輪島屋おなつの舞台裏(4) レシピ再現/馳月基矢
まえがき:「輪島屋おなつ」シリーズのこと
小説家の馳月基矢(はせつき・もとや)です。去年から朝顔の栽培を始めました。江戸時代には「変化朝顔」というちょっと変わった朝顔を育てるブームが起こりました。私が育てているのもそうした種類のものです。
小説の仕事では、主に1820年代の江戸を舞台にした人間ドラマ、いわゆる「時代小説」を手掛けています。
2024年12月から翌2025年12月にかけて、「輪島屋おなつ」シリーズ(全5巻)を徳間文庫より刊行しました。
日ノ本各地の郷土料理を味わうことができる「ふるさと横丁」。
地方から江戸に出てきた人々が故郷の味を懐かしんで訪れる通りだ。
輪島出身のおなつは、ふるさと横丁にある「輪島屋」で働きながら許嫁である丹十郎の帰りを待っていた。
命懸けの任務が無事に終わるよう祈りながら作るのは、潮の香りが漂う卯の花ずしや茄子と素麺の煮物。
お腹も心も満たされる、ふるさとの味をめしあがれ。
監修は石川県出身の小説家、上田聡子さんにご担当いただきました。
本シリーズの著者印税は全額、石川県令和6年能登半島地震災害義援金および石川県令和6年能登豪雨災害義援金に寄付しました。

メンバーシップ「つなぐSupport NOTO note」では、「輪島屋おなつ」シリーズ執筆に関する裏話であるとか、調べ物の中で出会ったおもしろいこと、舞台が江戸であるために作中に描けなかったことなどをエッセイにしてお届けします。
今回のお題は「レシピ再現」。変化朝顔しかり、おなつの料理しかり、そのうちこのエッセイに書くであろう日本刀の手入れしかり、小説に描く題材の中で自分でもできそうなことは、実際にやってみることにしています。
本日の献立は、①べか鍋、②甘酒、③棒だら/たらおさの煮物、の3本立て。べか鍋は能登、甘酒は全国区。棒だらやたらおさは九州のお盆の郷土料理ですが、「輪島屋おなつ」シリーズともちょっと関連があるのでご紹介します。
レシピ再現の壁
能登を含む北陸の郷土料理について調べ始めてすぐ、「これは難しいぞ」と感じた問題が大きく分けて2点あった。
1) 発酵食品が多い
2) 九州では見られない魚介類が案外多い
煮物や和え物、揚げ物などの一般的な料理は、農林水産省ホームページの「うちの郷土料理」などのレシピどおりに作って再現できる。
しかし、「こんかいわし」「へしこ」などの魚のぬか漬け、魚醤の「いしる(いしり)」、カブとブリを米麹で発酵させる「かぶらずし」など、北陸の気候でなければ成立しえない発酵食品は九州で再現するのは難しいし、そもそも作るのに時間がかかる。かかりすぎる。ちょっと無理。
(実は母が「かぶらずし」をいたく気に入ったので、長崎でも作れないか検討したことがある。そのドタバタもいずれエッセイに書きたい)
そもそも「発酵」とは何ぞや? 腐ってるのと何が違うの?
味噌、納豆、ヨーグルト、チーズ、キムチなど、発酵食品と呼ばれるものは基本的に好きだ。体にいいらしいので、よく食べている。
いや、「好きだ」と書いたが、もともと好き嫌いがほぼなく、食品系のアレルギーもないため、何でも食べる。人気のないおかずでも失敗した料理でも、全然気にせず食べる。毎食同じものでも飽きることなく、平気で食べる。
「もうちょっとだけこだわりを持ったほうが人生楽しくならない?」と料理好きな弟に心配されるレベルで、本当に何でもこだわりなく食べる。
料理は「生きていくのに必要な程度にできればいいや」という感覚でやってきた。栄養バランスと冷蔵庫の在庫管理においてはそれなりに優秀な「名もなき料理@ザ・適当」ばかり作ってきた。
だから、「輪島屋おなつ」シリーズを書くにあたって改めて料理に向き合うことになったわけだ。レシピを調べてきっちり作って再現する、というのはずいぶん久しぶりだった。
というわけで、調べてみてわかったこと。
発酵と腐敗の違いは科学的な根拠に基づくものではない。科学の目で見れば、どちらも「微生物のはたらきによって有機物が分解される」という現象である。
呼び名の違いは「人間にとって有益か否か」で分けられている。
有益なものは発酵。害があるものは腐敗。
発酵食品は人間の腸内環境を整える上で役に立つからどんどん食べるとよい。腐ったものは一発でおなかを壊すので食べるべからず。
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