【残唐五代史演義伝】第二十七回 劉知遠、梁兵と大いに戦う
朱温は、劉知遠が愛息・朱友珍を討ち取ったと聞くや否や、怒りのあまり気を失って倒れた。
しばらくして正気を取り戻すと、目の前に控えていた将軍たちを見渡し、怒りの声を上げた。
「この恨み、決して晴らさずにはおかぬ!
諸将よ、我に力を貸せ!今こそ軍を挙げ、同台を滅ぼすのだ!」
朱温は直ちに朱景龍を先鋒に任じ、三十万の大軍を動員した。
さらに、名の知れた猛将二百人を従え、軍勢を整えるやいなや、怒りに燃えながら同台へと進軍を開始した。
朱温の怒りは、城を踏み荒らし、劉知遠を生け捕る勢いであった。
一方、岳彦真は、劉知遠が朱友珍を討ち、王鐸の娘を奪ったと知ると、驚愕し顔色を失った。
さらに、朱温が大軍を率いて迫っているという報を受け、怒りのあまり岳存訓を叱責した。
「存訓の馬鹿者め!
娘を取り返すだけならまだしも、なぜ朱温の世子まで殺す必要があるのだ!
これでは朱温が報復に来るのも当然ではないか!
このような大軍をどうして相手にできよう!」
これに対し、劉知遠が一歩進み出て、落ち着いた口調で言った。
「大人、どうかご心配なく。
この事態を引き起こしたのは、もとより私です。
ですから、朱温の大軍が来ようとも、まずは私が迎え撃ちましょう。
どうかお心を煩わせませぬよう」
その時、階下より一人の将が進み出て、力強く声を上げた。
「先鋒殿が出るまでもありません!
拙者がただ一騎にて出陣し、必ず朱温を討ち取ってご覧に入れましょう!」
岳彦真がその者を見ると、それは官軍校尉の武伯寧であった。
岳彦真は大いに喜び、武伯寧に千騎の兵を与えて出陣させた。
武伯寧はただちに城門を出て、十五里ほど進むと、前方に土煙が上がっているのを目にした。
「朱温の軍勢が来たな!」
まもなく敵軍は陣形を整え、戦の構えを見せた。
武伯寧は馬を進め、陣前にて刀を構え、声高に叫んだ。「逆賊・朱温よ!
何の理由があって、我らの地に兵を進めるのだ!
お前の野望、天が許すと思うか!」
朱温の部将・朱景龍はこれを聞くと激怒し、怒鳴った。
「黙れ!余計な口をきく暇があったら、首を差し出せ!」
朱景龍は馬を駆って前に出た。
武伯寧もまた馬を走らせ、両者は刃を交えて戦った。
しかし、わずか数合のうちに、朱景龍が鋭く刀を振るい、武伯寧を馬上から斬り落とした。
武伯寧が倒れると、朱温軍は歓声を上げ、逃げる敵兵を追撃した。
敗軍はなだれを打って城へ逃げ帰り、朱温軍はそのまま城門へと迫った。
岳彦真はこの報を聞くと驚き、すぐに劉知遠を呼び出して出陣を命じ、自らは城楼に登って戦況を見守ることにした。
しばらくして、劉知遠は馬を駆って城門を出た。
その背後には数百の精鋭兵が従い、彼を守り立てた。
その装いは、まさに威風堂々たるものであった。
頭には火のような纓をつけ、双鳳の翼が天を照らす、錦の兜。
緑絨を重ね、紅錦に連環の鎖を嵌め込んだ甲冑を身にまとう。
翠の縁取りと珠飾りを施し、紅の生地に金糸で獅子の戯れを刺繍した衣。
金葉と玉をあしらい、双尾を飾った龍紋の帯を締める。
金糸を縫い込んだ海獣皮の靴には、胡桃模様と緑の雲形を添えられる。
紫檀の柄に泥金の鞘、龍角の面と虎筋の弦の弓を構える。
紫竹の矢筒に朱紅の留め金、鳳尾の羽と狼牙に金を点じた銅の矢を帯びる。
七星模様のある鮫皮の鞘に収め、龍泉の剣をも凌ぐ鋭き剣を佩く。
朱纓を飾り、水磨きの柄に龍の頭を彫った偃月型の安漢刀を腰に帯びる。
山を駆け谷を越える、金の鞍を背に、玉の轡を揺らす黄驃馬を駆る。
劉知遠の姿はまさに天神のごとく、その威風は戦場において他の誰よりも抜きん出ていた。
