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自意識過剰すぎてビュッフェが苦手

「食欲の秋だからさー」と、かわいこちゃん(友人M)がホテルで開催されている秋の味覚ビュッフェへと誘ってくれた。

嬉しい! 数少ない女友達からのお誘い。

だが……私はビュッフェが死ぬほど苦手だ。

まず、もう40歳を超えて量をたくさん食べられない。食べ物を取りにすごすごと席をたち、列に並ぶのも恥ずかしい。それに何を、どれだけ、どのようにチョイスするのか、シェフからも店員からも周りの人からも、そこにいる全員に見られている気がする。などと、いろんなことを同時に考えながら、かつ、他人と会話しながら食事をするなんて難易度が高すぎる。

しかし、Mには会いたい。ホテルビュッフェでキラキラ女子っぽい写真は撮りたい。
「行きたい行きたい!」
と返事をした。

やってきた当日。めいっぱいお腹を空かせてきた。
これならたくさん食べられるかもしれない。でも絶対に気持ち悪くなるほど食べないぞ。お金を払うのに不幸になってここから帰るのは嫌だ。

12時前にホテルのレストランに入ると、もういるわいるわ。タイムサービスのローストビーフに長蛇の列ができている。
ああ、もう列に並ぶ人を見ただけでドッと疲れる。

同じお金を払っているのに食べたいローストビーフを我慢するなんて。じゃあ並べばいいじゃん。あんな長蛇の列に並ぶなんて浅ましくて恥ずかしい。その恥ずかしさになぜ耐えなければいけない? いや、私以外に誰もあの列に並ぶことを浅ましいなんて思わない、それがビュッフェってもんだろう。席に着く前からもう帰りたくなっていた。

席につき、店員さんの説明を聞くとスタートだ。腹ペコだし、ご馳走が並んでいるので、本当なら今にも飛び出して片っ端から美味しそうなものをとりたいところだが、そんな恥ずかしいことはできない。

「美味しそうだねー」なんて話しながら、Mとゆっくり歩幅を合わせる。横目でチラチラ全体を見ながら、どれを盛っていこうか目算しながらサーブしていく。絶対に浅ましいと思われるな。がっつくな。優雅に、ちょっとずつ、自然に動かなくてはならない。

あの卵のオムレツみたいなのは食べたいな、唐揚げもいいな、あのチャーハンみたいなのも食べたいな。いや、チャーハンなんかで腹を満たすのはもったいないな。わ、あのこんにゃく美味しそう! いや、こんにゃくは安いから少しにしよう。

お皿によそう時にスタッフや周りの人が見ているとすごく恥ずかしい。
「ふうん? あんた、それ食べるんだ?」と思われている気がする。
「これだけの料理の中で、揚げ物食べるんだ?」「ハンバーグ食べるんだ?」「へえー、その意思で出来上がった体がそれなんですね」などと、自分の選定を評価されている気がする。ああ、誰も私がよそう所を見ないでほしい!

しかし、ゆっくりしていると後ろの人に迷惑なのでなるべく自意識をシャットダウンしてスムーズに動かなくては。
私は今日、高いお金を払っているんだ! 美味しいランチをMと食べるために今週頑張ってきたんだ! あんたたちの評価は気にしない! 好きなものを好きなだけ食べるんだ!

その勢いで、しっかりローストビーフにも並んだ。
「ビュッフェ恥ずかしいリミッター」を外すことに成功し、できることなら野菜よりお肉を多めに取りたいという貧乏人の浅ましさをしっかり全開にした気持ちを右手に全集中させ、いい感じにお肉多めの八宝菜を皿によそうと、なんと思った以上に汁気が多くて、サイドに載せたエビ餃子や唐揚げに侵食してしまった! 
ああっ! ほらっ! こうなるじゃん! お皿一枚に寄せる期待が大きすぎるんだって!

