【フリー台本】根腐れ
車窓の眺めに目をやってみてよ。
屋根の上を走り抜ける人の空想も、
ただ流れていく風景をぼんやり眺めるのもいい。
なにより君の肩越しに見る景色は他になく色めいて、
通路側が一等の席になる。
最近気分はどうですか
深夜徘徊はそこそこにして、おふとんの上で眠っていますか
最近くらしはどうですか
パックごはんのゴミの塚、つくってしまっていませんか
最近あなたはどうですか
少しだけ、ほんの少しだけ、いまの不幸を願っています。
君のいるページばかりに開き癖がついてしまった。
開いて伏せてもすっ飛んで来てくれる君はいないし、
それをいいことに僕、毎日同じページによだれ垂らして寝てるよ。
栞ももういらなくなって、カレンダーも手帳もメッセージの履歴も
全部いっしょくたの束にして捨てた。
限られた記憶を擦り切れるまで再演した。
再演のたび実体のないフィルムが伸びて、すれて、
駄目になるいつかが見え隠れする。
このまま季節は繰り返されて、
君だけがいない僕の生活もそのままで回り始めて、
それでも僕は夢を見る。
積み上げてきた空虚な生活の上に立つ僕を指さし、誰かがなじる夢を見る。
突きつけられた指の主の顔を確かめると、それはきまって僕だった。
瓦礫を愛して、空っぽな巣を抱いて、
もうそこにない桜を幻視して、僕をおいて流れていく風景を観た。
ながれてゆく。うすれてゆく。
車内に見る花の影はいっそうゆっくりとした時間に取り残されて、
僕はそれを巻き戻すだけで、 全部をそこに留め置いて、
世界は後ろにながれてゆく。
小さな呪いをかけるのはおしまい。
あの樹の下に埋めておくね。
思い出せるだけをここに置いていくね。
今日も君が幸せであるように。
僕のない君の生活の、そのぜんぶが君の幸せのためにはたらきますように。
あの樹の下に埋めておくね。
桜のきみに時限付きの魔法をかけるために。
