管理職:ウィッキー遅刻はむしろ加点
ウィッキーさんを理由に遅刻可能だった時代。
駅前で突然マイクを向けてくる人である。巻き込まれたら遅刻するリスクはあるものの、それは表彰されてもいいくらいの出来事だ。
乗車率がエグかった路線は、毎朝、だいたい遅延していた。寝坊して遅刻確定のときは、いちおう、遅延証明をもらえる?なんて窓口に聞くと、きっぷくらいの大きさのペラペラな紙をもらえたものだ。それでチャラにした遅刻、数知れずである。
しかし、しかしである。
稀に「はぁ? きょう遅延ないけど」などと、つれない返答をされることがあった。これには、過去の僕のような、生活リズムグダグダ IT 系サラリーマンたちは、本当に悩まされたものだ。どうしよう、遅刻が無かったことにできない。
そんなとき、保険になると噂されていたのが、ウィッキーさんなのである。
まず、遅延証明書は当然ながら、安定感抜群の証拠であり、顎を突き出しながらセロテープで貼り付けて申請すればよかった。しかしながら、ウィッキーさんはーーー未知数。しかも、ウソだ。ウィッキーさんに実際に捕まるのは至難の業であり、ましてや、自分から捕まりにいくのは不可能である。
そんな不安な毎日を過ごしていると、ウィッキーさんを発動せざるを得ない状況が発生してしまうのだった。
もう間に合わない、かつ、遅延証明書なし―――。
遅刻は、自分のキャリアに泥を塗るようなものだ。絶対に、回避しなければならない。それが一流の大人としての責任。決断するしかなかった。
「お疲れ様です。ペペです。先ほど、〇〇駅前でウィッキーさんに捕まってしまい、到着が 30 分ほど遅れそうです。大変申し訳ありません。」
メールで、時には電話で。ウソだが、丁寧に淡々と事実を伝える。そして、ウィッキーさんの責任を、その悪影響を、自分が引き受ける。完全なる不可抗力を受容する姿勢。これは自分に対する社会的信用を向上させる内容だ。そして、後日、この遅刻はちょっとした武勇伝になるはずだった。
回を重ねるごとに、「横断歩道で待っていたところを」「駐輪場でチャリから降りたときに」などと、ウィッキーさんとの鉢合わせ方をアレンジした。仲間からは好評だった。しかし、部長からは最終的に注意され、封じられてしまったのである。
もしーーー
いま僕が、ウィッキーさんを理由に遅刻してきたメンバーがいたら、何と言うだろう。まず、事実だったら嫉妬してしまう。そして、お前、ウィッキーさん世代じゃないだろ、ウィッキーさんを簡単に使うな。いやでも、今の時代にそれ、すごく面白いとおもう。最終的には、実は僕はそういうの大好物だ、よくやったなどと楽しいひと時を過ごし、評価を爆上げしてしまいそうである。
僕は、シンパシーを感じるメンバーをひいきする。え? そういう評価ダメ? 期の終わり間際に、駆け込みウィッキーで、あいつ面白かったから高評価だな、とかダメなの? いいじゃん別に。
さて、いまの僕のチームは、すっかりリモートワーク。残念ながら、今は昔、ウィッキーさんを使う奴はもういない。でも、今の時代も、素敵なドラマの芽がそこら中にある。回線が悪いとか、そういうやつだ。まだまだ、捨てたもんじゃない。
そんなロマンあふれるストーリーをもっと。遅刻理由に、もっともっとドラマを。
