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【残唐五代史演義伝】第二十三回 朱温、上源駅に火を放つ

 その日、周徳威しゅうとくいは力を尽くして晋王しんおうを諫め、宴席へ赴くのを止めるよう進言した。
 しかし、晋王しんおうはその忠言を聞き入れず、程敬思ていけいし史敬思しけいし郭景銖かくけいしゅ周清しゅうせいの四将に三千の兵を率いさせ、自身を護衛しながら宴席へ向かうよう命じた。
 こうして、晋王しんおうは馬にまたがり、宴席へと向かった。

 一方、朱義しゅぎは先に帰城し、朱温しゅおんに報告した。
晋王しんおうは快く承諾し、まもなく到着するとのことです」
 朱義しゅぎはさらに尋ねた。
晋王しんおうが到着したなら、どのように対処するおつもりですか?」
 朱温しゅおんは言った。
「やつは必ず軍勢を率いてくるであろう。もし本当に兵を連れてきたならば、五百の家将を屋敷の前後に伏せ、号砲を合図に討ち取る。
 もし軍勢を伴わず単身で来たならば、すでに両側の壁の間に刀斧手を伏せてある。
 その場合は金鐘を鳴らすのを合図とし、宴席の最中に剣を振るって殺すのだ」
 こうして計画が定まった。

 やがて巳の刻(午前九時頃)になると、朱温しゅおんは弟とともに城外へ出迎えに赴いた。
 しばらくして、一隊の軍勢が押し寄せてくるのが見えた。
 近づいて見ると、先頭に立つのは晋王しんおうだった。
 晋王しんおうは金の兜を戴き、金の鎧を身にまとい、馬上に座している。その傍らには屈強な大漢が数名、それぞれ腰刀を佩いて護衛についていた。

 朱温しゅおん晋王しんおうを城内へ迎え入れ、君臣の礼を交わし、拝謁を終えたのち、席次に従って着座した。
 そして朱温しゅおんは酒杯を掲げ、晋王しんおうに酒を勧めた。

 酒が数巡した頃、朱温しゅおんは更衣のために席を立ち、内室へと入った。
 その時、突然、玉鑾英ぎょくらんえいが大急ぎで晋王しんおうの元へ駆け込んできた。
 彼女は目に涙を浮かべながら叫んだ。
「皇兄!誰があなたをこの城へ招いたのですか?」
 晋王しんおうは答えた。
朱温しゅおんが私を招いたのだ」
 玉鑾英ぎょくらんえいは言った。
「彼はあなたを招いたのではありません!実はあなたを殺そうとしているのです!
 屋敷の前後には屈強な兵が伏せられており、宴席の最中に金鐘を鳴らし、剣を舞わせてあなたを討つ計略なのです!どうかご用心を!」
 玉鑾英ぎょくらんえいはそう言い終えると、すぐに奥へと戻り、屏風の後ろに隠れた。

 しばらくして、朱温しゅおんが再び部屋へ戻り、晋王しんおうに問いかけた。
「大王は先ほど、あの愚妻と何を話されていたのですか?」
 この時、晋王しんおうはすでに酒に酔っており、玉鑾英ぎょくらんえいが自分に語ったことを、すべて朱温しゅおんに話してしまった。
 朱温しゅおんはそれを聞いて、すぐに答えた。
「どうして私が大王を害することなどありましょうか?」
 晋王しんおうは安心して言った。
「そのような心がないのなら、もう一杯酒を酌んでくれ!」

 屏風の後ろでこれを聞いていた玉鑾英ぎょくらんえいは、心の中で絶望した。
「この老いぼれは、私が話したことをすべてあの賊に漏らしてしまった……。
 あの男が晋王しんおうを殺せなかったとしても、必ず私を殺しに来るに違いない!」
 彼女はそのまま自室へ戻り、首をくくって自害してしまった。

