見出し画像

【キャラクター小説】『やわらかな灯りの場所』

放課後の教室は、
少しだけ特別な匂いがする。

チョークの粉。
夕焼けの熱。
誰かが閉め忘れた窓から入る風。

その全部が混ざり合って、
一日の終わりを、
静かに知らせていた。



「……よしっ」

少女は、
小さく拳を握る。

机の上に並んだ、
手作りのおにぎり。

形は少し不揃い。

でも、
湯気だけは、
ちゃんと優しかった。



「うまく……できてるかなぁ」

不安そうに呟きながら、
そっと海苔を巻き直す。

その時。

「おーい!」

教室の扉が勢いよく開いた。



「わっ!?」

少女は肩を跳ねさせる。

入ってきたのは、
練習終わりの仲間たちだった。



「お腹すいた〜!」

「今日の差し入れって、
もしかして……!」

「おにぎり!?」



一気に賑やかになる教室。

少女は慌てながら、
でもどこか嬉しそうに笑う。



「え、えっと……
いっぱい作ってきたので……!」

「もしよかったら……!」



「いただきますっ!」



その瞬間。

ぱくっ、と頬張った仲間の目が、
ぱっと輝いた。



「おいしい!!」

「え、なにこれ、
めっちゃ落ち着く味する!」

「なんか……
安心する〜……」



少女は目を丸くする。



「ほ、本当?」

「ほんとほんと!」

「これ、
毎日食べたい!」



笑い声が、
教室いっぱいへ広がる。

夕焼けも、
その空気を優しく照らしていた。



少女は、
少しだけ俯く。

でもその口元は、
隠しきれないくらい、
嬉しそうに緩んでいた。



昔の彼女は、
前へ出るのが苦手だった。

大きな声も出せないし、
自分に自信もない。

誰かの後ろで、
そっと笑っている方が、
安心できた。



でも。

“好き”
だけは、
ずっと胸の中にあった。



おいしいご飯を食べた時の、
幸せそうな顔。

誰かと一緒に食べる時間。

「おいしいね」
って笑い合える瞬間。



その全部が、
彼女にとって、
かけがえない灯りだった。



「……ねえ」

不意に、
仲間の一人が言う。



「あなたってさ」

「なんか、
いるだけで落ち着くよね」



「えっ」

少女は驚いた顔をする。



「なんでだろ。
ふわふわしてるからかな?」

「でもちゃんと、
こっち見てくれる感じする」

「分かる〜」



少女は、
困ったように笑った。

でもその頬は、
少し赤かった。



窓の外では、
夕陽が街を染めている。

オレンジ色の光が、
教室の床へ長く伸びていた。



少女は、
その景色を見ながら思う。



特別じゃなくてもいい。

完璧じゃなくてもいい。

こうして、
誰かが笑ってくれるなら。

「おいしい」
って言ってくれるなら。

自分は、
ここにいていいのかもしれない。



その時。

また一人、
おにぎりを頬張った仲間が、
笑顔で言った。



「やっぱり、
これ食べると元気出る!」



少女は、
少し照れながら笑う。



そして教室には、
夕焼けよりも柔らかな灯りが、
静かに満ちていくのだった。

いいなと思ったら応援しよう!