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ホワイトアスパラガスが告げる春

これは、何の前触れもなく始まる。

ある日マルシェに行くと、冬の間見慣れた根菜類や柑橘類の間に、突然、白い塔のような束が現れる。

そう、ホワイトアスパラガスだ。

「ああ、春が来たんだな」と思う。

最初は「白いアスパラガスなんて、緑のより味が薄いだけでしょう」と思っていた。

だが、グリーンアスパラガスとは違う、ほのかな甘みとやわらかな食感が特徴だ。

今では市場でそれを見つけると、胸が高鳴るようになっている。

人間というのは、住む場所の空気を吸って変わっていくものなのだと、改めて思う。

この時期のマルシェには、ほかにも春の恵みがあふれている。

新じゃが、新玉ねぎ、そら豆、グリーンピース…..。

どれも軽やかで、みずみずしく、鮮やかだ。

いつものマルシェの角を曲がると、八百屋のマリーさんが私を見つけた。

「おや、マダム来たね。いいのがあるよ」

そう言って、彼女は誇らしげに白いアスパラガスの束を指さした。

「今年も待ってたのよ」

「知ってるよ」

なんとなくだけど、私が春になるとホワイトアスパラガスを求めて来ることを、彼女は覚えてくれているような気がする。

言葉を交わさなくても伝わる関係が、異国の地での安心感につながっている。

家に帰って、ホワイトアスパラガスの皮をむく。

繊維質の外皮を丁寧に、でも無駄なく剥いていく作業は、どこか禅的な時間だ。

日本を離れて久しいが、こんなとき、「和」の感覚が蘇る。

鍋に湯を沸かし、塩を多めに入れる。

フランス人の夫は「ホワイトアスパラガスは海水くらいの塩加減で茹でるべきだ」と主張する。

細かいことにこだわる彼の性格は、料理に関してはありがたいが、時にはウザい。

茹で上がったアスパラガスをお皿に並べ、溶かしバターと塩だけのシンプルな味付けで食卓に出す。

夕暮れの光が差し込むダイニングで、春の味を噛みしめる。

翌日は日曜日。

近所に住む日本人の友人とフランス人の旦那さんが遊びに来る。

彼女たちのために、ホワイトアスパラガスと新じゃがいものポタージュ、
キャベツのファルシ、そして市場で見つけた初物のいちごを用意した。

フランスの定番は**「アスパラガスのオランデーズソースがけ」**。

軽く茹でたホワイトアスパラガスに、卵黄とバター、レモンを合わせた濃厚なソースをかける。

シンプルだけれど、春の贅沢を感じられる一皿だ。

あるいは、グリビッシュソースを添えてみるのもいい。

刻んだ茹で卵に、ケーパーやコルニション(小さなピクルス)、デジョンマスタードを混ぜた爽やかなフレンチソース。

ホワイトアスパラガスのほろ苦さと相性抜群で、口の中に春の訪れを感じる。

ワインと一緒に楽しめば、それだけでちょっとしたごちそうになる。

どっちの作り方にしようかなぁ。

「この白アスパラガス、日本だといくらぐらいだろうね?」

友人の言葉に、会話は日本語とフランス語が混ざり合う。

料理もまた然り。

和の繊細さとフランスの大胆さが同居する我が家の食卓は、きっと私自身のアイデンティティそのものなのだろう。

窓の外では、柔らかな春の陽射しが庭の木々を照らしている。

日本では桜が咲き始める頃、ここフランスではホワイトアスパラガスが春の訪れを告げる。

異国で暮らす私にとって、この白い茎を見つける瞬間は、毎年変わらぬ春の醍醐味になった。

人生は、思いがけない場所に連れてくるものだ。

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