義務の発生根拠として誤り。⑪の「無過失責任を負う絶対的安全保証義務」は義務の程度を誇張したもので判例の趣旨と異なる。
Cの解説:最高裁は本件使用者の行為を「安全配慮義務に違反する債務不履行」と評価した。⑥(不当解雇)や⑨(差別的処遇)、⑫(不当労働行為)はいずれも本件とは異なる法律関係に関するものであり、本件の法的評価としては不適切である。
【判例情報】 事件名:電通事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:平成12年3月24日(民集54巻3号1155頁)
第59問:みちのく銀行事件
【科目】労働に関する一般常識
【問題】
(事案の概要) Y銀行は、経営環境の変化に対応するため、従来の年功型賃金制度を廃止し、成果・業績主義に基づく新たな賃金体系へと移行する就業規則の改定を行った。この変更により、特に中高年層の行員については将来受け取る予定であった賃金・退職金が大幅に減少することとなった。Y銀行は行員の過半数で組織する労働組合の同意を得た上で変更を実施したが、Xら一部行員は当該変更は合理性を欠き無効であるとして争った。最高裁判所は、賃金・退職金等の重要な権利・労働条件に係る就業規則の不利益変更の効力判断について、初めて包括的な判断基準を提示した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「就業規則の変更によって既存の労働契約内容たる労働条件を一方的に変更することは原則としてできないが、当該変更が( A )ものである場合には、個々の労働者が就業規則の変更に同意していなくても、変更後の就業規則の定めが労働条件の内容となる。 変更の合理性の有無は、労働者の受ける不利益の程度、( B )、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯その他の事情を総合考慮して判断すべきである。 賃金・退職金など労働者にとって重要な権利・労働条件に関する不利益変更には、( C )が存することが必要であり、そうでなければ当該変更の合理性を認めることは相当でない。」
【選択肢】
①.周知の手続きを完了した ②.合理性を有する ③.使用者側の変更の必要性の内容・程度 ④.やむを得ない業務上の必要性 ⑤.社会通念上相当と認められる ⑥.高度の必要性 ⑦.変更の経緯及び手続きの適正性 ⑧.合理的な経営上の必要性 ⑨.労使間において実質的な合意が形成された ⑩.変更の内容が業界水準に適合した ⑪.不可避の経営上の要請 ⑫.特段の事情に基づく相当な必要性
【解答】 A → ②(合理性を有する) B → ③(使用者側の変更の必要性の内容・程度) C → ⑥(高度の必要性)
【解説】
Aの解説:就業規則の不利益変更が個別の労働者の同意なく効力を生ずるためには、当該変更が「合理性を有する」ことが必要である(労働契約法10条の前身となる旧労基法93条、本判決の判示)。「周知の手続きを完了した」は周知要件であり合理性要件とは別の話。「社会通念上相当と認められる」や「労使間において実質的な合意が形成された」は必要十分条件を正確に示すものではなく誤り。
Bの解説:みちのく銀行事件判決が示した合理性判断の考慮要素は5つあり、判旨に既に示された4要素(①不利益の程度、③変更後内容の相当性、④代償措置等、⑤交渉経緯)と並ぶ第2の要素「使用者側の変更の必要性の内容・程度」が正答。「変更の経緯及び手続きの適正性」は⑤(交渉の経緯)と重複し、「変更の内容が業界水準に適合した」は判決が示した要素にない。
Cの解説:最高裁は、賃金・退職金等の重要な権利・労働条件に関する不利益変更には「高度の必要性」が必要と判示した。「やむを得ない業務上の必要性」は配転・出向命令の適法性(東亜ペイント事件等)の基準であり本件とは異なる文脈。「合理的な経営上の必要性」「不可避の経営上の要請」「特段の事情に基づく相当な必要性」はいずれも判決の要求水準より低い概念であり不十分。
【判例情報】 事件名:みちのく銀行事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:平成12年9月7日(平成9年(オ)第1739号)
第60問:東芝柳町工場事件
【科目】労働に関する一般常識
【問題】
