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【知見の断面 #16】「〇〇〇〇ではよくあること」――その一言が意味する、パートナー選びの本質

📢 この記事の要約
海外進出のパートナー選びで失敗する企業の多くは、「騙された」のではありません。構造的に責任を取れない相手を、信頼できる相手だと判断してしまっただけです。洗練されたWebサイト、公的機関のロゴ、代表者の熱い言葉。これらはいずれも「悪い相手ではない」ことの証明にはなりますが、「トラブルのとき一緒に泥をかぶれる相手かどうか」の証明にはなりません。本稿では、実際のリカバリー事例を通じて、「なぜ良さそうに見えたパートナーが機能しなかったのか」という構造を三つの角度から記録します。読んでくださる方にとって、次の一歩を考えるうえでの、ささやかな気づきの芽となれば幸いです。

🖋序章:「〇〇〇〇ではよくあること」

先日、こんな話を聞きました。

ある企業が、東南アジアのある国への法人設立を検討していました。
はじめての海外進出です。社内にノウハウはなく、現地のコンサルティング会社と契約し、オフィスを探し、法人登記の手続きを進めていました。

ところが、法人登記のために賃貸契約まで済ませたオフィスが、そもそも法人登記のできないビルだったことが判明します。

コンサルが事前に確認していれば、すぐわかることでした。
登記可能なビルかどうかは、現地で法人設立を支援する立場であれば、確認すべき基礎的な項目のひとつといえます。

担当者が状況を問い合わせると、返ってきた言葉はこうでした。

〇〇〇〇ではよくあることです」

それだけで、終わりました。

その後、進め直した税務処理でもトラブルが起きました。
コンサルが「大丈夫」と言っていた会計処理が、現地当局に認められず、多額の追徴金が課されます。コンサルの連携ミスが起点だったにもかかわらず、相手の返答はまたも同じでした。

「現地ではよくあることです。勉強代ですね」


笑えない話です。

しかし私は、この話を「悪質な業者に引っかかった不運な話」として片付けることに、違和感を覚えています。

「不運」というフレーミングは、「次は運のいい業者を選べばいい」という教訓しか残しません。
しかしこの件から本当に読み取るべきは、「なぜ良さそうに見えた相手が、いざとなると機能しなかったのか」という構造的な問いのはずです。

その構造を見ないまま次の一歩を踏み出すことが、同じことを繰り返すリスクにつながります。


🖋これは「不運」ではなく「構造」の話である

私はこのリカバリーに関わりました。

結論から言うと、私がやったことに、魔法はありません。

登記できなかったオフィスを遡って登記可能にしたわけでも、課された追徴金を免れさせたわけでもない。失ったものは戻りませんでした。ただ、最初からやるべきことを、石橋を叩きながら、丁寧に一緒にやり直しただけです。

その「だけ」が、なぜ最初のコンサルにはできなかったのか。

ここが、今回記録しておきたい本質です。

この種の問題は、珍しくありません。

中小企業基盤整備機構が2024年3月に公表した「中小企業の海外展開に関する調査」では、海外展開を成功させた要因の第1位が「信頼できる現地パートナーの開拓」(54.9%)でした。半数以上の企業が、成功の決め手としてパートナー選びを挙げています。

同時に、海外展開における課題の上位3位にも「信頼できる現地パートナーの開拓ができない」(31.9%)が入っています。調査レポート自体が「成功要因がそのまま課題の裏返しになっている」と指摘しています。

つまりこういうことです。海外展開の成否を最も左右するのはパートナー選びであり、かつ約3割の企業がそのパートナー選びそのものに詰まっている。

「現地で商品が売れなかった」「文化の壁に阻まれた」——多くの人が海外進出の失敗としてイメージするのはそうした事業戦略上の問題です。しかし実際には、それより手前の「パートナーという入り口」が、海外展開全体の命運を握っている。

JETROの2025年度調査では、インドで2年連続8割超の企業が拡大志向を示すなど、グローバルサウスを中心に海外展開の波は続いています。その波に乗ろうとする企業が増えるほど、パートナー選びの問題も静かに積み上がっていく可能性があります。

そしてこの問題は、特殊な詐欺でも、特定の業者の悪意でもありません。現在の海外進出支援ビジネスに構造的に内在する「リスクの非対称性」です。

「リスクの非対称性」とはどういうことか。簡単に言えば——パートナーにとってリスクを取らないことが合理的な構造になっているということです。受注すれば収益が入る。しかし問題が起きても責任は転嫁できる。撤退コストも低い。そういう構造の上にいる相手に、事業の命運を委ねようとしている。これが問題の核心です。


