「嫉妬しない人」は本当にいるのか? ―嫉妬マニア 連載記事・対談 ―斉藤ナミ × 池松潤
嫉妬マニアの読者からこんなメッセージが届いた。
「私は人に嫉妬しません。斉藤さんはどうしてそんなに嫉妬できるんですか?」
嘘だろ? 嫉妬しない人なんてこの世にいるの?
今回は、この非常に示唆に富むメッセージから、「嫉妬をしない」ということについて、この連載のきっかけを作ってくださり婦人公論.jp で新規事業開発をされている池松さんと語りました。
※連載「嫉妬マニア」の裏話や、嫉妬を解き明かす解説です。
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池松: ナミさん、今回のエッセイはこれまでとは違った切り口「嫉妬をしない人」がテーマということで。面白いですね。
斉藤:嫉妬しない人がこの世にいるなんて驚きでした。
嫉妬心が芽生えそうになったら「自分は自分」と唱えてなんとか抑制しているとか、嫉妬していることに気づいていないとか……そういうことかな? と最初は思ったんですが。
池松:違いましたね。「他人に興味がない。そもそも自分が誰かに敵うはずがない」と。
斉藤:そうそう。頑張るのは疲れるし、何かを猛烈に手に入れたいとは思わないし、天気が良いとか、ケーキが美味しいとかで、十分幸せなんだそうです。
競争から降りるという選択
池松: このSさんの言葉は、私たちの社会が抱える大きなテーマを内包していますね。「頑張るのは疲れる」「勝たなくていい」と、競争から降りることで心の平静を保とうとする現代の防衛策とでもいいましょうか。
斉藤: この連載を転載しているYahoo!ニュースのコメントで必ず来る「足を知れ」という批判。
中国の思想家、老子の言葉にある「欲を捨てて、今あるもので満足しなさい。そうできる者は豊かである」という意味ですが、Sさんはまさにそれを実践しているなと思いました。
池松: Sさんの「天気が良ければそれで幸せ」という境地は、老子の教えが現代で具現化された姿と言えるかもしれません。一方で、ナミさんが指摘したように、「嫉妬は成長のエネルギー」でもある。このせめぎ合いをどう見ますか?
斉藤: うーん。私は、嫉妬という感情を失うことは、人生の推進力を失うことではないかと考えています。うちの次男が徒競走で2着になった悔しさで嫌いなピーマンまで「強くなるためだ」と食べるようになったエピソードもそうなんですが、「勝ちたい欲」はやっぱり人を動かすと思うんです。嫉妬をゼロにしたら、人間はどこからモチベーションを得るんでしょう?
池松: Sさんの「逃げかもしれない」という自己分析も象徴的ですね。彼女は「傷つくことを恐れて土俵にあがることを回避している」。つまり、その静かな知足の裏には、不安と諦念が隠れている。彼女は、まだ本当の平和を手にしていないのかもしれませんね。
真正さとはジャイロスコープを持つこと
斉藤: 嫉妬をすることに疲れて静かに諦めている人。あるいは、嫉妬を「羨望」や「憧れ」という無害な言葉に偽装して心の奥底に封印している人。やはり人間である以上、嫉妬を100%根絶するのは無理なんじゃないかと。
池松: その「嫉妬」という社会の病の深さを、アメリカの社会学者デヴィッド・リースマンが喝破しました。彼は、嫉妬に対抗する生き方として「自律」、そして「真正さ」の重要性を説いています。
斉藤: リースマンが提唱した、頭に高性能なレーダーをつけて他人の信号をキャッチし、一喜一憂する「他人指向型」。SNSなんてまさにこのレーダーの増幅装置ですよね。私、たぶん最新鋭のめちゃくちゃ高性能なレーダーつけてます!笑
池松: それに対して、リースマンが理想としたのは「内部指向型」。彼らはレーダーではなく、心の中に「ジャイロスコープ(羅針盤)」を持っている。他人がどの方角にいようと関係なく、自分自身の信念だけを頼りに進む。これが「自律」、つまり「真正さ」だと。
斉藤: 私が目指しているのは、これだと思いました。自分の価値を決める基準が自分の中にしかなく、他人が気にならない状態。自分のやり方で自分なりに頑張る、ということですよね。
池松: この嫉妬まみれの「レーダー社会」の中で、他人の成功というノイズに惑わされず、自分の羅針盤を持って生きる強さ。その探求こそが、ナミさんの「嫉妬マニア」という連載の究極のテーマになるのかもしれませんね。
斉藤: そうですね。嫉妬を燃料に、嫉妬しない自分を目指す。それが、私の戦いのようです。
池松: そのエネルギーを燃やし続けるナミさんは、やっぱりパワフルです(笑)。
斉藤: まあ、目指しているだけで全然まだできそうにはないんですけどね。Sさんが東京に住んでいて「今日はあったかいな」で満たされていることも、めちゃくちゃ羨ましいし。
嫉妬をしないなんて、私には到底無理そうです。
池松: その本音こそが、この連載の生命線です。ナミさん、今回も刺激的なお話をありがとうございました。次回も楽しみにしています。
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