(事案の概要) Xは、Y会社(大手電機メーカー)の工場において、2ヶ月を期間とする有期労働契約を締結して採用されたが、その後5年以上にわたって同様の契約が繰り返し更新されてきた。Y会社は、経営方針の変更を理由として工場の臨時工全員を整理する方針を決定し、Xに対して期間満了をもって雇い止めにする旨を通告した。Xは、この雇い止めは実質的に解雇に当たると主張し、雇用関係の存続確認と賃金の支払いを求めて訴えを提起した。原審はXの主張を認容したため、Y会社が上告に及んだ。本件の中心的争点は、長期間にわたり反復更新された有期労働契約の終了(雇い止め)に、解雇に関する法理が類推適用されるかどうかであった。 最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「本件各労働契約は、期間の定めのある契約であるとはいえ、( A )ことにより、実質において期間の定めのない契約と異ならない状態で存在していたといえる。 かかる実態に照らすと、本件における雇い止めは( B )に反するものであって、その効力の判断においては解雇に関する法理が類推適用される。 したがって、本件雇い止めが有効とされるためには、( C )が必要であり、これを欠く場合には、解雇権の濫用として無効と解するのが相当である。」
【選択肢】
① 使用者が明示的な雇用継続の意思表示をしてきた ② 有期雇用労働者と正規雇用労働者との待遇均等を図る立法の趣旨 ③ 労働者に生じた雇用継続への合理的期待 ④ 就業規則に明記された雇用保障条項の存在 ⑤ 使用者の裁量的な経営判断の正当な行使 ⑥ 雇用保険上の特定受給資格者に当たる事由 ⑦ 期間内解雇と同様の「やむを得ない事由」の存在 ⑧ 期間の定めのある契約を反復して更新してきた ⑨ 個別の書面による雇用継続の合意が成立していた ⑩ 整理解雇として認められるための4要素にかかる合理的事情 ⑪ 客観的に合理的な理由かつ社会通念上の相当性 ⑫ 労働組合との交渉による雇用継続協定の締結
【解答】 A → ⑧ B → ③ C → ⑪
【解説】
• Aの解説:本件判断の前提として、有期契約が「⑧期間の定めのある契約を反復して更新してきた」という事実認定が重要である。この反復更新の実態から、実質的な期間の定めのない契約状態が導かれる。①・⑨・⑫は使用者の明示的意思表示や書面合意・組合協定等の形式的要件を示すものであり、黙示的・実質的な継続雇用の実態とは概念が異なる。
• Bの解説:反復更新の実態があることで、労働者には雇用が継続されるという「③労働者に生じた雇用継続への合理的期待」が生じており、雇い止めはこの期待に反するものとして解雇法理が類推適用される。②の「待遇均等を図る立法の趣旨」は労働契約法20条等における不合理な格差解消の趣旨であり、雇い止め法理(同法19条)の趣旨・射程とは異なる。
• Cの解説:解雇に関する法理が類推適用される結果、雇い止めが有効であるためには「⑪客観的に合理的な理由かつ社会通念上の相当性」が必要とされる(現行の労働契約法16条相当)。⑩の「整理解雇の4要素」は経営上の必要性に基づく整理解雇の判断枠組みであり、個別の雇い止めの有効性の基準とは概念が異なる。⑦の「やむを得ない事由」は期間内解雇(労働契約法17条)の基準であり、より厳格な要件が課される別の場面の基準である。
【判例情報】 事件名:東芝柳町工場事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:昭和49年7月22日
第61問:日本食塩製造事件
【科目】労働に関する一般常識
【問題】
(事案の概要) 製造業を営むY社は、社内の多数派労働組合であるA組合との間で、A組合の組合員でなくなった者をY社が解雇することを義務づけるユニオン・ショップ協定を締結していた。Xは長年Y社に勤務するA組合の組合員であったが、支部役員選挙をめぐる内部対立を理由として、A組合の大会決議による除名処分を受けた。Y社はこの除名処分を受けて、ユニオン・ショップ協定を根拠としてXを解雇した。XはA組合の除名処分は正当な手続が踏まれておらず無効であるとして、解雇の無効確認を求めて提訴した。 最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「ユニオン・ショップ協定とは、( A )ことを内容とする協定であって、使用者に対し組合員でなくなった者を解雇する義務を課するものである。しかし、かかる解雇義務は、当該組合員が( B )によって組合員たる地位を適法に失った場合に限り発生するものと解するのが相当である。本件においてA組合によるXへの除名処分が正当な手続を経ずになされた無効なものである以上、YのXに対する解雇は( C )ものといわなければならない。」
【選択肢】