朱景龍は、若き大漢が馬を駆って進んでくるのを見て、それが劉知遠であると見抜いた。
朱景龍は軍士を一字に並べ、馬を止めて横刀を構え、大声で叫んだ。
「お主、まさか劉知遠ではあるまいな?」
劉知遠は冷笑し、答えた。
「我が名を知りながら、わざわざ討たれに来たか?」
朱景龍は怒りをあらわにし、
「我が主君の仇を討たんがため、貴様の首を取りに来たのだ!」
そう言うやいなや、両者は馬を駆け、双刀が火花を散らす。
激しい戦いは三十合以上に及んだが、劉知遠は突如、敗走するそぶりを見せた。
朱景龍はこれを好機と見て馬を躍らせ、追撃にかかった。
しかし、それこそが劉知遠の計略であった。
劉知遠は馬首を翻し、一瞬で朱景龍の鎧を巻き取り、生け捕りにしてしまった。そしてそのまま馬上に縛りつけて生け捕りにし、同台城へと連行した。
その日の夕暮れ、突然風雨が荒れ狂い、両軍は各々兵を収め、陣に戻った。
翌日、朱温は副先鋒・李凱を派遣し、軍を率いて出陣させた。
これを迎え撃つため、劉知遠も再び陣を整えて戦場へ向かった。
そして軍士に命じ、朱景龍の首級を槍の穂先に掲げ、陣中に響き渡る声で叫んだ。
「朱景龍の首はここにあるぞ!貴様ら、見えぬか!」
これを見た李凱は怒りに燃え、馬を駆って槍を振り上げ、劉知遠に襲いかかった。
両者は激突し、十合に及ぶ激戦を繰り広げたが、ついに劉知遠が一刀を振るい、李凱を馬上で斬り伏せた。
梁軍はこれを見て恐れをなし、総崩れとなって潰走した。
劉知遠はただちに追撃をかけ、梁軍を三十里の彼方まで押し返して大勝を収めた。
その後、劉知遠は軍を整えて凱旋し、堂々と城へ帰還した。
朱温は続けて敗北を喫したことで将軍たちを集め、策を協議した。
この時、葛従周が進み出て進言した。
「本日、私が山に登って同台の西側を観察しましたところ、小さな要塞が一つありましたが、守備兵は多くありませんでした。
今夜、敵は我らが二度の敗北で油断しているでしょう。そこで、軍勢の半数を率いてその要塞を奇襲いたします。
もしこの要塞を落とせれば、岳彦真の軍は恐れおののき、我らは前後から挟み撃ちにできましょう。これこそ最上の策と存じます」
朱温はこの策を喜び、すぐにそれに従った。
そして、尚譲・斉克譲・葛従周・李彦洪・柳彦璋・傅道昭の六将を率い、精鋭の馬歩兵二万を選び、夜の闇に紛れて小道を進軍させた。
一方、同台では岳彦真が陣中で軍勢を整えていた。
そこへ劉知遠が進み出て言った。
「西の要塞は戦略上、非常に重要な要所です。もし朱温がここを攻めてきたら、非常に危険です」
岳彦真はこれを聞いて笑いながら答えた。
「奴らは二度も敗れて意気消沈している。どうして攻めて来られよう?」
しかし劉知遠は慎重な口調で続けた。
「朱温は無謀な人物ですが、配下には葛従周のような戦に長けた者がおります。敵の奇襲を防ぐためにも備えを固めるべきです」
この言葉を聞いた岳彦真は考えを改めた。
「お前の言うことはもっともだ!」
そこで、副将の錢元振・趙徳・謝豹・華亮の四将を選び、西の要塞の守備を強化するよう命じた。
梁軍は夜の闇に紛れて西の要塞へ攻め寄せた。果たして守備兵は少なく、四方から突入して要塞を奪取した。中にいた兵たちは驚いて四散し、逃げ去った。
だが、深夜の四更(午前2時頃)を過ぎた頃、錢元振が軍を率いて西門から突入し、奪われた要塞を奪還しようとした。
朱温は敗兵が戻ってきたと知ると、自ら軍を率いて迎撃に出た。
両軍は激しく衝突し、戦況は混戦となった。夜明けが近づく頃、突如として西方から太鼓の音が鳴り響いた。伝令が駆け込み、報告した。
「劉知遠の軍が到着しました!」
