待ち時間を持て余し さらに待った珈琲の酸味
時刻は午前十一時を過ぎていた。
午後二時までの待ち時間を持て余していた私は これといったあてもなく路地裏をさまよっていると ふと 看板に目が留まった。
『喫茶 三連福』
吸い込まれるように 店内へ歩を進めた。
「いらっしゃい」
窓際のテーブル席に座るアラフォー男性が振り返りながら笑顔で発した。
「どうぞ」
なぜか アラフォー男性が座るテーブルの対面へと促された。
不思議と躊躇することなく私は彼の前に着席した。
「課長の大東 茸です」
えっ 課長?思わず声にしてしまった。
「本日の珈琲でいいかな?」
大東は素朴な疑問には答えず ゴリ押し的に注文を聞いているようだ。
ここのマスターではないかと推測したが この男に確認を求めても どうせまともな回答はないことを悟り 無言でうなづいた。
極上の珈琲を淹れていただけるようなのだが 待ち時間にさらに待ち時間が加わり私はいったいどうやってこの二重の待ち時間をやり過ごそうかと思案しているとテーブルに1冊の手帳のようなものを発見した。
その手帳には『The eccentric hospital log』と書かれていた。
「やはり 気になるかい」
大東は まだ極上の珈琲にとりかかってはいなかった。
「これも何かの縁なんじゃないかな。目を通してみるといい」
手帳を手に取り 最初のページを開いてみた。ん?日記?それにしても可愛い文字に見えるのだが…これ 大東 課長が書かれたんですよね?
「実は昨日来店していた かなりタイプの女性のものでね。きっと私へのラブレターだと思うんだけどね。フフフ」
ダメじゃないですか!人の日記勝手に見たら。
「日記は自分のための記録。だけど 日誌は他者に伝えるための記録なんだよ。これは 後者の方だね。だから読んでも良いんだよ。たとえ その人にとって いつもと大して変わらぬ日常であったとしても他人の私からすれば それをこっそり覗けることは最高に楽しいことなんだよ」
なんのはなしですか
そろそろ珈琲を淹れてくれないだろうかと思いつつ 洗脳されたのか 促されるまま最初のページに視線を移した。これが日常なのかと衝撃をうけつつもこの覗き見るような背徳感にドキドキが止まらなかった。そして著者の名を目にした。
『さくら総合病院 増田』
ここに名前書いてるじゃないですか!
思わず声を荒げた。そしてそこに書かれている病院に私は用があるのだ。
ちょうど 健康診断に行く予定なので私がお届けしますよ!
「まあ 落ち着いて」
いつの間に準備したのか いい香りとともに珈琲がテーブルに置かれていた。
私はいたって冷静なのだが 極上の珈琲とやらを頂くことにした。
なんか酸味が強くないですか?
「ちょうどよいお湯の温度にすることに失敗したからね。そういう意味では成功と言えるかもしれないね」
なんのはなしですか
そんなことよりも日記 いや 日誌返してあげないと困ってますよ きっと。
「君は何もわかっちゃいないね。いいかい。彼女は照屋さんでね。置いていったんだよ。もう一度 私に会うためにね」
そう言って大東 課長はウインクした。
了

では 素敵な1日を✨
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