①.使用者が組合員に対して雇用の継続を保障する ②.組合の規約に基づいた手続のみにより有効に除名された ③.正当な手続を経て有効に除名され又は適法に組合を脱退する等 ④.解雇権の濫用にあたり法的効力を生じない ⑤.組合費の長期未納を理由として資格を剥奪された ⑥.使用者が非組合員を採用段階から一切雇用しない ⑦.労働組合法第7条の不当労働行為に該当する ⑧.使用者が非組合員となった者を解雇しなければならない ⑨.使用者が特定組合との団体交渉に誠実に応じる義務を負う ⑩.組合費の納付を怠ったことにより統制処分として懲戒された ⑪.当然に有効として賃金請求権の消滅が認められる ⑫.ユニオン・ショップ協定上の解雇義務の発生を欠く無効な
【解答】 A → ⑧ B → ③ C → ⑫
【解説】
• Aの解説:ユニオン・ショップ協定の内容として、「使用者が非組合員となった者を解雇しなければならないこと」(⑧)が正答。⑥「使用者が非組合員を採用段階から一切雇用しない」はクローズド・ショップ協定の定義であり、ユニオン・ショップ協定(採用後に組合加入を義務づける)とは異なる。①「使用者が組合員に対して雇用の継続を保障する」はユニオン・ショップ協定の内容と真逆であり誤り。
• Bの解説:使用者の解雇義務が生じるのは「正当な手続を経て有効に除名され又は適法に組合を脱退する等」(③)によって適法に組合員たる地位を失った場合に限られる。②「組合の規約に基づいた手続のみにより有効に除名された」は除名の場合だけに限定しており、自発的な脱退の場合を包含しないため不十分。⑤「組合費の長期未納を理由として資格を剥奪された」は手続の正当性という視点が欠けており、③が示す適法性の要件を満たさない。
• Cの解説:除名処分が無効である場合、使用者はユニオン・ショップ協定上の解雇義務を負わないため、当該解雇は「ユニオン・ショップ協定上の解雇義務の発生を欠く無効な」(⑫)ものとなる。④「解雇権の濫用にあたり法的効力を生じない」は労働契約法16条の解雇権濫用法理の論理であり、本件の判旨の核心(協定上の義務が発生しないため解雇の根拠を欠くという構成)とは異なる法律構成である。⑦「労働組合法第7条の不当労働行為に該当する」は不当労働行為救済申立てによる取り消しを想定した構成であり、本判決が採用した法律構成ではない。
【判例情報】 事件名:日本食塩製造事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:昭和50年4月25日(民集29巻4号456頁)
第62問:陸上自衛隊八戸車両整備工場事件
【科目】労働に関する一般常識
【問題】
(事案の概要) 陸上自衛隊の車両整備工場に勤務する自衛隊員Aが、業務中に整備中の大型車両に轢かれ死亡した。Aの遺族は国に対して損害賠償を請求したが、国が自衛隊員に対して安全配慮義務を負うか否か、およびその法的根拠が争われた。原審は国の損害賠償責任を認めたものの、法的構成については一審・二審で判断が分かれた。最高裁は、国と国家公務員との間における安全配慮義務の存在とその法的性質について判示し、本件損害賠償請求権の時効についても言及した。 最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「本件において国は、自衛隊の車両整備工場に勤務する自衛隊員に対し、その生命及び健康等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負うものというべきである。この安全配慮義務は、( A )に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して( B )として一般的に認められるべきものであって、国と国家公務員との間においても別異に解すべき理由はない。そして、本件の損害賠償請求権は、その性質上( C )に服するのであって、国家賠償法の問題ではないと解すべきである。」
【選択肢】
①同一の事業場において継続的に就労する関係 ②民法の消滅時効に関する規定 ③雇用契約により密接な使用従属の関係 ④信義則上負う義務 ⑤不法行為法上の注意義務 ⑥管理監督者として当然に負担すべき義務 ⑦ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係 ⑧公法上の任用関係に基づいて特殊な指揮命令の関係 ⑨国家賠償法の規定 ⑩行政法上の特別権力関係に基づく義務 ⑪法律によって明示的に規定された義務 ⑫不法行為の短期消滅時効に関する規定
【解答】 A → ⑦ B → ④ C → ②
【解説】