 さて、朱温しゅおんは金鐘を三度打ち鳴らした。
 すると、両側の席から八人の屈強な大漢が駆け出し、それぞれ手に宝剣を携え、公庁の中へと急ぎ入ってきた。
 晋王しんおうはそれを見て叫んだ。
「やはり、私を害するつもりであったか!」
 朱温しゅおんは立ち上がり、すかさず答えた。
「いや、大王。このような静かな酒席では、どうにも飲み進める気がいたしません。
 それゆえ、この八人に剣舞をさせ、大王にお楽しみいただこうと思ったのです」
 晋王しんおうはそれを聞いて笑って言った。
「それは良い考えだ!さあ、彼らを中に入れて舞わせるがよい」
 朱温しゅおんは内心
(この老いぼれも、とうとう死ぬ時が来たな!)
 と思いながら、八人を公庁の中へと進ませた。

 その様子を見ていた程敬思ていけいしは低く呟いた。
「……これは、怪しい」
 しかし、史敬思しけいしは落ち着いた様子で言った。
「心配はいらぬ。ここには私がいる」
 そう言うと、彼は素羅の袍を翻しながら立ち上がり、剣を抜き放ち、大声で叫んだ。
「お前たちの剣舞など、見ていられぬ!本当の剣舞というものを、今から私が見せてやろう!」
 そして、八人の持つ剣をすべて押し止めた。
 目に映る酒器はすべて兵器と見え、手にした旌旗はまさしく酒宴の旗ではなく戦陣のそれに等しい。
 五百の家兵が一斉に鬨の声を上げ、屋敷の四方を完全に包囲した。
 この時、史敬思しけいしはただ一人で八将を相手に戦い、わずかの間に五人を討ち取り、残る三人は恐れをなして逃げ去った。
 朱温しゅおんは武器を手に取り、その場から逃れようとしたが、周清しゅうせい史敬思しけいしの二人がすばやく挟み込み、鋭く光る二振りの剣を朱温しゅおんの首筋に押し当てた。
「おとなしく我ら君臣をこの屋敷から出せば、一切のことは水に流してやる。さもなくば、この場で貴様の首を落とすまでだ!」

 朱温しゅおんは恐怖のあまり魂も抜け落ちたようになり、震え上がって声も出せなかった。
(このままでは、すべてが終わる……。ここは一度引かねばならぬ)
 そう考えた朱温しゅおんは、ひそかに計略を巡らせながらも、すぐに命じて城門を開かせ、晋王しんおうとその一行を無事に屋敷の外へと送り出した。

 こうして宅門が開かれると、史敬思しけいしは力ずくで朱温しゅおんを抑えつつ、屋敷の外へと出た。
 君臣三人は半ば酔い、半ば覚醒した状態で、急いで晋王しんおうを馬に乗せ、命からがら上源駅じょうげんえきへと逃れた。
 この時すでに、五月の空には夕日が沈みかけていた。

 一方、朱温しゅおんは密かに武将の楊彦洪ようげんこうを呼び寄せ、命令を下した。
李克用りこくようめ、たとえ屋敷を脱したとはいえ、この汴梁べんりょうの城から生きて出られると思うな!
 今、あの君臣どもは上源駅じょうげんえきに宿を取っている。
 お前は今夜、一千の兵を率い、駅館を完全に包囲しろ。四方の門に火を放ち、一人たりとも逃がすな!誰であろうと、ことごとく焼き尽くしてしまえ!
 決行の刻はちょうど一更(夜の七時から九時)。その時、私もまた精鋭千人を率いて援軍に向かう!」
 楊彦洪ようげんこうは命を受け、すぐさま兵を集めると、大量の乾いた柴や火種を運び込み、駅館の四方の門前に積み上げた。

 夜が更け、計画通り軍勢が火を放つと、館駅の周囲は瞬く間に炎に包まれ、紅蓮の光が天を焦がした。
 まるで太上老君が煉丹炉を倒し、天地をも焼き尽くさんとするかのような、業火の地獄が広がった。
 その様子はまさしく、『煉丹の炉を倒して火炎は地を焼き、千里の紅雲夜を貫き照らす。恩讐は皆灰燼となるも、天の雨もそれを消すことができなかった』と、言った様子であった。

 この場面を示す詩がある。

梁晋初争結怨深 上源駅內拓天心
りょうしんは最初の争いから深い怨みを結び、上源駅じょうげんえきの中で忠臣は命を落とす)
只因克用貪杯誤 死難忠臣万古傾
李克用りこくようが酒に溺れて誤ったためであり、忠臣の死は万古にわたって惜しまれた)

