お守り その1
「もう何代も続いた祈祷師の血統なんですよ」
後輩のK君は焼き鳥屋で身の上について話してくれた。
「島根の、僕の地元辺りでは結構有名らしいですよ。
まあ、ばあちゃんの代で最後みたいですけど。お袋は普通の専業主婦だし」
K君のおばあさんが言うには、
「ただちに実家に戻り、私の祈祷を受けなければいけない」
というくらい、
その時のK君は
“真っ黒の何か悪いもの”
を背負っていたらしい。
遠く離れた場所からでも、
おばあさんにはそれが手に取るようにわかるのだという。
「仕事が忙しいのを理由にしてね。
ばあちゃんから電話がかかってきてもいい加減な返事をしてました」
おばあさんの方が業を煮やし、お守りを送ってきた。
「これですよ」
そう言ってK君はカバンの中から件のお守りを引っ張り出した。
深い緑色をした、こういっては何だが普通のお守りである。
よく神社などで売られているようなやつだ。
「このお守りの入った小包が僕のマンションに着くくらいのタイミングで、
ばあちゃんから電話がありました。ほんと、計ったかのようなタイミング」
「おばあさんは何て?」
「とにかくお守りを身体から離すな、って。それだけでした」
K君はわけがわからないまま、
とにかく重いものじゃないし、
といつものカバンにお守りを放り込んだ。
そしてそれっきり、お守りのことを忘れた。
その数か月後のこと。
「最初は美人だな、と思いました。こう、出るとこ出てて」
最寄の駅を降りたK君の目は、
キャリアウーマン風の美人に釘付けになった。
美人は帰宅客でごった返すターミナルを、
五十メートルくらい先からK君の方へ歩いてくる。
真っ黒のストレートヘアで顔が小さく、色が白い。
すらりとしたスタイルで、歩く姿も堂に入っていた。
「南方系というか、目鼻立ちがすごくはっきりしてるんです。
今思えば、なんだか不自然なくらい。作り物っぽい、というか」
K君はついじっと見てしまった。
と、進行方向を見ていたその美人が、ふとK君の方を向いた。
やばい、と思い、K君は顔を逸らした。
「じろじろ見てたから視線を感じたみたいで。
でもちょっと僕を見て、またすぐ視線を逸らしたんです」
そこでK君はもう一度見ることにした。
その時点で美人との距離、約十メートル。
K君はちらりと見て、息をのんだ。
さっきと顔が変わっている。
まるっきり別人になっている。
いや。
別人、じゃない。
別人というよりは。
<つづく>
