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のと・かが百物語(20)秋のショート奇談特集!ウナギと狐とキノコと鳥と/峰守ひろかず

「三州奇談」という本があります。江戸時代中期に加賀、能登、越中で語られた怪談奇談149話を集めたもので、筆者は俳人の堀麦水(ほりばくすい)とされています。
 私は日常使いしているSNSでよく寝た時に「堀爆睡」とポストしておおむねスルーされるのですが、その元ネタがこの人です。
 まあそんなことはさておき「三州奇談」の話です。何せ149話もあり、続編もあったりしますので、メジャーな妖怪からそうでないものまで多種多様な怪異が記されています。で、その中には、どうにも分類しがたかったり、掘り下げて語ったりするのは私の力量では難しいものの、妙な味わいがあって忘れがたい……という感じのものも多いんですね。
 というわけで今回は「三州奇談」より、秋の石川を舞台にした妖怪譚を四本ほど紹介してみようと思います。

1.羽咋のウナギのボス

 まずは羽咋川の河口あたりを舞台にした「菱脇の巨鰻」より、元文年間(1736~1741)の秋、少し涼しくなったもののまだ日中は暑いくらいの季節の話です。

「元来此海は鰻の多き所にて、秋の末に及びては此鰻ども大海へ落つる。其時は羽喰川に網を張りて多く取得る」とのことで、当時は天然のウナギが多く生息しており、秋の終わりになると一斉に川から海へ移動していたようです。そんな場所で、ある秋の日、このあたりの四柳家という武家に仕えていた家来が海を見ていると、水面に黒いものが見えました。

水面に多く小さく黒き物立つこと夥しく見ゆ。(中略)ふしぎに思ひ、汀に能く寄りて是を見るに、鰻の頭を出したるなり。足元の浅き波間にも、筆程の小首を出したる小鰻共、人をも恐れず眞直(まっすぐ)に立居る躰なり。

「三州奇談」より

 黒いものの正体は小さい鰻の群れでした。鰻たちはいずれもまっすぐ立って海面に顔を出しており、これだけでも充分異様なんですが、しばらくすると「ざわざわ」と音がして大波が来ます。すると!

 此時多くの鰻鱺(※ウナギのこと)の顔皆此方へ向ふ。暫くして海の中へ打寄るやうに見えしが、眞中に大きさ一升樽ほどの黒き物、一尺許(ばかり)水面にさし上りて見ゆる。十四五町も向ひのことなれば、此程を圖(はか)るに、近付けば二升樽か三升樽許の大さににて、ニ三尺も水上の高さなるべし。

「三州奇談」より

 其躰先づ黒きやうなる薄赤みの光あり。髭長く左右にはぬる。又烏帽子の折れたる如きもの後ろに見え、甚だ赤き筋も交り見ゆ。其頭水に浮み出づるに、一同に数多の鰻首を以て水をたたくこと二度なり。

「三州奇談」より

 鰻の群れに出迎えられるように、巨大な頭が海面に現れたとあります。
 頭部のサイズは二升樽か三升樽くらいとありますので、だいたい30㎝くらいでしょう。となると全体のサイズも相当デカいはずです。色は薄赤みを帯びた黒、長いヒゲを左右に垂らしていました。
 これが現れると鰻の群れは一斉に水面を二度叩き、そのまま沈んでしまいました。それきり鰻の群れは消え、この秋、このあたりでは鰻は取れなくなったそうな……と結ばれます。
 祟りも呪いも何も起こらないあたりがいかにも実話っぽく、今だったら未確認生物目撃談として理解されそうな話です。

 ヒゲを生やした黒い頭が何ものなのかは解説されていませんが、文脈的には鰻のボスのような存在なのでしょう。鰻にヒゲはないのですが、怪しかったり古かったりする魚に耳やヒゲのような本来存在しないパーツが生えているのは割とよく見るケースなので、その系譜として理解すべき話なのかな……と思うところです。

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