• Aの解説:安全配慮義務が認められる関係的基盤として、最高裁は「ある法律関係に基づいて特別な社会的接触の関係」という定式を用いた。この表現は後の川義事件(最高裁昭和59年4月10日)でも踏襲され、私企業の使用者と労働者との間にも安全配慮義務が及ぶことが確立された。①「同一の事業場において継続的に就労する関係」は職場環境を想起させるが、義務の発生根拠を「法律関係に基づく特別な社会的接触」と定式化した判旨の趣旨とは異なる。③「雇用契約により密接な使用従属の関係」は民間の雇用関係を想起させるが、本件は国と公務員の任用関係であり、「ある法律関係」としてより広く捉えた判旨には合致しない。
• Bの解説:安全配慮義務の法的性質として、最高裁は「信義則上負う義務」と位置づけた。これは民法1条2項の信義誠実の原則から導かれる付随義務であり、明示的な契約条項がなくても当然に発生する。⑤「不法行為法上の注意義務」は不法行為の成立要件としての義務であり法的性質が異なる。⑪「法律によって明示的に規定された義務」は法令上の明文規定から生じる義務であり、信義則から導かれる本件の安全配慮義務の性質とは異なる。
• Cの解説:安全配慮義務違反による損害賠償請求権は、債務不履行(付随義務の不履行)に基づくものとされるため、「民法の消滅時効に関する規定」(旧民法167条で10年)が適用される。国家賠償法ではなく民法の規律に服する点が本判決の重要なポイントである。⑨「国家賠償法の規定」は行政作用による損害に適用される規定であり、本件の法的構成とは異なる。⑫「不法行為の短期消滅時効に関する規定」は損害および加害者を知った時から3年(旧法)の消滅時効規定であり、債務不履行に基づく本件には適用されない。
【判例情報】 事件名:陸上自衛隊八戸車両整備工場事件 裁判所:最高裁判所第三小法廷 判決年月日:昭和50年2月25日(昭和48年(オ)第383号)
第63問:メトロコマース事件
【科目】労働に関する一般常識
【問題】
(事案の概要) 都内の地下鉄路線の駅構内売店において販売業務に従事していた契約社員(有期契約労働者)Xら5名は、同種業務に従事する正社員と異なり退職金が一切支給されないという労働条件の相違が旧労働契約法第20条に違反すると主張し、退職金相当額の損害賠償等を求めて訴訟を提起した。控訴審はXらの主張を一部認容し、正社員の退職金の一定割合に相当する金員の支払いを命じた。使用者側が上告し、最高裁は旧労働契約法第20条の解釈及び本件相違の不合理性について判断を示した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「旧労働契約法第20条における不合理性の判断は、( A )という3要素を総合考慮して行うものであり、単一要素のみをもって判断してはならない。退職金は( B )という多様な性格を有することから、その支給の有無・内容は使用者の人事施策上の裁量に委ねられた部分が大きい。本件における退職金の不支給という相違は、( C )には当たらないと判断するのが相当である。」
【選択肢】
①.正社員と同一の処遇を求める権利を侵害するもの ②.在職中の賃金水準の均等化及び職務給の確定 ③.業務の種類、勤務時間の長短及び成果の達成度 ④.労働者の退職後の生活保障及び中途退職抑制ないし功労報償 ⑤.安全配慮義務違反に基づく損害賠償義務を生じさせるもの ⑥.職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲、その他の事情 ⑦.民法上の不法行為責任を構成するもの ⑧.不合理と認められるもの ⑨.功労報償的性格のみを有するもの ⑩.労働基準法上の均等待遇原則に違反するもの ⑪.退職後の競業を制限するための対価 ⑫.合理的な労働条件の範囲を逸脱するもの
【解答】 A → ⑥ B → ④ C → ⑧
【解説】
Aの解説:旧労働契約法第20条(現:パートタイム・有期雇用労働法第8条)は、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理か否かを「①職務の内容(業務の内容及び責任の程度)、②職務の内容及び配置の変更の範囲、③その他の事情」の3要素を総合考慮して判断することを求めている(⑥が正答)。③「業務の種類、勤務時間の長短及び成果の達成度」は本条の考慮要素ではなく誤り。②「在職中の賃金水準の均等化及び職務給の確定」も条文上の要素とは異なる概念である。
