紀州鉄道を写真本にして廃線の危機を乗り越える
紀州鉄道の小さな奇跡

むかしむかし、和歌山県の御坊市に農村と町中を結んでコトコト走る、とても小さな鉄道がありました。名前を「紀州鉄道」といいます。まるで絵本から飛び出してきたような、かわいらしい列車です。
この紀州鉄道には、3つの大切な価値が住んでいました。
ひとりめは、 「存在価値」 さん。紀州鉄道が「ここにいるよ」と毎日線路の上を走ること自体が、存在価値さんの喜びでした。朝早くから夜遅くまで、毎日休まずコトコト走ります。
ふたりめは、 「経験価値」 さん。列車に乗った人たちが、窓から見える海の景色に感動したり、ガタンゴトンという揺れに心地よさを感じたり、地元の人との短い会話を楽しんだり、そんなひとつひとつの思い出が、経験価値さんの宝物でした。
そして三人めは、 「機能価値」 さん。この方は、お客さんを目的地まで安全に、時間通りに運ぶことがお仕事。正確なダイヤ、乗り心地の良い車両、快適なサービス、それが機能価値さんの自慢でした。

ある日、紀州鉄道はとても困っていました。お客さんが少しずつ減ってきていたのです。
「どうしたらいいんだろう…」存在価値さんは不安そうに言いました。 「みんなにもっと、紀州鉄道の良さを知ってもらいたいのに…」経験価値さんも寂しそう。 「私たちはちゃんと、みんなを運んでいるのにね」機能価値さんも首をかしげます。
3つの価値は、それぞれがバラバラに頑張っていました。でも、お客さんは増えません。
ある日の夕暮れ、夕日が紀州鉄道の車両をオレンジ色に染めていました。3つの価値は、いつものようにホームのベンチで相談していました。
「ねえ、私たち、別々に頑張るだけじゃダメなのかも」と、存在価値さんがポツリと言いました。 「どういうこと?」と経験価値さんが尋ねます。 「私たちが、それぞれ自分のことばかり考えているから、お客さんも紀州鉄道の本当の良さに気づいてくれないんじゃないかな」と、存在価値さんは続けました。
その言葉に、機能価値さんも経験価値さんもハッとしました。
「そうだわ!私がただお客さんを運ぶだけじゃなくて、お客さんがどんな旅をしたいかを考えなくちゃ!」と機能価値さん。 「私がただ思い出を作るだけじゃなくて、紀州鉄道がそこにいることの喜びを、もっとみんなに伝えなくちゃ!」と経験価値さん。 「そして私がただ走るだけじゃなくて、みんなが安心して乗れるような、そんな存在になりたい!」と存在価値さん。
3つの価値は、お互いの手をぎゅっと握りしめました。まるで、一本の列車が線路の上を走るように、3つの価値が心を一つにしたのです。

それから紀州鉄道は変わりました。
存在価値さんは、駅のホームにきれいな花を飾りました。毎日列車が来るのが楽しみになるように。 経験価値さんは、地元の特産品を販売する小さなマルシェを駅の近くで開きました。旅の思い出を形に残してもらえるように。 機能価値さんは、列車の窓をいつもピカピカに磨き、座席には可愛いクッションを置きました。お客さんがもっと快適に過ごせるように。
すると、どうでしょう!
いつしか、紀州鉄道にはたくさんのお客さんが戻ってきました。 子どもたちは、窓から見える海の景色に目を輝かせ、 若いカップルは、レトロな車両を背景に写真を撮り、 おじいちゃんおばあちゃんは、ゆっくりと流れる景色を眺めて、昔を懐かしんでいました。
お客さんたちは、みんな口々に言いました。 「この鉄道に乗ると、なんだか心がホッとするね。」 「ここに紀州鉄道があるだけで、なんだか安心するわ。」 「ただ乗っているだけなのに、こんなに楽しいなんて!」
3つの価値が手を取り合い、力を合わせたことで、紀州鉄道は「安心」という名の大きな奇跡を生み出したのです。
今日も紀州鉄道は、コトコトと海沿いを走ります。太陽の光を浴びてキラキラ輝く線路の上を。 紀州鉄道が走るたびに、人々の心には温かい安心が広がっていくのでした。

おしまい。
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