若い女性が自分を「もうおばさん」と言うアレ
すごく大人のドラマだと思っていた『29歳のクリスマス』の「典子」たちがいつの間にか超年下になってる! と、この間驚いたばかりだったのに、気づけば『ちびまる子ちゃん』のまる子の母「さくらすみれ」の年を追い抜いていた。
信じられない。ついこの前まで20代だったはず。40代なんて想像もつかないくらい後のことだと思っていたし、そんな頃には嫉妬や承認欲求なんていう幼稚な感情は当然なくなると思っていた。
28歳で長男、3年後に次男を産んで必死に育てているうちに一瞬で40代に突入していた。その割に心はちっとも成長しておらず、相変わらず情けない感情に振り回されている。
そのくせ体はしっかり老化している。もう無茶はできない。昔は仕事でも遊びでも平気で朝まで起きていたけれど、今は徹夜なんてしようものなら翌日まったく使い物にならないどころか向こう3日間くらい偏頭痛で寝込む。
体中たるんできたし、あれだけ悩んでいた多毛も癖毛も、かなり少なく弱くなってきた。美味しいものも少ししか食べられないし(そのくせ体重はどんどん増える)、ちょっと歩くだけですぐ疲れる。腰痛もひどいし、膝も痛い。夕方以降は文字が見えづらいし、なんだか全体的に精気(?)が足りなくてタッチパネルがなかなか反応しない。
先日、ある女性YouTuberが「もう28だよー。おばさんじゃん。人生終わった」と自虐しているのを観た。
なに言ってんだ、どこもかしこもツヤツヤな若造が。たった28で人生終わりなら、40越えて体中に油を塗りたくって抗っている私はもう妖怪とかですか?
その自虐が中年の我々にどう映るかも考えずに発言できるおめでたさや無鉄砲さにイラっとした。
だが、思い返してみれば自分が若い頃も同じだった。
契約社員として一般企業で働いていた頃、まさにそのセリフを休憩室でぼやいたことがある。
「やば。もうすぐ26歳。おばさんじゃん」
1歳年下の女性社員と私の2人、部屋の中には私たちしかいないと思っていた。
ところが端の喫煙スペースに、34歳のお局さま「小林さん」がいたのだ。
今考えると34歳なんて全然若いが、正社員で、若い社員の指導係をしていた彼女は私たちからすると十分お局さまだった。小林さんは黒髪を後ろで一つに結び、いつもすっぴんなのにアートメイクをしていて、くっきりとした輪郭の青黒い眉毛だけが異様な存在感を放っていた。
「おばさん」発言をしっかり聞いていたであろう小林さんは、午後の営業で書類作成のミスをした私に、
「いいね、若い子はそれだけで価値があって。部長に気に入られてるから私の半分も仕事できないのにお給料そんな変わんないよね? 真面目にやってる私の方がバカみたいだね」
とニコニコした顔で吐いてきたのだ。
以降、ことあるごとに「若いってすごいね」と嫌味を言われるようになり、それは2年後に彼女が異動になるまで続いた。最初はそれなりに辛かったけれど、次第にこちらも図々しくなり「はいはい、若いですよ、嫉妬してんでしょ」と心の中で思っていた。
彼女の気持ちはわかる。誰よりも真面目に働いているのに、経験も知識も少ない小生意気な若い女にデカい顔をされたらそりゃあムカつくだろうと思う。自分の方が能力が上であれば尚更だ。
私は苦労してきた分、同世代に比べて大人だろうと思っていたけれど、とんでもない。30歳頃までに結婚さえすれば自動的に幸せになれると漠然と思い込んでいたし、上辺だけでもいいから褒めて満たしてくれる誰かを探して毎日遊び呆けていた。しっかり幼稚で若かった。
今時はこんな若者もいる。つい最近、仕事で広告代理店の女性の新入社員、Tさんと話す機会があった。
彼女は22歳なのに、もう婚活を始めているというのだ。
「ずっと働きたいので早く結婚して、早く子どもを産んで、早く仕事に復帰したいんです。どう考えても若い方が婚活には有利だし、子育ても体力あるうちの方がいいですよね。結婚して2年は夫婦だけで過ごしたいので、30歳までに出産となるともう始めないとなんです」
なんて計画的なんだ。私のように「30歳くらいまでにイケメンと結婚したいなー」なんてぼんやりした目標ではなく、しっかりと自分の人生を見据えて将来設計を立てている。
すごすぎる。人生何周目なんだろう。
Tさんは仕事ぶりも丁寧で、明るく溌剌としており、何より自分の意見をしっかり持っている。
「色々計算すると私の人生の場合、持ち家より賃貸の方がコスパ良さそうです。NISAもしてます。老後の蓄えをちょっとずつでもしていかないと」
「毎日8時間寝てます。次の日仕事に響くんで。休みの日は家の掃除とかヨガとかしてますね」
「推しとかいないんです。一面しか見てないのに好きになったりできないんです」
今の22歳ってこんなにしっかりしてるの!?