朱温はこれを聞いて驚き、すぐに要塞を放棄して退却を始めた。
しかし背後からは錢元振・趙徳・謝豹が馬を駆って猛追し、前方からは劉知遠が飛馬して現れた。
葛従周と尚譲が迎撃に出たが、持ちこたえることができず、朱温は北の山へと逃れようとした。
すると、山の向こう側から新たな軍勢が姿を現した。左には岳存訓、右には向慎之が陣を構え、退路を断っていた。
朱温は急ぎ斉克譲・柳彦璋に迎撃を命じたが、戦況は不利を極めた。
やむなく南へ逃れようとするも、雷のような鬨の声が響き渡り、別動隊が現れた。
岳彦真が自ら陣頭に立ち、畢龍・戚豹の副将二人を従えて、朱温の進路を完全に封じた。
朱温は四面八方から包囲され、退路を断たれた。配下の将たちは後方で必死に戦い、朱温自身も先頭に立って突破を試みた。
その時、拍子木の音が鳴り響き、無数の矢が雨のように降り注いだ。朱温は退却を試みたが、脱出の道はなく、大声で叫んだ。
「誰か、誰か、我を救え!」
その時、馬軍の中から一人の将が躍り出た。
この者は濮州の出身で、姓は龐、名は師古、字を希賢といった。彼は馬を駆りながら、手にした二本の流星錘を振り上げた。その重さ、なんと八十斤。
龐師古は大声で叫んだ。
「主公、ご安心ください!」
彼は馬から飛び降りると、素早く甲冑を脱ぎ、それを朱温に着せかけた。そして左手でしっかりと朱温を抱え、低姿勢で矢の雨の中を強行突破した。
同台軍には射の名手が数十人いたが、龐師古は近づく者を次々と流星錘で打ち倒し、一撃で馬上から突き落とした。その勇猛さに恐れをなした同台軍は、次々と逃げ出した。
龐師古は朱温を護りながら再び馬に飛び乗り、両手の流星錘を振りかざして敵陣を突き破った。
岳彦真・畢龍・戚豹の三将もその猛攻に耐えきれず、逃げ去った。
龐師古はその勢いで朱温を連れて包囲を突破し、見事に救い出した。
鑌鉄双錘八十斤 同台城外顯功勛
(鑌鉄で鍛えた双錘は八十斤の重さ。同台城外で見事にその功績を示した)希賢救主聞天下 勇猛当先第一人
(賢者は主君を救い、その名は天下に轟いた。進撃において第一の勇士と称えられた)
龐師古は朱温を守りながら退路を探り、無事に寨へと戻った。
しかしその時、背後から雷のような鬨の声が響き渡った。
劉知遠が軍を率いて追撃に現れ、大声で叫んだ。
「逆賊を逃がすものか!」
この時、朱温の軍勢は連戦によって疲弊しきり、人馬ともに消耗していた。兵士たちは口を乾かし、互いに顔を見合わせながら逃げ道を探していた。
朱温の心には焦りと絶望が満ちていた。
だがその時、西の方角から新たな軍勢が現れた。
それは、鄧季筠が率いる援軍であった。
鄧季筠の兵は皆精鋭ぞろいで、劉知遠の進軍を阻み、激戦となった。
やがて日が傾き始めたころ、突如として大雨が滝のように降り出し、両軍は戦闘を中断し、それぞれ撤退した。
朱温はようやく本営に戻ることができた。
彼は龐師古の功績を大いに称え、重い褒美を与えた。そして彼を領兵都尉に昇進させた。
しかしこの時点で、梁軍はすでに劉知遠との戦いで十七度もの敗北を重ねていた。軍が完全に崩壊したわけではなかったが、同台城の守りは固く、もはや攻略は不可能に近かった。
その日、劉知遠が凱旋すると、岳彦真は大いに喜び、兵士たちに酒と肉を振る舞って労をねぎらった。
しかし、劉知遠は杯を手にしながら、ふとため息をつき、語った。
「大丈夫たる者、この世に生まれたからには、志は天下の平定にこそあるべきだ。どうして酒肉に満足してよかろうか。
これほど戦を重ねながら、一寸の土地すら得ておらぬ。いつになれば、我が志は果たせるのだろうか……」
そして剣を叩き、声高に詩を詠んだ。
浩気沖天貫斗牛 要将社稷一平收