🖋なぜ「完璧に見えた」のか

あの企業が最初に選んだコンサルは、選定の時点では本当に「完璧」に見えたそうです。

担当者が後から振り返ってこう言っていました。「あの時点では、これ以上ない相手だと思っていた。どこをどう疑えばよかったのか、正直わからなかった」と。

その言葉に、嘘はないと思います。

洗練されたWebサイト。「現地の最強専門家ネットワーク」として、税務・法務・人事・マーケティング、各分野の会計士や弁護士の顔写真がずらりと並んでいる。
自治体や公的機関の「海外展開支援パートナー」としての認定ロゴ。
そして代表者の、情熱的なストーリー。
「私も現地で多くの失敗をしました。だからこそ御社を守りたい」。

これを見て信頼するのは、むしろ合理的な判断です。それ自体は責められることではありません。

しかし、ここに三つの「見た目と実態のずれ」が構造的に潜んでいました。


ずれ①:「最強チーム」は、実は緩やかな提携関係だった

Webサイトに並んでいた専門家たちは、そのコンサル会社の「社員」ではありませんでした。

実態を調べると、それぞれが独立した個人事業主や別法人であり、単なる「緩やかな提携パートナー」に過ぎなかった。
コンサル会社は案件を受注し、各専門家に振る。
各専門家は自分の担当領域だけをこなす。その間のコーディネートをするのがコンサル会社、という構造です。

ビジネスモデルとして、固定費を変動費化するこの手法自体は合理的です。スタートアップやIT系の企業では一般的でもある。

しかし、発注側にとっては致命的なリスクを孕んでいます。

重大なトラブルが起きたとき、コンサル会社はこう言える法的余地が残るからです。

「税務のミスは提携先の会計士の問題です。当社はコーディネーターですので、直接そちらと話してください」

実際に、この企業はそう言われました。

会社として社員を抱えていれば、使用者責任が生じます。
しかし提携関係であれば、責任は個々の点に分散し、誰が最終的に責任を負うのかが曖昧になる。
コンサル会社との契約で問いただしても、「それは会計士との別契約の話」と言われる。
会計士に問いただしても、「コンサルからの指示でやった」と言われる。
責任が、合法的に霧散しかねない構造です。

これを私は「ギルド型組織」と呼んでいます。

中世ヨーロッパのギルド(同業者組合)のように、各専門家が緩やかにつながりながら、それぞれが独立した主体として動く。
連帯はしているが、責任は連帯しない。

華やかな「チーム紹介ページ」は、時として「責任の迷路」になり得るのです。

確認すべきは一点だけです。「Webサイトに顔写真が並んでいる専門家は、御社の社員ですか?それとも提携関係ですか?」と直接聞いてみること。
この質問に明確に答えられない、あるいは答えを避ける相手は、責任の所在が自分たちにないことを内心では理解している可能性があります。


ずれ②:「グローバル本社」の住所は、バーチャルオフィスだった

Webサイトには「グローバル本社」と記載されていましたが、登記住所をGoogleマップで検索し、ストリートビューで確認すると、雑居ビルの一室にある月額数千円のバーチャルオフィス(住所貸し)でした。

現地法人の住所も同様でした。

バーチャルオフィス自体が悪なのではありません。
スタートアップ初期や、コスト意識の高い企業が活用するのは珍しくない。「コストを抑えてお客様に還元するため、あえてシェアオフィスを活用しています」と説明できる会社であれば、それは透明性があります。

問題は「いつでも解約して撤退できる拠点」しか持たない相手に、数千万規模の海外事業を預けることのリスクです。

仮に過失で損害が発生したとします。
しかし、会社としての資産(資本金、固定資産、オフィス保証金など)が極小であれば、法的手段で勝訴したとしても、賠償金を実際に回収することは物理的に不可能です。

これは撤退障壁の低さの問題でもあります。
固定資産も固定コストも持たない相手は、問題が深刻になった瞬間に身を引くことが、相対的に容易になりやすい。
相手がいなくなった後では、できることが著しく限られます。

「実体のあるオフィス」は、見栄の問題ではありません。その事業に対するコミットメントと、逃げない覚悟の担保です。

実体を確認することは、5分でできます。Webサイトの住所をコピーして、Googleマップに貼り付ける。ストリートビューで外観を確認する。
看板が出ているか。ビルの規模は相応か。さらにその住所でGoogle検索を追加でかけ、レンタルオフィス業者の募集ページがヒットしないかを確認する。それだけです。


