【フリー台本】ほんとうのこと
「恋でした。大好きでした。汚い欲を、隠れて何度も向けました。
グラス越しの君が酔いつぶれた僕を笑うのが好きでした。
僕がくだらないことに本気になっているのを全部仕方ないなって許容してくれる君が好きでした。
君の代替として選んだ女の子と僕の仲を誰よりも案じてくれる君が好きでした。」
俺だよ、わかる?久しぶり。
ずいぶん辺鄙なとこなんだね。
俺、整理券とるタイプの路面電車って初めて乗った。
ダメ元で君の実家にも寄ったんだよ。案の定追い返された。
あの伯母さんは強烈だね。1日中あんなのといっしょにいたら気も滅入る。
そう、君の書いてくれた手紙読んだんだ、おじいさんがね、読ませてくれて。
急にこんなこと言ったら驚くと思うんだけど、
俺、殺されるなら君がいいな。
だってさ、
俺たちって毎晩のように通話したし、
うん、ただゲームの好みが似ていただけだけど。
俺たちって初めての酒も二人で飲んだし、
うん、ただ誕生日が一日違いだっただけだけど。
俺たちって初めての彼女とした全部の体験を打ち明けあったし、
うん、ただ一緒にいた時間が長かっただけだけど。
確かにそれだけのことのはずだったんだけど、
色の薄くなった酒の向こう側にいる君が好きで、
みかんの白いスジを神経質にとってる君が好きで、
桜並木の下で小一時間花びらと格闘する君が好きで、
食べる前に何枚でも写真を撮る俺を嗜める君が好きで、
星が評判のキャンプ場が酷く曇ってたときの君が好きで、
ガス缶忘れた山頂でチキンラーメンかじってる君が好きで、
眠たい講義で真面目にノートとってたかられてた君が好きで、
プレゼントに悩みすぎて俺の言いなりになっちゃう君が好きで、
とにかく俺の幸せな記憶の全部には君の顔がまとわりついている。
修学旅行の夜を何度でも繰り返したかった。
何でも打ち明けられる関係だって信じていたかった。
通夜で追い返されるなんて考えたことなかった。
遺してくれたもの、
君がくれた初めての手紙だと思って読んだ。
……。
「言う勇気も、捨てる勇気もありませんでした。
だけど僕はずるくって、思い切りが足りなくて、
だからこうやって、他力で君に届くのを期待しています。」
簡単に、「言ってくれればよかったのに!」とは言えないんだけど。
その意味で、君よりももしかしたら卑怯かもしれないんだけど。
だけど俺、殺されるなら君がいい。君が良かった。
でももう叶わないから、そのままで、誰にも殺されないようにする。
死にたくなったらまた来るね。
墓の前で手合わせて、餓死とかめざそっかな。
いや、冗談。
またね、もう二度と会わないかもしれないけど。