(正義の気は天を衝き星々をも貫く。国家の乱れを一挙に平らげ天下を鎮めたいものだ)
何時得際風雲会 定斬奸臣佞宰頭
(いつの日か飛躍の機に巡り会い。必ずや奸臣・佞臣の首を討ち取ってみせよう)
その夜、劉知遠は心に思うところが多く、なかなか眠りにつけなかった。
彼は帳の中で燭を灯し、書を読みながら物思いにふけっていたが、やがて疲れが溜まり、机に伏したまま深い眠りに落ちた。
一方、岳彦真の娘・玉英は、ひとりの侍女を伴い、夜の庭を歩いていた。
その時、遠くの軍営から赤い光が天に向かって立ち上っているのを目にした。
二人は驚いて、火事ではないかと疑い、急ぎその方角へ向かった。
しかし、近づいてみると、それは炎ではなかった。
そこには、ひとりの将士がぐっすりと眠っており、その体から紅い光が立ち昇っていた。
しかも、その鼾の音は雷のように響き渡っていた。
二人はこの光景に驚き、すぐに私宅へ戻って、父・岳彦真に報告した。
岳彦真はしばし考えた後、自ら確かめてこようと軍営へ向かった。
すると、そこにはやはり劉知遠が深い眠りに落ち、その身を紅光が包んでいるのが、はっきりと見えた。
岳彦真は静かに私宅へ戻ると、玉英に言った。
「劉知遠は連日の戦で疲れ果て、今は深く眠っている。だが、このような不思議な光に包まれるとは、並の人間ではない。まさしく帝王の器と言えるだろう。
今夜のことは、我らだけの秘密として、他言してはならぬ」
こうして、一同はそれぞれの寝所へ戻り、夜を過ごした。
翌日、岳彦真は盛大な宴を催し、劉知遠の武勲を称えて祝宴を開いた。
酒が数巡したころ、岳彦真は杯を掲げ、厳かに語った。
「本日の宴は、そなたの功績を称えるためのものだ。
実は、そなたに伝えたいことがある。私は長年この地を守ってきたが、これほどの戦功を立てた者は他にいない。
私にはひとりの娘がいる。名を玉英といい、今年十六歳となる。
そなたに嫁がせたいと思うが、いかがか?」
劉知遠は驚き、すぐに席を正して答えた。
「私はただの一兵卒にすぎません。大人は朝廷に仕える名将。そのご令嬢をこのような身分の者に嫁がせるのは、身分不相応でございます。とてもお受けできません」
岳彦真は微笑み、首を振って言った。
「今、我々が相手にしている朱温という逆賊を討てる英雄は、そなた一人だけだ。
我らの命は、そなたの腕にかかっている。どうか辞退しないでくれ」
劉知遠は席を立ち、深くひざまずいて答えた。
「そのようにまで仰ってくださるのであれば、この命をかけて尽力いたします」
岳彦真は大いに喜び、すぐに娘・玉英を呼び寄せ、その日のうちに婚礼を執り行った。
華やかな花燭の宴が開かれ、岳家と劉家は姻を結び、翁婿は盃を交わして、歓喜に満ちた夜となった。
この続きは次回に語ることとしよう。
このような詩がある。
戦倦回営睡正濃 紅光紫霧罩真龍
(戦に疲れ営に戻り深く眠る。その身を紅の光と紫の霧が包みまさに真龍の気を帯びる)
玉英望見非凡相 岳使驚知有帝容
(玉英はそれを見て並ならぬ相を悟り、岳彦真は驚き、その身に帝王の姿を見出した)
備酒講姻酬智勇 結縁事女報奇功
(酒宴を設け、縁を結び、その智勇に報いた。女子を介したこの縁は、やがて奇功にて報われる)
同台不是知豪傑 怎敵奸臣賊子鋒
(もしこの同台で豪傑を見抜けなかったならば、奸臣や賊の刃にどう抗えようか)
明代の学者・李卓吾は語る。
劉知遠は梁軍を十七度にわたって打ち破り、その疲れを癒すため、束の間の休息を取っていた。
その姿を見た岳玉英は、彼に帝王の器量があると見抜き、岳彦真はそれを信じて娘を嫁がせた。
この縁こそ、まさに天が授けたものであろう!
