【ピリカ文庫】ラジオ【ショートショート】
「私は、天竺へ行きたいのです」
「しかし、遣唐使でさえ何度も失敗しておるのだぞ?」
「…」
「天竺より三蔵さまが唐へ、そして唐より最澄さまが教えを携えてきてくださった。しからばお主は最澄さまが語る、み仏の言葉を、市井の人々へ教え広めよ。それこそが、み仏がお主に与えた役目ではなかろうかのう」
「なるほど…」
「うん。だいたいそんな感じ。わかった?田中」
授業中とある質問をした僕に、先生が言った。
「じゃあさ、ちょっと、例を出すから、田中、お前、天竺に行きたいお坊さんやってみて。俺、和尚さんやるからさ」
そんな漫才みたいな展開で、僕は僧侶を演じ、そして突然「わかった?田中」と訊かれた。
いやまったくわからんいっさいわからん。
「え?わかんなかった?」
「え?あ、はい。まったく」
「じゃあ図で説明するね。さっき言ってた、市井の人々っていうのが、ラジオ聞いてる人達。で、このお坊さんがラジオ。
で、仏教は、インドのお釈迦様の言葉を経典にして、中国とか東南アジアとか日本とかに来たのね。その、広範囲へ届ける役目を負ったのが、当時の唐の言葉である漢字なのよ。
でも、最澄が唐で習ったことを、唐の言葉で日本の人たちに話しても、みんなわかんないよね。そこでね、身近な僧侶の人たちが、日本語で、例え話で、仏教の教えを広めたの。
ラジオの電波も同じ。声が電波にのってるわけじゃなくて、まず声を電気信号に置き換えます。でも、電気信号じゃ遠くに飛ばせません。そこで、電気の波を細かくして、遠くまで飛ばせる“搬送波”を作り、その搬送波に、電気信号を乗せて飛ばします。これを、変調っていいます。そして、その届いた電波を、また信号に戻す、これを、復調っていいます。
電気信号にした声を電波にのせることを、変調。そしてそれをまたもとに戻すことを、復調。あ、フクチョウってドラケンじゃないよ、それ副総長。
だからね、天竺のお釈迦様の言葉を、文字という電気信号に置き換え、唐の言葉に変調、そして日本にやってきて、聞く人が分かりやすいように例え話に復調するっていうのが、ね、これがラジオの原理ね。
こうやってね、ラジオっていうのは、言葉が電波にのって、遠い場所からみなさんの鼓膜に届くわけですねはいじゃあラジオの話はおしまいね、はい次のページ、じゃあ吉崎、“兵十はぼろぼろの、”から読んで」
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