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通院日記059_地域病院_通院52日目    妻の目覚めが、とてもいい。 起きてから、歯磨き・顔拭き・額の冷やしタオルの交換まで・・・

20250511(日) 地域病院 通院52日目

 
 付き添いの13日目。

 妻の目覚めが、とてもいい。
 起きてから、歯磨き・顔拭き・額の冷やしタオルの交換まで。
 一通り行う。
 気分がいいらしい。
 窓も開け、クロスワードパズルを手に取る。
 パズルはすぐに手放した。
 スマホを本当に久しぶりに手に取って、メールの整理なんかをしている。
 昨日から処方してもらった精神安定剤。
 本来の目的とは違うらしいけれど、気持ちを安定させる効果もある。
 てきめんの効きで驚くくらいだ。

 これまでも、妻は初めて処方される薬には、副作用も含めて過剰なくらい反応していた。
 「この薬もものすごく効いちゃうかもね。」
 寝る前に話していたのだけれど、本当にそうなった。
 僕としても気持ちがいい。
 毎日寝起きに、安楽死についての哲学的ではない見解を求められるより、はるかにいい。
 医療スタッフの皆さんが支えてくれて、比較的元気な状態になっている。
 この状態を楽しみたい。
 楽しむといって、特別な事はできないけれど。
 いつも見ているYoutubeを見たり、その程度でいい。
 いつも過ごしてきたような、日常に近い一瞬を感じられればと思う。


 回診の医師がやってくる。
 落ち着いている状態を喜んでくれた。
 また波が今後もあるかも、と付け加えていったけれど。
 でも、それくらいの言葉らなら、今は受け入れられる気分になっているようだ。
 腸液の排出量が、ほとんどないことについて、嘔吐感がなければよいことだという。
 休日に、同じ医師が担当してくれているのは、家が遠いからだそう。
 普段から泊まり込みだという。
 今日の医師は、看護師からもいい先生だと聞いていた。

 試してみようという、おにぎりと野菜スティックを買ってくる。
 おにぎりは、姪っ子が勤めている会社のもので、鮭のハラミおにぎり。
 以前、諦めていたもの。
 「これ、おいしい。」
 半分くらい味わった。
 鮭のところもしっかりと。
 「2粒くらい飲んじゃった。」
 「それくらいなら影響ないよ。」
 お口直しに、野菜スティック2本。
 きゅうりと大根。
 その後、また歯を磨いて食事終了。
 「やっぱり、うどんとかのほうがいいかな。味がしみ込んでるし。」
 僕の朝ごはんの、スープ春雨を勧めてみた。
 けれど、飲み込んでしまわないかと不安らしい。
 食べた感じでは、春雨は長くて飲み込みはしなさそうだった。
 けれど、本人が食べたいと思うものを、食べてもらえばいい。

 家に一度戻って、帰ってくる。
 義姉が、妻の腰をさすってくれていた。
 妻の元気が、少しなくなっているように見える。
 「今日はあの後、頭を洗ってもらったよね。」
 午前中に、その予定を入れていたようだ。
 「その後も、ベッドシーツを交換したり、いろいろあってちょっと疲れたみたい。」
 義姉と交代するまで、手持ち無沙汰になって、ベッドの手すりに顎をのせていると、眠気がやってきて目をつぶっていた。

 何気なく目を開けると、妻が非難のまなざしを送ってきた。
 義姉が帰っていくと、さっそく蒸し返された。
 「私がさ、腰が痛いっていってるのに、居眠りって何?」
 「あー、それは姉さんがさ、腰揉んでくれてたから、僕の出番はないかなって。」
 「そうやってあきらめないでよね。できることはあるはずでしょ?」
 妻は舌が乾いてつらいので、どうにかできないかというミッションを、僕に与えてきた。
 「こうやってね、唾液を分泌させるんだ。」
 顎のラインにそって、耳の下から両顎の裏、顎の下を圧迫する。
 「あ、出てきた。」
 「でしょ?」
 「なによ、私が命令したから、調べただけじゃない。」
 「ふーむ。確かにそうだ。あ、ちょっと、唾が出てきてもティッシュで拭かないで。舌にからませておくんだよ。」
 「あ、そう?」
 「でもさ、氷はどうかな。飲み込んだりしない?まぁ、氷1個くらいいいんだろうけど。」
 急な発熱の時に、妻は舌がからからに乾いて、それが恐怖だったらしい。
 その対策として、ファミマでクラッシュアイスを買ってきていた。
 それをひとかけ口に含んでおけば、舌は乾かない。
 それが有効か確認したかったようだ。
 1つ口に入れると、もて余している。
 どうも大きすぎるようだった。
 舌をストローで濡らすための、コップにしばらく入れて小さくしてから、口に含んでもらう。
 これくらいで、大きさは丁度いいようだ。
 「あれはね、なってみてもらいたいよ。舌がからっからになって、ほんとに怖いんだから。」
 その時のことを思い出したらしい。
 ICUへ入る前に、妻は一人で部屋にいた。
 僕はその日、一度低血圧で倒れ込んだ妻が、落ち着いたのを見て、数時間前に家に帰っていた。
 「死んじゃう人って、息がね、魚の腐った匂いがするって、昔読んだんだ。自分の口からそんな匂いがしたから、もう終わったって思った。」
 「それは消化液の匂いだね。」
 かなり長い間、そんな匂いは妻の口からしていたけれど、ここ数日は匂いがきれいになくなっている。
 医療麻薬を入れたころからだと思う。
 同じくその頃から、腸液の排出量もなくなってきているような気がする。
 一体、妻の身体の中で何が起きているのか、さっぱりわからない。