 また、このような詩がある。

欲報私仇請晋王 汴梁赴会不提防
(私怨を晴らそうと晋王しんおうを招き寄せ、汴梁べんりょうに赴いたが警戒を怠った)
席間舞剣鴻門宴 醉後真言御妹亡
(酒宴の席で剣を抜き、まるで鴻門こうもんの会のようだ。酔いの中で真実を漏らし、皇妹は命を落とした)
智勇挾温門得出 酩酊宿釈火輝煌
(智謀と武勇により朱温しゅおんを捕らえて門外に脱出する。宿にて酩酊する間に背後では火の手があがる)
若非天賜傾盆雨 畢竟君臣受禍殃
(もし天から豪雨がもたらされなかったなら、君臣ともに大禍を免れることはできなかったであろう)

 その時、駅館の従者が駆け込んできて叫んだ。
「四方の門から火が上がっています!どうすればよいのでしょうか?」
 この時、晋王しんおうはようやく酔いから醒め、目を見開いた。
 急ぎ弓を手に取り、君臣四人は広間を飛び出した。
 しかし、すでに火の手は目前に迫り、四方を灼熱の炎が取り囲んでいた。

 程敬思ていけいしは酔いで意識が朦朧とし、館の中庭に立ち尽くすと、柱にしがみついたまま、業火に包まれ焼死した。
 晋王しんおうはその光景を目の当たりにし、涙を流しながら嘆いた。「まさか、我ら君臣がこのような場所で果てることになろうとは……!」

 すると、突如として天が裂けるような雷鳴が轟き渡った。
 それと同時に、大粒の雨が滝のように降り注ぎ、駅館全体を飲み込んでいた猛火は、一気に鎮められた。
 駅館の従者が歓喜して叫ぶ。
「おお、天の恵みの雨だ!火が完全に消えました!」
 晋王しんおうは天を仰ぎ、驚嘆して言った。
「もしこの雨が降らなかったならば、我ら全員がここで焼け死んでいたであろう!」

 こうして、四人はすぐに馬にまたがり、雷光を頼りに暗闇を突き進んだ。
 しかし、数里も行かぬうちに、朱温しゅおんが兵を率いて行く手を阻んだ。
 史敬思しけいしは槍を掲げ、まっすぐ朱温しゅおんへと突進し、激しく斬り結んだ。
 数合打ち合ったのち、朱温しゅおんは敗走した。
 史敬思しけいしはそのまま追撃し、戦いながら升仙橋しょうせんきょうへと進んだ。

 さらに激闘を繰り広げ、郭景銖かくけいしゅが君臣三人を守りながら、ついに北門を突破し、脱出を果たした。
 晋王しんおう周清しゅうせいに密かに道を進ませ、本営へ急ぎ戻り兵を招集し、ただちに救援に向かうよう命じた。
 朱温しゅおんは大軍を率い、一声の砲響とともに升仙橋しょうせんきょうへと殺到した。
 郭景銖かくけいしゅは馬を返す間もなく、馬ごと橋から転落し、川に沈んで命を落とした。

