長編小説「3色だんごの子連れ旅」 番外編①
あけましておめでとうございます
新年のはじめに掌編をひとつ
本編を知らない方も、いつも読んでくださる方も
ほっと一息楽しんでいただけたら幸いです🎍
2026年の目標3つ
①感謝をたくさん見つけ、味わう
②からだを大切にする
③誠実に生きる
これらを主軸に、具体案をピックアップして実践していこうと思います😊
③は、今連載中の小説をきちんと公開し終えることも含んでいます
完結はしていますので、どうぞご安心ください🙏
いつもたくさんのスキ、マガジン登録に励まされております
本年も、ゆるりと無理なく、何卒よろしくお願い申し上げます✨️
番外編 あなたの不用品、運ばせていただきます
ある日の朝食は、白と黄色の焼き物だった。
じゅわー
つやつやした白いまるのなかに、やや小さい黄のまる。
レンが持っている鋳物(一本の持ち手がついている食材を焼いたり炒めたりするための道具)から鳴り響くオーケストラが面白くて、トレイとミントは間近で調理を眺めていた。
「あまり近づくとはねるぞ。油が」
レンが言い終わらないうちに、ぱちんと油が飛んでミントの顔に当たった。……でも、安心してほしい。ミントが着ている白いローブは「守りの加護」が備わったもので、装備者に何かしらの攻撃が届く前にバリアを張って防いでくれるのだ。
「ふふん。ミント、強い」
「いまの油はミントを狙ってきましたねー。ミントはかわいいから、油にも大人気ですねー」
くふくふと笑うふたりの会話を横目に、レンはささっと目玉焼きを仕上げた。今日の卵は黄身の色が濃厚で、とても美味しそうだ。
黄身は半熟、白身にはまんべんなく火が通っていて、端っこはカリッと香ばしく揚げ焼きされている目玉焼き。レンは火の扱いがとても上手。
「レンは、いろんなお手伝いをしていますね」
朝、昼、夕に加え、おやつタイムも合わせてたくさんの飯をレンたちは共にしてきた。ごはんを一緒にたべながら、たくさんの言葉を交わしてきた。ゆっくりと、すこしずつほどけていくそれぞれの過去。
先の言葉は、ミントがおかわりの燻製肉をレンのお皿からこっそり横取りしようとして――速攻で手の甲を叩かれた――いたときにトレイが言ったものだった。
レンは眉を片方だけ上げた。
「あぁ? あー、まぁ、そうだな」
ミントも手をさすりながら言った。
「この前はぁ、草をむしってた! お水も運んだ! お馬さんの体も洗ってあげてた! こわれたタルを直してた! それから……」
軽く思い出すだけでも、村という村、街という街で、レンはいろんな人から頼み事をされ、できることは嫌な顔ひとつせずに手伝っていた。
「他に、どんなお手伝いをしたことがあるの?」とは、ミントから。
「一番印象的だったのは?」とは、トレイの質問。
長寿のレン。
レットドラゴン(人間の姿に変化している)のレン。
あんまり笑わないけど、優しいレン。
レンはしばらく考えた後、ある思い出を語ることにした。
それは遠い遠いむかしのこと――。
卵、を運んだ話。
*
「卵はな、完全栄養食なんだぞ」
かんぜんえいようしょく?
ミントもトレイも口をぽかんと開け、小首をかしげた。
「この」とレンは手近に置いてあったリュックサックから布の包みを取り出し、丁寧にくるんであった茶色の大きな卵を二人に見せた。
「かたい殻で覆われた中身……白いとこと黄色いとこ、全部きっちり食えば体は強くなる」
「ほう」
「ほぉう」
「トレイは小さい頃、コボルトと一緒に暮らしてたって言ってたよな」
「はい、そうですよ」
「おれは、むかしコボルトの村に立ち寄ったことがあるんだ」
レンがそのとき一泊一飯の世話になった村は、人間がコボルトを飼育しながら一緒に暮らしていた感じだったという。飼い主が思い思いに手作りした首輪をつけたコボルト――頭が犬で直立二本足歩行をするモンスター――と、みんな仲良く慎ましく暮らしていた。
だが、レンが訪れたときは深刻な不作の年だった。
コボルトや人間の子供たちが大勢いたけれど、とにかく食糧事情が悪く、村人たちはそろって痩せていて、病でふせっている者もいた。体力が有り余るレンが畑仕事を手伝ったところで、不作がただちに改善するはずはなかった。成長期の子供たちが飢えている。そこでレンはある提案をした。
『卵はな、完全栄養食なんだ』
口をぽかんと開け、小首をかしげる村人たち。
運び屋レンはこの瞬間開業した。
卵をもらい、村人たちにたべさせよう作戦だ。
「卵ください〜って、誰かにお願いしたんですか?」
トレイは真剣な表情でレンの昔話に聞き入り、尋ねた。
「まぁ、よくある物々交換だ。じゃあトレイ、何を卵と交換する? コボルトの村っていうと、トレイもずっと暮らしてきたところだ。コボルトならではの宝物……トレイなら思い当たるんじゃないか?」
レンの質問に、トレイは腕を組んでウンウンと頭を捻った。
燻製肉をかっさらったミントは、大きな声で叫ぶ。
「コボルトのいのち!」