ずれ③:「公的機関のロゴ」は、能力の保証ではなかった

担当者が最終的に契約を決めた理由は、「公的機関のお墨付きがあった」ことが大きかったと言っていました。
自治体の海外展開支援パートナー認定。公的機関の専門家リストへの登録。それを見て、「さすがに信頼できるだろう」と判断した。

これも合理的な判断です。しかし、公的機関の専門家登録における審査は、多くの場合「最低限の信頼性チェック」です。

具体的には、反社会的勢力でないか。税金の滞納がないか。過去に業務停止命令を受けていないか。こうした「衛生要因の確認」です。

「ビジネスを成功させる実力」や「トラブル時に責任を取れる財務体力」を保証するものでは、ありません。

さらに言えば、公的機関の仕事は一般的に報酬単価が低く設定されていることも多く、現地に深い実務ネットワークを持つプレイヤーほど、そうした公的な登録リストよりも民間の案件を優先しているケースもあります。
「登録している=実力がある」ではなく、「登録できる最低限の要件を満たしている」という見方もできるのです。

「公的機関が認めた会社だから、財務的にも盤石だろう」という解釈は、発注側が勝手に補完した判断です。その補完が、契約書の中身を精査しない油断につながりました。

公的なロゴマークは「ただの届け出」に過ぎない。

それは「悪い会社ではない」ことの証明にはなりますが、「あなたの会社を守れる強いパートナーである」ことの証明にはなりません。


🖋「石橋を叩く」という言葉の意味

リカバリーで私がやったことを、改めて振り返ります。

オフィスを探す際には、その物件が法人登記に対応しているかどうかを、契約前に確認しました。これは現地の登記当局に問い合わせれば確認できることです。

税務処理については、会計士が提案した処理方法を、当局の解釈と照合しました。グレーゾーンがある場合は、事前に当局に照会をかけるか、より保守的な処理を選ぶよう助言しました。

提携先の専門家を使う場合には、誰がどの範囲の責任を負うのかを、契約書で明文化しました。「提携先の業務についても、コンサル会社が連帯して責任を負う」という条項を求めました。

どれも、当たり前のことです。

しかしこの「当たり前」が、なぜ最初のコンサルにはできなかったのか。

答えは、インセンティブの構造にあります。

あのコンサル会社のビジネスモデルは、「案件を取ってきて、専門家に振る」ことで成立していました。自社で実務の責任を持たない分、一件一件を深く調べるインセンティブがそもそも薄い。
むしろ、調べれば調べるほど問題が見えてきて、案件が複雑になる。それはコストです。

問題が起きても、責任は提携先に転嫁できます。
撤退コストも低い。「東南アジアではよくあること」という一言で済ませることができる構造の中にいれば、石橋を叩くことは合理的な行動にならないのです。

これは個人の資質の問題ではありません。

善意のコンサルタントであっても、責任を取れない構造の中に置かれれば、結果として責任を取れない行動しか取りにくくなります。
「問題が起きても自分には帰ってこない」という状況で、自分のコストを使って石橋を叩く合理的な動機は、生まれにくいのです。

あの「東南アジアではよくあることです」という言葉は、悪意の産物ではなかった。

責任を取れない立場に置かれた人間が、責任を取れない状況で発する言葉でした。


🖋「嵐が来たとき」の相手を選ぶ

ここまで読んで、「ではどうすればいいのか」という問いが来るのは自然なことです。

チェックリストを20項目並べることもできます。ただ私が長年のリカバリー経験から実感するのは、最終的に見るべきは一点だけだということです。

「この相手は、嵐が来たとき、一緒に泥をかぶれる人間か」

それだけです。

順風満帆なときは、誰と組んでもうまくいきます。
計画通りに進んでいる間は、コーディネーターでも、ギルド型でも、バーチャルオフィスでも、問題は表面化しません。

パートナーの真価が問われるのは、想定外のトラブルが起きたときです。

「それは提携先の問題です」とテントを畳む相手か。
「当社の責任です。一緒に泥をかぶりましょう」と踏みとどまる相手か。

その「覚悟の有無」を選定の段階で見抜くために、私が実際に使う判断軸を三つだけ整理します。


判断軸①:専門家は「社員」か「提携」か

商談の場で、遠慮なく聞いてください。

「Webサイトに顔写真が並んでいる専門家の方々は、御社の雇用関係にある社員の方ですか?それとも外部の提携パートナーの方ですか?」

この質問に対して、「社員です」と明確に答える会社と、「パートナーです」「連携しています」と答える会社では、トラブル時の責任の重さが根本的に異なります。

提携関係そのものを否定しているのではありません。問題は、その場合に契約書に何が書かれているかです。

「コンサル会社が紹介・連携した第三者(現地の会計士・弁護士等)の業務については、コンサル会社はその責任を負わない」という免責条項が入っていないかを確認してください。

