大学院を学んだ経験の共有|台湾で修士課程に通った例
皆さん、こんにちは。和平です。
先日、機械工学の修士課程の学位論文審査(修士論文の口頭試問)を無事に終えました。あとは最後の論文修正を終えれば、正式に修士号を取得し、卒業証書を受け取ることができます。
今回は、私がこの2年間、台湾で修士課程を過ごした経験について、少しお話ししたいと思います。そして、これから台湾の大学院への進学を考えている日本人の方にとって、少しでも参考になる事例になればと思っています。
なぜ大学院に進学したのか
まず、私が台湾の科技大学(技術系大学)に残って修士課程へ進学した理由からお話しします。もともと私は、台湾大学への進学資格を得ていました。
しかし、以前に企業の上級管理職を務めていた経験のある教授から、「自分の研究室で学生として学ばないか」と声をかけていただきました。
そのため、台湾大学への進学を辞退し、もともと通っていた大学に残って、さらに専門的な勉強を続けることにしました。
ここで、大学院への進学を考えている皆さんには、一度考えてみてほしいことがあります。
「自分は、なぜ大学院へ進学するのか?」
勉強することが好きだから?
技術を身につけたいから?
社会人になることから逃げたいから?
それとも、学位が欲しいから?
台湾を例にすると、ほとんどの人が大学へ進学します。高校を卒業して、そのまま就職する人の割合は、日本よりも少ないと思います。
そのため、台湾では「大学卒」という学歴そのものは、かなり一般的です。
そうした背景もあって、台湾で大学院へ進学する人の中には、「学位を取得すること」を目的としている人も少なくありません。
一方、私は将来、業界で必要とされる自分の能力を高めたいと思い、その教授のもとで学ぶことを選びました。
……ところが、入学して最初の学期が始まって間もなく、研究室が変わることになりました。もともと指導していただく予定だった教授から、別の、より若い教授の研究を手伝ってほしいと言われたのです。
そして私は、その若い教授にとって、初めて「単独で指導する」大学院生になりました。(その教授が以前に指導した最初の学生は、他の先生との共同指導だった外国人留学生でした。)
研究室に学生が一人だけ?
大学院で修士課程を過ごす場合、一般的には、ある程度整った研究室があり、博士課程の先輩や研究室のアシスタント、研究員などから研究を進めるためのサポートを受けることができます。
しかし、私の場合は違いました。
研究室の学生は私一人。
さらに、私の指導教授は、大学からパラグアイで現地の教育活動を支援するよう求められていました。そのため、私の修士課程2年間のうち、約1年間は教授が台湾にいない状態でした。
普段の研究ミーティングも、ほとんどがオンラインで行われました。
つまり、研究を始めたばかりの頃の私は、新しく与えられた研究室で一人黙々とゴミを片付け、研究文献を整理するところから始めたわけです。

もちろん、かなり大きなプレッシャーがありました。
しかし、時間が経ってから、それまで自分がやってきたことを振り返ってみると、
「意外と、いろいろなことを成し遂げてきたんだな」
と思うようになりました。
だからこそ、私が修士課程を通して学んだ最も大切なことの一つは、これだと思っています。
本当にすごい人は、最初から何を成し遂げるかを決めているわけではない。目の前にある一つ一つの困難に全力で向き合い、それを乗り越え続ける。そうしているうちに、いつの間にか、かつて憧れていた場所にたどり着いている。
シンガポールでの国際学会発表
そして今年の7月には、幸運にもシンガポールで開催された国際学会へ参加し、自分の研究成果を発表する機会をいただきました。ちなみに、渡航費には、自分自身が主筆者として申請・採択された国家研究プロジェクトの研究費を利用しました。
正直に言うと……
前例となる研究成果がほとんどない状態で、一から研究を進め、最終的に国際学会で発表するところまで持っていくのは、本当に大変でした。
それでも、最後には必要なことをすべてやり遂げることができました。
そして今振り返ってみると、
「他の研究室の学生と比べても、自分が得た経験は決して少なくなかった」
と思っています。
研究の進め方
ここからは、工学系の大学院生だった私が、実際にどのように研究を進めていたのか、簡単に説明してみたいと思います。機会があれば、今後それぞれの項目について、もっと詳しく紹介していきたいと思います。
まず、研究にはさまざまなレベルがあります。
私の個人的な考えでは、研究としてより高度なものから、比較的基礎的なものまで、大まかに分けると次のようになります。
1. 発生している問題を理解し、その問題を解決する方法を研究する
