第10話|みんなでつくった「ぱんのこ」
「○○さんちは、こっちから入るんよ。」
「裏口のほうが話が早いから。」
オープン日の1週間ほど前のこと。
焼きたてのパンとショップカードを持って、ご近所を回る私たち。
気づけば30軒以上。今思えば、まるで選挙活動のようでした(笑)
でも、あの日のことを思い出すたびに感じるんです。
「ぱんのこ」は、私たち夫婦だけで作ったお店じゃなかったな、と。
長らく勤めた会社を退職し、
いよいよ本格的な「ぱんのこ」づくりが始まりました。
何もなかった土地に重機が入り、整地が終わると、人生で初めての地鎮祭。
マイホームすら建てたことのない私たちにとって、一から建物を建てることも、もちろん初めての経験でした。
想いをカタチに
工務店さんと何度も打ち合わせを重ねながら、
「外観はこんな雰囲気にしたい。」
「売場は大きな窓のあるパン屋さんがいいな。」
「せっかくなら、山が見える景色も大切にしたい。」
そんな想いを、一つひとつ形にしていきました。
現場へ行くたびに景色が変わっていく。
昨日まで柱だけだった場所に壁ができ、数日後には窓が入っている。
「本当にお店になるんだ。」
その変化を見るたびに、夫婦でワクワクしていました。

一方で、理想を形にしようとすればするほど、
見積金額は少しずつふくらんでいきました。
「ここは削ろう。」
「いや、ここは譲れない。」
理想と予算の間で、何度も話し合いました。
今思えば、あの時間は建物をつくるというより、「どんなお店にしたいか」を夫婦で話し続けた時間だったのかもしれません。
お店の名前
着工前から話し合っていました。
まずは思いつく限り書き出してみると、候補は50個以上。
「とこぱん」
「さくぱん」
今思うと少し照れくさい名前まで、候補に入っていました(笑)。
読みやすいこと。
覚えてもらいやすいこと。
親しみを感じてもらえること。
そして、私たちらしいこと。
何度も話し合って、最後に残った名前が「ぱんのこ」でした。

パンの子。
パンの粉。
パンを通じてつながるもの。
そんな思いを込めながら、あえて意味を一つに決めない名前にしました。
テストベイク
建物が完成に近づくと、厨房にはオーブンやミキサー、冷蔵庫などの機械が次々と運び込まれました。
何もなかった空間に厨房機器が並ぶと、一気にお店らしくなります。
その景色を見ながら、「いよいよ始まるんだ。」
そんな実感が少しずつ湧いてきました。
そして、厨房ではテストベイクが始まりました。
オーブンの焼き加減を確認しながら、何度もパンを焼いては調整を繰り返します。焼き上がったパンは、ご近所のみなさんにも食べていただくことにしました。
ようこさんとひとみさん
そのとき、一緒に回ってくださったのが、同じ隣り組のようこさんとひとみさんでした。本当に面倒見がよく、地域では知らない人がいないくらい顔の広いお二人。
「●●さんちはこっちから入るんよ。」
「裏口のほうが話が早いから」
気づけば30軒以上、一緒に回ってくださいました。
ご挨拶するときも、
「○○さん、こちら、みつえ先生のお孫さん(のお嫁さん)。」
「あぁ、みつえ先生のね!」
そんな会話があちこちで交わされます。
私はその様子を見ながら、地域には、人と人をつないでくれる方がいるんだな。そんなことを感じていました。
豊前へ引っ越してきてまだ2年半。
近くに住んでいても、顔も名前も知らない方ばかりでした。
でも、一人紹介してくださる方がいるだけで、距離がぐっと近くなる。
「地域って、こうやってつながってるんだな。」
「なんてあたたかい地域なんだろう。」
そんなことを思った一日でした。
みんなでつくった「ぱんのこ」
振り返ってみると、「ぱんのこ」は私たち夫婦2人だけで作ったお店じゃなかったんだな、とあらためて感じます。
末廣工務店さん、大工さん、設備業者さん、デザイナーさん、リエゾンプロジェクトのみなさん、金融機関のみなさん、そして地域のみなさん。
本当にたくさんの方が、それぞれの持ち場で力を貸してくださいました。一つでも欠けていたら、「ぱんのこ」は今ここにはなかったと思います。
たくさんの人の想いと力が集まって、生まれたお店。
だから今でも、そのご縁には感謝しかありません。
そして、オープンの日が近づいてきました。
建物ができて、名前が決まって、地域のみなさんにも応援していただいて。
ようやく、「ぱんのこ」が生まれます。
(次回につづく)