私が22歳の頃なんて老後の貯蓄はおろか、通帳の預金残高がマイナスになるまで服を買い込むこともあった。毎日遊ぶことばかり考えていたし、相手に気に入られる答えばかり探してしまい自分の意見なんてちっとも持てなかった。
若いから未熟だとか、中年だから円熟だとか、そんなものは人それぞれだ。私はこんな仕上がりで彼女の倍近くも生きているなんて情けないと、会うたびに感じる。
ただ、こうも思った。もっと遊んで、挑戦して、失敗して、若さを存分に楽しんでほしいなと。
都会に憧れて東京に出てみては1年でギブアップして逃げ帰ったり、ろくでもない男に振り回され、喧嘩して車の助手席から降りて歩いて帰ったり、突然TATTOOの彫り師に挑戦してみたり、友達と京都まで自転車で行ってみよう! と挑戦して寒すぎて3時間で諦めたり。
「もうおばさんだー」と嘆いて周りの本当のおばさんをチクっと傷つけることも、したっていい。たぶんあんたもいつか気づく。
若い時にしかできないような幼稚でアホなことに全力で挑戦してみてほしいのだ。
もちろん危ない目には遭ってほしくはないし、失敗するたびその瞬間は辛くてもう二度と立ち上がれないと思うほど凹むけれど、それらの経験がやがて人生にとってかけがえのない血肉になり、愛おしい思い出や笑い話にも変わっていく。そして人間の深みになると思う。
私はそれが羨ましい。これからなんにでも挑戦できて、たくさんの失敗ができて、可能性が無限大であるということに。
そりゃあ私だってまだまだ何でもできる。働き盛りだし、根性や好奇心は若い時のままだ。新しい外国語も習得してみたいし、格闘技も習ってみたい。知らないこともたくさん知りたい。
それでもやはり20代の頃のように自分1人でいつでもどこへでも何にでも挑戦しに飛んでいくわけにはいかないし、まず、体力がない。
文章を書くようになってからも、デビューがあと10年、いや5年でも早かったらどんなによかったか……と思うことがよくある。
私にはあとどれくらいの時間とチャンスが残されているんだろうか。
才能のあるエッセイストが若くして成功しているのを見ると本当に羨ましい。
「若くてかわいいエッセイストの方がいいに決まってるよね。私なんてもうオワコンだ……」
そう定期的に落ち込んで、しばらく立ち直れない。ああ、若い人が羨ましい。
しかし長く生きているからこそ、打ちのめされて立ち上がってきた経験も、それだけ多く積んできたではないか。
ここはサクッと気持ちを切り替えて、しっかりお肌の保湿をして、大人らしく立ちあがらなきゃ。
以前より残された時間が短くなっているのは事実だけれど、いつだって今が一番若いし、まだまだ承認欲求も嫉妬も収まりそうにない。こんなところで長いこと凹んでる場合じゃないのだ。
おしまい
