冗談の責任を取らない男
前に勤めていた会社で、
隣の部署によく嘘をつく男がいた。
といっても、
大きな嘘ではない。
冗談なのか本気なのか
分からない程度の嘘だ。
ある日、
その男は言った。
「女性の本部長と男性の部長、
できてるらしいよ。」
そんな話を聞けば少し気になる。
本当なのだろうか。
私は他の人に聞いてみた。
すると、
「え?全然違うよ。」
と言われた。
また別の日。
その男は言った。
「昨日辞めた若手、
独立してサウナ経営するらしいよ。」
そうなんだ。
すごいな。
と思ったが、
それも嘘だった。
後から別の人に聞いて知った。
私はだんだん気づき始めた。
この人の話は、
確認しなければ真偽が分からない。
だから他の人に聞く。
すると、
「それ嘘だよ。」
と言われる。
私は嘘をついた側ではない。
嘘を聞かされた側だ。
それなのに、
なぜか確認した私の方が
少しだけ間抜けな立場になる。
なんだか理不尽だった。
一番嫌だったのはランチの件だ。
その男が私の所属部署にチャットで、
「今度みんなでランチ行きましょう!」
と誘ってくれた。
私はすぐ彼に、
「ありがとうございます。
ぜひお願いします!楽しみにしてます!」
と返事をした。
ところが実際にランチへ行った時、
その人は皆の前でこう言った。
「パルペッパーさんだけ
返事くれなかったんだよねー。」
意味が分からなかった。
返事をしたからだ。
でも周りは笑う。
私は否定するのも大人気ない気がして
曖昧に笑った。
別の日には、
私が請求書のコピーを取り
バインダーに挟んでいた時に
大きめの声でこう言われた。
「サボってんのー?」
周りには他の社員もいた。
もちろん仕事中だ。
サボっているわけがない。
本人は冗談のつもりだったのだろう。
でも私は思った。
またか、と。
その男はいつもそうだった。
本部長と部長の噂。
若手のサウナ経営。
返事をしたのに
返事をしていないことにされたランチ。
そして仕事をしているのに
サボっていることにされたこと。
男は適当なことを言う。
周囲は笑う。
そして、
その後の説明や確認や誤解の修正は
全部こちらがやることになる。
私はこういう人が苦手だ。
嘘そのものよりも、
その後始末を他人にやらせるからだ。
本人はコミュニケーションの
つもりだったのかもしれない。
場を盛り上げたかっただけなのかもしれない。
でも私には最後まで分からなかった。
なぜ他人の評価が少しだけ下がる方向の
冗談ばかり選ぶのだろう。
そして、その後の面倒はなぜいつも
相手任せなのだろう。
他人に後始末をさせてまで成立する冗談を、
私は面白いと思えなかった。
あなたの周りにも、
こういう人はいませんか?
※このエッセイは実際の出来事をもとにしたフィクションです。登場人物・団体名は実在のものとは関係ありません。