そのトレードは酷すぎる。即刻却下すると同時に、レンはミントの回答に一抹の不安を覚えてしまう。酷すぎる……が、世が世ならあり得ないこともないのが、この世界が残酷なところだ。
「コボルトの……絵画集でしょうか……かわいい系の……」
真剣な顔のトレイがつぶやいた。
――ほしいのか、絵画集を
ツッコミそうになるのを、レンはぐっと堪えた。
コボルトは立って歩くが、犬や狼に近い生態のモンスターである。種や個体差もあるが、コボルトは成長過程で牙や毛の生え変わりがあるので、レンはその「不用品」に価値をつけてみることにした。
『コボルトの子供の歯はやわらかい色味の白素材として重宝し、希少な幼年期の毛で編まれた服飾品は高級感を演出するとてもよい一品になるぞ』
そう言って、レンが卵をたくさん作っている村に掛け合った。
その、養鶏が盛んな村を、卵の村と呼ぶことにする。
なぜ卵の村では、卵をたくさん作っているのか。
「卵を、自分らの村でたべずに、どこかに持っていくんだ」
レンのなぞなぞが再び出題された。
「ううっ! レンの説明でコボルトの宝物は分かりました……。牙と毛ですね。でもそれとは別に、その村で作ったせっかくの卵を、なんでどこかに持っていく必要が……?」
頭を抱えるトレイの隣で、ミントはすっくと立ち上がった。
「ミントはねぇ、考えるのをやめたんだよぅ!」
「潔いな」
感心してレンが言った。
実は、卵の村の近くには、すべての建物を白で統一して建てている「白代城」という聖地があり、その壁面素材として卵の殻(遠くの地からは貝殻も)を使っているとのこと。
卵を作っているのは、卵の殻を献上するため。
だけど、どうしても色が悪い卵や質の悪い卵はできてしまう……。
献上できないものは焼菓子などに加工したりするものの、村で消費しきれない「訳あり卵」はたくさんあるのだとか。
トレイは頑張るのが趣味なので、頑張ってレンのなぞなぞを解こうとしているようだ。人差し指をあっちこっちに動かして、宝物を繋げようとする。
白代城で必要な卵
(卵の殻、持ってこーい)
↑
卵をたくさん作る村
(訳あり卵が余って困ったよーぅ)
↑
コボルトと共に暮らす村
(栄養が足りないよーぅ)
「えっ……と? 白いそのお城では、コボルトの牙や毛が宝物になるから、それの代わりに余っている卵をもらう……ってことで、レンが卵をもらうことができたってことでしょうか?」
必死で考えたトレイ、頭から湯気がもくもく沸いている。
「そそ。卵と貝殻だけで作った壁もいいけど、そこに牙の白も混ざったら、もっと見栄え良くなるんじゃないかっていうアイディアを出せば、好きな人にはきっと価値あるものになるだろうという……云々かんぬん」
さっさと思考を放棄したミントはうとうととまどろみはじめ、レンは嬉しかったのかトレイの頭をわしゃわしゃと撫でた。
卵を背負って、コボルトの牙と大量の毛を抱えて、レンはその村を何往復もしたのだという。おかげで栄養失調でやつれていた人々は元気を取り戻し、不作の年を乗り越えることができたようだ。
トレイはしみじみと目の前の茶色の卵を見つめ、
「はぁ……何やら、この卵一個も、宝物に見えてきました。ニワトリさんに感謝感謝ですね……!」
と微笑んで言った。
トレイの両手にすっぽりと収まるくらいの、鶏卵……。
鶏、卵……?
「トレイ、ちなみにこの卵は、ワイバーン(飛竜種のモンスター)のものだ」
レンはニヤリと笑ってトレイに告げた。
(さっきたべた目玉焼きはもしや……!)
(いつの間にかぼくはモンスターをたべていた……!?)
(それより、レンはレッドドラゴンなのだから、これは共食い……!?)
などと、いろいろ衝撃を受けたトレイだったが、レン曰く、ワイバーンは二本足を持つモンスターであり、一般的なドラゴンは四本足、決して共食いではないというのが彼の持論だ。
「次の卵料理は……茹でるか混ぜて焼くか、それとも丸ごと揚げるか……」
料理人、レンは鼻歌をうたう。
運び屋、レンは何でも運ぶ。
旅人、レンは子連れで今日も献立に迷う。
幸福な食事を!
(おわり)
【参考文献】
(書籍名にAmazonへのリンクを貼っております)
料理の科学大図鑑. スチュアート・ファリモンド著
河出書房新社. 2018. 256p
もっとおいしく、ながーく安心 食品の保存テク. 徳江千代子著
朝日新聞出版. 2015. 256p
ひと目でわかる食べ物のしくみとはたらき図鑑
創元社. 2019. 256p
ワイバーン. モンスターペディア. ブラック黒沢(2025/8/15更新)
卵の栄養完全ガイド:生・半熟・固ゆで、家族の健康に最適な食べ方とは?. 東急ふるさとパレット. 東急(2025/7/4更新)
ダンジョン飯 ワールドガイド 冒険者バイブル. 九井 諒子著
KADOKAWA. 2021. 176p
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