 
 イオンで買ってきた僕の夕食と一緒に、妻が味見するかもしれない、と思って買ってきたものを披露する。
 だし巻き卵ときつねうどんだ。
 「ちょっと食べてみる。」
 だし巻き卵を二口。
 うどんを結構味見する。
 「イオンのよりもファミマの方が美味しいね。」
 「じゃ、今度からはファミマで買ってくるよ。たぶんだし巻き卵もあったと思う。」
 「うん。ちょっと、卵は甘さが足りないんだよね。」
 「なら今度、家で作ってきたのを食べてみる?」
 妻の目が輝いた。
 「じゃ今度つくってくるよ。」

 
 「さっきお姉ちゃんにさ、看護師さんに頭洗ってもらってた時だけど、シャンプーとリンスを取ってもらう時に、それが分からなかったのを、どうしてそんなこともわからないの、って言っちゃった。」
 つい癇癪を起こしてしまったことを反省しているらしい。
 僕には、結構な頻度でそういうことを言うけれど、実は反省しているのかもしれない。
 ともかく、甘えられる人がいるということは、悪いことじゃない。
 有効に活用してもらいたいものだ。


 「どうして、そんなに見ようって言うの?」
 Youtubeのことだ。
 北海道で暮らしている家族のお母さんが、料理をしたり園芸をしたりしている動画だ。
 妻が楽しみにしていたものだった。
 一緒にできることといえば、それくらいしか思いつかないから、繰り返し誘っていた。
 「別に無理にっていうなら、見なくていいよ。続きが見たかっただけだから。」
 「じゃあ、見てあげるよ。」
 「ほんとう?」
 そう言われて見ても、以前ほどには楽しむことができなかった。
 内容は、スイーツを制作するというもの。
 つまりスイーツというのは、砂糖と砂糖と砂糖とバターを混ぜ合わせて、リンゴやイチゴやクリームのフレーバーをちょっぴり足したもの。
 そういうものなのだ。


 今日はGWの最終日。
 夕方から、高速の上りは渋滞している。
 こういう風景を何日も見るだろうと思っていたけれど、それが見えたのは最終日の今日だけだ。
 けれど、どうも流れ方が事故渋滞らしい。
 「はぁ。GWが終わったから、どこかドライブにでも行きますかって、いきたいところだね。」
 「どこへ行きたいとか、何をしたいとかね、悲しくなっちゃうから、考えないことにしたの。」
 「じゃ、この部屋でできることを考えればいいね。」
 「それなら、足を揉ませてあげる。」
 水枕を変え、タオルを濡らしなおし、舌を湿らせて眠る準備を整えてから、足を揉み始める。
 かなり気持ちがいいようだ。
 「こういうのが、バイタルにてきめんに現れたら、面白いんだけどね。」
 じっと見ていると、多少のリラックス効果があるようだ。
 70台の脈拍は、足を揉んでいると、60台にまで落ち着いてくるときがある。
 「ちょっと、寝るのは早すぎたかな。」
 舌下薬を処方してもらい、寝る気満々の妻は、足のマッサージに体を揺らせながらつぶやく。
 「じきに眠くなってくるよ。」

 しばらくして妻が寝息を立てはじめた。
 いびきといえなくもない。
 高速の渋滞は解消されていた。
 疲れを覚えたので、僕も早く眠ることにする。


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