COLLECTIVE #53 | ユウ・ホワイト 『悲しいときこそごはんを食べる』 (神奈川県)
ちょうど7年前の今頃、祖父が息を引き取った。90歳を超えていたからまぁやむを得ないという感じだったけれど、手術をするかしないかの判断など、ぼくと家族と親戚とのあいだに意見のズレなどがあってモヤモヤしたままで最後を迎えることになった。
そうは言っても、「別れ」というのはただただ悲しいもので、山形に向かうあいだ、涙も出ないくらいぽっかりと体のまんなかに穴が空いたような、乾いた魂だけが新幹線に乗って移動しているような、そんな感覚を抱いたのを昨日のことのように思い出せる。
駅まで迎えに来てくれた弟。優しさのあまりか、笑顔で普段通り接してくれる。通夜の会場に着くと、黒ずくめの親戚一同が慣れない行事にバタバタと振り回されていたり、一方で従兄弟家族は祖父の写真アルバムに群がってキャッキャとしていた。なんだか滑稽だなと思いながら線香をあげて、外へ出てひとりタバコを吸った。いまどんな仕事をしているのかとか、再婚しないのかとか、そういう話から逃げるためでもある。
*
どの葬式もそうなのかわからないけれど、うちの葬式では夜通し線香を絶やさないように交代で誰かが起きているという習わしがある。その役目を果たすのは祖父の娘にあたる叔母2人、そして叔母の弟で祖父の長男にあたる父、そして母と、孫にあたるぼく、妹、弟。
みんながそれぞれのモヤモヤをストレスに変えて悲しみと同じくらいの量で抱えていたのだと思う。いつ誰かが口火を切って祖父の手術の話で揉めてもおかしくないようなセレモニーホール。せめて通夜くらいは、と思っていた最中、そんな重い空気を変えたのが誰かが知らない間に頼んでいた「出前」だった。
深夜までやっているという町中華。届いたのは、熱々のチャーシューメン、チャーハン、餃子、名物だというカツ丼。朝から何も食べていないことに気づいた7人は、それぞれ好きなメニューを手に取り、ガツガツと食べはじめた。中でも我関せずという弟はニコニコとラーメンとカツ丼の両方を食べていた。
ふと誰かが「おいしい」と声を漏らすと、堰を切るかのようにみんな口々に笑顔で「おいしいおいしい」と感想を言い合う。確かにおなかが減っていたというのもあったけれど、あの時食べたカツ丼よりもおいしいカツ丼にはぼくはまだ出会えていない気がするし、母からひとくちもらって食べたラーメンもとてもおいしかった。
ただ、帰省するたびにまたあの味を食べたいと思うのだけれど、店の名前も、出前の頼み方も、まったく誰も覚えていない。こんな時代なのに調べてもまったく出てこないから不思議だ。深夜までやっているというのもヘンじゃないか。だから、もしかしたら、じいちゃんが「喧嘩をするな」とあの世から配達させたのではないかと、いまも本気で疑っている。

2025年制作
ユウ・ホワイト 『悲しいときこそごはんを食べる』 (神奈川県)
すでに1000文字を超えてしまったのだけれど、そこまでしてでも紹介したいのが今回の ZINE『悲しいときこそごはんを食べる』だ。北海道旭川市生まれのエッセイストのユウ・ホワイトさんが中心となって「悲しいときに食べたごはんとそれにまつわるエピソード」を集めた手のひらサイズの1冊。ユウ・ホワイトさんを含む8人のエッセイを読むことができる。

ぼくが「食」に関するエッセイが好きだということもあるけれど、どの書き手の方の文章も軽快で、長さもちょうどよく、あっという間に読めてしまう。どのエッセイも巧みで、いろいろな情景が連続ドラマのように浮かんでは通り過ぎていく。何より、誰かの「ちょっと悲しい話」と「おいしい話」のバランスがとても心地が良い。

あとがきで「悲しい」と「おいしい」はあくまで自身の主観であると話すユウさん。つまりどんな料理だろうと、「おいしい」という感覚は、いつだって自分を「肯定」してくれる存在にもなりうるということ。だから、このZINEが、悲しんでいる誰かの「傘」になればいいと締められているのが本当に素晴らしいと思った。
そして今回、この ZINE の売り上げを伸ばしている要因のひとつとも言えるのが表紙の絵。イラストレーター中澤楓さんによって描かれた「カツ丼」が、他人のカツ丼とは思えずに、思わず冒頭で自分のエピソードを書いてみてしまった。

ただ、離婚、病気、母の死、別れ、孤独 etc… それぞれのさまざまな悲しみのエピソードと向き合ってきて、「どれも経験済みだわ!」と叫びそうになったぼくは、この先何を食べればいいのでしょうか。
というのは冗談で、そんなどしゃぶりのぼくが、この先、何度も手に取るであろう、心の処方箋のような ZINE です。きっとあなたの心にも作用するはず。
PARK GALLERY 加藤 淳也https://www.instagram.com/junyakato_parkgallery/
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ユウ・ホワイト
北海道旭川市生まれのエッセイスト。横浜を拠点に、"Call off your old tired ethics(COYOTE)"をコンセプトに本の出版・販売を行うブックレーベル「Coyote Books」を主宰。2024年『弱いまま抵抗する』、2025年『悲しいときこそごはんを食べる』を出版。いつも何かに抵抗しながら、言葉を紡いでいます。
https://www.instagram.com/coyote.books/
ユウ・ホワイトさんのオススメスポット
(神奈川県)
妙蓮寺の本屋・生活綴方
いろいろな方がお店番をしていて、本が好きな人や創作をしている人など、たくさんの人に出会えます。
https://tsudurikata.life/
新横浜のお弁当屋さん・米憙(こめよし)
焼きたての魚の入ったお弁当が最高においしい。ちょっと疲れたときには米憙のお弁当を買って、鶴見川沿いで食べることにしています。
関内のピザ屋さん・シシリヤ
ここは日本一おいしいピッツェリアではないかと思います。アスリートのような、チームワーク良いスタッフさんたちがおいしいピザをつくってくれます。
https://www.instagram.com/sisiliya/
ユウ・ホワイトさんの好きなZINEならびにZINE作家
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