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【キカネコ】道化師は夜に笑う

「これから、舞台でしょ?」
ナツミは控室の隅でメイクを叩きながら言う。

その顔はいつものようにキラキラと、まばゆく輝く。
主役っていうのはこういうものよ、という静かな主張。

「わかってるって。準備万端。笑ってもらうよ」
と、ピエロは応える。

言葉にすることで、自分自身を納得させる。

ピエロってのは、笑われるためにいる。  

俺は思う。ある意味じゃ、美味しいポジションだって、な。

舞台に立つと、ライトが眩しくて何も見えなかった。 


ひとつ呟く。

「俺は道化師だぜ? それも国家認定のな」  

開幕。
きらびやかなスポットライト。

ここはトウキョウの片隅。
国立駒場曲芸サーカスの晴れ舞台。先導する子どもたち。

晴れ舞台の演出で盛り上がる客席。


やがて目玉のマジシャン、ナツミの仕掛けが始まり、観客のどよめきが起きる。
 
最大の見せ場はマジシャンの乱舞の中でのナイフ投げ。 

ホログラムで乱舞する鳥たち。
眩い光の中。


ドン。
足元に投げられたナイフが刺さった。本物のナイフ。

ピエロは大げさに転げ、すんでのところでかわす。観客は笑う。

あ〜あ、損な役かもね。
拍手は全部、マジシャンの派手な演舞の中で、流れるような投技に集まっていた。

でもさ、知ってた?
実は美味しいってさ。

ナイフは36刀。絶妙な投技を華麗な舞の中で。さすが、国立曲芸アカデミー首席マジシャン。でもな、俺も全部寸でかわしたよ。

最後の一刀。

ナイフが、ピエロの服をかすめる。どよめく観客。

腕の辺りが切れ、そして腕を引き抜く。
なくなった腕から鳩の乱舞。

続けてマジシャンが、
追加24刀の乱れ投げ。
ピエロは鳩の乱舞の中で、
すべてかわしていく。

白光に輝くマジシャン。
天空に舞う天使のホログラム。

そしてーー

舞台は拍手に包まれる。


さっすがだねぇ、派手な演出。
少し肩で息をする。

劇は終わる。
空中に締めのホログラムが舞う。

銀色の粒子で描かれたにこやかな笑顔のマジシャン。下にナツミとの表記。

ナツミか、いい名前だ。

その背後に、静かに、小さく笑うピエロのホロヴィジョン。

…俺の名? …自分でも忘れちゃったよ。
 
拍手。

舞台から光が徐々に去る。
閉幕。

すれ違いざまナツミが言う。
「おつかれ」

少しだけ目が合う。そして、応じる。
「おう、おつかれ。さすが、主席」
ナツミは笑って、応じる。
「……あんたもでしょ。先輩」

楽屋に戻ると、裏方の女性スタッフがジュースを差し出してきた。

「すごかったですね!」
そう笑いながら。

俺は笑って言う。
「最高に笑われたぜ」
ピエロは口角を上げた。
仮面の下で笑う。

「俺はプロの道化師だぜ」

舞台の出口には、まだ何人かの子どもが残っていた。

小さな女の子が手を振ると、ピエロはそっと手を振り返した。

仮面をつけたまま、できるだけにこやかに笑った。

カーテンの向こう、光の届かない通路に入る。

誰もいない。
ようやくそこで、仮面を外した。

仮面の内側から髪がこぼれ、さらに静かに笑った。


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