警察が保護した子猫を「元の場所に戻した」——愛知県警千種署事件と、動物行政の壁
【閲覧注意】 本記事には動物の放置・遺棄に関する記述が含まれます。
2026年7月10日、愛知県警千種署の署員4人が、傷病の可能性がある子猫を保護したにもかかわらず、独自の判断で元の場所に放置した疑いが浮上した。
地域猫活動団体「ねころび」は、動物愛護管理法違反(遺棄)の疑いで告発する方針を示している。
子猫は現在も見つかっていない。
事件の経緯
2026年7月9日午後8時ごろ、名古屋市千種区のオフィスビル敷地内で、同じ場所でぐるぐると回り続ける子猫が発見された。そばには子猫が入れられていたとみられる段ボール箱があった。
「ぐるぐると回り続ける」——これは神経症状の可能性がある。頭部外傷、脳炎、あるいは何らかの中毒症状が疑われる行動だ。
第一発見者の30代男性は、餌を買いに行った間に子猫を見失ったが、捜索を続け、翌10日午前1時ごろ草むらで再発見。警察に通報した。
臨場した千種署の署員4人は、状況を「遺棄事案」と判断し、子猫を一時預かりとして引き取った。この時点で署員は発見者に対し「警察で対応する」と約束したという。
「元の場所に戻した」という連絡
その後、子猫は署に置かれたままだった。
男性は「自分で連れていきます」と申し出て、名古屋市動物愛護センターに確認したところ、センター側は「遺棄なので引き取る。連れてきてほしい」と回答した。
ところが同日夕、警察から男性に対してこんな連絡が入った。
「私たちの判断で元の場所に戻した」
理由の説明はなかった。約束は反故にされた。動物愛護センターが「引き取る」と言っていたにもかかわらず、警察が独断で放したのだ。
現場は交通量が多い道路に面しており、子猫にとって危険な場所だ。「ねころび」代表の山本麻衣さんの協力者らが周辺を捜索したが、子猫は見つかっていない。
「ぐるぐると回り続ける」——見過ごされた異常サイン
「ぐるぐると回り続ける(旋回運動)」は、動物医療においては重要な神経症状のサインだ。
原因として考えられるのは、前庭疾患(内耳・脳の平衡感覚を司る部位の障害)、脳炎・脳腫瘍・頭部外傷、あるいは農薬・殺鼠剤などの中毒だ。
この状態の子猫を「元の場所に戻す」という判断は、医療的観点からも、動物福祉の観点からも、理解しがたい。
山本さんはこう語っている。「すぐに医療につなげなければ危険な状態とわかるはずで、助けられなかったことが悔しい」
「警察は動物を保護できない」という構造的問題
今回の事件は、個々の署員の判断の問題に留まらない。日本における「警察と動物保護」の構造的な問題を浮き彫りにしている。
日本では、野良猫や負傷動物の保護は原則として動物愛護センターや保健所の管轄だ。警察は「犯罪捜査機関」であり、動物の保護・収容を担う設備も訓練も持っていない。
「遺棄事案」として動物を引き取った場合、警察署には動物を収容する施設がない。長時間の保護が難しい——そういった現実も、今回の判断の背景にあった可能性はある。
しかし「施設がないから放す」は理由にならない。動物愛護センターが「引き取る」と明言していたのだから、連絡一本で済む話だった。
動物愛護管理法は「遺棄」をどう定義しているか
動物愛護管理法第44条は、愛護動物の遺棄を「1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金」と定めている。
「遺棄」とは、飼育・管理を放棄して、動物を危険な環境に置くことだ。
警察が一時保護した時点で、その子猫に対して一定の管理責任が生じていたと見ることもできる。「元の場所に戻した」行為が法的にどう判断されるかは、告発を受けた後の捜査・検察の判断次第だ。
「ねころび」は動物愛護管理法違反(遺棄)の疑いで告発する方針を示している。警察署員が告発される——異例の事態だ。
この事件が問いかけていること
「警察に通報したのに、結果として子猫は危険な場所に放された」
この事実は、多くの人が感じるであろう不信感を言語化している。
「もし自分が同じ状況で警察に通報したら、同じことが起きるのか」
動物の保護に関して、警察・動物愛護センター・自治体の間の連携と責任の所在は、いまだ明確ではない。今回の事件は、その空白を突いた形だ。
傷病の可能性がある動物を発見した時、通報先はどこか。警察か、動物愛護センターか、保健所か。その判断を一般市民が迫られているという現実も、改めて問われている。
まとめ
子猫はまだ見つかっていない。
4人の署員が「遺棄事案」と認定し、「警察で対応する」と約束した子猫が、翌日には元の危険な場所に放されていた。
個人の善意による通報が、行政の連携の欠如によって無力化される——この構造は、猫の命を守るために社会が解決すべき問題だ。
参考:東愛知新聞・Yahoo!ニュース「愛知県警千種署員が保護した子猫を放す?」2026年8月3日(3日前)/動物の愛護及び管理に関する法律第44条(遺棄の禁止)/PEACE「動物の遺棄は犯罪です」
