歯周病にいい歯磨き粉って、結局どれ?
はじめに
毎日歯をみがいているのに、
なぜ歯周病ってなくならないんでしょうか。
実は、日本ではほとんどの人が毎日歯をみがいていると言われています※1
それでも、歯ぐきの出血や腫れを感じている人は少なくなく、
歯周ポケットを持つ人も一定数いることがわかっています※1
なんとなくちゃんとやってるはずなのに、
なぜかうまくいかない。
ここに、歯周病のちょっとややこしいところがあります。
原因はシンプルで、
「磨いている」と「落とせている」は別だからです。
そしてもうひとつ大事なのが、
歯磨き粉に含まれている“成分”です。
よく見ると、歯磨き粉には
・CPC
・IPMP
・CHX
といった成分が入っていますが、
それぞれ役割が少しずつ違います。
今回はこのあたりを、
論文ベースでゆるく整理してみます。
歯周病とは
歯周病とは、
歯ぐきや歯を支えている組織(歯周組織)に炎症が起こる病気です。
歯を支えているのは、
・歯ぐき(歯肉)
・歯槽骨(骨)
・歯根膜
といった組織で、これらをまとめて歯周組織と呼びます。
原因はとてもシンプルで、
歯の表面に付着するプラーク(歯垢)です。
このプラークは、ただの汚れではなく、
細菌のかたまり(バイオフィルム)です。
この中にいる細菌が、歯ぐきに炎症を起こし、
出血や腫れといった症状につながっていきます。
歯周病は進行によって段階があり、
・歯肉炎(歯ぐきの炎症のみ)
・歯周炎(骨まで影響)
に分かれます。
最初は歯ぐきの出血や腫れといった軽い症状ですが、
痛みが少ないまま進行するのが特徴です。
そのため、気づいたときには進んでいることも少なくありません。
歯周病の進行度について
歯周病は進行度によって、大きく2つに分けられます。
まず初期の段階が、歯肉炎です。
これは歯ぐきに炎症が起きている状態で、出血や腫れといった症状が見られますが、この段階であれば適切なケアで改善が可能です。
そこから進行すると、歯周炎になります。
歯周炎では、歯ぐきだけでなく、歯を支えている骨(歯槽骨)にまで炎症が広がります。
この段階になると、歯周ポケットが深くなり、少しずつ骨が失われていきます。
さらに進行すると、歯がぐらつく、噛みにくくなるといった症状が出てきて、最終的には歯が抜けてしまうこともあります。
ここで重要なのは、歯肉炎の段階であれば改善が可能ですが、歯周炎まで進行すると完全に元の状態に戻すことは難しいという点です。
このように進行していくため、早い段階でのケアがとても重要になります。
なぜ歯周病は治りにくいのか
ここまで見ると、
「ちゃんと磨いているのに、なぜ歯周病になるのか?」
と感じる方も多いと思います。
その理由のひとつが、
バイオフィルムと呼ばれる存在です。
バイオフィルムとは、
細菌が集まって作る膜のような構造で、歯の表面に強く付着しています。
バイオフィルムとは、細菌が集合して形成される構造体であり、歯面に付着して存在します。
また、この構造により外部からの影響を受けにくい性質を持っています。
この構造の中では細菌が守られているため、
外からの抗菌成分が中まで届きにくくなっています。
つまり、
うがいや歯磨き粉だけでは完全に除去できないということです。
そのため、歯周病の基本はあくまで
👉 歯ブラシによる物理的な除去
になります。
さらに言うと、
歯ブラシだけでは落としきれない部分もあり、
歯間部には汚れが残りやすいことも知られています※1
つまり、
・バイオフィルムが守っている
・完全には落としきれない
この2つが重なって、
歯周病は「治りにくい」と言われています。
歯磨き粉はどこまで役に立つのか
ここまで見てきたように、
歯周病の原因はプラーク、そしてバイオフィルムでした。
では、歯磨き粉はどこまで役に立つのでしょうか。
結論から言うと、
歯磨き粉だけで歯周病を防ぐことはできません。
基本になるのは、
👉 歯ブラシによる物理的なプラーク除去
です。
これはどんなに良い成分が入っていても変わりません。
ただし、歯磨き粉が無意味かというと、
そういうわけでもありません。
歯磨き粉には、
・細菌の増殖を抑える
・炎症を抑える
といった、補助的な役割があります。
つまり、
👉 歯ブラシが主役で、歯磨き粉はサポート役
という関係です。
ここで少し現実的な話をすると、
歯ブラシだけで完璧にプラークを落とすのは難しく、
どうしても磨き残しが出てしまいます。
その「残った部分」に対して、
歯磨き粉の成分が働くイメージです。
だからこそ、
👉 どんな成分が入っているか
が重要になってきます。
では、歯磨き粉に含まれる成分には、
どのような違いがあるのでしょうか。
成分で見ると、役割が違う
歯磨き粉に含まれている殺菌成分は、同じように見えても働きが異なります。
なんとなく「殺菌されるならどれでも同じ」と思いがちですが、
実際には、どこに作用するのか、どのくらい持続するのかなど、細かい違いがあります。
ここでは、歯周病ケアでよく使われている代表的な3つの成分について見ていきます。
