見出し画像

頑張って勉強しているのに覚えられないのはなぜ?

試験前になると、多くの人は同じような勉強をします。

  • 教科書に蛍光ペンを引く。

  • ノートをきれいにまとめる。

  • 重要そうなところを何度も読み返す。

  • 単語カードを作る。

どれも「勉強している感」があります。

しかし、その方法は本当に学習効果を高めているのでしょうか?

2018年にPerspectives on Psychological Scienceに掲載されたレビュー論文は、学生がよく使う5つの勉強法について、認知心理学の研究をもとに「効果的な使い方」と「逆効果になりやすい使い方」を整理しました。

結論は意外でした。

勉強法そのものより、「どう使うか」のほうが重要だったのです。


勉強法には「万能」はない

この勉強法さえやれば大丈夫といった、そんな魔法のテクニックはありません。

著者らは、人気の高い5つの学習法を取り上げ、それぞれについて、

  1. どんなときに効果があるのか

  2. どんな使い方では効果が落ちるのか

  3. 教育現場ではどう活用すべきか

を整理しています。

紹介されているのは、

  1. ハイライト・線引き

  2. ノートテイキング

  3. アウトライン(構造化)

  4. フラッシュカード

  5. リーディングガイド(読書ガイド)

です。

ハイライトは「引くだけ」では覚えられない

最も身近な勉強法が、教科書へのハイライトです。
重要な文章に色を付けると、「勉強した」という感覚になります。

しかし研究では、何となく線を引くだけでは学習効果はほとんど高まりません。

効果があるのは、「本当に重要な情報だけを選び取る」という認知的な処理が伴った場合です。さらに、短時間のトレーニングでも、重要箇所を適切に選ぶ力が向上し、ハイライトの効果が高まることも報告されています。

つまり、ハイライトの目的は「色を付けること」ではなく、重要な情報を見極めることなのです。

ノートは「たくさん書く」ほど良いわけではない

講義中に一言一句書き写す人も少なくありません。

しかし、論文では、書き写す(verbatim)ノートよりも、自分の言葉で整理・要約したノートのほうが学習効果は高いことが紹介されています。

例えば、

  • 要約する

  • 言い換える

  • 内容を整理する

  • 構造化する

といった「生成的処理(generative processing)」を伴うノートが、理解や長期記憶に役立ちます。

一方で、ノートにはもう一つ重要な役割があります。

それは復習することです。

メタ分析では、ノートを取るだけの場合の効果量は小さい一方で、後からノートを見返した場合には効果が大きく向上していました。

つまり、ノートは「作ること」がゴールではなく、復習に使って初めて価値が高まるのです。

パソコンより手書きが有利なのはなぜ?

近年はパソコンでノートを取る学生も増えています。

タイピングのほうが速く、多くの情報を書き残せます。

しかし、有名なMueller & Oppenheimer(2014)の研究では、パソコン利用者は文字数こそ多いものの、講義内容をそのまま書き写す傾向が強く、概念理解のテストでは手書きの学生のほうが良い成績を示しました。

これは、手書きの速度では全文を書き写せないため、自然と「重要な部分は何か」を考えながら記録するようになるからだと考えられています。

アウトラインは「文章の骨格」を理解する勉強法

あまり日本では馴染みがありませんが、アウトラインとは、

文章を

  • 大見出し

  • 小見出し

  • 根拠

という階層構造で整理する方法です。

興味深いことに、「とりあえずアウトラインを作ってください」と指示するだけでは効果はほとんどありません。

一方で、数週間にわたって

  1. 文章全体を読んでから整理する

  2. 主題と細部を区別する

  3. 構造を理解する

  4. アウトラインを見ながら思い出す

という訓練を行うと、読解力や理解が改善しました。

つまり、アウトラインは「書き方」ではなく、情報を構造化して理解する技術なのです。

フラッシュカードは「見る」のではなく「思い出す」

単語カードは昔からある勉強法です。

しかし、多くの人はカードを「読む」だけになっています。

認知心理学では、フラッシュカードが効果を持つ理由は、検索練習(retrieval practice)にあると考えられています。

つまり、答えを見る前に、思い出そうとすることこそが記憶を強くするのです。

カードは確認ツールではなく、思い出す訓練のための道具なのです。

「勉強した気分」と「覚えた」は違う

この論文全体を通して見えてくるのは、人は「楽にできる勉強」を好みやすいということです。

例えば、

  • 読み返す

  • 線を引く

  • ノートを清書する

は達成感があります。

しかし、

  • 思い出す

  • 要約する

  • 構造化する

  • 自分の言葉で説明する

といった勉強は、少し苦しく感じます。

ところが、長期的な学習効果は後者のほうが高いことが、認知心理学では一貫して示されています。

「勉強している感じ」がする方法と、「実際に覚えられる方法」は一致しないことが多いのです。

AI時代だからこそ重要になる

生成AIの普及によって、要約も、ノート作成も、問題作成も、AIが数秒で行えるようになりました。

だからこそ、人間に求められるのは、「情報を写すこと」ではありません。

AIが作った要約を読んで終わるのではなく、自分で説明し直したり、問題を解いたり、アウトラインを書いたりすることが重要になります。

つまり、AI時代になっても、学習の本質は「思い出す」「整理する」「意味づける」という認知活動にあることは変わりません。

勉強が苦手なのは努力が足りないからではない

本論文は多くの実験研究をレビューしていますが、個々の勉強法については研究数や対象年齢、教材、学習内容が異なります。そのため、「すべての人に、すべての場面で同じ効果がある」と言えるわけではありません。

また、勉強法は単独で使われるよりも、組み合わせて使われることが多くあります。著者らも、「どの方法が最良か」を競うよりも、それぞれの特性を理解し、目的に応じて使い分けることが重要だと述べています。

勉強が苦手なのは、「努力の向け方」が少し違っているだけかもしれません。

今回のレビューが教えてくれるのは、学習とは、情報を受け取ることではなく、情報を自分の頭の中で何度も再構成することだということです。

  • 線を引くだけではなく、なぜそこが重要なのか考える。

  • ノートを書くだけではなく、自分の言葉で説明してみる。

  • 単語カードを見るだけではなく、答えを思い出そうとする。

そんな少しの工夫が、「勉強した」から「身についた」へと変えてくれるのかもしれません。

いいなと思ったら応援しよう!

レンタル博士 応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!