この一文があった瞬間、その会社はあなたの「パートナー」ではなく、実態としては「紹介屋」に近い存在かもしれません。
本当に信頼できるパートナーであれば、「再委託先の業務についても、発注者に対して連帯して責任を負う」という条項(履行補助者の責任)を受け入れられる可能性が高いはずです。


判断軸②:住所を5分で確認する

本社・現地拠点の住所を、Googleマップのストリートビューで確認してください。

外観はビジネスを行うに足るオフィスビルか。ビルの入り口やフロア案内に、その会社の看板は出ているか。住所でGoogle検索をかけてみて、レンタルオフィス業者の募集ページがヒットしないか。

5分でできます。

繰り返しになりますが、バーチャルオフィス自体を問題にしているのではありません。「透明性があるかどうか」を見ています。
「コスト削減のためシェアオフィスを活用しています」と説明できる会社は、実態を開示しています。
実態はバーチャルなのに「グローバル本社」などと大きく見せようとする会社は、有事の際も「虚飾」で逃げる可能性があります。

見せ方と実態のずれは、信頼性を測るひとつの指標になり得ます。


判断軸③:「もし損害が出たとき」を直接聞く

これが最も重要な質問です。

商談の場で、できれば決裁権を持つ代表者に向けて聞いてみてください。

「仮に御社の提案通りに進めて、御社やパートナーの方のミスで当社に損害が出た場合、御社はどの資産で、またはどのような保険でカバーしてくれますか?」

この質問への返答で、相手の「覚悟の有無」がわかります。

信頼できる回答は、「当社は専門家賠償責任保険に加入しており、最大〇〇〇円までカバーできます」あるいは「契約書の〇条に基づき、当社が責任を持って対応します」といった、仕組みとファクトによる回答です。

危険な回答は、「そうならないよう全力でやりますから(精神論)」「私を信じてください(感情論)」「その場合はパートナーと協議して…(責任転嫁)」と言葉を濁す回答です。

ビジネスにおける「信頼」とは、精神論ではなく「リスクを取る能力と意欲」のことです。この質問でたじろぐ相手は、リスクを取る準備ができていない可能性が高いと私は見ています。

「嫌な質問をしてしまった」と感じるかもしれません。でも、この質問に誠実に答えられる相手こそが、嵐のときに一緒に踏みとどまれる相手です。


🖋「勉強代」にしないために

あの企業が支払ったコストは、お金だけではありませんでした。

登記し直す時間。税務リカバリーにかかった時間。信頼できるパートナーを再度探す時間。そして、海外進出への意欲そのものが削がれていく時間。

「勉強代ですね」という言葉は、そのすべてを「仕方ない」で終わらせます。

しかし私は、あの担当者が最初から軽率だったとは思っていません。選定プロセスにおいて、与えられた情報の中で合理的な判断をしていた。問題は、その判断に必要な視点を誰も事前に教えてくれなかったことです。

ここで私が記録しておきたかったのは、その「視点」です。

「ギルド型組織」の構造を知っていれば、専門家が社員かどうかを確認するという発想が生まれます。「アセットライト経営の撤退しやすさ」を知っていれば、住所を地図で確認するという行動が生まれます。「公的機関のロゴは最低限の信頼性しか保証しない」と知っていれば、契約書を丁寧に読もうという意識が生まれます。

知識は、行動を変えます。


最初からやるべきことを、石橋を叩きながら、丁寧にやる。

魔法ではありません。それだけのことです。

しかし「それだけ」を実践できるパートナーを選ぶことが、はじめての海外進出を「無謀な賭け」ではなく「計算された挑戦」にする、最初の一歩だと私は考えています。

読んでくださる方にとって、ここに書いたことが、次の一歩を踏み出すための、ささやかな気づきの芽となれば幸いです。


peng🌱note

引用・参照データ
・中小企業基盤整備機構「中小企業の海外展開に関する調査(2024年)」(令和6年3月)
「信頼できる現地パートナーの開拓」が海外展開成功要因の1位(54.9%)、かつ海外展開における課題の3位(31.9%)。  https://www.smrj.go.jp/research_case/questionnaire/fbrion0000002pjw-att/kaigaitenkai_202403_2_report_C1.pdf

・JETRO「2025年度 海外進出日系企業実態調査(全世界編)」(2025年11月)
インドで2年連続8割超が拡大志向。グローバルサウスを中心に海外展開の波は続いている。  https://www.jetro.go.jp/news/releases/2025/13aebb32e58e01ad.html

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