2. 既存の問題をさらに深く掘り下げ、解決につながる方法を提案する
3. 問題そのものを分析し、その原因や違いを明らかにする
4. 実験を行い、科学的な視点から問題を分析・説明し、改善方法を提案する
もちろん、これらの研究でも学位取得に必要な条件を満たすことはできます。
ただ、以前受講した授業の先生が、この研究レベルの違いについて説明したあと、私たち学生にこう言っていました。
「一番レベルの低い研究をするのはやめましょう。」
そして、
私たちは、現在の工学的な問題を解決するために、どうすればより良い設計ができるのかを研究するべきです。
と話していました。
そのためには、まず基礎的な研究能力をしっかり身につける必要があります。例えば、数学的な計算能力
実際にものを作る・扱う能力
物理や化学のメカニズムに対する理解
などです。
これらは、論文研究を始める前に身につけておくべき基本的な知識です。
研究を分析する3つの基本的な方法
研究を進める際の基本的な分析方法には、大きく分けて3つあります。
A. 実験的アプローチ
実際に実験を行い、センサーなどを使って定量的なデータを収集し、それを分析する方法です。
例えば、統計的な手法などがあります。
B. 数値的アプローチ
コンピューターを使って複雑な方程式を分解・計算し、数値として結果を求める方法です。
例えば、有限要素解析(FEM)などがあります。
C. 理論的アプローチ
純粋な数学的推論によって、現象を説明する公式や関数を導き出す方法です。
基本的には、研究成果を信頼できるものにするために、上記の方法から2つ以上を組み合わせて比較し、実験結果が正しいことを確認します。
ただし、修士課程では「研究を行う能力があること」を示せれば、学位を取得することはできます。
そのため、修士論文で得られた成果の中には、さらに複数の方法による検証を行ってから、学術論文として発表されるものもあります。
だからこそ、修士課程で研究を行ううえで一番直接的な方法は、
自分自身に次々と課題を与えること。
そして、
実験をする
データを収集する
新しい手法を学ぶ
レポートを書く
結果を分析する
という作業を何度も繰り返すことだと思います。
また、企業や業界団体が開催している展示会などにも積極的に参加すると、自分の研究や技術への理解を深めるうえで、とても役に立ちます。
修士課程の流れ
次に、私がどのように修士課程を進めていったのかを紹介します。ここでは、あくまで私の大学と私自身の経験を例として紹介します。
大学によって多少の違いがあります。私が入学してから修士論文を完成させるまでの流れは、以下の図のようになります。

図2の中にも、いくつか注意してほしいポイントがあります。
まず、研究室に入ったばかりの頃は、先輩の実験を手伝わせてもらうのがおすすめです。
そうすることで、研究室にある実験装置の使い方などを学ぶことができます。私のように、他の研究室の学生に教えてもらうのも一つの方法です。
そして、研究を進めるときには、
「今、自分がやっている研究は、次の3つの重要な目標のどれに当てはまるのか?」
を常に意識することが大切です。
A. まだ誰もやっていない研究
ただし、「誰もやっていない」というだけでは不十分です。
なぜ誰もやっていないのか?
その理由まで説明する必要があります。
B. 他の人が行った研究よりも優れた研究
既存の研究と比較して、より良い結果や新しい価値を示します。
C. 他の研究にある間違いや問題点を修正する
既存研究の問題点を発見し、それを改善します。
この3つは、研究成果を判断するうえでの基本的なポイントです。
もちろん、他の人がすでにやったことを学ぶのは、とても大切です。
しかし、可能であれば、先輩の実験を手伝いながら、同じ実験を自分でも再現してみることをおすすめします。
そうすれば、実験方法を学びながら、研究を前に進めることができます。ただ単に他人の研究を真似するだけでは、いつまで経っても同じ場所をぐるぐる回ってしまいます。
個人的には、「他人がやった実験をそのまま真似しているだけなのに、それを『勉強しています』と言う」のは、あまり好きではありません。
修士論文の口頭試問
ここまでの研究を終えると、いよいよ修士論文の口頭試問の準備です。
これも大学によって多少違いがあると思いますが、今回は私が実際に準備したものを紹介します。
学生はまず教室を予約し、以下のものを準備する必要があります。
修士論文の初稿
プレゼンテーション用スライド
論文の印刷版
審査委員の出席者名簿
論文評価表
論文推薦書
論文審定書
論文剽窃チェックの結果報告書
そして、最も重要なのが……当日、審査委員の先生方の机に置いておくもの!
