40代転職がうまくいかないと感じる人へ|2週間で辞めた失敗からわかったこと
恥ずかしい話なんですが。
もう10年以上前の話。転職した会社をたった2週間で辞めたことがある。
しかも「円満退社」とかそういう綺麗な話じゃない。逃げるように辞めた。引き継ぎもろくにせず、入社を歓迎してくれた人たちの恩を裏切るような形で。まったく合わないと思ってしまい、元の業界に戻った。
大反省している。今でも思い出すと胃のあたりがキュッとなる。
でも、その経験があったからこそ、次の職場ではうまくやれた。そしてその職場で10年以上働くことになった。
あの2週間と、その後の10年。何が違ったのか。
能力が上がったわけじゃない。業界知識が増えたわけでもない。
違いは一つだけだった。自分のどうでも良いプライドを降ろせたかどうか。だと思っている。
4月から新しい職場で働き始めた人も多いと思う。特に40代、50代で、1社に長く勤めてきて初めて転職した人。僕と同じ失敗をしてほしくないから、本棚からいくつか引っ張り出して読み返してみた。
「前の会社ではこうだった」が口癖になったら赤信号
転職エージェントの仕事もしていた時期があるので、たくさんの40代、50代の転職者を見てきた。
うまくいかない人には、共通点がある。「前の会社ではこうだった」が口癖になるのだ。
会議のやり方が違う。報告の仕方が違う。判断のスピードが違う。一つひとつは小さな違いだけど、それが積み重なると「この会社はおかしい」に変わる。前職で10年、15年かけて染み込んだやり方が「正解」になっていて、それと違うものは全部「間違い」に見える。
僕自身、2週間で辞めたあの会社でまさにこれだった。「前の会社ならこんな非効率なことしない」「なんでこんなやり方してるんだ」——入社3日目くらいから、頭の中はそんなことばかりだった。それから辞めたい辞めたい、と毎日思っていた。
アービンジャー・インスティチュートの『自分の小さな「箱」から脱出する方法』という本は、この状態を「箱に入っている」と表現している。
箱に入っているとき、人は周りの人間を「自分と同じ感情やニーズを持つ人」として見られなくなる。新しい同僚が「一緒に働く仲間」じゃなくて、「自分のペースを乱す邪魔者」に見える。表面上は大人の対応をしていても、内心では「こいつらはレベルが低い」と見下している。
しかも厄介なことに、箱の中にいる人は、自分が箱に入っていることに気づけない。
えてして、問題がある人物自身には、自分に問題があるということが見えなくなっている。 ——アービンジャー・インスティチュート『自分の小さな「箱」から脱出する方法』
これを読み返したとき、あの2週間の自分が鮮明に蘇った。僕はずっと「この会社が合わない」と思っていた。でも本当は、前の会社のやり方を正解だと信じ込んで、新しい環境を最初から裁いていたんだと思う。合わなかったんじゃなくて、合わせる気がなかった。
「自分は正しい」を守りたいだけだった
『箱』の本を読み返して一番ドキッとしたのは、「自己正当化イメージ」という概念だった。
人は自分のプライドが脅かされると、「自分は優秀で、何でも知っていて、常に正しい人間だ」というイメージを必死に守ろうとする。そして、そのイメージを脅かす人間は「敵」に見え、強化してくれる人間だけを「味方」にする。
40代、50代で1社に長くいた人は、ここが一番危ない。
長くいればいるほど成功体験がある。「自分のやり方で結果を出してきた」という自負がある。それ自体は素晴らしいことだ。でも転職した瞬間、その成功体験が最大の敵になる。
新しい職場で「自分は何でも知っている」というイメージを持ち歩いている人は、本当に学ぼうとしているわけじゃない。最大の関心事は「自分がどう見えるか」になっている。「相手のために何かしよう」じゃなくて、「自分のプライドを守ろう」が行動の原点になっている。
こうなると、新しい環境で何が起きるか。
同僚が失敗すると、内心ホッとする。「ほら見ろ、やっぱりこの会社のやり方はダメだ」と、自分の正しさを確認できるから。相手の欠点ばかりが目につく。自分の欠点は見えなくなる。
転職エージェント時代、入社後3ヶ月や半年で辞めたいと相談に来る人は、多くの人がこういう状態になっていた。本人は自覚がないことが多い。「周りのレベルが低い」「この会社のやり方はおかしい」と真剣に訴えてくる。でも話を聞いていると、本人が一番変われていないケースがほとんどだった。
まず掃除の仕方から学ぶ
じゃあ、新しい環境に入ったとき何をすればいいのか。
僕が好きな本に、斉須政雄さんの『調理場という戦場』がある。東京・三田の老舗「コート・ドール」のオーナーシェフ。フランス料理の世界で、言葉も文化も違うフランスの厨房にゼロから飛び込んだ人の話だ。
斉須さんは新しい厨房に入ったとき、まず何をしたか。自分の料理の腕を見せつけようとしたわけじゃない。
