ひょうすべ その2
猛烈なのどの渇きでGさんは目覚めた。
半身を起こし、周りを見ると親戚一同が雑魚寝している。
淵に面した大きな窓からは月光が差し込んでいる。
深夜。時計の針は二時半を差していた。
きっきっ……きっきっ……きっきっ……
という、規則正しいリズムで外廊下の床板が鳴った。
その音はだんだん部屋に近づいてくる。
少し下がっては、また進み、進んでは下がり……。
何かが廊下を歩いている。
変なリズムで。
Gさんはあわてて横になった。
そして目を薄く開け、横目で様子を伺った。
廊下と部屋を隔てる襖がからり、と開けられた。
外には、壁があった。
いや。
外にいたものがあまりに大きくて、
その体がGさんには壁に見えたのだ。
それはぐっとかがんで、部屋に入ってきた。
頭の高さは、鴨居をゆうに超えている。
そう。2メートル以上はある。
Gさんは自分の身に起こっていることが信じられなかった。
これは夢だ、夢に違いないと思いつつ、
足が震えださないようにしっかりと力をいれた。
顔は逆光でよくわからなかったが、口元だけは少し見えた。
歯を剥き出して嗤っていた。
(あ。わらってる)
そう認識した瞬間、両足首が強く掴まれた。
でかいやつはまだ入り口にいる。
足首を掴んでいるのは、また別の何かだ。
咄嗟にGさんは畳に爪をたてた。
足首を持って引き摺られ、畳はばりばりと音を立てた。
引き摺られながらGさんは自分の足を見た。
真っ黒い大きな手が、Gさんの細い足首をしっかりと掴んでいた。
(もうだめかもしれない)
Gさんはその時そう思った。
腹に力を入れて、精一杯の悲鳴を上げようとした瞬間、
どんっ
と壁が大きく鳴った。
見ると、Gさんの両足は淵が見える窓の下の壁にぺったり付いていた。
足が壁にぶつかったのだ。
黒い手は消えていた。
入り口の大きなやつも消えていた。
部屋には、Gさんの荒い呼吸音だけが響いていた。
翌日からYさんは四十度近い熱を出して寝込んだ。
高熱は三日続き、Yさんは体重を6キロ落とした。
さらに三日後、やっと食欲を取り戻したというので、
GさんはYさんの見舞いに行った。
Yさんはげっそりと痩せていたが、
Gさんが持ってきたお菓子を見てにっこりと笑った。
「Gちゃんは大丈夫だった?」
チョコを口に放り込みながらYさんが言った。
「うん、わたしは……しばらく足首が痛んだけど」
「これ。あの部屋に落ちてたんだって」
Yちゃんはパジャマのポケットから赤い紐を出した。
「あ」
Gさんは小さな声を上げた。
それはGさんが、おばあさんに貰ったお守りだった。
由来は忘れたが、霊験あらたかな生地で出来ているらしい。
それを右の足首に巻きつけていたのだが、
気が付くと消えていた。
きっとどこかで失くしたのだ、とGさんは思っていた。
「あの部屋に落ちてたの?」
「そう。あの、淵が見える窓の下に」
Gさんの足が当たった辺りだ。
「おばあちゃんに感謝しなきゃね」
Yさんはそう言い、布団から右手を出した。
手首には、Gさんのものとよく似た赤い紐が巻かれていた。