CPC(塩化セチルピリジニウム)
CPCは、歯磨き粉や洗口液に広く使われている成分です。
陽イオン性の殺菌成分で、細菌の細胞膜に結合することで構造を壊し、増殖を抑える働きがあります。
口の中の細菌はマイナスに帯電しているため、プラスの電荷を持つCPCは付着しやすく、比較的安定して作用します。
また、歯面や粘膜にある程度とどまる性質があり、短時間ですが抗菌作用が持続するのも特徴です。
ただし、構造上、バイオフィルムの奥深くまで浸透するのは難しく、
主に表面付近の細菌に作用すると考えられています。
そのため、毎日のケアとして使いやすい一方で、
「これだけで全部解決」というタイプの成分ではありません。
日常のベースとして取り入れるのに向いている成分です。
IPMP(イソプロピルメチルフェノール)
IPMPは、フェノール系の殺菌成分です。
大きな特徴は、脂溶性があることです。
バイオフィルムは水に溶けにくい構造をしているため、
水に溶けやすい成分は内部まで入り込みにくいのですが、IPMPはその中に浸透しやすい性質を持っています。
その結果、バイオフィルムの内部に存在する細菌にも作用するとされています※1
また、細菌の酵素の働きを阻害することで、増殖を抑える効果もあります。
CPCが表面中心なのに対して、IPMPは内部に届く可能性があるため、
役割としては補完関係にあります。
そのため、歯磨き粉によってはCPCとIPMPの両方が配合されているものもあり、
表面と内部の両方にアプローチできる設計になっています。
CHX(クロルヘキシジン)
CHXは、歯科領域で長く使われている代表的な殺菌成分です。
細菌の細胞膜に作用し、濃度によっては細胞そのものを破壊する強い作用を持っています。
さらに特徴的なのが、持続性です。
歯面や粘膜にしっかり吸着し、時間が経っても抗菌作用が続くとされています。
この性質はサブスタンティビティと呼ばれ、CHXの大きな強みです。
ただし、その強さゆえに注意点もあります。
・歯の着色(ステイン)
・味覚異常
・長期使用で沈着物が増え、歯石が付きやすくなる可能性
などが報告されています。
また、歯磨き粉に含まれるラウリル硫酸ナトリウム(SLS)と相互作用し、効果が弱くなることも知られています。
そのため、日常的に長く使うというよりは、
目的を絞って使用する成分と考えた方が分かりやすいです。
成分は“組み合わせ”で考える
ここまで見てきたように、
・CPC → 表面に作用
・IPMP → 内部に浸透
・CHX → 強力かつ持続(ただし注意)
と、それぞれ役割が異なります。
つまり、歯磨き粉選びは
「どれが一番強いか」ではなく、
「どこに効かせたいか」で考えるのがポイントです。
また、歯磨き粉によっては複数の成分が組み合わされており、
それぞれの弱点を補うように設計されています。
ただし、どれだけ良い成分が入っていても、
土台となるブラッシングが不十分であれば効果は限定的です。
同じ「殺菌成分」でも、
・作用する場所が違う
・持続時間が違う
・副作用や注意点が違う
ため、「どれが一番良いか」ではなく、
目的や状態に合わせて選ぶことが大切です。
では、結局どれを選べばいいのでしょうか。
ドラッグストアで購入できる歯磨剤の例
ここまで成分の違いを見てきましたが、実際にどんな製品を選べばいいのか迷う方も多いと思います。
ドラッグストアでも購入できる歯磨剤のひとつとして、ジェルコートF(ウェルテック)があります。
この製品には、
・CPC(塩化セチルピリジニウム)
・フッ化ナトリウム(再石灰化)
などが配合されており、歯周病予防と虫歯予防の両方を意識した設計になっています。
また、研磨剤が含まれていないジェルタイプのため、歯や歯ぐきへの刺激が少なく、日常的に使いやすいのも特徴です。
CPCによってバイオフィルムの表面にアプローチしながら、フッ素による再石灰化も期待できるため、
毎日のベースケアとして取り入れやすい歯磨剤といえます。
ただし、IPMPのようにバイオフィルム内部まで浸透するタイプの成分は含まれていないため、
より積極的にケアしたい場合は、成分の違いを意識して選ぶことも大切です。
自分が実際に使っている歯磨剤

ここまでいろいろ書いてきましたが、
実際に自分が使っている歯磨剤もひとつ紹介しておきます。
大きめのドラッグストアや専門コーナーがある店舗で見かけることが多いのが、
SP-Tジェルです。
この製品には、
・IPMP(イソプロピルメチルフェノール)
・トラネキサム酸(抗炎症)
などが配合されており、歯周病ケアを意識した設計になっています。
特にIPMPは、バイオフィルムの内部に浸透して作用するとされており、
表面だけでなく内側の細菌にもアプローチできる点が特徴です。
また、ジェルタイプで泡立ちが少ないため、
磨いている部分が見やすく、丁寧にブラッシングしやすいのもメリットです。
自分自身も実際に使っていますが、
刺激が強すぎず、日常使いしやすい印象があります。
歯周病にいい歯磨き粉って、結局どれ?
