のと・かが百物語(17)お前、あの加工食品を祀ったんか!あるいは現代妖怪学への挑戦/峰守ひろかず
先日、珠洲市やその近隣の妖怪スポットをいくつか回ってきました。
というわけで今回紹介するのはその一つ、珠洲市上戸町寺社の上戸気多神社にまつわる伝説です。上戸気多神社の所在地である「寺社」という地名の「社」は一説にはこの神社のことだそうで、つまりここは地域を代表する神社だと言っていいでしょう。
(ちなみに「寺社町」の「寺」の由来となったお寺にも興味深い妖怪伝説があるのですが、それはまた別の機会ということで)

さて、まずは以下の引用をご覧ください。1777年に刊行された地誌「能登名跡志」の一節です。
又辛鮭の宮と云あり。三ヶ村の宗社也。別當は即高照寺、神主は水島氏也、此宮を辛鮭の宮と云ことは、昔此里人辛鮭を拾ひて、何と云ものにや名を知らず。幸に氏宮の神体にせしに、このからざけさま〴〵怪異をなして、後には人を取喰ふ。行基菩薩此怪異を退散有て(又泰澄大師ともいへり)、大穴持命を勧請ありて、今一宮大明神と云也。三輪の御神躰と御同躰なれば。
古文なので意味が取りにくいところもありますが、ざっくり現代語に言い換えるとこういう感じになります。
この上戸気多神社は「辛鮭の宮」とも言われている。昔、この土地の人が辛鮭を拾ったが、それが何か分からなかったので神社のご神体として祀ったところ、その辛鮭は様々な怪異を起こすようになり、ついには人を襲って食べてしまった。そこで行基もしくは泰澄が、能登を代表する神社である気多大社からオオナムチの神を勧請し、それを祀ったのである。
ここで出てくる「辛鮭」なる言葉を調べると、「塩を振った鮭の干物を指す」という説明と「塩を使わない鮭の干物のこと」という説明の両方が出てくるので、この伝説で言う「辛鮭」が味付けされていたのかどうかは判断しかねるのですが、「辛鮭=内臓を取って干したシャケ」であるのは間違いありません。要するに新巻鮭ですね。
つまり「昔、鮭の干物を拾った人がいて、それが何だかよく分からなかったのでとりあえず神社に祀ったら鮭が不思議な力を得てしまい、怪現象を起こしたり人を食ったりして大変だった」というお話です。まさに人を食ったような、かなり変な話です。
海に近い地域なのに鮭の干物が何だか分からないのか? という部分も気になりますが、何より、加工食品を祀ったら妖怪(というか邪神ですね)になってしまうというのが凄い。今回のサムネイルにも使ったように、シャケは現代人にもお馴染みの食品ですが、あれが人を襲うとなると現代のB級ホラー映画にありそうな印象も受けます。
余談ですが、現代の鮭の怪物と言えば、一部のX(旧Twitter)ユーザーの中には「クリスマスにはシャケを食え!」でおなじみの怪人、サモーン・シャケキスタンチン氏を想起する方もおられるかもしれません。
サモーン・シャケキスタンチンだァ!
— 農林水産省 (@MAFF_JAPAN) December 23, 2023
今年のクリスマスもシャケ一色に染めてやるっー!
いいか、おまえら、#クリスマスにはシャケを食え !
クリスマスは、そう、#シャケざんまい !
分かったか〜〜!! pic.twitter.com/qj52KFWifA
彼のデザイナーである漫画家・久正人さんが表紙とイラストを担当してくださった拙著「滋賀県妖怪事典」が今月(2025年9月)刊行予定ですので、ご興味おありの方はよろしくお願いいたします。以上、宣伝でした。
ここから先は
メンバーシップ
¥ 800 /月
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?