私が実際に準備したものがこちらです。

これらはすべて、指導教授から「必ず準備するように」と言われたものです。
さらに、私の口頭試問は午前11時から始まる予定だったため、昼食も準備する必要がありました。そこで私は、審査委員の先生方のために、中華料理の六宮格弁当を用意しました。
かなり豪華なお弁当です。
では、こんなにたくさん準備したことで、口頭試問の結果に何か影響があったのでしょうか?
答えは……ありません。
なぜなら、審査委員の先生方はとても真剣に私の研究内容について議論してくださったからです。そのため、用意したものにはほとんど手をつけていませんでした。
……なんと、準備した昼食も食べていません。
ちなみに、友人が口頭試問を受けたときは、
「審査委員の先生たちが、ものすごく真剣にご飯を食べていた」
という話を聞きました。
どうやら、先生によって違うようです(笑)。

おわりに
今回この記事を書いたのは、私自身の修士課程での生活を、皆さんに少しでも知ってもらいたかったからです。
ここで紹介した内容は、あくまで私自身の経験ですが、台湾で大学院生活を送るうえでの一つの事例として参考にしてもらえれば嬉しいです。
そして、こうした記事を通して、台湾と日本の文化交流にも少しでもつながればいいなと思っています。
これからNoteで書いていきたいこと
最後に、兵役という国民の基本的な義務を果たす前の期間は、Noteで皆さんにいろいろなことを紹介する時間が、今までより少し増えると思います。
これまでは、主に自分自身の人生観や考え方について書いてきました。
……ただ、正直なところ、反応してくれる人があまり多くありませんでした(笑)。
そのため、これからは研究の基礎知識や、自分の専門分野に関する技術についても書いていこうと思っています。
今後、私が紹介していきたい分野は、主に以下の3つです。
半導体製造・パッケージング技術
(私の修士研究の専門分野)3Dプリンティング・積層造形(Additive Manufacturing)
(高校時代から長年関わってきた技術)工学における応用技術と研究の基礎
なぜ、これらについて書こうと思ったのでしょうか?
大学院で研究を続けていく中で、私は科学分野同士の交流や、研究者同士の情報交換にとても興味を持つようになりました。
そして、日本は台湾と比べても研究者や研究活動の規模が大きく、さまざまな分野で多くの研究が行われています。
だからこそ、将来的には日本で研究や技術に関わっている皆さんとも、何か一緒に研究したり、交流したりする機会があればいいなと思っています。
そのため、これからは一般的な紹介記事とは少し違った内容を書いていくつもりです。
もう一つ、私自身があまり好きではないのが、一般の人向けに分かりやすく書くことだけを目的とした技術記事です。例えば、3Dプリンターについての記事を見ると、
「Bambu Labの3Dプリンターを買いました!」
「こんなものを印刷してみました!」
という内容がたくさんあります。
もちろん、それ自体はとても面白いです。でも、それだけでは、3Dプリンティングという技術が「何かを印刷するためだけのもの」だと思われてしまう可能性があります。
実際には、積層ピッチ、印刷速度、材料、温度、造形条件などをきちんと理解していくと、3Dプリンティングという技術は非常に幅広い分野に応用できます。だから私は、単に「何を作ったか」だけではなく、
「どのような条件で作ったのか」
「なぜその条件にしたのか」
「実験すると、どのような結果になったのか」
といった、パラメータや実験結果についても、できるだけ皆さんに紹介していきたいと思っています。技術の面白さは、完成したものだけではなく、そこに至るまでの過程にもあると思うからです。
以上、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
これからもNoteでいろいろな記事を投稿していく予定です。
ぜひ、今後の投稿も楽しみにしていてください。