ここまで見てきたように、歯磨き粉に含まれる成分にはそれぞれ役割があります。
そのため、
「これ1本で完璧」というものはありません。
大切なのは、目的に合わせて選ぶことです。
また、ドラッグストアで「歯周病ケア」と書かれている歯磨剤にも、いくつか種類があります。
大きく分けると、ペーストタイプとジェルタイプです。
ペーストタイプは泡立ちがあり、すっきりとした使用感が特徴ですが、すすぎの際に成分も流れやすいという面があります。
一方で、ジェルタイプは泡立ちが少なく、歯や歯ぐきにとどまりやすいため、成分が比較的残りやすいとされています。
そのため、成分をしっかり作用させたい場合は、ジェルタイプを選ぶのもひとつの方法です。
ただし、どちらが優れているというよりは、自分に合った使いやすいものを選ぶことも大切です。
日常的なケアとして使いやすいのは、**CPC(塩化セチルピリジニウム)**です。
バイオフィルムの表面に作用し、毎日の歯周病予防として取り入れやすい成分です。
まとめ
歯周病にいい歯磨き粉は、「これ1本で完璧」というものはありません。
ここまで見てきたように、歯周病の原因はプラーク、そしてバイオフィルムです。
そのため、どんなに優れた成分が入っていても、歯磨き粉だけで歯周病を防ぐことはできません。
基本になるのは、歯ブラシによるプラークの物理的な除去です。
そのうえで、歯磨き粉は**“補助”として働く存在**です。
歯ブラシだけではどうしても磨き残しが出てしまうため、その残った部分に対して、殺菌成分や抗炎症成分が作用するというイメージです。
そして、その“補助”の部分で重要になってくるのが、成分の違いです。
・**CPC(塩化セチルピリジニウム)**は、バイオフィルムの表面に作用し、日常的なケアとして取り入れやすい成分です。
・**IPMP(イソプロピルメチルフェノール)**は、バイオフィルムの内部に浸透し、より積極的に細菌へアプローチできる成分とされています。
・**CHX(クロルヘキシジン)**は、強力で持続性がある一方で、着色や味覚異常といった注意点もある成分です。
このように、それぞれ役割が異なるため、「どれが一番良いか」ではなく、「どこに効かせたいか」で選ぶことが大切です。
また、歯磨剤にはペーストタイプとジェルタイプがあり、使用感だけでなく、成分の残りやすさにも違いがあります。
ペーストタイプは泡立ちがあり、すっきりとした使用感がありますが、すすぎの際に成分も流れやすい傾向があります。
一方で、ジェルタイプは泡立ちが少なく、歯や歯ぐきにとどまりやすいため、成分をしっかり作用させたい場合に向いています。
そのため、成分だけでなく、こうした剤形の違いも選び方のポイントになります。
さらに、今回触れた塩を使ったケアのように、昔から行われてきた方法にも一定の考え方はありますが、物理的な刺激によるダメージのリスクもあるため注意が必要です。
現在では、CPCやIPMPなど、より安定した効果が期待できる成分が配合された歯磨剤を使用する方が安全で現実的です。
最終的に大切なのは、
「なんとなく選ぶ」のではなく、「目的をもって選ぶ」ことです。
毎日使うものだからこそ、少しだけ意識を変える。
それだけでも、歯周病ケアの質は変わってくるかもしれません。
塩を使ったケアについて
以前、歯ぐきから出血していた部分に対して、塩でマッサージをしていたことがあります。
また、「つぶ塩」といった塩を配合した歯磨剤を使用していた時期もありました。
一見すると効果がありそうに感じますが、注意も必要です。
塩は結晶が硬いため、そのまま歯ぐきにこすりつけると、歯ぐきを傷つけてしまう可能性があります。
特に出血している状態では、すでに炎症が起きているため、物理的な刺激がさらにダメージにつながることも考えられます。
一方で、塩化ナトリウムを含む歯磨剤については、歯周病に対する効果を検討した研究も存在しています。
例えば、塩化ナトリウムと抗炎症成分を配合した歯磨剤を使用した臨床研究では、歯ぐきの出血や排膿などの症状の改善が認められたと報告されています※1
また別の研究でも、塩化ナトリウムを含む歯磨剤を使用することで、歯肉炎の指標(P-M-A index)の改善が見られたとされています※2
つまり、
塩そのものを直接こするのではなく、歯磨剤として適切に配合された形で使うことが重要です。
現在では、CPCやIPMPなど、より安定した効果が期待できる成分も多く存在しているため、無理に塩を使う必要はありません。
参考文献
※1 渡辺幸男 ほか:塩化ナトリウムおよび抗炎症剤含有歯磨剤の歯周疾患に対する臨床効果歯学誌,第24巻2号,1984年,pp.164-173
※2 渡辺幸男 ほか:歯周病に対する塩化ナトリウム含有歯磨剤の臨床効果.日本歯周病学会会誌,24巻2号,1982年,p.299-308