Bの解説:最高裁は、退職金制度が「労働者の長年の貢献への功労報償」「退職後の生活保障」「賃金の後払い」「中途退職の抑制」など複合的な性格を有することを認めた(④が正答)。⑨「功労報償的性格のみを有するもの」は退職金の性格の一側面に過ぎず、最高裁の判断とは異なる。⑪「退職後の競業を制限するための対価」は競業避止特約に関する概念であり、一般的な退職金制度の性格説明とは異なる。
Cの解説:本件において最高裁は、契約社員への退職金不支給は「不合理と認められるもの」(旧労働契約法第20条に違反するもの)には当たらないと判断した(⑧が正答)。その理由として、退職金は長期継続勤務を前提とした制度であり、幹部候補として育成される正社員との相違には合理的な根拠があるとした。控訴審が認めた退職金の一定割合の支払い義務も否定された。①「正社員と同一の処遇を求める権利を侵害するもの」や⑩「労働基準法上の均等待遇原則に違反するもの」は、旧労働契約法第20条が「不合理な差異を禁ずる」規定であり「同一処遇を義務付ける」規定でないため誤り。
【判例情報】 事件名:メトロコマース事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:令和2年10月13日
労働者災害補償保険法
第64問:大阪南労基署長(大阪府立羽曳野病院)事件
【科目】労働者災害補償保険法
【問題】
(事案の概要) 大阪府立羽曳野病院(結核専門の療養所)に准看護師として勤務するXは、結核患者と日常的に直接接触する業務に継続的に従事していたところ、肺結核を発症した。所轄の大阪南労働基準監督署長は当該疾病を業務上の疾病とは認めず療養補償給付の不支給処分を行ったため、Xは審査請求・再審査請求を経て取消訴訟を提起した。本件では、結核療養所における看護業務と肺結核発症との間に業務起因性が認められるか否かが主たる争点とされ、最高裁判所は業務上の疾病の認定に係る一般的判断基準を明示した上で本件に対する判断を示した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「業務上の疾病として認められるためには、業務と当該疾病との間に( A )ことが必要であり、これを業務起因性と呼ぶ。業務起因性の判断に際してはまず業務遂行性、すなわち使用者の支配管理下において当該業務に従事していたことが前提とされるが、業務遂行性は( B )にすぎず、業務遂行性が肯定されるだけでは足りない。業務に内在または通常随伴する危険が現実化したものと認められてはじめて業務起因性が肯定されるところ、本件においてXは結核患者と直接接触する業務に継続的に従事し感染の機会が類型的に高い状況に置かれていたことが明らかであるから、Xの肺結核は( C )と解すべきである。」
【選択肢】
①.業務起因性認定の十分条件として機能するもの ②.業務外の疾病として保険給付の対象外となる ③.条件関係(sine qua non)が成立する ④.相当因果関係が認められる ⑤.業務上の疾病として遺族補償給付の対象となる ⑥.業務起因性認定の必要条件であり十分条件でもあるもの ⑦.相当程度の蓋然性が認められる ⑧.業務起因性認定の必要条件 ⑨.業務上の疾病として休業補償給付の対象となる ⑩.医学上の因果関係が科学的に証明されている ⑪.業務起因性と同一の概念として一体的に取り扱われるもの ⑫.業務上の疾病として療養補償給付の対象となる
【解答】 A → ④ B → ⑧ C → ⑫
【解説】
Aの解説:業務起因性の本質は、業務と疾病との間に相当因果関係が認められる(④)ことにある。「相当因果関係説」は業務起因性の認定基準として確立しており、医学的に厳密な因果関係の証明までを要求するものではない。③「条件関係(sine qua non)が成立する」は「その行為がなければ結果は生じなかった」という広い因果概念であり、法的評価としての相当性を欠く点で異なる。⑦「相当程度の蓋然性が認められる」は因果関係の判断水準を「相当因果関係」から「蓋然性」に置き換えるもので基準として不正確であり誤り。⑩「医学上の因果関係が科学的に証明されている」は法的評価と医学的判断を混同させる誤答であり、実務上も科学的証明まで要求されていない。
Bの解説:業務遂行性は業務起因性認定の必要条件(⑧)にすぎず、業務遂行性が肯定されただけで業務起因性が当然に認められるものではない。両者はそれぞれ独立した概念として区別して理解することが重要である。①「業務起因性認定の十分条件として機能するもの」は必要条件と十分条件の方向を逆にした誤答であり、業務遂行性のみで業務起因性が肯定されるかのような誤解を招く。⑥「業務起因性認定の必要条件であり十分条件でもあるもの」は一見丁寧な記述に見えるが、十分条件まで充足するとした点で本判決の趣旨と相反する(最も誤答しやすい選択肢)。⑪「業務起因性と同一の概念として一体的に取り扱われるもの」は業務遂行性と業務起因性を混同させる誤答である。
