📘まず良識をみじん切りにします
「とにかくヘンな小説をお願いします」
そんな型破りな依頼に応えるべく、炒めて煮込んで未知の旨味を引き出した傑作集。
憎き取引先への復讐を計画する「そうだ、デスゲームを作ろう」、集団心理を皮肉った「行列のできるクロワッサン」、第76回日本推理作家協会賞ノミネートの『ファーストが裏切った』など、日々の違和感を増殖、暴走させてたどり着いた前人未到の五編。
これも浅倉秋成。いや、これこそが浅倉秋成。
「これも浅倉秋成。いや、これこそが浅倉秋成。」
間違いないこの謳い文句。
浅倉秋成といえば「六人の嘘つきな大学生」。初見はかなりの衝撃を受け続けたこのサークル内 密告系どんでん返しミステリー小説(適当)
これを先入観に本作を手に取る。見上げるほどにハードルが高いが、絶対に面白いはず。
・・・面白い!!
思った通りだ。流石、全部面白かった!
短編一つ一つがかなり濃密である種のミステリーだった。改めて人間とは不思議な生き物だと思わされる。
本作は全て「ジャーロ」と呼ばれるミステリー小説専門の雑誌が初出の寄せ集めらしいのだが、とてもそうは思えなかった。良識をみじん切りにするテーマに沿った全編書き下ろしにしか思えない程に完成度が高いのだ。
まずこの良識をみじん切りにするというコンセプトがとにかくイカしている。「そうだ、デスゲームを作ろう」や、「行列のできるクロワッサン」など、個々のタイトルをそのまま使っても違和感がない所を「まず良識をみじん切りにします」というぶっ飛んだタイトルにする事で5つの不思議で不気味な空気の物語たちを一つにまとめあげている。天才的なタイトルだ。
加えて、冒頭の注意書き。

一体これからどんな物語が始まるんだ⁈という恐怖と期待が半端じゃなくのしかかる。もはや「良識」とは何なのだ?と。
凄い。
何とも言えない不思議な読後感。
私の「膜」はいつか破れる時がくるのだろうか?フライパンでちぢみをひっくり返そうと空中に投げた瞬間に「それ」が訪れてそのままフライパンの背で窓の外に打ってしまうのだろうか?
「そうだ、デスゲームを作ろう」
殺意が芽生えるまでの経緯がリアルで良かった。ドラマや漫画で「殺意」ってそんな簡単に芽生えないでしょ…って思うシーンは多々あるが、これは納得してしまった。キングオブ不憫な奴。
「行列のできるクロワッサン」
無茶苦茶すぎてずっと面白かった。私も行列は気になるし並んだら負けな気持ちも分かる。並んでる時のスマホ画面を後ろの奴に見られたら嫌だなと思ってあえてインスタではなくnoteを開いたりする。
「花嫁が戻らない」
地獄すぎた。「気持ち悪い」って一体なんなんだろうと改めて思わされる。友人の結婚式で乾杯のスピーチをした事があるが、右手の置き場に困ってベルトの下を持っていたらずっとちんこ触ってるように見られてたらしい。この場にいたら絶対私が犯人だった。
「ファーストが裏切った」
さっきも言ったけど私にもあるであろう「膜」が破れない事を祈って生きようと思った。確かに隣で「GOGOランプ」が付いていたら適当に押してやりたい気持ちが無くはない。「やっちゃダメな事」ってなんで逆に気になるんだろうか?
「完全なる命名」
もう奇行が奇行すぎて普通に笑ってしまった。でも名前って本当に大事だと思う。親が子に最初にあげるプレゼントなんて言われているし。ちなみに私は娘二人の命名には自信を持っている。第一候補が妻と全く同じだったという奇跡も相まって。
この5編の内、その「謎」、真相が分かる話と分からないまま終わる話がある。これがまたいいバランスだった。結局なんだったの⁈という気持ちがずっと続くと絶対に読後感は良くなかったと思う。
個人的に順位を付けるなら
行列のできるクロワッサン
そうだ、デスゲームを作ろう
完全なる命名
ファーストが裏切った
花嫁が戻らない
だった。どれも面白くて、2位~5位は僅差といった感じ。「行列のできるクロワッサン」だけが頭ひとつ抜けて面白かった。
どれも「世にも奇妙な物語」で映像化できそうだ。
いい読書体験でした。
お勧めです。

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