その場所の整理整頓を見て、仕事の水準を知った。乱雑な厨房からは乱雑な料理しか生まれない。逆に、整理された厨房には、整理された仕事の流儀がある。まず、それを観察するところから始めている。
斉須さんは「裾野が広がっていない山は高くない」とも書いている。大きなことをやりたければ、一つひとつの基本を丁寧にクリアしていなければならない。華々しい成果の前に、地味な土台がある。
これは料理の世界だけの話じゃない。転職先で「自分の実力を見せてやろう」と意気込む40代に、そのまま突き刺さる言葉だ。
40代の転職者にとって、これは一番しんどいことでもある。若手の頃は自然にできた。何も知らないから、教えてもらうしかなかった。でも40代は経験がある。知識もある。前の会社ではそれなりのポジションにいた。それなのに「新人」に戻れと言われている気がする。
でも、斉須さんの言葉にこんなものがある。
多くの人は、ゴールは手にするけれども、スタートは捨ててしまう。ゴールを目指していた時とは別人になってしまうのです。権威や権力で着膨れして、他人を蹴落として自分を温存するようになる。 ——斉須政雄『調理場という戦場』
前の会社で手にした「ゴール」を握りしめたまま、新しい場所に来ている。でも新しい場所では、そんなこと誰も知らない。ゴールの顔をしても、誰もついてこない。
プライドを降ろすというのは、自分を卑下しろという話じゃない。スタートの気持ちを思い出すことだ。「自分のやり方が唯一の正解じゃないかもしれない」と認めること。目の前にいる人たちが、自分とは違うやり方で、ちゃんと結果を出してきた人たちだと尊重すること。
斉須さんは「毎日やっている習慣を、他人はその人の人格として認めてくれる」とも書いている。大きな成果を出そうと焦るより、毎日の小さな習慣を丁寧に積み重ねる方が、新しい環境では信頼につながる。姿勢は言葉を超えて伝わるのだ。
これができるかどうかで、転職後の3ヶ月がまったく変わる。
それでも合わないなら、逃げていい
ここまで「まずプライドを降ろせ」と書いてきたけど、もう一つ大事なことがある。
プライドを降ろして、観察して、尊重して、それでも合わないなら——逃げる判断は間違いじゃない。逃げてしまった、迷惑をかけてしまった僕はそう思う。
エリック・バーカーの『残酷すぎる成功法則』に、成功のカギは「正しい池を選ぶこと」だという話がある。自分の強みが活きる場所を見つけることが、努力そのものよりも重要だ、と。
僕が2週間で辞めたあの会社は、不誠実な辞め方をしたことは大反省だけど、「池が違った」というのも正直なところだ。あの経験があったから、次の転職では「この環境は自分に合っているか」を慎重に見極められた。そして実際に合う場所を見つけて、10年続いた。
ストレスに耐え続けるのが美徳だとは思わない。特に40代以降は、合わない環境で消耗し続ける時間がもったいない。
ただし、逃げるにしても、順番がある(僕はそれがわからなかったから、、)
まず箱から出る努力をしてみる。プライドを降ろして、新しい環境を尊重してみる。それを十分やった上で、それでも合わないと感じるなら、それは「逃げ」じゃなくて「池の選び直し」だ。
箱に入ったまま「この会社は合わない」と結論を出すのと、箱から出た上で「やっぱり違う」と判断するのは、まったく別物だと思う。前者は同じ失敗を繰り返す。後者は次につながる。
まとめないまとめ
偉そうに書いてきたけど、これは全部、自分の失敗から学んだことだ。
2週間で逃げた会社では、僕はずっと箱の中にいた。前の会社のやり方を正解だと信じ込んで、新しい環境を裁いて、最後は逃げた。不誠実だったし、迷惑をかけた人たちには今でも申し訳なく思っている。
でもあの失敗のおかげで、次の職場では最初から違うアプローチができた。まず黙って観察する。この会社がどう回っているのかを理解する。自分のやり方を押し付けない。「前の会社ではこうだった」を封印する。
『箱』の本にこんな一節がある。
完璧であろうと思うな、よりよくなろうと思え。自分が箱の中にいることがわかっても、あきらめるな、努力を続けろ、と。
4月から新しい職場で働き始めた人へ。特に1社に長くいて、初めて違う環境に飛び込んだ人へ。
最初の3ヶ月は、たぶんしんどい。「前の会社の方がよかった」と思う夜がある。「なんでこんなやり方してるんだ」とイライラする日がある。
そう感じたとき、一回だけ立ち止まって考えてみてほしい。今の自分は「箱」に入っていないか? 前の会社の成功体験というプライドが、目の前の人たちを「人」として見ることを邪魔していないか?
それでもどうしても合わないなら、逃げていい。大反省して、その反省を持って次の職場を探せばいい。
失敗は、次に活かせるなら、失敗のままでは終わらない。
2週間で逃げたあの日の自分に、今ならそう言える。
参考書籍
※本記事は、上記の書籍を読み返した筆者の考察です。各書籍の詳細な内容については、ぜひ原著をお読みください。
