黒い絵 その3
奥さんはT実ちゃんが目を覚まさぬよう、
足音を忍ばせて灰色の紙束と黒の紙束を抱えた。
そしてそのまま近くの公園へと向かった。
そこにはグラウンドがあるのだ。
「奥さんは不思議に思ったんです。
同じ黒で塗り潰されたたくさんの紙なのに、
T実ちゃんはどうして順番通り並べようとするんだろうって」
奥さんの思った通りだった。
黒の紙にも灰色の紙にも、
色の濃度に微妙な階調があったのだ。
なんらかの法則にのっとり、
T実ちゃんは紙に順番をつけていた。
奥さんはグラウンドに立つと、
左から順に紙を並べはじめた。
しばらく黒い紙が続いた。
何も書かれていない白い紙も間に挟まれていた。
奥さんは列を変えた。
白い紙。再び黒い紙。たまに灰色の紙。
黒い紙、灰色の紙。白い紙。
「奥さん、もうとっくに、
それがなんであるか気付いてたんですって」
手にした紙はすべて並べつくした。
奥さんは、
グラウンドの端にある土手に通じる石段を上まで登り、
数メートル上からグラウンドを見降ろした。
果たして、
白と黒と灰色の紙は、
横26枚×縦38枚の巨大なひとつの絵になった。
モノクロの肖像だ。
黒い帯のような影が、
上から左右に二本垂らされている。
遺影だった。
奥さんは震える手で、
その誰のものかもわからない遺影を携帯のカメラに収めた。
家に帰るとT実ちゃんが泣き叫んでいた。
Wさんがなぜか帰っており、
リビングのフローリングをバールを使って剥いでいた。
Wさんの足元にはもう七・八枚の床板が剥ぎ取られ、
散乱していた。
「あった。……ほんとにあった」
奥さんを見ると、Wさんはほっとしたように何度も頷いた。
「あの占い師の言ったとおりだ」
Wさんは床板の下から、
本来そこにあるべきではないものを次々と取り出した。
風呂敷に包まれた骨壷。
誰のものともつかない位牌。
そして見覚えのある、誰のものかもわからない遺影。
床下から出てきたものはすべて、
占い師の助言通りの手順でしかるべき供養をした。
すると文字通り憑き物が落ちたように、
T実ちゃんはすぐにもとの元気な少女に戻った。
不動産業者にはフローリングの弁償代と、
その他多額の賠償金を払わせた。
Kさんは最後に、
「もう一度言いますけど、
わたしが担当したお客様の話じゃないですよ」
と念を押した。そしてKさんいわく、
Wさんはすべてが決着したあとにこう言ったらしい。
「――あれはたぶん、何かの実験だったんだよ」
