夜行男
N君が仕事からの帰り道、自転車に乗っていた。
緩やかな下り坂だ。
こがなくてもかなりスピードがでていた。
不意に、ぐいっという感じで大きな影が背後に現れた。
後ろから自転車が近づいていた気配は感じなかったので、
その唐突さにN君はびっくりした。
と思う間もなく、気配は一瞬でN君を抜き去った。
抜いたのは自転車でもバイクでもなかった。
丸坊主のおじさんだった。
おじさんは古びたグレーの背広を着ている。
その背広をはためかせて、時速四十キロ以上で走っていた。
小さくなってゆくおじさんの背中をみつめながら、
N君はどうか振り向かないでくれ、と祈った。