Cの解説:結核患者と直接接触する看護業務に継続的に従事していたXの肺結核は、業務上の疾病として療養補償給付の対象となる(⑫)というのが本件の結論である。Xが求めていた給付は療養補償給付であり、給付種別の選択が正確に問われる部分である。⑤「遺族補償給付」はXが死亡した場合に支給されるものであり、本件の事実関係に合致しない。⑨「休業補償給付」も給付種別を誤るものであり、療養を必要とする本件においてXが第一次的に求めた給付ではない(⑤と⑨はいずれも種別を誤った紛らわしい誤答)。②「業務外の疾病として給付対象外となる」は本判決が明確に否定した結論であり誤りである。
【判例情報】 事件名:大阪南労基署長(大阪府立羽曳野病院)事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:昭和51年11月12日(民集30巻10号957頁)
第65問:横浜南労基署長(旭紙業)事件
【科目】労働者災害補償保険法
【問題】
(事案の概要) 木材・紙製品の販売を行う会社Yとの間で運送請負契約を締結し、自己所有のトラックを使用して 貨物の運送業務に従事していたXは、業務中に交通事故に遭い負傷した。Xは当該事故が業務災害 に当たるとして所轄の横浜南労働基準監督署長に対し療養補償給付の支給を申請したが、監督署長 はXが労働者災害補償保険法上の「労働者」に該当しないとして不支給処分を行った。Xは審査請 求・再審査請求を経て取消訴訟を提起し、運送請負契約の形式で就労するトラック運転手が労基法 第9条にいう「労働者」に該当するか否かが主たる争点となった。Yはトラック等の機械器具の費用 をXが自ら負担していた点をはじめとする諸事情を挙げ、Xは自立した事業者であると主張した。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労働者災害補償保険法は労働基準法第9条の定義を援用しており、同条にいう労働者とは、職業 の種類を問わず、事業または事務所に使用され、賃金を支払われる者をいうところ、労働者に該当 するか否かは契約の形式のみによって判断されるものではなく、( A )かどうかという実態に 即した観点から判断されなければならない。この使用従属関係の判断に当たっては、諾否の自由の 有無・仕事の依頼への拘束の程度・指揮監督の実態にとどまらず、( B )も重要な判断要素 として総合的に考慮すべきものと解される。本件においては、Xが自己所有のトラックを使用し運 送にかかる諸費用も自ら負担していたこと等の事情を総合すると、Xは( C )。」
【選択肢】
①.専属的・継続的に業務に服することが契約上義務づけられている ②.使用者の具体的な指揮命令の下に労務を提供している ③.機械器具の所有関係および報酬の労務対価性 ④.独立した事業者として事業上のリスクを自ら負担している ⑤.業務の内容および遂行方法について諾否の自由が完全に排除されている ⑥.報酬の算定方式および支払形態の実態 ⑦.労基法第9条所定の労働者に該当し保険給付を受けることができると判断される ⑧.労働者性の有無にかかわらず特別加入制度により保護されると判断される ⑨.使用者の事業組織に不可欠な労働力として継続的に組み入れられている ⑩.契約形式から判断して請負人として労組法上の労働者に当たると判断される ⑪.労基法第9条所定の労働者には該当しないと判断される ⑫.労働契約法第2条所定の労働者として保護の対象となると判断される
【解答】 A → ② B → ③ C → ⑪
【解説】
Aの解説:労働者性の判断において中核となる基準は、使用者の具体的な指揮命令の下に労務を提供している(②)かどうかという使用従属関係の有無である。最高裁は契約の名称や形式にかかわらず就労の実態に即して判断すべきと明示し、指揮命令下での労務提供という要素を労働者性判断の基軸に据えた。①「専属的・継続的に業務に服することが契約上義務づけられている」は専属性・継続性という補完的要素を示すにとどまり、使用従属関係という本質的基準を置き換えるには不十分であるため誤りである。⑨「使用者の事業組織に不可欠な労働力として継続的に組み入れられている」は労組法上の労働者性(INAXメンテナンス事件)で重視された基準であり、労基法・労災保険法上の労働者性の判断基準とは論拠が異なる(最も誤答しやすい選択肢)。⑤「諾否の自由が完全に排除されている」は判断要素の一つではあるが「完全に排除」という絶対的な表現が過剰であり判断基準として不正確である。