 朱温しゅおんは城外へ追撃し、史敬思しけいしが叫んだ。
「大王、速やかに逃げ延びてください!臣がここで敵を食い止めます!」
 そう言うや否や、彼は馬を返し、槍を振るって朱温しゅおんへと突進した。
 朱温しゅおんが槍を翻し指示をすると、八十四名の将が史敬思しけいし一斉に襲いかかった。
 史敬思しけいしは激怒し、槍で十六名の名将を次々と突き落とす。彼が振り返ると、晋王しんおうが馬を止め、丘の上で二人の戦いを見つめていた。
 史敬思しけいしは叫んだ。
「大王、なぜ早く逃げないのです!」
 晋王しんおうは答えた。
「君臣は共に死すべきもの、一人だけ生き延びるわけにはいかぬ!」
 史敬思しけいしは叫んだ。
「大王、今は遅れてはなりません!臣が敵を引き受けますので、どうか急ぎ逃げ延びてください!」
 そう言うや、彼は馬を返し、槍を構えて奮戦した。
 朱温しゅおんの軍勢が押し寄せる中、史敬思しけいしは一晩中戦い続け、三度朱温しゅおんの軍に突撃した。
 しかし、もはや人馬ともに疲弊し、退路を求めて撤退を試みた。
 そこへ王忠おうちゅうが槍を構えて追撃し、史敬思しけいしの左脇腹を刺した。
 史敬思しけいしは激怒し、馬を返して右手に槍を振るい、一撃で王忠おうちゅうを馬から突き落とした。
 しかし、左脇腹からは泉のように血が噴き出していた。
 それでも史敬思しけいしは怒りに燃え、さらに八名の将を槍で突き倒し、急ぎ晋王しんおうのもとへ戻ると告げた。
「臣は今、重傷を負いました。これの傷では長くありませぬ!」
 彼は馬から飛び降りると、剣を抜いて素袍の半分を切り裂き、傷口を塞いだ。
 そして、甲冑の帯で傷口を締め上げると、再び馬にまたがり、晋王しんおうへ叫んだ。
「臣はもう一戦交えます!大王、どうか急ぎ馬を駆って逃れください!」
 そう言うや、彼は馬を返し、槍を構えて再び朱温しゅおんへ突撃した。
 すると、敵軍の戦鼓が鳴り響き、四方から一斉に矢が放たれた。
 傷口の痛みに耐えかねた史敬思しけいしは、もはや逃れられぬと悟り、馬上にて自ら首を斬った。

 後の史官が彼を称え、詩を詠んだ。

血染征袍半幅紅 敬思猶自與争鋒
(戦袍は血に染まりその半ばが深紅に染まった。史敬思しけいしはなおも奮い立ち矛先を交えて戦った)
汴梁衝陣身遭厄 自刎咸称死尽忠
汴梁べんりょうの陣に突撃し身に危機を受けたが、ついには自刎し皆が死して忠を尽くしたと称えた)

 また、このような詩もある。

再三力勧晋王逃 不顧金槍血染袍
(再三、力を尽くして晋王しんおうに退却を勧めた。己が金槍も血に染まる戦袍も顧みなかった)
賈復令名垂漢代 将軍今日誉尤高
賈復かふくの令名が漢代に輝いたといえど、将軍の今日の誉れは、それに勝る)

 さて、晋王しんおうは、史敬思しけいしが自刎するのを目にし、馬を駆って逃れた。
 ちょうど日が暮れかかる頃、朱温しゅおんは刀を振るって軍勢を召集し、四方から迫り来た。
 晋王しんおうは自ら弓を引き、連続して十二の矢を放ち、それぞれが十二人の将に命中し、彼らは馬上から翻落して絶命した。
 さらに矢を取ろうとしたが、矢袋の中にはすでに一本も残っていなかった。
 朱温しゅおんの追撃が迫り、晋王しんおうは天を仰ぎ、大きく嘆いて言った。
「我は今や老い衰え、ついにこの地にて命を落とすことになるのか……!」
 その時、突如として東北の方角から激しい喊声が響き渡った。見ると、風にはためく二面の飛虎旗。その旗の下には、一人の猛将が立っていた。

 虎皮の戦袍をまとい、獅子の甲冑を身に着けたその者こそ、勇南公ゆうなんこう李存孝りそんこうであった。
 はたして李存孝りそんこうはいかにして晋王しんおうを救い出したのか。その顛末は、次回に語ることとしよう。

 このような詩がある。

不識奸謀戀酒杯 損兵折将可哀哉
(奸計を見抜けぬままただ酒杯に耽った。兵を損ない将を折る、あまりにも哀れなことだ)
幸而飛虎将軍至 救得残軀老命回
(だが幸いにも、飛虎将軍が駆けつけ、わずかに残った身を救い老いた命を繋ぎとめた)


 明代の学者・李卓吾りたくごは語る。

 朱温しゅおんはもとより不臣の心を抱き、忠良を害そうと企んでいた。
 これは単にかつての遺恨を晴らそうとするものではなく、むしろ功高なる者を妬み、これを排除せんとする奸計であった。
 だが、李克用りこくようは酒を好むばかりの男であり、周徳威しゅうとくいの諫言を聞き入れず、また玉鑾英ぎょくらんえいの忠告すらも軽んじた。
 そのために三将を失い、九死に一生を得る羽目となったのだ。
 たとえ業火に焼かれなかったとしても、果たしてこの恥辱に耐え得るであろうか!


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