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【残唐五代史演義伝】第十五回 李存孝、孟絶海を生け捕りにする

 李存孝りそんこうは馬を下り、班翻浪はんほんろうの首級を取った後、再び戦いを挑んだ。
 そう軍の兵士たちは急ぎ孟絶海もうぜっかいに報告した。
班翻浪はんほんろう様が李存孝りそんこう畢燕檛ひつえんたに打ち倒されました!」
 これを聞いた孟絶海もうぜっかいは怒り狂い、
「この憤り、どうしても晴らさねばならぬ!」
 と叫ぶと、刀を手に取り、馬に乗って兵を率いて布陣した。

金甲金盔耀日高 大紅袍織大鵬雕
(金色の甲冑と兜が、高く昇った陽にきらめく。鮮やかな赤い長袍には、大鵬の姿が美しく刺繍されている)
身騎千里追風馬 手執三停偃月刀
(乗っているのは、千里を駆ける風のような駿馬。手には三停の偃月刀が握られている)

 これを見た韓鑑かんかんが大声で李存孝りそんこうに知らせた。
「太保よ、あの赤い長袍を着て偃月刀を振るう者こそ孟絶海もうぜっかいです!」
 李存孝りそんこうはすぐに大声で応じた。
韓大人かんたいじん、ここは私に任せて先にお戻りください。孟絶海もうぜっかいを生け捕りにして参ります!」
 韓鑑かんかんはその言葉に従い、その場を離れた。
 李存孝りそんこう孟絶海もうぜっかいに向かい、一歩も引かぬ構えで戦いに挑んだ──。

 孟絶海もうぜっかいは馬を躍らせ、堂々と出陣すると、大声で問いかけた。
「来たる将よ、名を名乗れ!」
 李存孝りそんこうは鋭く応じた。
「我こそ大唐だいとう飛虎ひこ将軍・李存孝りそんこうである!」
 孟絶海もうぜっかいは目の前の李存孝りそんこうを見て訝しんだ。
「この者、身の丈は七尺にも満たず、顔はまるで病人のようで、骨も痩せ細っている。なぜ我が手練の二将がこのような者に討たれたのだ?」
 そのとき、李存孝りそんこうが馬の上で孟絶海もうぜっかいに語りかけた。
「私の馬具の腹帯が少し緩んでいるので、馬から下りて締め直す。
 だが、隠し矢で不意打ちなどしないでくれよ」
 孟絶海もうぜっかいは堂々と答えた。
「私がそんな卑怯な真似をすると思うか?好漢たる者そのような真似はせぬ!
 お前が馬を備え直すまで待っていてやる!」

 李存孝りそんこうは馬から下り、腹帯を締め直すと自ら思った。
(父王は私に正午までに勝って戻るように命じておられる。
 これ以上、遅れてはならん)
 腹帯を調えた李存孝りそんこうは馬に飛び乗り、大声で叫んだ。
孟絶海もうぜっかいよ、今すぐ下馬して自決せよ!」
 これを聞いた孟絶海もうぜっかいは激怒し、「無礼者!」と叫びながら両手で偃月刀を振り下ろした。
 だが、李存孝りそんこうはその刀を難なく払いのけ、大喝した。
「賊将、逃げるでないぞ!」
 そして猿のような力強い腕を伸ばし、孟絶海もうぜっかいを馬上から引きずり下ろして捕らえた。
 孟絶海もうぜっかいの部下たちは、主将が捕らえられたのを見て大混乱に陥り、敗走を始めた。

 統制を失ったそう軍は次々と黄河へ逃げ込み、孟絶海もうぜっかいの配下は総兵・葛従周かつじゅうしゅうのもとへ命からがら逃げ去った。
 李存孝りそんこうは一騎当千の活躍で孟絶海もうぜっかいを生け捕りにし、その場で戦いを終わらせた。

 このような詩がある。

展臂生擒絶海来 懐中似抱小嬰孩
(腕を伸ばすだけで孟絶海もうぜっかいをたやすく捕らえ、その姿はまるで、赤子を抱くように静かだった)
陣前借問時過未 報道方才掛午牌
(戦場のただ中でふと時刻を尋ねると、ちょうど昼の鐘が鳴ったばかり)