Bの解説:使用従属関係の判断において指揮監督の実態に加えて考慮すべき重要な要素は、機械器具の所有関係および報酬の労務対価性(③)である。最高裁は自己所有のトラックを用いて諸費用を自ら負担していた点を重視しており、設備・器具を自ら保有し経済的リスクを負担することは独立した事業者としての性格を示す有力な指標とされた。⑥「報酬の算定方式および支払形態の実態」は報酬の側面のみを取り出した記述であり、機械器具の所有関係という本件で決定的な要素を欠くため不完全な誤答である。④「独立した事業者として事業上のリスクを自ら負担している」はYの主張の方向を示す記述であって、労働者性を肯定する判断要素ではなく否定する評価に相当する内容であるため誤りである。①「専属的・継続的に業務に服することが契約上義務づけられている」は補完的考慮要素の一つではあるが、Bの文脈で求められる「器具の所有・報酬の性格」という本件の核心的要素を示していない。
Cの解説:自己所有のトラックを使用し運送費用も自ら負担していたXは、諸事情を総合した結果、労基法第9条所定の労働者には該当しないと判断される(⑪)というのが最高裁の結論であり、不支給処分は適法と確定した。⑦「労基法第9条所定の労働者に該当し保険給付を受けることができると判断される」は本判決の結論と正反対の誤答である。⑧「労働者性の有無にかかわらず特別加入制度により保護されると判断される」は特別加入制度(労災保険法第33条以下)に言及した一見もっともらしい誤答であるが、特別加入の可否は本件の争点ではなく、最高裁はあくまで労働者性の判断に絞って結論を示しており誤りである。⑫「労働契約法第2条所定の労働者として保護の対象となると判断される」は適用法令を誤るものであり、本件は労契法制定前の事案であるうえ労災保険法上の論点とも整合しない。
【判例情報】 事件名:横浜南労基署長(旭紙業)事件 裁判所:最高裁判所第二小法廷 判決年月日:平成8年11月28日(労判714号14頁)
第66問:横浜南労基署長(旭紙業)事件
【科目】労働者災害補償保険法
【問題】
(事案の概要) Xは、運送会社Aとの間に形式上の請負契約を締結し、自己所有のトラックを用いて貨物の集配業務に従事していた。作業中に負傷したXが労働者災害補償保険の給付を申請したが、横浜南労基署長はXを形式的な請負業者であるとして「労働者」に当たらないと判断し、給付を不支給とした。Xはこれを不服として取消訴訟を提起し、事件は最高裁判所に至った。本件は、フリーランスや個人事業主の労働者性判断基準を明示した労働法上の先例的重要判例である。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労基法9条にいう『労働者』に当たるかどうかは、( A )があるかどうかを基本的な判断基準とすべきであり、形式的な雇用契約や請負契約の名称・形式に左右されるものではない。 この基準に照らし、当該者への報酬が( B )としての性格を有するかどうかは、使用従属性を補充的に判断するための重要な指標となる。 したがって、本件Xについては、形式的には請負業者であっても、実態として( C )に服して業務を遂行していたと認められるから、労基法上の労働者に該当し、労働者災害補償保険の適用を受けるものと解するのが相当である。」
【選択肢】
①.時間的・場所的な就労義務 ②.使用者との使用従属関係 ③.指揮命令に服すべき法的義務 ④.業務上の専属的拘束関係 ⑤.危険負担の使用者への転嫁 ⑥.提供した労務に対する対価 ⑦.賃金としての固定額の支払い ⑧.事業主としての独立した裁量 ⑨.業務指示の諾否の自由の欠如 ⑩.労働能率に対する歩合的報酬 ⑪.使用者による具体的な指揮監督 ⑫.業務委託に基づく請負の対価
【解答】 A → ②(使用者との使用従属関係) B → ⑥(提供した労務に対する対価) C → ⑪(使用者による具体的な指揮監督)
【解説】
Aの解説:労基法9条の「労働者」該当性は、使用者との「使用従属関係」の有無によって判断される。本件はこの基準を先例として明示した重要判例である。③「指揮命令に服すべき法的義務」は法的義務に言及する点で文脈上不自然であり、また使用従属関係の全体を示す語句としては不十分。④「業務上の専属的拘束関係」は専属性のみを強調しており、判断基準の総体を示す②が正確である。
