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【残唐五代史演義伝】第三十九回 史建唐、知恵を以って傅道昭を捕らえる

 さて、王彦章おうげんしょうが本陣へ戻ると、将たちを集めて言った。
「人々が史建唐しけんとうを名将の子、勇猛無比と評するのも、今日の戦を見て、まさしく真実であったと知った」
 その言葉も未だ終わらぬうちに、葛従周かつじゅうしゅうが来訪したとの報が入り、王彦章おうげんしょうはこれを迎え入れた。挨拶を終えた後、葛従周かつじゅうしゅうが口を開いた。
「聞くところによれば、将軍は史建唐しけんとうとの戦にて劣勢であったとか。ここは一旦軍を退き、態勢を立て直すべきかと存じます」
 これに王彦章おうげんしょうは眉をひそめて言った。
梁王りょうおうが公を大将として任じたのに、何を弱気なことを申すか。明日は必ずこの史建唐しけんとうを捕らえてみせようぞ!」
 葛従周かつじゅうしゅうはなおも諫めようとしたが、王彦章おうげんしょうはこれを聞き入れず、自ら陣に戻っていった。

 翌日、王彦章おうげんしょうは馬にまたがり、自ら軍を率いて前線へと進んだ。史建唐しけんとうもまた兵を引き連れ、両軍は向かい合って布陣を整えた。戦将たちも次々に陣頭に進み出た。

 王彦章おうげんしょうは叫んだ。
「今日は貴様と雌雄を決する。いずれかが勝つまで、退くこと許さぬぞ!」
 その声を合図に、両将は五、六十合に及ぶ激闘を繰り広げた。やがて王彦章おうげんしょうは馬を返し、槍を引きずりながら退こうとする。
 が、ふと振り返ると、史建唐しけんとうは馬も進めず、旗も動かぬままであった。
 王彦章おうげんしょうは馬首を返し、怒声を上げた。
「小僧!なぜ追わぬ!」
 史建唐しけんとうは鋭く叫び返した。
「水賊め!その策は、高思継こうしけい殿には通じても、この俺には効かぬぞ!」
 これを聞いた王彦章おうげんしょうはぎょっとし、すぐさま槍を取り直して再び斬りかかった。だが、史建唐しけんとうは手を挙げて合図し、伏せていた七将が一斉に現れ、王彦章おうげんしょうを挟撃した。王彦章おうげんしょうは抗しきれず、馬を回して逃げ帰った。
 史建唐しけんとうは敵軍を大いに打ち破り、数多くの兵を斬って、堂々と陣へ帰った。

 その日のうちに、史建唐しけんとうは七将を呼び寄せ、命じて言った。
「汝らは三千の兵を率い、汴梁べんりょうへ通じる大道の両側に伏兵を置け。もし間者が通れば、即座に捕らえて我が前へ引き立てよ。使い道がある」
 七将は命を受け、それぞれ馬を駆って出ていった。

 さて、王彦章おうげんしょうは、続けざまに二戦を敗れて帳中に沈みこんでいた。ちょうどそこへ、補給部隊を率いる王鐩おうすいが入り、奏上した。
「軍糧が不足しており、兵に行き渡らせるのが困難です」
 これを聞いた王彦章おうげんしょうは慌てて、軍糧を至急輸送させる旨の表文を一通したため、傅道昭ふどうしょうを使者として汴梁べんりょうに急派した。あわせて救援の将を一人選び、兵を率いて速やかに出立させるよう依頼した。

 傅道昭ふどうしょうは命を受け、表文を密かに懐に収めたのち、たっぷりと食事を取り、その晩すぐに馬にまたがって大営を離れ、汴梁べんりょうを目指して走り出した。
 馬を走らせ、およそ十里あまり進んだところで、運悪く馬が落とし穴に落ちてしまい、傅道昭ふどうしょうもろとも穴へと転げ落ちてしまった。
 その刹那、一声の轟音とともに両側から投げ鉤が飛び出し、傅道昭ふどうしょうをたちまち捉えて、史建唐しけんとうのもとへ引き立てた。

 史建唐しけんとうは尋ねた。
「おまえは何者だ?」
 傅道昭ふどうしょうは観念し、答えた。
「私は梁王りょうおう配下の将・傅道昭ふどうしょうでございます」
 史建唐しけんとうはさらに問うた。
「何の用でここを通るのか?」
 これは隠しきれぬと見て、傅道昭ふどうしょうは事の次第を包み隠さず語った。史建唐しけんとう傅道昭ふどうしょうの身を改めさせ、懐中の表文を見つけ出すと、大いに喜びをあらわにした。
「これこそ天の助けぞ!」
 そしてすぐさま傅道昭ふどうしょうの衣服をはぎ取らせ、首を斬らせた。

 翌日、史建唐しけんとうは一計を案じ、人を汴梁べんりょうへ向かわせ、偽って軍糧を請わせることにした。そこで部下に向かって言った。
汴梁べんりょうへ行き、軍糧を騙し取ってくる者はおらぬか?」
 言い終わらぬうちに、ひとりの兵士が進み出て、鉄槍を手に地に膝をつき、こう言った。
「将軍、私は巡営小軍の趙覇ちょうはと申します。たいした者ではありませんが、この役目、ぜひお引き受けしたいと存じます」
 史建唐しけんとうは尋ねた。
「汝は何か策を持っているのか?」
 趙覇ちょうはは答えた。
傅道昭ふどうしょうの衣服を借り受け、身代わりとして汴梁べんりょうへ向かい、表文をもって軍糧をだまし取り、必ず戻ってまいります」
 史建唐しけんとうは大いに喜び、言った。
「それを成し遂げたなら、汝を殿前でんぜん帯刀たいとう都指揮としきに取り立てよう」
 趙覇ちょうはは深く拝し、すぐに傅道昭ふどうしょうの衣を着て、表文を背負い、馬に乗って汴梁べんりょうへと向かった。

 この先どうなるか、続きは次回にて。


 明代の学者・李卓吾りたくごは語る。

 史建唐しけんとう王彦章おうげんしょうを打ち破ったことで、戦乱に苦しむ民にもようやく安堵のときが訪れた。
 傅道昭ふどうしょうを誅し、代わって趙覇ちょうはを抜擢し、彼はいま汴梁べんりょうへと単騎で向かう。
 その決意と覚悟、まことに見上げたものである。


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