 さて、李存孝りそんこうは生け捕りにした孟絶海もうぜっかいを馬の背に横たえ、そのまま河中府かちゅうふに帰還した。
 孟絶海もうぜっかいの七つの孔(両目・鼻の孔・両耳・口)からは鮮血が噴き出していた。

 晋王しんおう李存孝りそんこうを見るとすぐに尋ねた。
「今は何時だ?」
 陰陽生いんようせいが答えた。
「午時三刻(正午を少し過ぎた頃)でございます」
 晋王しんおうは急いで命じた。
「楼に上がらせよ!」

 李存孝りそんこう孟絶海もうぜっかいを抱えたまま楼へ上がり、その場に放り出した。
 晋王しんおうが目を凝らして孟絶海もうぜっかいを見ると、彼は瀕死の状態で、ほとんど息がないようだった。
 晋王しんおうは驚いて李存孝りそんこうに尋ねた。
李存孝りそんこうよ、確かに生け捕りにすると言ったはずだ。
 どうして瀕死の者を連れてきたのだ?」
 李存孝りそんこうは冷静に答えた。
「父王、奴は陣中で捕らえた際、まるで虎狼のごとく暴れました。馬から逃れようともがいたので、私がしっかり脇を挟んだところ、どうやらそのとき骨でも傷めたのでしょう」
 晋王しんおうはその場で朱温しゅおんを呼び、孟絶海もうぜっかいの傷を検分させた。
 朱温しゅおんが甲冑を開いて確認すると、こう言った。
「両脇の肋骨が折れております」
 晋王しんおう朱温しゅおんに命じた。
朱温しゅおんよ、賭けの通り玉帯を李存孝りそんこうに渡せ」
 しかし、朱温しゅおんは渋い顔で拒んだ。
「この玉帯は皇帝陛下から賜ったものでございます。今日これを手放してしまえば、何の面目もなくなります。どうか他の宝物で代えていただきたく存じます」
 これを聞いた晋王しんおうは激怒し、奪えと命じた。
 李存孝りそんこう朱温しゅおんのもとへ歩み寄り、玉帯を掴むと、片手でぐっとひねり、二つに引き裂いた。
 朱温しゅおんは激しく恥じ入り、すぐに楼を下りると、配下を率いてその場を去った。
 そのまま朱温しゅおんは反旗を翻し、河中府かちゅうふを後にして独自の行動を取ることとなる。

 李存孝りそんこう孟絶海もうぜっかいを討ち取り、朱温しゅおんとの賭けに勝利した直後、左右の者が晋王しんおうに急報した。
朱温しゅおんが離反しました!」
 しかし、晋王しんおうは笑い飛ばして言った。
「あの賊など、皮膚病のごとき些細な存在だ。何を恐れることがあるか?」

 果たして、朱温しゅおんの反乱がどのように展開するか。この続きは次回に語ることとしよう。。

 このような詩がある。

讒臣賭帯藐英雄 擒将来時日正中
(讒臣は、李存孝りそんこうの力を侮り、帯を賭けて嘲笑った。だが、李存孝りそんこうは正午までに敵将を捕えて戻った)
金宝更償言不踐 令傳扭奪辱難容
(金や宝で取り替えると言ったが、約束を守らなかった。命が下され、賭けた帯は取り上げられ、屈辱が広がった)
彼時反出違追策 異日誰当不軌鋒
(その後、朱温しゅおんは命令を無視して逃亡し、いずれその背信が、誰かに牙を剥くことだろう)
可笑晋王無遠慮 終身想仗勇南公
(思えば、晋王しんおうは先を見通すことができなかった。結局のところ、勇南公ゆうなんこう李存孝りそんこうに頼るしかなかったのだ)


 明代の学者・李卓吾りたくごは語る。

 このくだりを観るに、晋王しんおうは智謀が不足していたため、後に朱温しゅおんが反逆し、最終的にとう朝を滅ぼす契機となった。
 もし当時、李存孝りそんこうに追撃を命じていれば、朱温しゅおんはここで討たれていただろう。
 だが、朱温しゅおんが逃れたのは天命であり、その後のりょうの興隆が運命であったともいえる。

 このような言葉がある。
 人が遠い未来を考えなければ、必ず目先の災難に遭う。
 この言葉こそ、この場面を象徴している


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