Bの解説:報酬が「提供した労務に対する対価」としての性格を有するかどうかは、使用従属性を補充的に判断する重要な指標とされる。⑫「業務委託に基づく請負の対価」や⑩「労働能率に対する歩合的報酬」は成果・請負に基づく報酬であって、労務そのものへの対価ではなく誤り。⑦「賃金としての固定額の支払い」は支払形態の一類型にすぎず、判断基準を示す語句として不正確。
Cの解説:本件の結論は、Xが実態として「使用者による具体的な指揮監督」に服して業務を遂行していたという事実認定に基づく。①「時間的・場所的な就労義務」は使用従属性の一判断要素であるが、結論部分で示すべき上位概念としては不適切。⑨「業務指示の諾否の自由の欠如」も使用従属性の一要素ではあるが、「具体的な指揮監督」を包括的に示すものではなく、結論の語句として不正確。
【判例情報】 事件名:横浜南労基署長(旭紙業)事件 裁判所:最高裁判所第三小法廷 判決年月日:昭和61年6月10日(昭和59年(行ツ)第123号)
第67問:炭研精工事件
【科目】労働者災害補償保険法
【問題】
(事案の概要) Xは、製鋼メーカーに勤務する労働者であり、就業終了後の帰宅途中において、修繕に出していた衣類を受け取るため洋服店に立ち寄ったのち、自転車で帰宅する途中に交通事故に遭い負傷した。Xは当該事故が通勤による負傷に該当するとして、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく療養給付を請求した。しかし労働基準監督署長は業務外と認定し請求を棄却したため、Xが取消訴訟を提起した。本件では、洋服店への立ち寄りという私的行為が通勤の「逸脱」に該当するか、及びその後の帰宅行程が通勤災害として保護されるかが争点となった。
最高裁判所は本件について、以下のように判示した。
「労災保険法にいう通勤とは、就業に関し、( A )により行う移動をいうものと解すべきであり、就業のために住居を出発してから就業の場所に到着するまで、又は就業の場所を出発してから住居に到着するまでの経路及び方法が社会通念上合理的と認められるものをいう。 このような通勤の概念が( B )に基づくものであることに照らせば、労働者が通勤の途中において就業とは無関係な私的行為のために通常の経路から逸脱し、または行程を中断した場合、当該逸脱または中断の後の行程は、特段の事情がない限り通勤に当たらないと解するのが相当である。 したがって、本件においてXが洋服店に立ち寄って衣類を受け取った行為は私的な逸脱に該当し、その後の帰宅行程は( C )に当たらず、療養給付の支給対象とはならないと判断される。」
【選択肢】
①.使用者の管理監督が及ぶ範囲を保障する趣旨 ②.通勤による移動 ③.最短の経路及び通常の方法 ④.労働者の就業との密接な関連性を保護する目的 ⑤.業務遂行に伴う移動 ⑥.合理的な経路及び方法 ⑦.日常生活上必要な行為を含む移動 ⑧.通常かつ継続的な経路及び手段 ⑨.業務遂行中の危険から労働者を守る目的 ⑩.使用者の指揮命令下に置かれた移動 ⑪.労働者の日常的な生活行動を広く保護する趣旨 ⑫.就業目的に直接必要な合理的行為
【解答】 A → ⑥(合理的な経路及び方法) B → ④(労働者の就業との密接な関連性を保護する目的) C → ②(通勤による移動)
【解説】
Aの解説:通勤の定義の核心は「合理的な経路及び方法」にあり、これは労災保険法第7条の通勤要件として明示されている文言である。③「最短の経路及び通常の方法」は最短経路のみを要件とするかのように読めるため誤り。実際には複数の合理的経路が許容される。⑧「通常かつ継続的な経路及び手段」は継続性を要件とする点で過度に限定的であり、条文の文言とも一致しない。
Bの解説:通勤災害保護制度の趣旨は、就業との密接な関連性のある移動中に生じた危険を保護することにある。①「使用者の管理監督が及ぶ範囲を保障する趣旨」は業務災害(業務起因性)の概念に近く、通勤災害の趣旨とは異なる。⑪「日常的な生活行動を広く保護する趣旨」は保護の射程を広げすぎており、就業との関連性という本質的要件を欠く点で誤り。
Cの解説:逸脱・中断の後の行程は原則として「通勤による移動」に当たらないというのが本判例の結論である。⑤「業務遂行に伴う移動」は業務災害における概念であり、通勤災害の文脈で用いるのは誤り。⑦「日常生活上必要な行為を含む移動」は現行法の逸脱・中断の例外規定を踏まえた表現であり、本判例が否定した行程の説明としては不正確である。
【判例情報】 事件名:炭研精工事件 裁判所:最高裁判所第一小法廷 判決年月日:昭和51年11月12日(民集30巻10号938頁)
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