『星降る夢に、君を赦せない。』 第二十五話 満月の夜
サッカー部の練習で疲れ切っていた仁は、夕食を済ませると早めに布団へ入った。
窓の外には丸い月が浮かんでいる。
静かな満月の夜だった。
「……疲れた。」
小さく呟き、目を閉じる。
ゆっくりと意識が沈んでいった。
気が付くと。
仁は見知らぬ場所に立っていた。
夜だった。
その空を埋め尽くすように無数の流れ星が降っている。
息を呑むほど美しい景色だった。
風が吹く。
どこか懐かしい匂いがする。
知らない場所のはずなのに。
胸の奥が妙に苦しかった。
「……ここは。」
呟いても返事はない。
静かな夜。
聞こえるのは風の音だけだった。
その時だった。
仁は違和感を覚える。
右手が重い。
ゆっくりと視線を落とす。
刀を握っていた。
見覚えのない刀。
けれど、不思議なくらい手に馴染んでいる。
「……え?」
見た瞬間、息が止まった。
赤かった。
刃先から血が静かに滴り落ちている。
赤い雫が地面を濡らす。
「何だ……これ。」
声が震える。
その時。
視線の先に人影が見えた。
誰かが倒れている。
白い衣。
長い黒髪。
月明かりに照らされている。
ぼやけていて顔は見えない。
けれど。
胸が締め付けられた。
その人の傍らで、もう一人が泣き崩れていた。
必死に名前を呼んでいる。
何かを叫んでいる。
けれど声は届かない。
世界から音だけが消えていた。
ただ、その悲しみだけが伝わってくる。
「違う……。」
思わず声が漏れた。
「違う……。」
もう一度呟く。
「俺じゃない……。」
そう言った瞬間。
夜空いっぱいの流星が、一斉に降り始めた。
世界が白い光に包まれる。
倒れた人へ手を伸ばす。
届かない。
あと少しなのに。
届かない。
その瞬間、世界が音を立てて崩れた。
「っ!」
仁は勢いよく身体を起こした。
荒い呼吸だけが部屋に響く。
心臓が激しく鳴っていた。
夢。
そう思っても、鼓動はなかなか収まらない。
右手を見る。
もちろん刀はない。
血も付いていない。
それなのに。
刀の重さだけが、まだ手に残っている気がした。
「……何なんだ。」
小さく呟く。
夢だった。
そう分かっている。
それなのに。
胸の奥には、言葉にできない罪悪感だけが残っていた。
誰を傷つけたのか。
なぜ刀を握っていたのか。
何一つ思い出せない。
けれど。
二度と取り返せない何かを失った。
そんな気持ちだけが、胸の奥に深く残っていた。
仁はゆっくりとカーテンを開ける。
窓の外には、静かな満月。
月明かりが街を白く照らしていた。
その光を見つめながら、小さく息を吐く。
「魚永……。」
夢の中の人は顔すら見えなかった。
それなのに。
なぜその名前が浮かんだのか、自分でも分からなかったが無意識に名前を呼んでいた。
満月は静かに夜空へ浮かび続けていた。
ここまで読んで頂きありがとうございます😊
♡、コメントとても嬉しいです🍀