自意識を無視し、欲望ロボットを降臨させ、無の表情で盛っていくと、あっというまに2皿がいっぱいになり、一旦席についた。まだ欲しいものを全部とりきれていない。しかし最初から2皿以上いくなんて40代女性にしてはわんぱくすぎる。

ひとまずこれを食してから3皿目にいくか。
どうしてもエビや肉に目がいく。高いものを食べて元を取りたい気持ちが本当に食べたいものへの欲求を錯乱していく。ビュッフェとは本当に手強い。
あとは、絶対に自分では作れないような珍しい料理を食べたい。

そんな思いが空回り、気づけば結局いつも食べるようなものばかりがお皿に乗っている。
とりあえず「秋のフェア」ということで、なんらかのキノコとなにかのオシャレな前菜みたいなものを盛ってみたので、それから食べてみる。

ん? なんだか黒っぽくて乾燥した謎の食べ物がある。なにこれ……揚げたキノコ? ……木? これまで見たことがない。さすがホテルビュッフェ。

木?


食べてもわからない。なんなんだこれは。美味しいのかどうかもわからない。本当に木なのかもしれない。かなり攻めた「イノベーティブなんとか」なのかもしれない。

気を取り直して順に食べていくと、うん、美味しい。……が、想像を超えない。想像を超えないんだよ、ビュッフェって! そりゃあそう。
たくさんの人の舌を均等に満たすためには、こうなるって! 美味しいんだけど、未知の美味しさには絶対に到達しない、合格点80点の味ばかり。

Mは「美味しいねーニコニコ」なんて言いながら、楽しそうに食事している。
まあいっか。この華やかな場所で、かわいいMと楽しく会話しながらランチできているだけで十分あの金額払った甲斐があったよ。

と、思いきや……なにこれ?? ちょろっとよそったワカメと蓮根のナムルがめちゃくちゃ美味しい……! なんだこの美味しさは!
こんな地味なのに、一番美味しいかもしれない! 地味で、期待していなかった分、振り幅がすごい! もっと食べたい!
こんな美味しいと思わなかったので一口しか載せていなかった。

こんな地味で単価の安いものをおかわりするなんてもったいない!!
ちくしょう。これだからビュッフェは!!

しかし、一皿でもうすでにお腹がいっぱいになってきている。どうしよう、まだ食べてないものたくさんあるのに。スイーツだって食べたいのに……!

Mは、しっかりと秋のスイーツをかわいくお皿に持って写真を撮っている。「めっちゃかわいい! 来れてよかったー!」なんて言っている。

ああ、そんなこと言われたら、私だって一緒に食べたいよ!

すでにお腹はパンパンだ。しかし、このホテルビュッフェの一番の売りは実はこのスイーツ。
若い女性のほとんどが、このスイーツの写真をとりにきているようなものだ。ここへ来たからにはそれを食べないと。

一番映えそうな派手な紫色をしたモンブランを一つ皿に載せ、キャーキャー言いながら親の仇ほど写真を撮り、食した。

うう……確かに美味しいけど、もう一口もいらない……。辛い。苦しい。申し訳ない!

ああ、このモンブランをちゃんとお腹が空いている時に食べられたら……!
こんなに美味しいものをお腹いっぱいの時に、苦しくなるとわかっているのに食道に押し込む時の、この後ろめたさ。もはや業でしかない。
だっていらないんだもん! お腹いっぱいなんだから! でも食べないのはもったいない! なんなんだこの矛盾した行動は! 
自分の業の深さへの情けなさと食べ物やシェフや地球への罪悪感との矛盾で内側から破裂しそうだ。

なんとかコーヒーで流し込むと、もう立てないくらいの苦しさ。
ああああー、ほらねー。やっぱりこうなった。
なんでお金払ってこんな気持ち悪い思いして帰らなきゃいけないんだ!

ほうら。わたし向いてない、ビュッフェ!

もう絶対に、金輪際、二度とビュッフェには行かない!!

笑顔で「おいしかったねー!」と話しながら、気持ち悪いのをなんとか抑え帰宅した夜。MからLINEが届いた。

「今日はありがとう! ナミちゃんとビュッフェめっちゃ楽しかった!
12月からは冬の味覚フェアがあるんだって! また一緒に行こうね」

「私もめっちゃ楽しかったー! 冬の味覚フェア! 楽しみ!
絶対行く行くー!」


おしまい