自転車小話15~『アームストロング』~
アームストロングと言えば知っている人は多いと思います。
でもジャズの王様ルイ・アームストロングでも、人類初の月面着陸で有名なニール・アームストロングでもありません。ランス・アームストロングという不届き者のことです。なかなか手厳しい表現をしましたが実際にそうなんです。ツール・ド・フランス7連覇しましたがドーピングで全て剥奪され、自転車界から永久追放された男です。とにかく世界中を騙した男です。
もともとアームストロングは10代の頃にアメリカのトッププロカテゴリーで活躍するほどのトライアスリートでした。20歳でプロロード選手に転向、翌年には21歳にしてツール・ド・フランスでステージ優勝、オスロで開催されたロード世界選手権で優勝して世界チャンピオンになってしまうという信じられないほどの能力の持ち主でした。
才能には素晴らしいものがありましたが、性格はやんちゃのようで怖いもの知らず、いかにもテキサス出身のカウボーイといった感じのようでした。プロ転向時にチームから支給された自転車はエディ・メルクスというフレームでした。それを見たアームストロングは「エディ・メルクスって誰だ?」と・・・、周囲はみんな呆れたでしょうね。エディ・メルクスと言えば現在でも自転車ロード史上最強の選手だと言われている存在です。例えていうなら巨人軍に入団した若手有望選手が「長嶋茂雄って誰だ?」というのと同じです。
その後もワンデーレースや小さなステージレースで活躍し将来を嘱望されていましたが、1996年のシーズン中に異変が起きました。彼は癌に侵され既に肺や脳にも癌細胞が転移していました。プロ自転車選手としてのキャリアの終わりどころか生存率20%とも言われるほどだったようで人生の終わりさえ感じる出来事だったはずです。
ところが1999年に奇跡が起きます。”アームストロングツール・ド・フランス制覇” という世界中に衝撃を起こしました。癌から生還したどころか癌に罹患する前より強くなり世界最大の自転車ロードレースで優勝してしまったのです。彼の活躍は世界中の自転車ファンに感動を巻き起こすにとどまらず、世界中の多くの癌患者にも勇気を与えました。
翌年「ただマイヨ・ジョーヌのためでなく」という本が発行されました。癌闘病からツール優勝までを感動的に綴った内容で世界中に感動を巻き起こしました。私も本を買った一人で本当に感動したものです。彼は当時トレックのカーボンバイクを操っていまして、彼の活躍が一躍トレックを世に知らしめたと言えます。私も彼の活躍に触発されてトレックカーボンフレームを購入しました。
その後彼はツール・ド・フランスを7連覇して引退するわけですが、彼の転落が決定的になるのは2013年、オプラ・ウィンフリーという超有名なテレビ司会者のインタビューでアームストロングが自らのドーピングを認める話をしたことです。既にドーピング疑惑は濃厚で99年以降の全てのタイトルは剥奪されていましたので、認めざるを得なかったところまで来ていたわけですが、このインタビューが全米にテレビ放送されたことで事態が大きく変わりました。
彼は組織的な血液ドーピングを長年にわたって行っており、世界中の多くの自転車ファン、多くのスポンサーを裏切ったことになったわけです。彼の本やトレックフレームを購入した私も被害者の一人でしょう。
今のプロ自転車ロード界が本当にクリーンになったかは分かりません、でも間違いなくドーピングにどっぷりつかっていた時期はありました。それはアームストロングただ一人だけの問題ではありません。今思えば怖いもの知らずで粗暴にふるまうテキサスのカウボーイを彷彿させる頃のアームストロングが一番だったですね。ドーピングなどに頼らず、もともと彼が持っていた本来のスタイルで活躍できていたはずです。がんに罹患する前に彼は自転車選手としてのキャリアを終えていたでしょう。
